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第16話「つくづく自分が口説き損ねた魔術師の偉大さを思い知らされているよ」

「――まったく、あなたの多才さにはいつも驚かされる」


 ブラウエル王家がこの開拓都市に持つ別邸。

 約束の時間にそこを訪ね、侍従に通された応接室。

 しばしの待ち時間の後、現れたディーデリック王子の第一声がこれだった。


「ふふっ、久しぶりの挨拶がそれですか? 殿下――」


 椅子から立ち上がり、軽く礼をする。

 ディーデリックを連れてきた侍従がまだ近くに居るのだ。

 流石に儀礼はやっておかなければいけない。


「――ふん、これ以外にあるか。フランシス・パーカー。

 つくづく自分が口説き損ねた魔術師の偉大さを思い知らされているよ」


 侍従が下がった瞬間に少し言葉を崩してくる王子。

 3度目ともなると、それなりに打ち解けられた気がするな。


「そんなそんな、私なんてただのしがないゴーレム使いですよ」

「ハッ、謙遜も過ぎれば嫌味だぞ、フランシス。

 まさに今この瞬間も、例の店のゴーレムは動き続けているんだろう?」


 ディーデリック殿下の言葉に頷く。

 銀のかまど側の準備は、既に済んでいる。

 いつでも始められるけれど、どうしたものか。

 せっかくの機会だ。最適なタイミングで始めたい。


「ええ、いつもは5体なんですが、今日は殿下のために3体追加しています」


 こちらの言葉を聞いて口笛を吹いてみせるディーデリック殿下。

 なんというか、意外と軽いリアクションを取れるんだな、この人は。


「8体同時に人型のゴーレムを操作して、そんな涼しい顔をしているのか」

「いえ、今の私は操作はしてません。造っただけです。店員の指示に従うように」

「魔力供給は?」

「1日に1度、念のために。切れたことがないんで限界は測ってませんけど」


 軽く溜め息を吐く殿下。その仕草は驚嘆が一周回ったという感じだ。

 なるほど、この反応を見ていると親父さんが言っていたのも誇張じゃないのか。


「――王都でも同じことをできる人間はいないなんて聞いたのですが」

「うむ。少なくとも貴方のように実現させた人間はいない。

 やってやれる人間に心当たりがないわけではないが、実例に勝るものじゃない」


 良いな。実例に勝るものではないというディーデリックの感覚が好きだ。

 そう、アイディアだけは持っている奴、実力的にやればできる奴は居るものだ。

 しかし、それでも実現させた奴が凄いのだ。俺だけではできなかった。

 発想と場所を用意してくれたルシールとの出会いが、今日の結果を生んだのだ。


「では、さらにその光景を投影できる魔法使いとなれば――」


 軽く指を鳴らし、用意していた水晶玉に映像を映し出す。

 かなり古典的な道具だが、こういうのは安定性が一番なのだ。


「――これは店の外観か。随分と鮮明な投影だな。何を通して映している?」

「小鳥を模したゴーレムに、店の周囲を飛行させています」

「なるほど。9体のゴーレムが同時に動きつつ、高等魔法の投影まで……」


 彼の紫色の瞳が、こちらを見つめてくる。

 宝石のようにギラギラと輝くそれに見つめられるのは、やはり心地が良かった。


「口説き直していただけます? 殿下――」

「……これだけの繁盛店を回している貴方を、口説き落とせるほどの見返りは」


 水晶玉に映されている行列を見つめながらディーデリックが答える。

 意外と弱気な発言だ。珍しいな。


「ふふっ、あなた様らしくもない弱気な発言ですね?」

「フン、この俺の誘いを二度も断っておいてよく言えるものだ。

 これでもまだ15歳でね、少しは加減して欲しいな?」


 ……そうか。こいつ、ルシールちゃんより年下なのか。

 それで、剣を折られてもなお戦い続けるあの闘志。

 魔法剣士としての力量の高さ。つくづく末恐ろしいガキだ。


「では、加減して。力をお貸ししましょうか? 貴方の再征服に」

「――フランシス、あなたのゴーレムはどれだけ用意できるのだ?」

「限界は分かりませんが、まだまだ限界ではありません。少なくても20体は」


 銀のかまどの周囲を旋回する小鳥型のゴーレム。

 その瞳を通して映しだされる景色に視線を落としながら、ディーデリックが言葉にならない言葉を呟く。何か考え込んでいるような。


「……見返りが用意できないと言ったな?」


 思考を終え、紡がれた彼の言葉に頷く。


「用意できていないのは、見返りだけじゃない。

 これほどの力を効果的に動かす運用法も、まだ今の私には無い。

 ただ、今、あなたが私に向けてくれたその慈悲、覚えておいてくれると助かる」


 運用法なんか思いついてなくても抱き込んでしまえばいいのに。律儀な男だ。

 けれど、好きだな。こういうところが。


「それでは、そろそろ店内に移りましょうか?」

「うむ。トマトたっぷりミートパスタが美味いんだろう? 早く食べたいな」


 ――かわいい。年相応の少年らしい声色に強烈なギャップを感じる。

 というか、そうだった、彼が頼んだのはミートパスタだ。

 俺がよく食べているものを、今から食うんだよな、名高い王子様が。

 ……なんか、今さらになって緊張してきた。


「ふふっ、空腹は最高の調味料というでしょう?」

「それはそうだが、あまり私を焦らさないで欲しいな。これでも王子だぞ?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいいって感想が出るあたり身も心も堕ちかけてそう [一言] こう言ってしまうのもなんですがやはりこちらの方がかなり読みやすくなってますね
[良い点] 容赦ないギャップ萌えがフランクを襲う。
[良い点] 主人公からみれば、ちょっと背伸びしたい年頃のおえらいさんではあるもののフランクに接してくれる子供をあったかいめで見守る後方腕組みおじさん状態なんですけど 殿下から見たら、同年代の天才女子が…
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