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第5話「そういえば、なんなんです? フランシス・パーカーって」

「そういえば、なんなんです? フランシス・パーカーって」


 薪の料金を支払い終えた俺のために、領収書をスラスラと書き進めているルシールちゃんがそんなことを聞いてくる。そういえば今回の銀のかまどとの取引では、そんな名前を使っていた。フランシス・パーカー、偽名だ。


「いやさ、後から追放した奴を使うのはマズいって話になってさ。

 元々ギルド長から請けた仕事だってのに」

「それで偽名ですか? 相変わらずのテキトーさですねえ」


 話しながらルシールちゃんが書き終えた領収書を手渡してくれる。

 いや、この歳でこんなしっかりした書類仕事もできるとは。

 本当に聡明な娘だ。おかげでギルドに経費を請求できる。


「全くだよ、王子相手にダンジョンで女になった奴だとバレるとマズいって」

「なんでです? そんなの隠しても仕方のないことじゃないですか」

「ダンジョンに女が入っちゃいけないってあるだろ?

 あれ、王家が決めたらしいんだ。一応このナリでダンジョンにいたわけでさ」


 そう言いながら衣服の肩を持ち上げて、女の子アピールをしてみる。

 冒険者ギルドとしては今後、俺がダンジョンに足を踏み入れないことで決着としたが王国側に仔細を知られれば後から掘り返される可能性もあると。


「あ~、その件を掘り返されるとマズいと。

 でもフランクさん。どこで化粧を覚えたんです?

 あまりにもナチュラルメイクだったんで、今まで気づきませんでした」


 紅茶を飲みながら静かな笑みを向けてくるルシールちゃん。

 ……俺も化粧をし始めたから分かるが、彼女もしてるな。

 以前は綺麗な娘だな~としか認識していなかった。


「いや、女になったんだから化粧くらい覚えろって教えてもらってさ」

「なるほど。じゃあ、綺麗になって王子様を射止めちゃったり?」

「はい……? 王子ってディーデリック王子を?」


 レオ兄と同等と評されるくらいに強いということしか意識していなかったが。

 とんでもないことを言いだすものだな、ルシールちゃんは。


「見た目としては歳も近いですし、良いんじゃないですか?

 周りの娘たちはみんな憧れてますよ。やっぱり王子様ですからね」


 はえ~、そういうものなのか。

 といってもルシールちゃん自身は特に憧れてなさそうなニュアンスを感じる。


「でも俺は男だぜ? こんなナリをしてはいるが」

「それもそうですよね。

 けどなんか、男さえ見惚れるって言われてるらしいですよ」


 ……ウソだろ?

 圧倒的な強さだけでなく、そんな噂が出回るほどの美形なのか。

 そんな恵まれた生まれでどうして冒険者なんかに。


「私は見たことないんですけど、それだけ顔が良いんでしょうね~。

 意外とフランクさんも見惚れちゃうんじゃないですか?」


 ……顔の良い女が、まだ見ぬ顔の良い王子を褒めている。

 それだけで少し面白かった。


「あとかなり強いとか。雷の魔法を使う剣士なんですって。

 今からでも石で造り直した方が良いんじゃないですか? ゴーレム」


 悪い笑みを浮かべるルシールちゃん。


「王子に勝たせないつもりかい?」

「ふっふっふ、私はフランクさんが勝つところが見たいだけですよ」

「面白い提案だけど燃える髑髏は燃え尽きることも含めて試験なんだ」


 倒し切れない冒険者たちへの救済措置として、燃え尽きるまで耐えきれれば合格というものがある。だからゴーレムは木製で造られる。髑髏払いの儀式は観客も入れて行われるから最初から逃げの一手を打てる奴は少ないが、それでもこの救済措置で冒険者になりましたという奴がいないわけじゃない。


「でも、強さで評判の王子様ですから燃え尽きて終わりにはならないんじゃ」

「ルシールちゃんもそう思う? やっぱり正攻法で来るかな」

「自分の見せ方に気を遣うタイプの人でしょうからね」


 ルシールちゃんでさえそう思うくらいに評判という訳だ。

 ディーデリック・ブラウエルという男は。


「――勝ちに行くんですよね? フランクさん」


 本気で勝つということを考えると、どういう戦闘運びになるだろうか。

 お遊びだが、それを組み立て始めた俺を見てルシールちゃんが尋ねてくる。

 ……どうも俺は、そういう顔をしてしまっているらしい。

 それともルシールちゃんがそういう部類の人間なのか。


「まさか、そんなことをしたら後が怖いよ。

 ただ、面白い見世物にはするつもりだから時間があれば見に来て欲しいな」

「もちろん。というか飲み物と軽食を売りに行きますからね」


 へぇ、銀のかまどはそんなこともするのか。


「お昼は闘技場で働いて、夕方からは帰り道の観客さんで混みこみ。

 今から考えるだけで気が重いですよ。その分稼げはしますけど」

「書き入れ時って奴か。じゃあ、当日に一番高い奴も卸してもらおうかな」


 こちらの言葉に視線を向けるルシールちゃん。


「一番高い奴って、ワインのボトルとかになりますけど、良いんです?」

「構わない。当日の朝にここに持ってきてくれれば。

 今回の件に関してはギルドに経費を見てもらっているからさ」


 クスっと笑うルシールちゃん。


「他人のお金だからって、ダメですよ? フランクさん」

「良いんだよ。責任はアダムソンに行くんだからさ」

「まぁ、ワインの1本くらいでごちゃごちゃ言われませんよね」

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