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第24話 オブデロード卿の正体

「さあ……決めろ」

 タルタロスは、大剣でくうを斬った。

「貴様にとっては、簡単な選択だろう? 妹の命がかかっているのだぞ?」

 この女、あたまは正常なのか? むちゃくちゃな選択肢だ。

 俺は、なやんだ――津田香織を助けるかどうか、じゃない。それは、ほんとうに詰んだときに考えることだ。まずは、全員で脱出する可能性をさぐらないといけない。タルタロスは俺を殺したいのだろうが、俺はだれに対しても、殺意をいだいていなかった。

「タルタロス……すこし落ち着いて欲しい……」

「私はいたって冷静だ」

「全員で助かる道も、まだあるだろう?」

 タルタロスは、あきれぎみにため息をついた。眉をひそめる。

「そんなものはない」

「おまえは、電嵐でんらん城のすべてを知ってるのか?」

 ほぉ、と、タルタロスは大剣の柄をにぎりしめた。

「貴様は、すべてを知っているかのような口調だな」

「違う。そういうことが言いたいんじゃない。俺は……」

 タルタロスは、剣を顔のまえに持ち上げた。瞳に、狂気がやどる。

「なるほど……貴様が脱出しなかった理由はそれか……てっきり、妹を守るためかと思ったが……ならば、ポータルは私が自分でさがす」

「だから、話を聞けってッ!」

 タルタロスは、剣をふりかざした。万事休す。

 チート能力のない俺は、モブとなにも変わらない、でくの坊だ。だけど、斬られたときのショックで、リアルへもどれるんじゃないのか? それとも、ハッサムたちと同様に、脳死してしまうのか? 判断力が支離滅裂になった俺は、斬られるがままに任せた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 俺は、まぶたをあげる。

「……」

 大剣を振りかぶったまま、タルタロスは棒立ちになっていた。

 目を見開き、くちびるを動かしていた。

「バカ……な……」

 タルタロスは、そのまま俺のほうへ倒れ込んだ。横にかわすと、サリカは額から壁にぶつかり、ずるずると音を立てて、地面にひれ伏した――首筋に、一本のナイフが突き刺さっていた。

「任務……完了……御主人様……次ノ御命令……ヲ……」

 切断されたクレアの下半身から、大量のオイルが噴き出す。

 ついに、動かなくなった。

 俺は肺の空気をすべて吐き出して、壁によりかかった。

「助かった……」

「ルーズ!」

 ひたいの汗をぬぐっていると、頭上から声がした。モンティだった。

 モンティはロープをするりと降りて、俺のそばに着地した。地面に横たわっているタルタロスと、壁のところでぐったりとなっているイオナを、交互にみくらべた。

「あ、相打ち?」

「よくみろ……タルタロスを倒したのは、クレアだ」

 モンティは、タルタロスの首筋を、じっくりとながめた。

「そっか……イオナさんは? 大丈夫?」

 俺とモンティは、イオナの介抱にむかった。回復薬を飲ませる。だが、あまりよくなる気配はなかった。サーバの崩壊で、効き目が薄くなっているのかもしれない。五本目の回復薬をあけたところで、ようやく目を覚ました。

「うぅ……勝ったのか……?」

「ああ、おまえのおかげだよ」

 俺は、心からそう述べた。イオナが時間稼ぎをしてくれなければ、クレアが再起動することもなかったし、俺はそのまま斬られていただろう。

 モンティは、これからどうするのかと尋ねた。

 空が崩壊していく。もはや昼間のようだ。夜は残り少なく、天蓋の一部にちらほらと、未練がましく残っているだけだった。太陽のない白日。

 俺は、先に確認したいことがあった。

「グウェインは?」

「グウェインさんは、さがしても見つからなかったわ」

「そうか……」

 俺はそうつぶやいて、天空をみあげた。

 次第にオレンジの色合いが濃くなっている。

 タルタロスは言った。世界の断末魔は美しい、と。

 ほんとうにそうなのかもしれない。

 俺の考えは、まちがっているのだろうか――そう、俺の推理は?

「モンティ、とりあえずは、イオナを安全な場所へ」

「了解……応接間は焼けてるわよ? 使用人部屋にする? それとも食堂?」

 俺は、くびを振った――「崩落した空中回廊のそばだ」

 モンティは、異議をとなえた。だが、俺は取り合わなかった。そこまでイオナを運び、本格的な介抱をした。イオナは、運ぶ途中で、ふたたび眠りについた。

「ルーズ、どうしてここなの? 応接間は、安全じゃないってこと?」

 俺は、回復薬に効き目がないとみて、イオナの傷を即席の包帯で巻いてやった。

 血の流れは、これで収まるだろう。

 きつく結び目をつくって、俺は立ち上がった。

 不安定な風が心地いい。電嵐城の風景を心から堪能したのは、これが初めてだ。

 俺は大きく息を吸い、モンティにむきなおった。

「モンティ、おまえがオブデロード卿なんだろう?」

 モンティは目をみひらき――そして、苦笑した。

「ど、どうしたの? まさか、ルーズまで頭がおかしく……」

「もうやめにしないか」

 俺は、モンティの瞳を、まっすぐに見つめた。それは、透き通っていて――どこかに覚悟を秘めたまなざしだった。

「本気で言ってるの? ……あたしが、今回の犯人だって?」

「ああ」

「あたしには、すべての事件について、アリバイがあるのに?」

「それが証拠なんだ……今回の犯人は、すべての事件について、ヴァーチャルのアリバイがあるやつなんだからな」

 モンティは、わけがわからないと言った。俺は、自分の推理をまとめた。

「簡単なんだ……おそろしいほどに……そう、実際におそろしい事件だ。おまえは、リアルでほんとうに人を殺したんだからな……贋金師のハッサムも、爆殺魔のウィルソンも、毒殺婦のブランヴィリエも、吸血公ヴラドも、リアルでカプセルがショートしたことによる脳死なんだ……これで、ハッサムが病死にみえたことも解決するし、マダムのカップから毒が検出されなかったことも説明がつく。彼らは、この世界で殺されたんじゃない……外部から殺されたんだ」

 モンティは笑った。こどもの戯れ言を、笑いとばすように。

「なにがおかしい?」

「だって、突拍子もない推理なんだもの。証拠はあるの?」

「証拠はない……ただ、リアルのニュースで、ウィルソンとマダムの本名をみた。ふたりとも、カプセルの事故で死んでいた。停電が原因だ。おまえは、あらかじめリアルのほうで、配電盤に細工をしておいたんだ。その細工は、おまえが一時的にリアルにもどって、ボタンを押すとか、そういう単純な仕掛けになっていた。ヴラドが死んだとき、おまえは一時的に意識不明になっていたよな? ……あれは、瞬間的にリアルへもどって、細工を発動させるためだったんだろう?」

「だから、証拠がないでしょう?」

「クレアの件についても、そうだ。俺がクレアに襲われたとき、おまえはオモチャの銃でクレアの動作をとめた……いや、これは正確じゃない。クレアは、主人の命令で止まったんだ。おまえの命令でな。おまえがオブデロード卿なんだ」

「ちがうわ。あのメイドは、炸裂弾さくれつだんが怖かったのよ」

「クレアには、熱センサーがあった。炸裂弾……火炎魔法を凝縮した弾が入っていたかどうかなんて、いっぱつで見抜ける。おまえの弁明は成り立たない」

 モンティはくちびるをむすんで、俺をにらんだ。

「あたしがクレアをプログラムしたっていう、証拠はあるの? ねぇ?」

 そうだ――証拠はすべて、現実世界にある。完璧な殺人だった。ふたつの世界の片方にトリックがあり、もう片方で事件が起きる。神でもなければ、両方の出来事を結び付けることはできない。

 だが、俺には切札があった――冷酷な切札が。

「モンティ、今から俺の説明を聞いてくれ」

 俺は、サーバの崩壊がすでに始まっていること、タルタロスの言う緊急脱出用ポータルを使う以外に、リアルへもどる方法がないことを伝えた。

 モンティは小馬鹿にしたように、肩をすくめてみせた。

「またまた、あたしをおどす気?」

「その緊急脱出用ポータルの場所をな……俺は知ってるんだよ」

 モンティの顔色がかわった。それまでの強気な態度がくずれた。

「この崩落した橋の真下なんだろう? ……あの爆薬庫にある爆弾で橋を落としたのは、てっきりただの余興か……あるいは、ウィルソンを容疑者に仕立て上げるためだと思ってた。だけど、ほんとうの狙いは、橋の真下にあるポータルの穴へ、安全に降りるためだ。おまえが得意のロープを操ってな」

 モンティは、じっと俺の目をみつめ――クスリと笑った。

「なるほど……そこまでお見通しってわけか」

 突然、口調が変わった。

「ルーズ……いや、須藤さん、あんたはこう言いたいわけだ。僕がこのまま自白しないなら、あのポータルを絶対に使わせないって……ちがう?」

 俺は首肯した。モンティは――津田瞬は、ため息まじりに、

「あのとき……須藤さんがヴラド公と戦っていたとき、すこしは疑っていたんですよ……あのポータルを発見したんじゃないかって……」

 とつぶやいた。

「瞬、提案がある」

「なんですか?」

 俺はひと呼吸おく――「俺とおまえの妹で、脱出させてくれないか?」

 瞬は苦笑した。

「そんな都合のいい提案が、通ると思ってるんですか?」

「都合のいい提案なのは、わかってる……脱出したあとで、もういちど救出にくる」

「救出なんかできませんよ。あの緊急用ポータルは、一方通行なんです」

 手段はある。俺は、外部から不正アクセスして、サーバ全体を復旧させるアイデアを出した。通常の移動装置――あの客間にあったポータル――を再起動させれば、瞬もグウェインも、あとから脱出することができる。サーバ崩壊までは、まだ時間があるのだ。

 ところが、瞬はこの提案を拒否した。

「イヤだね」

「どうしてだ?」

「あなたが脱出して、僕を助けにきてくれる保証がないでしょう?」

「それについては……信じてもらうしかない」

「仮に信じたとしても、あなたは警察へ行くはずだ」

 俺は、全身がこわばるのを感じた。

「図星でしょう?」

「瞬、おまえがやったのは、大量殺人だ。見逃すことはできない」

「黙れッ!」

 瞬は、怒りをあらわにして、俺をゆびさした。

「なにが大量殺人だッ! 妹をあんな目にあわせた連中はどうなんだッ!? おまえはあいつらを捕まえるために、なにかしてくれたのかッ!?」

「きみの妹については……知らなかったんだ」

「知ってたら僕に協力したって言うのかッ!?」

 俺は、視線をさげた。

「……分からない」

 瞬は、両肩をすくめて、俺を嘲笑した。

「ほらみろ……結局、あなたは偽善者なんですよ。普段は社会に関心がないくせに、こういうときだけ正義漢ぶってる。そういうのは、やめてもらいましょうか」

 俺はしばらくうつむいて――ふたたび顔をあげた。

「なら、俺はきみをこのゲームから出すわけにはいかない」

「心中ってわけですか? 犯人と探偵が?」

 俺は、うなずき返した。瞬は鼻で笑った――が、多少余裕のないことは伝わってきた。情報屋モンティというキャラの設定からして、瞬には俺を倒す能力がない。それに、妹をかついで崖下に降りなければならないのだから、このまま遁走とんそうすることもできない。

 条件は五分――死の確率が、わずかに高いか。

「……」

「……」

 さきに動いたのは、瞬だった。

「分かりました……香織を転送させることについては、異論がないんでしょう?」

「ああ」

「だったら、妹をさきに転送させてもらえませんかね。そのあとで、自分たちの処分を決める、と。決闘でもいいですよ。僕は、妹が助かれば、あとはどうでもいいんだ」

 ダメだ――俺はこのアイデアを拒否した。

「なぜです?」

「ポータルに接近した時点で、俺のアドが消えるからだ。この場で決めてもらう」

 瞬は、ちょっといらだったようだ。両腕を組んで、徘徊し始めた。心配そうに、イオナのほうをみやる。イオナは、回復する兆候をみせなかった。

「須藤さん、すこし冷静になりましょう。僕らは……ッ!?」

 瞬はハッと目を見開き、右の腹部に触れた――赤い液体が吹き出る。

「えッ……」

 俺と瞬は、おたがいに視線をかわし――瞬は、その場に崩れた。彼の右腹には、クレアが使っていたはずのナイフが突き刺さっていた。クレアが復活したのかと思い、俺は短剣をかまえた。だが、そんなはずはない。BOTは主人を襲わないのだから。

 コツコツと、鉄靴てっかの音が聞こえた。

「た、タルタロス!?」

 南館の廊下から、暗黒騎士の鎧をまとったサリカが姿をあらわした。

 大剣を引きずり、しきりに肩で息をしている。あきらかに重体だ。

 それにもかかわらず、彼女は満足げな笑みを浮かべた。

「ポータルは……ここだったか……」

 俺は、瞬に駆け寄る――瞬は、ちょうど肝臓の部分をやられていた。どす黒い血があふれて、石畳を染めた。

「須藤……さん……妹を……あなたになら、任せ……」

「瞬!」

 瞬は、こうべを垂れた。

 ぼうぜんとする俺は、金属を引きずる音で、振り返った。

「ルーズ……提案がある……ポータルは……私とおまえで使おう……」

 俺は瞬を抱きとめたまま、なにも言えなかった。

「どうした……? いい……相談……だろう……?」

 俺は瞬の体を地面にそっと置き、スッと立ち上がった。

 タルタロスはそれを承諾と受け取ったらしい。ニヤリと笑った。

「断る」

 タルタロスは、聞き間違えたと思ったのか、眉をひそめた。

「こと……わる……?」

「そうだ。断る……おまえにだけは、絶対に使わせない」

 タルタロスは大剣にすがりつつ、高らかに笑った。

 狂気の気配に、俺は恐れをいだいた。

「ならば……そのオオカミ女にも死んでもらう……」

「そのケガで、どうやって俺に勝つつもりだ?」

 タルタロスは、小型のスイッチのようなものを取り出した。

 俺は、それに見覚えがあった。

「爆弾用のリモコン……?」

「そうだ……イオナの鎧に、ひとつ取り付けてある……」

 俺は歯をくいしばった――そうか、イオナ=津田香織だと気づいて、最後の人質を用意してたのか――うかつだった。火薬庫がある時点で、この可能性を察しておくべきだったのだ。

「どうする……? 津田瞬に……妹を……頼まれたのだろう……?」

 俺は逡巡した。これまで生活が、脳裏をかすめる。

 家族のことや、友人のことや、後輩のこと――病室でみた、津田兄妹のこと。

 俺はこぶしをにぎって、それをふりおろした。

「……分かった」

「ふふふ……それで……いい……」

 タルタロスは俺を警戒しながら、断崖へと近づいた。俺がちょっとでも動けば、イオナを殺すつもりなのだろう。両手をあげるように命じて、監視を怠らない。スイッチをうばう余裕は、まったくなかった。

「この真下か……私の能力なら……とどく……」

 タルタロスは大きく息をして、落下の準備をする。俺は、口のなかが渇いた。

「じゃあな……名探偵……」

 タルタロスが飛翔しようとひざを曲げたそのとき――崖下から、なにかが飛び出した。それは大きく口をひらき、サリカにむけて、巨大な炎を吐いた。一瞬にして火だるまになったサリカは、悲鳴をあげながら、崖のしたへと姿を消した。あとには、サリカの絶叫が木霊し――それもまた、空の彼方へと消えた。

 崖下からあらわれたのは、グウェインだった。

「ぐ、グウェインさん……」

「すまない、おそくなった。きみの設置した重力床を使わせてもらったよ」

 俺は、このちょうど真下を重力床に変えたことを思い出した。

「だけど、どうして崖に重力床があるってわかったんですか?」

「簡単な推理だ。きみは、柊の紋章がポータルにつながっていると言っただろう。いったいどこでそれに気づいたのかと思ってね。わたしたちの捜索では見つからなかった以上、思いもかねない場所にあると踏んだのだよ。きみがここでヴラドと闘った件もある」

 グウェインは、瞬の容態を確認した。

「……まだ脈がある」

「ほんとうですか?」

「うむ」

 グウェインは立ち上がって、俺を見つめた。

「さあ、脱出しよう」

 俺は、緊急脱出用ポータルのことを話した。四人のなかで、二人しか脱出できない、と。グウェインはややおどろきの表情を浮かべて――こう言った。

「津田兄妹では、ダメかね?」

 そうだ――俺は、この選択肢を待っていたのだ。

「かまいません」

「ほんとうに? きみと私は、助からないかもしれない」

「かまいません……俺とグウェインさんで残りましょう。脱出経路は、まだほかにもあるはずです」

 俺たちは、津田兄妹――モンティとイオナ――を崖下にロープでおろし、自分たちも横穴に移動した。ふたりをポータルのうえに寝かせて、おたがいに目配せする。グウェインがスイッチを押し、ふたりの姿は消えた。

 グウェインは、ため息を漏らした。

「すまないね……きみのような若者を、この場にのこしてしまって」

「彼らのほうが、若かったはずです……グウェインさんは、よかったんですか? 高校生なんてことは、ないですよね?」

 グウェインは、その大きな口を開けて笑った。

「私こそ、この場に残らなければならないのだよ……警察だからね」

 俺は、言葉を失う。

「警察?」

「正確に言えば、刑事だ。電脳課のね」

「そうか……俺の身辺調査をしていたのは……」

 なにか心当たりがあるのかと、グウェインはたずねた。

 俺は、彼の同僚に会ったことを伝えた。

「それはまた奇遇だ……しかし、彼はまともに捜査していなかっただろう?」

「え、ええ……引き継ぎをしたにしては……あっさりと……」

「今回の事件はね、私の単独捜査だったんだ。うえは事故だと信じていた」

「そうなんですか……だから、参加者として紛れ込んだんですね?」

「私もまたあの現場にいたという情報を、ネットに流しておいた。津田瞬は、それに騙されてくれたよ」

 沈黙――グウェインは、その巨大な尾を振った。

「さて、脱出方法を捜さねばならんわけだが……あるのかね?」

「分かりません……さっきは、ああ言いましたが……」

「そうか……私には伴侶も子もいないし、きみだけでも……」

 突然、部屋に雑音のようなものが鳴り響いた。

 崩壊が始まったのか? 俺は身構えた。

《もしもし? もしもし?》

 この声は……!

「アリサ!?」

《あ、今の、先輩の声ですか? アリサです。先輩ですよね?》

「アリサ、どうしたんだ? なんでここが分かった?」

《コーヒーショップで、先輩に相談されたじゃないですか。『寝たきりの女の子の人格加工をやってみないか』って。いろいろ調べてみたら、大学の設備でできそうなんですよ。だけど、先輩と連絡がとれなくなってて、ゲームのなかかな……と》

 ところが、ゲームはとっくにアクセス拒否になっていたから、不審に思って俺を捜しに来たらしい。あまりの僥倖ぎょうこうに、俺は言葉もなかった。

 グウェインは、そんな俺にかるく視線を投げた。

「彼女かね?」

 俺は、ほほえむ。

「大学の後輩です」

 グウェインも、ほほえむ。

「持つべきものは友だち……か。二階級特進は、どうやら、おあずけらしい」

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