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第16話 ライバルからの手紙

 薬品の香る受付のまえで、俺はかれこれ五分ほどねばっていた。

 白衣を着た医師や、パジャマ姿の患者たちが、俺のうしろを通り過ぎる。

 なかには、俺をものめずらしそうに見つめるこどももいた。

「どうしてもダメですか?」

 受付の看護師の女性は、首を横にふった。

「面会時間は、過ぎています。ここからはご家族のかたのみです」

「……わかりました」

 俺は引き下がった。

 病院の待合ソファーに座る。

 どうしたものか。俺は思案した。病院にくることがあまりなかったから、面会時間が限られていることに思い当たらなかった。

「せーんぱい」

 俺は肩をつかまれて、おどろきの声をあげた。

 周囲の視線が集まる。

 俺は「なんでもないです」と小声で言って、それからふりかえった。

 アリサは、許可もとらずに、俺のとなりに腰をおろした。アリサは、ちょっとまるっこい顔の、いかにもインドア派の女子大生だ。とはいえ、眼鏡のしたには、相当な美貌が隠れているタイプでもある。髪型とファッションと化粧術が、もうちょっとなんとかなれば、な。

「どうしてここにいるんだ?」

「住所を教えたあとでチャットを切られたら、だれでも察しがつきますよ」

 それもそうだ。俺は苦笑してしまった。

「だな……俺よりもアリサのほうが推理向きか」

「また『推理』って言葉が出ましたね。探偵ごっこでもしてるんですか?」

 俺は、まあ、とか、そうだな、とか、あいまいに返事をした。

 アリサは両目をほそめて、じっと俺を見てくる。

「ふーん、後輩に隠しごとするんですね……ゲーム関連とみました」

 そこは当たっている。

 話せるような内容じゃなかった。

 もちろん、俺はべつにかまわない。だが、モンティやサリカたちは、犯罪履歴をダシにしてオブデロード卿におどされているわけだ。その犯罪履歴とやらがなんにしても、俺が現実で勝手に口外していいことではなかった。

「ここに電脳性人格障害の患者がいるんですよね」

 アリサは、病院の廊下の奥を見やった。

 俺も視線をそちらへむける。

 ガードマンがいて、強行突破というわけにはいかなさそうだった。

「この病院、意外とセキュリティが高いよな」

 俺のひとりごとに、アリサもうなずいた。

「レアケースの患者を収容してるらしいですから」

 なるほど、そういうことか。

 俺は納得しつつ、腰をあげた。

 アリサも黙ってあとをついてくる。自動ドアからそとに出ると、薄暗くなっていた。初夏の風が、俺の頬をなでる。虫の音が、草むらから聞こえてくる。ヴァーチャル世界が発達した今でも、ここまで細かなリアリティは再現できていなかった。現実は現実だと、あらためて思い知らされる。

「……飯にするか」

「あ、だったらそこのレストランにしてくださいね」

 アリサは、高級ホテルの二階にみえる中華店をゆびさした。

 高すぎるだろ。

「ハンバーガーでいいよな」

「はい?」

 俺はポケットに手を入れて、一番星の方角へと歩き始めた。


  ○

   。

    .


 ベッドが揺れる。

 だれかが俺の名前を呼んでいた。

「おい、ルーズ、起きろよ」

 ルーズ? 俺は須藤……いや、ルーズだ。

 俺は目をあけた。

 オールバックにした金髪の少年が、俺の顔をのぞきこんでいた。

 窓からは、まばゆいばかりの朝日。

 いちまつのけだるさを覚えながら、俺は上半身を起こした。

「なんだ、もう朝か……」

「おいおい、召喚酔いか? リアルタイムでは正午過ぎたばかりだぜ?」

 そうだった。俺は思い出した。

 俺はポータルのベッドから飛び降りると、装備品を確認した。

 俺のまえにいるのは、大学の電脳ゲーム研究会の友人だ。英文学を専攻している。

 名前は……本名は無粋だな。キャラクター名は、旋律メロディアのアズガルド。

 その名にふさわしく、小さな弦楽器を腰にぶらさげたチャラいキャラだった。着ているものと言えば、デザインを優先した貴族服で、いかにも遊んでいるぼんぼんというイメージだ。しかし、賞金首ランキング一位として逃げ回っている俺が、唯一心を許せる仲間でもあった。

「ルーズ、今日こそ狩りに行かないか?」

 アズガルドは、壁にかけてあった剣を手にとり、サッと構えた。

 あまりさまになっていない。

「やめとくよ」

 アズガルドは剣を肩におき、つまらなさそうな顔をする。

「おまえ、もう一年以上狩りに行ってないだろ」

「賞金首なんでね。狩りの途中に賞金稼ぎに襲われたら、ひとたまりもない」

「そんなことないさ。おまえのチート能力なら、何人束になっても平気だろ」

「俺はチート屋であって、うぬぼれ屋じゃないんでね」

 洗面台で顔を洗い、タオルで拭く。

 薬品棚から、護身用のアイテムを選別して、携帯用ポシェットに入れた。

 そのうしろで、アズガルドは不平をたれた。

「バトルしないで、このゲームのどこが面白いんだよ? 商売とかなら、もっとイベントが充実したゲームがあるだろ。そっちに移ればいい。俺もついていくぜ」

 俺は答えなかった。

 本音を言うのが恥ずかしかったからだ。

 変にクールを気取っているせいで、俺は冷めた人間だとかんちがいされている。

 ほんとうは、賞金首ランキング一位を、どこまでも守りたいだけだ。

 ようするにエゴなんだが――子供心と呼んで欲しかった。

 アズガルドはあきらめたらしく、剣を壁にもどした。そもそも、アズガルド自信がたいした戦闘ステータスでもないのに、冒険心が強すぎる。もっと鍛えろと言いたかった。

 もっとも、アズガルドにしてみれば、こんなゲームのキャラクターは、使い捨てでいいと思っているのかもしれない。まあ、そのあたりはひとそれぞれだ。そして、今日、俺はアズガルドの恋を成就させるため、告発のつきそいをすることになっていた。あいては、ここから離れた森のそばに住む領主の娘。その領主の館は、やたらと警備が厳重なことで有名だった。うわさによれば、大企業の重役の令嬢らしい。アズガルドでは庭に忍び込むこともできないだろう。そこで、チート屋の出番というわけだった。

「ところで、ルーズ、話は変わるんだが、あの噂を知ってるよな」

「もったいぶった言い方じゃ、返事のしようがない」

「ガーデン湖の侵攻作戦だよ」

 俺はふりかえった。アズガルドは、ニヤリと笑う。

「ようやく興味を示したな」

「マジでやるのか、あれ?」

 一週間前、ネットで奇妙な噂がたった。

 暗黒騎士タルタロス――このサーバで俺に次ぐ賞金ランキングの騎士に、追加懸賞金が掛けられた。その金額に目がくらんで……いや、ちがうな。追加懸賞金が出なくても、そのうちこういう流れになったかもしれない。有志が集まって、タルタロスの牙城に攻め込む計画を立てているらしかった。

「運営は、なにも言ってないのか?」

「ここの運営は集客があれば放任だろ」

 そうだ、そのことは、俺が身をもって知っている。

 俺にも追加懸賞金が大量にかけられていた。特定のプレイヤーに対するリンチ行為だと、運営に何度もかけあったが、懸賞金をだれに掛けるかは自由だと返された。暗黒騎士タロタロスも、おなじような状況になったのだろう。そのことに、一抹の同情をおぼえた。

 俺は最後のハーブをポシェットにしまいながら、

「暗黒騎士タルタロスvs勇者一同……か。観戦者チケットにプレミアムがつくな」

 とつぶやいた。

 アズガルドは笑った。

「だろ? 見に行こうぜ」

 俺は逡巡し、ことわった。

 アズガルドは驚いた。

「金欠か? ちょっとくらいなら俺が出すぞ」

「いや……賞金稼ぎが大量に集まるんだろ。ヘタしたら俺も狩られる」

 アズガルドはタメ息をつき、俺に背をむけた。

 天を仰ぐように両手をおおげさにひらく。

「ああ、オブデロード様、臆病なチート屋のルーズを、おゆるしください」

「ふざけても、俺の気は変わらないぞ」

 アズガルドはくるりと回って、

「じゃあ、マジメにやれば気が変わるか?」

 とたずねた。

 俺は鏡のまえで、キャラクターの髪型をととのえる。

「とりあえず演じてみてくれ」

 アズガルドは、スッと真顔になった。鏡越しに、俺をみつめてくる。

 俺は雰囲気が変わったことに気づき、整髪の手をとめた。

「暗黒騎士タルタロスも、おまえと戦いたがってると思う」

「……」

 俺は鏡のまえを離れて、武器の選択をする。

「ルーズも気づいてるんだろ? タルタロスは、おまえと戦いたがってるよ」

「理由は?」

「賞金ランキング一位と二位なんだ。それがゲームの流れってもんじゃないのか」

 そうかもしれない。

 俺はちらりと、衣装棚のほうへ視線を伸ばした。

「タルタロスの心境なんて、だれにもわかんないだろ」

「一部のうわさだと、タルタロスはおまえを指名してるらしいじゃないか」

「うわさはうわさだ。勇者さま御一行が、パパッと片付けてくれるさ」

 今回の討伐作戦に集結したメンバーは、かなりのものだった。ネットに書き込まれたリストを、俺も見たことがある。もちろん、すべてが真正な情報ではなく、なかにはガセもまざっているのだろう。ただ、その半分しか本当ではないとしても、タルタロスを打ち負かすには十分なように思えた。

 ところが、アズガルドはべつの予想をたててきた。

「逆の可能性は?」

 俺は短剣を腰の鞘におさめた。

「逆? ……タルタロスが勝つってことか?」

「ありえなくはないだろ?」

 ない。アズガルドは冒険が好きなわりに、こういうところでおかしな評価をすることが多かった。以前も、森でケンカをしていたスライムとミノタウロスのどちらが勝つか賭けようと持ちかけてきて、アズガルドはスライムに、俺はミノタウロスに賭けた。もちろん俺の勝ちだった。オッズで不利なほうが、当たったときに大儲けできるだろ、というのがアズガルドの口癖だった。典型的にギャンブルで負けるタイプだ。

 俺はすこしいじわるな気持ちになって、

「じゃあ、タルタロスに賭けるか? 俺は勇者さまご一行に賭ける」

「いくら?」

「学食で一ヶ月おごるってのは?」

 アズガルドは受けた。俺は一ヶ月分の食費が浮いたと喜んだ。

 最後に、ステータス異常防止の指輪を中指にハメた。

「よし、待たせたな。それじゃ、出かけるか……目当てはお姫様でいいんだよな?」

「おまえの能力が頼りだからなぁ。あの館は警備が固くて、俺じゃ近寄れない」

 俺はアズガルドに、先に家から出るようにうながした。

 トイレだという口実だった。

 アズガルドが家を出たところで、俺は衣装棚の一番下の引き出しをあけた。


 ルーズ・ネグレクトゥス殿

 

 目下進行中のガーデン湖進行作戦につき、貴殿の参加を願いたい。

 賞金首ランキングの首位を賭け、私と闘って欲しい。

 

                   暗黒騎士タルタロス


 一枚の、大切な手紙。そう、冗談抜きで、俺はこれを大切に保管していた。

 あの暗黒騎士タルタロスから、じかに挑戦状を受け取ったのだ。もし俺が賞金首ランキング一位でなければ……いや、正直に言おう。俺が臆病者でなければ、この挑戦を受けていたはずだった。おそらく、このゲームで遊んでいる友人たちに大いに言いふらして。あのタルタロスから直に決闘を申し込まれたぞ、って。

 だが、俺はこの挑戦を無視した。理由は? 単純だ。俺は臆病だ。賞金首ランキング一位という座を賭ける勇気がなかった。そして今、タルタロスは、大勢のライバルを迎え、たったひとりで防衛戦に挑もうとしている。

 暗黒騎士タルタロス――もし俺が二位であんたが一位なら、俺はよろこんで――

「……ピカレスクに武運を」

 封筒に手紙を入れなおし、もとの場所にしまった。

 ドアを開け、小さな庭に出る。小さな蝶と花々。

 アズガルドは朝日を受け、その腰の宝剣をきらめかせていた。

「さて、ロミオとジュリエットごっこといくか。頼りないロミオだけどな」

「ばっちり頼むぜ、チート屋のルーズ殿」

「その名前は、街中では絶対に言うなよ」

「わかってるって。これでも演劇部なんだ。へたな芝居は打たないさ」

 俺たちは馬車に乗り込み、目的地へむかう。俺たちが逗留しているのは、このサーバでも三番目に大きな商業都市だった。大手の公式ショップ以外にも、転売目的で集まったバイヤーたちが大勢店を出していた。石畳で舗装された道を、さっそうと駆け抜ける。御者は俺だ。アズガルドにこき使われている、というわけではない。乗り物はじぶんで運転するタチなのだ。盗賊団が馬車や輸送船を経営していることもある。輸送中にレアアイテムをこっそりくすねるため、というわけだ。

 いったん町の中心部まで出て、それから街道をくだっていく。窓際に並ぶ花が、俺の視界を楽しませてくれた。途中、アズガルドは思い出したように、パチリと指をはじいた。

「そうだ、この先に、よくあたる占い師がいるらしいぜ。寄っていこう」

「リアルだろうがゲームだろうが、占いなんてろくでもないぞ」

「こういうのは験担げんかつぎが大事なんだよ。そこの道を左だ」

 アズガルドが指定したのは、馬車では通れそうにない小道だった。俺はすこし行き過ぎたところで停車し、馬を道ばたにつなぐ。歩いて小道に入った。左右にレンガ造りの建物がそびえたち、昼間だというのに薄暗かった。いかにもな雰囲気だ。わざわざこういうところを選んで開業しているのだろうと、俺はそう思った。

 しばらく進むと、【占い師の館】という素っ気のない看板が出ていた。赤いペンキで、木の板に文字が書かれているだけだった。固有名もなにもないようだ。BOTが経営しているのではないかと思ったほどだ。じっさい、大通りには、運営の用意したBOTが【今日の運勢】を占ってくれるコーナーがあった。

 その館は、通路のすっかり行き止まりに位置していた。これ以上は、壁が邪魔をしていて進めない。アズガルドは古びたドアを開ける。俺もあとに続いた。薬草の香り。店内はさまざまなアイテムで埋まっていた。バジリスクの爪とか、パラテアの紅草こうそうとか、すこしだけ珍しいアイテムもあった。俺はこういうとき、どうしてもアーキテクチャを見てしまう。入り口から店内を一瞥すると、手前にはアイテム売りのカウンターが、奥には調合用のテーブルがみえた。さらにその奥には、二階へ続く階段。右手には、陽の光がさしこむ窓があった。どうやらここは、端部屋になっているらしい。

 その窓から外を覗くと、地平線まで草原が続いていた。そうか、あの行き止まりの壁を越えると、街の外に出てしまうわけか。【街の外】というのは、俺たちがリアルで生活しているような行政単位ではない。マップがそこで終わっていて、あとは適当な風景が続いているという意味だ。この草原も、草地のパネルをずっとおなじように貼り付けたものに過ぎなかった。これでも丁寧な仕事なのだ。ゲームによっては、窓から覗くと灰色のパネルが貼られてるだけだったり、全然ちがうステージの一部が見えてしまっていたりと、めちゃくちゃな構成になっているところも多かった。そういうときは、窓にカーテンをしてごまかしておくという寸法だ。

 俺が店内を観察する一方で、アズガルドは声をあげた。

「すみません、占い師のかた、いますか?」

 二階から、黒いローブをかぶった人影があらわれた。

 俺は反射的に腰の短剣へ手を伸ばした。

 脱出経路を確保するため、ドアのそばに一歩下がる。

 アズガルドはなにも警戒していないらしく、人影に近づいた。

「占い師さん、こんにちは、ひとつ占って欲しいんですけど」

「どうぞ、こちらへ」

 女の声だった。

 占い師はフードを目深にかぶり、顔はみえなかった。髪の色もわからない。

 それに、声音こわねもくぐもっていた。

 占い師は、水晶玉のある小さなテーブルにつき、アズガルドを正面に座らせた。

「なにを占いましょうか。一回、百ギルです」

 そこそこふっかけてきた。百ギルはノーマルの薬草五個分だ。

 現実通貨なら、ファーストフード店で朝昼晩と三食できる交換レートだった。

「今、好きなひとがいるんです。相性とか、うまくいきそうかとか、そういうので」

 アズガルドは、ずいぶんとおおざっぱな依頼をした。

 こんな質問のしかたでは、占い師のいいように答えられて終わりだろう。

 俺は興味もなく、ドアのそばの柱に寄りかかった。

 なにかあったときには、すぐに飛び出せるようにしておく。

 占い師はいかにもそれっぽく、水晶玉のうえで手をくねらせた。

 水晶玉が青白くかがやく。よくある演出だ。

「……」

「どうです?」

「あまりよろしくないようです」

 アズガルドの顔がくもった。

 ほぉ……この占い師、すごいな。客商売で、ずけずけと言うかね。

 ま、これもひとつのトリックだ。恋愛がうまくいく確率なんて、そんなに高くない。片想いのままの失恋、付き合ってからの別れ、結婚してからの離婚、そういうものまで含めていけば、八割方は破局すると考えていい。だったら確率的に「うまくいかない」と答えておけば、でたらめな占いでも当たるというわけだ。

 アズガルドは、幸先が悪いと思ったのか、目を閉じて腕組みをした。

「しかし、運命も愛があれば変えられます」

 おいおい、そいつはちょっと楽観的過ぎないか。

 相手はBOTじゃないんだ。フラグを立てておけば恋愛ルートへ、とはいかない。

 もっとも、アズガルドらしい感想だな、とは思った。

 アズガルドは礼金を払って、俺のほうへ顔をむけた。

「おまえも見てもらえよ」

「俺はいい」

 ことわったにもかかわらず、占い師は占いを始めた。

「金は払わないぞ」

 と俺は忠告する。占い師はそれを無視した。

「……なにか迷ってらっしゃいますね」

「そうだな。ひとは誰でも迷ってる」

「ライバルと闘うかどうか、迷っていらっしゃる」

 俺は視線をあげた。占い師を凝視する。

「……アズガルド、帰ろう」

「おいおい、こいつはほんものだよ」

 俺はアズガルドがマズいことを口走るまえに、強く催促した。

 アズガルドは席を立ち、なごりおしそうに占い師をみた。

「すみません、こいつちょっと神経質になってるんですよ」

「アズガルド!」

 俺の声が叱責をふくんでいたからか、アズガルドはさすがに引き下がった。

 だが、こんどは俺が緊張していた。好奇心が鎌首をもたげる。

 出口のノブをにぎりながら、俺はたずねた。

「仮に俺がそいつと闘わなかったら、どうなる?」

 占い師は、ローブからゆいいつ垣間見える口元をほころばせた。

「英雄になる」

 どちらが? それをたずねる勇気は、俺にはなかった。

 思い出の夢は、そこで覚めた。

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