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第8話 毒物の特定

 応接間にもどったとき、クレアを含めた全員がそろっていた。みな、石のように沈黙している。テーブルのうえには、ティーポットにティーカップ、そして、それを運んだお盆が乗せられていた。手を触れるなと、サリカが厳命したものだ。

 モンティは、まっさきに俺に話しかけてきた。

「どうだった?」

 俺は、サリカと合意のうえで、これまでの調査結果をすべて教えた。

 モンティは説明を聞き終えると、顔をしかめた。

「ゴーゴンの涙? その毒薬が使われたって言うの?」

「マダムの所持品を検査した結果、そういう毒薬を作れることは分かった……が、実際に使われたかどうかは、分からない」

「今から紅茶を調べてみれば、いいんじゃない?」

 そう、そのとおりだ――が、どうやって調べたものか。俺が思案していると、ヴラド公が入れ知恵をしてきた。

「死体の肌にかけてみてはいかがですか?」

 なるほど、その手があったか。俺はうなずき返した。

「そうですね。あとで試しましょう」

 ただ、そのまえにやることがある――毒の混入経路だ。

「今から、俺が質問をします。みなさん、本当のことを答えてください」

 これにうなずき返してくれたのは、モンティとイオナだけだった。ヴラド公はマントルピースに寄りかかったまま、虚空をみつめている。竜人は暖炉に当たって、俺に背を向けていた。メイドのクレアは、部屋のすみで神妙そうな顔をしていた。

「率直に質問します。マダムの紅茶に毒を入れる現場を見たひとは、いますか?」

 沈黙。当たり前か。

「いないですね。では、マダムのティーカップに近づいたひとは?」

 クレアが手を挙げた。

「確かに、クレアさんはカップを配りましたからね。手を触れているわけです」

「左様でございます」

 この冷静さは、なんだ? 俺は首をかしげつつ、ほかのメンバーを見回した。

「ほかには?」

 ほかにいないことの確認のつもりだった。

 ところが、意外な人物が返事をした。竜人グウェインだ。

「わしもそうだ」

「カップに手を触れたのですか?」

「いや、そうではない。しかし、わしはマダムのとなりに座っていた。距離の近さからして、いちおう申告しておこう」

 俺は、あのときの応接間の風景を思い出して、こくりとうなずいた。

「あなたは、ちょうどマダムのとなりに座っていましたね……カップには、手を触れなかったのですか?」

「触れていない。あの婦人は、どうも潔癖性でね。他人にものをさわらせなかった」

 なるほど――ハッサムの死体にも、手では触れなかったと言っていた。身体の一部に極度の清潔感を求めるタイプなのかもしれない。電車の吊り革や、エスカレーターの手すりに触れないような――しかし、竜人があやしいのは、変わらない。

「グウェインさん、あなたは、他人の不審な動きを見ませんでしたか?」

「不審な動き……いや、まったく見なかった」

「あなたが毒を盛ったのでなければ、他のひとが、何らかの方法でカップに接近したはずです。なにも心当たりはないのですか? よく思い出してみてください」

 竜人は爬虫類のまぶたを閉じた。

 俺は息を殺して、回答を待った。

「……いや、ほんとうに心当たりはない」

 俺は、ため息をついた。

「そうですか……では、ほかの方々にも質問します。このメンバーで、不審な行動を目撃しませんでしたか? どんな些細なことでもかまいません。教えてください」

 俺は、モンティとイオナ――なんだかんだで、このふたりが一番信用できる――に目配せした。モンティは首を左右に振り、イオナはウーンとうなるばかりだった。

「ヴラド公は、どうですか?」

「わたくしは瞑想めいそうしていたので、なにも」

「……そうですか」

 この吸血鬼、ちょっと非協力的過ぎないだろうか?

 謎解きを、既に諦めているような感があった。

 俺は最後に、クレアのほうを向いた。

「クレアさんは、どうですか? なにか見かけませんでしたか? マダムに紅茶を渡すまでに、だれかがカップに近づいたとか、おかしな動きをしていたとか……」

「いいえ」

 また手詰まりだ――情報がなさすぎる。

 俺は大きく息をついて、自分のなかの疲労を追い払った。

「それでは、マダムの死体で、毒物がゴーゴンの涙かどうか調べてみますか……」

 俺は、だれか採取用のガラス管を持っていないかと尋ねた。

 サリカが答える。 

「それなら、マダムの持ち物にあった」

 サリカは、別置してある荷物のなかから、ガラス管を持ってきた。俺はそれに――慎重に――紅茶を入れ、死体が置いてある使用人室まで移動した。今度は、モンティもついて来た。

 とびらを開け、あのままになっているマダムの死体の腕をまくる。白い肌に、俺は紅茶を振りまいた。

「変化なし、か……サリカ、肌には症状が出ないってことはないよな?」

「モンスターの捕獲用なのだから、肌に効かないはずがない」

「どういう症状が出る?」

「さきほども言ったとおり、白い網目あみめのようなものが浮き上がるはずだ」

「すぐに、か? それとも、時間が掛かるのか?」

即効性そっこうせいだ」

 俺は変化を待った――だが、マダムの肌は、もとの綺麗な状態を保っていた。

 俺は、ゴーゴンの涙が紅茶に入っていなかったことを確信した。

「違う、全然違う毒薬なんだ……サリカ、もっとべつの……」

「ちょっと待って」

 モンティが俺を引き止めた。

「どうした?」

「ほんとうに、紅茶に毒が入っていたの?」

「それは……そうじゃないのか?」

「たとえば、キセルに塗ってあったとか、そういうことは?」

「サリカの話だと、即効性なんだろ?」

「舐めるだけじゃ、そんなに量を摂取しないでしょ。蓄積されてたのかも」

 俺はサリカに、ゴーゴンの涙の致死量を尋ねた。

「それは……さすがに知らぬ」

 ぐッ――専門家でもないから、ムリか。毒殺されたのがマダム・ブランヴィリエというのが、二重の意味で悪影響になっていた。マダムなら、毒物の特定など、簡単にできたかもしれないというのに。

「ルーズ殿、モンティ殿、ほかに可能性は思い当たらぬか?」

 俺とモンティは、黙りこくってしまった。

「……むッ、だれだ?」

 サリカは、剣のつかに手を伸ばし、入り口を振り返った。

「……すまぬ、ヴラド公か」

 入り口のとびらには、気取った様子でたたずむ吸血鬼の姿があった。

 サリカは剣の柄から手をはなした。

「いかがなされた?」

「お話は、聞かせていただきました」

 ヴラドはそう言って――盗み聞きを堂々と白状されては、どうしようもない――、使用人部屋に足を踏み込んできた。俺たちは、彼に道をゆずった。

「そもそも紅茶に毒が入っていたかどうか……それをお知りになりたいのですね?」

 俺とサリカ、それにモンティは、お互いに顔を見合わせた。

「そうだ」

 代表して、サリカが答えた。

「簡単に調べる方法があります」

「え?」

 俺は、やや素っ頓狂な声をあげた。

「なんでそれを早く言ってくれなかったんですか?」

「賛同いただけるか、分からなかったもので」

「賛同? ……毒物が判明するなら、賛成するに決まっています」

 そうは思いませんがね――若い吸血鬼は、そう答えた。

 モンティはなにかを察したらしく、

「危険な方法ですか?」

 と尋ねた。

「危険です」

「まさか……」

「情報屋は、さすがに飲み込みが早い……そうです、そのまさかです」

 おいおい、ふたりで意気投合しないでくれ――俺の知らない、なにかバグを使った検出方法でもあるのだろうか?

 いぶかる俺のまえで、ヴラドは、その真っ青なくちびるから犬歯をのぞかせた。

「だれかに飲ませればよいのです」

 なん……だと……?

「ヴラド公……本気で言ってるわけじゃ、ないですよね……?」

「本気です」

「飲ませるって……だれに?」

「そうですね……イオナさんは、いかがですか?」

 俺は、思わずこぶしを握りしめた。

「イオナは、一番犯人の可能性が低いと思っています……いや、イオナだからじゃない。このメンバーのだれかに飲ませるなんて……そんな……」

「ルーズくん、きみはチート屋のわりに、正義感が強いタイプのようですね。しかし、これはゲームなのです。一億円と、我々の過去の犯罪履歴を賭けた……」

 犯罪履歴――その一言に、室内の空気が変わった。

 ただ、俺にはなんのことかわからなかった。

 犯罪履歴? ……ゲームの中のことを言っているのだろうか?

 それにしては、言い方が妙に重々しかった。

 俺は思わず、

「なにをおっしゃっているんですか?」

 とたずねてしまった。

「ルーズくん、身に覚えがないとは言わせません。我々は各人、現実世界で犯罪を行ったことがあるはずです……モンティさん、サリカ様、違いますか?」

 ふたりの女は、一様に押し黙った。

 俺は、わけがわからなくなる。

「現実世界で犯罪? モンティとサリカさんが?」

「なるほど、ルーズくんは、ほんとうに身に覚えがない、と?」

 吸血鬼は、さぐるようなまなざしで、俺を見つめた。

 俺はこれまでのゲームで養ってきた直感で、なにかヤバい状況だと悟った。

 すくなくとも、俺だけがこの四人のなかで浮いた反応をしている。

 俺は咄嗟に機転を利かせて、

「その話は、今することじゃないと思いますけどね」

 と、抽象的な指摘でごまかした。

 ヴラドは数秒ほど沈黙した。

「……たしかに、そうかもしれません」

 俺は胸をなでおろす――同時に、すこしばかり混乱していた。

 犯罪履歴? ほんとうになんの話なのかわからない。

 しかもそれを「賭けて」いるという表現が気になった。

 俺は、じぶんだけが知らない未知の情報があると推理した。

「……ヴラドさん、ちょっとよろしいですか?」

 俺は、もういちどブラドに話しかけた。

「なんでしょうか?」

「さっき、今する話じゃないって言いましたけど、撤回します。ヴラドさんは、例の件と今回の事件が関係あると思ってるんですよね? その推理を教えてもらえますか?」

 例の件、というのは、完全にでっちあげだ。俺もなんのことかわからない。

 だが、これが効果テキメンだった。

 ヴラドはにやりと笑って、

「なるほど、正直でよろしい。実際、私たちの犯罪履歴と今回の推理ゲームとのあいだに関係がないと、そう考えるほうがおかしいでしょうからね」

 マジでブラフが効いた。

「ヴラドさん……くわしく説明してもらえませんか?」

 俺は神妙な面持ちで、ヴラドの推理に耳をかたむける。

「では、わたくしの考えを述べさせていただきます……犯人がこのなかにいるとして、その方とオブデロード卿との関係は、いったいどのようなものでしょうか? オブデロード卿は、犯人がだれかを知っているはずです。しかも、殺人事件が起こるまえから……でなければ、あのような招待状を書けるはずがありません。これがなにを意味すると思いますか、チート屋のルーズくん?」

 俺に質問が飛んできた。

 慎重に答える。

「犯人役を務めるように、オブデロード卿から依頼されている、じゃないですか?」

「それが合理的な推理です……さて、ルーズくんは、『犯人役になって欲しい』という依頼を受けて、すんなりと受け入れますか? 無報酬で?」

「いえ……報酬はもらいます」

 ヴラドは、そうだろうとうなずいた。

「したがって、今回の事件の犯人も、なんらかの報酬を約束されているはずです」

 俺はこの推理に感心した。

 というのも、今までの俺は、トリックにこだわるばかりで、そもそも犯人がどういう動機で動いているのかを考察していなかったからだ。ヴラドが言っているように、ボランティアで犯人役を引き受けているとは思えない。その証拠に、このサーバは崩壊しつつあるのだ。じぶんの身を危険に晒している。

 だが、その動機とやらは、ひどく単純なもののように思われた。

「でも、報酬は当然にお金でしょう? 犯人として名指しされなかったときは、一億円がそのまま転がり込んで来るとか、そういうことじゃないんですか?」

「そこで思い出していただきたいのです……招待状の中身を」

 俺は首をかしげ……かけた。危ない。

 やはりヴラドは、俺が知らない情報をにぎっている。

 招待状の中身? 招待状に書かれていたのは、この電嵐城でんらんじょうの場所と、推理ゲームの期日、ルール、賞金のことだけだ。今でもはっきりとおぼえている。

 ところがヴラドは、意味深な笑みを浮かべた。

「とぼけなくても結構です。左右のモンティさんと聖騎士様にも、事情が飲み込めているようですからね……そう、『不参加を表明した場合は、そのキャラクターが犯した過去の犯罪履歴を公開する』という一文です」

 時間の制止――俺は、平静をよそおうことに、全力をかたむけた。

「……で、その一文が、どうかしたんですか?」

 俺は、声が震えないように尋ねた。

「まだお分かりになりませんか? ……犯人役も、不参加を表明した場合は、過去の犯罪履歴をバラされてしまうのではないか、ということです。以下は、わたくしの憶測になりますが……おそらく、犯人役に関しては、正体がバレたときにも、このルールが発動するのではないかと、そう考えています」

「探偵役の俺たちから逃げ切れなかったときは、リアルで逮捕されてしまう……ってことですか?」

 ヴラドは首を縦に振った。そして、マダムの死体を盗み見た。

「そうでなければ、ここまで積極的な犯行に至る理由が思い浮かびません」

「金が大好きなのかもしれませんよ?」

「なるほど……その推論も、一理ありますね」

 ヴラドは、否定も肯定もしなかった。彼はマダムの前髪をすこしだけかき分け、整えてやる。そして、部屋を出て行った。

 俺は、モンティとサリカを振り返る――ふたりとも、顔色が思わしくない。

 俺は、まずモンティのほうに話しかけた。

「さて……捜査は、依然として行き詰まってるわけだが……」

「そ、そうね……どうする?」

「とりあえず、ふたつの可能性が考えられると思う」

 ひとつは、マダムの殺害に使われた毒が、未知の毒である可能性――もちろん、未知の毒と言っても、ゲーム内で合成できるものに限られる。もうひとつは――やや信じがたいことだが――毒が入っていたのは、紅茶ではない可能性。

 俺が説明を終えると、モンティも「そうね」と答えてくれた。

「あたしは、一番目のほうだと思う」

「なぜだ?」

「だって、マダムの肌には、ゴーゴンの涙の症状が出てないじゃない」

「そうか? 俺は二番の可能性が高いとみている。マダムの肌に異常がみられないのは、むしろ紅茶にはなんの毒も入っていない証拠なんじゃないか? 仮にゴーゴンの涙ではないとしても、毒物なら肌が赤くなるとか、そういう反応があると思うんだが?」

 モンティは、俺の推理に多少は納得してくれた。

「んー、じゃあ、合わせ技って可能性はない?」

 俺が答えるよりも早く、サリカが口をひらいた。

「すこしいいか……私は、そのどちらでもないと考えている」

「どちらでもない、っていうのは?」

「毒殺ではない可能性もある」

「!?」

 俺は、驚愕した――なにを言っているんだ?

「毒殺じゃないって、本気で言ってるのか?」

「そうくな。根拠を説明する」

 サリカは、剣先を地面に突いて、直立不動の姿勢をとった。

「紅茶に毒が入っていたにせよ、その他の経路で毒が混入したにせよ、マダムに気付かれないことは困難だ。彼女は毒殺のプロフェッショナルだったからな。そもそも、紅茶に毒を入れられるところをだれも目撃していないし、キセルに塗る隙もなかった。私が見ていた限りでは、マダムは一度もキセルを手放していない。以上のことからして、毒殺以外を疑うほうが合理的なのではないだろうか」

 これには、俺もうならざるをえなかった。

 ただ、いくつかほころびがあるように思った。

「ちょっと待ってくれ。毒を盛る手段は、それだけじゃないぜ?」

「ほぉ、なにがある?」

「ティーカップだ」

「カップに毒を塗るのと、紅茶に毒を入れるのと、どちらが簡単だ? 私には、同じくらいむずかしいように思えるが」

「クレアなら、カップに塗るのは簡単だろう?」

 彼女が紅茶を配ったのだから、彼女を疑わない手はなかった。

 しかし、サリカは、この推理にも難色を示した。

「クレアは、オブデロード卿に事務を任されたスタッフではないのか?」

 たしかに、クレアは参加者に含まれていないのだろう。

 一億円の分け前にも預かれない。

 だとすれば……ん、ちょっと待て。さっきのヴラドの推理とつなげると―― 

「こ、こうは考えられないか? 探偵役は俺たちで、クレアは犯人役……つまり、探偵役と犯人役は、明確に分けられている、って?」

「それは安直過ぎる。まるで、答えを当ててくださいと言っているようなものだ。犯人役に著しく不利になる」

「オブデロード卿が公平な人物なんて保証は、どこにもないんだぞ?」

 サリカは、うなずいて、

「その点は認める。だが、クレアが犯人役ならば、もっと安全な方法を取るはずだ。なぜわざわざ、自分が配るティーカップに毒を塗る? それでは、自分が怪しいと白状しているようなものだ」

 と反論してきた。

「カモフラージュかもしれない」

「空中回廊が爆破されたとき、クレアが私たちと一緒にいたという事実は?」

「クレアは、最初からこの城にいたんだ。ボムを設置する時間はあった」

「では、ウィルソンを殺害したのも、クレアだと言うのか?」

「それは……」

 俺は、口ごもった。

「分からない。ウィルソンのは、ほんとうに事故だったのかもしれない」

「ウィルソンは爆弾のプロフェッショナルだが……この論点については、既に話した。物証なしにあれこれ憶測を言い合っても、らちが明かん」

 サリカは、「今のところすべては憶測だ」と言って、一方的に議論を打ち切った。

 俺たちは応接間にもどって、これからの予定を話し合った。もちろん、このなかに犯人がいるという前提で、だ。すると、個別行動を提案する派と、団体行動を提案する派に分かれた。個別行動を提案したのは、ヴラドと竜人――竜人のおっさんのほうは、ちょっと意外だった――団体行動を提案したのは、俺とモンティとサリカ。

 イオナは、「どっちでもいい」と答えた。

 まだ回答をしていないのは、メイドのクレアだけになった。

「クレア殿は?」

 サリカの質問に、クレアは、

「わたくしは、皆様の決定にかかわらず、自室にもどらせていただきます」

 と答えた。サリカは眉間に皺を寄せた。

「それは困る。決定にはしたがっていただきたい」

「いいえ、これはオブデロード卿からのご命令です。わたくしは、必要なとき以外、同伴を禁じられております」

「ほぉ、ならば、今こうして同伴しているのは? これも必要なのか?」

「就寝前のお世話は、スケジュールの範囲内です」

 サリカは、大きくため息をついた。

「では、勝手にしろ……ヴラド公、グウェイン殿、ふたりは、なぜ個別行動を提案なさるのだ? 危険であろう?」

 これに答えたのは、竜人のほうだった。

「聖騎士よ、きみの懸念は、もっともだ。しかし、ウィルソンは爆殺された……もしあれが、ウィルソンの所持品によるものでないならば、我々もまた爆殺される危険性がある。そのとき一ヶ所にいては、一網打尽だ。ここは多少の危険を冒してでも、全滅のリスクを避けたほうが、よいように思う」

 なるほど――これは一理ある。

 サリカは吸血鬼にもおなじ問いを発した。

「ヴラド公も、同じお考えか?」

「……はい」

 物別れになりそうな気配――これに、モンティが拍車をかけた。

「あたしの意見を言わせてもらうと、団体行動したいひとは団体行動、単独行動したいひとは単独行動で、いいと思うよ? それに、昼間のサリカさんは、『団体行動だと犯人の口車に乗せられやすい』って言ってたじゃない。意見が変わったの?」

 俺たちは、サリカのほうを見た。

 たしかに、そんなことを口走っていた。

「あのときは、単独行動を提案したわけではない。三人一組だ」

 言い訳としては、成り立っている。

 これを聞いたモンティは、

「じゃあ、今回はおたがいに、自分の好きな方針をとるってことで、よくない?」

 と、サリカの言い訳を逆手にとった。

「……そうだな」

 サリカは、ヴラド公と竜人に向きなおった。

「単独行動とおっしゃるが、ふたりは、どこで夜を過ごされるおつもりだ?」

「それは答えられない」

 と竜人。ヴラドも沈黙を守った。

「左様か……では、じぶんの身は、じぶんで守られよ。ご武運を」

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