謎の少女
学校が終わって、時計は三時を示していた。みゆきは今日習った円の勉強に励んだ。キラリちゃんは施設に戻ったら、後で勉強室で教えて上げると言われて、ノートをランドセルに入れた。
そして施設、今更だけど施設の名前は百合の里と言う施設みたいだ。みゆき達が施設に戻ると、勉強室に入って、武士君は自分の宿題をやり、みゆきは今日篠原先生に出された円の求め方を習った事のおさらいだ。キラリちゃんに教わってみゆきは出来るようになった。
みゆきが宿題を終えると、気持ちがすっきりした。みゆきは小学校三年からまともに授業を受けていないので、その分五年生になってから取り戻さないと思ってキラリちゃんはみゆきの勉強の遅れを取り戻してくれる事に協力してくれた。
そして勉強が一段落がして、午後四時半を示している。今日はこれぐらいにしようとキラリちゃんは言って、みゆきはキラリちゃんにお礼を言って置いた。キラリちゃんは言っていたよ、みゆきちゃんは頑張り屋さんだと。
勉強室から出ると、丁度その時、まどかさんが帰ってきた。
「あら、メグちゃん帰っていたの?」
「はあ」
またモデルのバイトをさせられるんじゃないかと思ってハラハラしていたが、思った通りだった。通称まどかのアトリエに連れて行かれて、まどかさんは地面にシートを敷いて、今日はこのシートの上に寝そべっていてと言われて、寝そべった。
まどかさんのアトリエではまどかさんが鉛筆をなぞる音しか聞こえない。それにまどかさんの絵を描くときの目は真剣そのもので、キラリと目が光っているような感じだった。本当にまどかさんはピカソを超えるような絵をいつか描けるんじゃないかと思って、みゆきは内心嫉妬した。
昨日みゆきは試しに絵を描いてみたが、みゆきには絵心何てなくてすぐに止めてしまったんだっけ。良いよなあ、まどかさん。夢が合って、みゆきには夢がない。
まどかさんはみゆきがシートの上に寝転がっている所を描き終わったのか?もう自由にしていいよと言われて、みゆきは起き上がり、寝転がってジッとしているだけでも辛い物だった。
そこでみゆきはまどかさんに聞いてみる。
「まどかさんはどうしてピカソを超えるような絵を描きたいんですか?」
「簡単な事よ。それは楽しいからに決まっているじゃん」
「楽しいから?」
「みゆきちゃんはどんな事をしている時が楽しい?」
しばらく考えてみるとすぐに答えが返ってきた。
「みんなと一緒に遊んでいるときが一番楽しい、それに勉強を教わって、今日はキラリちゃんに円を教わって出来たことが嬉しかった」
「みゆきちゃんは勉強しているときが楽しいのかなあ?」
「そうかもしれない」
そう思うとみゆきはなぜかわくわくしてきた。もっと勉強したい。でもそんなに勉強してどうするのかみゆきには分からないが、みゆきは勉強部屋に戻り、勉強をした。みゆきはメグさんに四年生の算数の教科書を借りて、四桁のかけ算をやった。それが出来るようになるとみゆきは楽しくなってしまう。
勉強室にはみゆき一人しかいない。でも勉強をしていると楽しい。みゆきはメグさんに四年生の計算ドリルを借りて、どんどん計算をして、二十問中三問間違えたが、大体できたことに喜びを感じる。
その時みゆきは閃いた。みゆきは学校の先生になりたいと。もっともっと勉強して人に教えられるような先生になりたい。でも世の中には蔵石のような最低な先生がいたが、今みゆき達の先生の篠原先生は良い先生だ。みゆきもいっぱい勉強して、先生になりたい。篠原先生のようになりたい。
そう思うとみゆきは勉強が楽しくなってきた。もっとたくさん勉強をして、みゆきの夢を叶えたいと思っている。凄いよあんなに嫌いだった勉強が楽しくなってくる。円の求め方の次は台形を求める公式だった。これを覚えるのは結構大変だが、みゆきは気合いを入れて頑張れる。夢が持てるって凄いことだとみゆきは思えた。
みゆきが勉強に専念していると時間はあっという間に過ぎてしまい、時計を見ると午後七時を示している。もっと勉強していたいが、そろそろご飯を食べなくてはいけないのだ。今日はみゆきの当番の日ではないので直接食堂へと向かった。
食堂に行くと勉強が出来て浮かれていたが、あのお人形のようにかわいい子がいたんだっけ、その子と目が合うと、相変わらず目を丸くして見て、そして反らして、孝君の後ろに隠れてしまう。いったい何なんだろう?まあいいや、とにかく今日のメニューは肉じゃがらしい、肉じゃがは肉じゃがだが、肉が入っていないが、これはとてもおいしい物だった。
ご飯も食べ終わって、みゆきと武士君とキラリちゃんとまどかさんで今日は最初のお風呂に入ることが出来た。最初のお風呂は綺麗で本当に良い、キラリちゃんとまどかさんは言っていたが、ここのゆりの里の施設はお金がないから、シャワーを帯びることは出来ずに、そのお風呂に貯まったお湯で体を洗うしかないみたいだ。
シャンプーは百円ショップで見かけた事のある物だった。みゆきは髪が長いから、いっそのこと切ってしまった方が良いと思ったが、キラリちゃんとまゆさんは別に無理してまで切らなくて良いと言っていたので、みゆきは誰よりも多くのシャンプーを使ってしまう。体を洗うのもボディーソープではなく石けんだ。
お金がないならみゆきに頼めば良いのにと思ったが、みゆきが稼いだお金は大人に頼んでもらい予言して馬券を買ってきて貰えばいいのだ。もし良かったらこの施設のお金の足しにして上げればメグさんは喜ばないよな。
そう言えば流霧さんと言うみゆきに意地悪をした修道士の女性は言っていた。この力を疚しいことに使うと、力を無くしていくと。だからダメだろう。それよりも流霧さんとメグさんは言っていた。この地球の危機が迫っていると、それにはみゆきの力が必要だと言っていた。最初はどうだって良いと思っていたがそうは言っていられなくなってきた。
もしみゆきの力が無くてこの世界が崩壊してしまったら、みゆきの将来の夢である先生になることは出来ない。どうすれば良いのだ。
とりあえずみゆき達はお風呂から出て、体を拭いてボロいネクリジェに着替えた。みゆきとキラリちゃんと武士君とまどかさんは同じ部屋なので、四人で少し話をした。
「ワタシはピカソを超えるような絵を描いて、このゆりの里の長であるメグさんに大金を渡してあげたいと思っているんだ」
まどかさんは誇って言う。
「まどかさん絵がうまいからね、どうしていつもみゆきばかり絵のモデルにするの?」
「それはみゆきちゃんがかわいいからよ。この華奢で細いボディに顔もかわいいしね」
そう言って、まどかさんはみゆきにウインクする。そんなまどかさんを見てもしかしたらいつかヌードモデルを頼まれてしまうかもしれないので、モデルの依頼は程ほどにしておいた方が良いかもしれない。
武士君の夢を聞いてみると、キラリちゃんを守れるような立派な男の子になりたいと言っていた。そういう事を堂々と言える武士君は恥ずかしくないのか?でも今日武士君はいじめっ子を撃退して、いじめられなくなった。それでキラリちゃんは喜んでいたっけ。
キラリちゃんの夢を聞いてみると、将来武士君と結婚して、教師になりたいと豪語していた。武士君と結婚するってそんな事をみゆき達の前で堂々と言えるキラリちゃんが凄いと思った。それにキラリちゃんの夢はみゆきの夢と同じであった。
そしてみゆきの夢を語ることになってみゆきも堂々と夢を語る。みゆきも学校の先生になりたいと思っている事を三人に話した。するとキラリちゃんはうちと同じ夢だねと言って握手を求めてきた。みゆきはその暖かい手を握って何だか心がほっこりとした。
キラリちゃんは学校ではかなり優秀な成績を収めている。でもみゆきが来るまでは施設通いの子だからと言って、いじめられたりもしたらしい、それにあの蔵石にひどいこともされたと言っていた。
武士君とキラリちゃんはみゆきが普通の人間の女の子では無いと言うことはまどかさんに内緒にしてくれた。二人共みゆきが怖くないのか?いやむしろあの時助けられて、蔵石を聖なる炎で燃やして跡形も無く殺してしまったけれど、あの時は助かったと言うような感じでみゆきにキラリちゃんはアイコンタクトを取った。
そして九時を回りそろそろ寝る時間になってみゆき達四人は眠る事になった。
そうだ。夢の事で忘れていたが、みゆきはいつも孝君に寄り添っているお人形のようにかわいい女の子の事を聞くことを忘れていた。でも噂では孝君は誰とも寄せ付ける事も無くいつも一人でいると言っていたっけ?それにみゆきとすれ違った時、みゆきに『お前は見えるのかよ』と意味深な事を言っていたっけ。
あの孝君といる女の子は何者なのか?その事をいつかメグさんにでも相談してみるのも良いと思っている。
そしてみゆきは眠り、またいつもの夢を見た。『カタストロフィーインパクト』を防ぐのです。みゆきは一人じゃ無い。だから私はみゆきの事を信じています。そう、夢の中ではお母さんが出てくる。それにそのカタストロフィーインパクトと言ってもみゆきには何が何だか分からないことだった。
お母さんはみゆきの事を捨てたんだ。この予言を司る水晶玉をみゆきに残して。朝起きて時計を見ると午前五時を示していた。何となくみゆきはお母さんが残していった水晶玉を見つめていた。この水晶玉を見つめていると、何かみゆきを捨てていったお母さんの事を思い出してしまい、みゆきは癇癪を起こしそうになり、その水晶玉を窓の外から捨てようと思ったが思いとどまった。
思えばみゆきはこの水晶玉のおかげで、ひどい目にもあってきたが、百合の里であるキラリちゃんや武士君にまゆさんやメグさんに出会うことが出来たのだ。まるでみゆきはこの水晶玉に引き寄せられるようにこの施設に来たんだ。これは偶然では無く出会った事はすべて必然的な事なのだ。
水晶玉を見つめてみると何か水晶玉が大きくなっているような気がした。以前はビー玉サイズの水晶玉であったが、今は大きなビー玉サイズになっている。そして時間は過ぎていき、みゆきは体を起こして、洗面所に行って手と顔を洗って歯磨きをして、みんなで食堂で朝食を食べた。朝食と夕食を作るのはメグさんがやっているみたいだ。キラリちゃんの言うとおり、メグさんは本当に忙しい。だからメグさんが暇な時に孝君とお人形のようにかわいい女の子の事を相談してみるのも良いかもしれない。
朝食も食べ終えてみゆきとキラリちゃんと武士君は同じ小学校なので、途中まで高校生のまどかさんと一緒に登校した。まどかさんと「また百合の里で」と言われて、まどかさんと別れた。今日も学校が楽しいと良いなとみゆきは思って学校に向かっている。
それはそうと武士君の表情がりりしくなっていることに今更ながらに気がついた。以前は弱虫だった武士君は将来、キラリちゃんと結婚して最高の男になろうと昨日は豪語していたが、それは本当にまんざらでも無いようだ。
みゆき達が施設通いだからと言って、文句を言ってくる奴はひどい目に合わせてやるとみゆきは思っている。そして学校に到着して、下駄箱の上履きには今日も何も入っていなかった。そして教室に行き、みんなそれぞれ「おはよう」と言ってくれる人もちらほらといた。
キラリちゃんの方を見てみると、何か表情が明るくなった感じがした。それにみゆきが間に入れなくなってしまったかのように、新しい友達達が出来た。それにみゆきにも話をかけてきてくれる男子や女子なんかがいた。
まさかこんな事になるとは思いもしなかった。
そして学校が終わって今日も篠原先生の授業は分かりやすく、勉強になった。
みんなは蔵石を殺したことを夢にも思わないだろう。もしみゆきの正体がみんなにばれてしまったら、どんな顔をするのかと思うとゾッとする。
学校からキラリちゃんとみゆきと武士君と三人で百合の里に辿り着いた。
早速宿題と将来先生になるために勉強をしようとしたが、メグさんに孝君とあのお人形のようにかわいい女の子の事を聞くことにした。
メグさんはパソコン室にいる。キラリちゃんに聞くといつも引きこもりの生徒達にメールでエールを送って少しでも元気になれるようにと考えているみたいだ。
みゆきはパソコン室に入り、メグさんはパソコンに向かいながら言う。
「あら、メグちゃんお帰り」
この人は後ろに目があるのか?振り向きもせずにみゆきだと言うことが分かった。
「あの、メグさんにちょっと聞きたいことがあるんですけれども?」
「なあに?」
とパソコンのキーボードを打ちながら、みゆきに言う。この人は忙しい人だだから手短に話を終わらせようと思ってみゆきは言った。
「あの孝君といつもいる、お人形のようにかわいい女の子は何者なんですか?」
するとメグさんはキーボードを叩く事を止めてみゆきの方に振り向いて、少し驚いた表情で言った。
「みゆきちゃんにはあの子の事が見えるの!?」




