表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

心を通じ合えるメモリーブラッド

「武士、いじめっ子はうちが追い払って置いたから、もう大丈夫よ。それじゃあ、うちらは教室に戻るけれども、また何かあったらうちに言うんだよ」


 武士君は涙を拭きながら、黙って頷いた。


 それを見送ってみゆき達は教室へと戻ると、ちょうど給食の時間になっていた。給食のメニューはカレーライスだった。今日は朝からひどいことをされて、返り討ちにしてやったけれども、お腹がすいている。キラリちゃんとみゆきの席には給食のカレーライスが置かれていた。


「どういう風の吹き回しよ」


 とキラリちゃんは言った。みゆきはキラリちゃんが何を言っているのか分からなかった。するとみんな黙ってしまいみゆきとキラリちゃんにおびえている様子だった。


 そこでみゆきはピンときた。キラリちゃんはいじめられている為に、まともに給食を配らなかったんじゃないかと。キラリちゃんに聞いてみるとみゆきの思った通りだった。いつも給食には消しゴムのかすや鉛筆のかすなどが入っていたみたいだ。


 みゆきは思った。こいつらは人間かと。ただ施設通いのキラリちゃん達にまともに向き合ってくれる者はいないと、さっきみゆきがみんなと喧嘩してやられそこなって、蔵石に止められた。でも蔵石に止められて、蔵石に誰も来ないような教室に連れて行かれて、みゆきは犯されそうになった。


 もしかしたらみゆき以外に本当に犯されてしまった女子生徒もいるかもしれない。でもそんなことみゆきの知ったことではない。みゆきはキラリちゃんの立場を守っていれば良い。

学校にはみゆき達に味方はいない。


 蔵石が処分されている間、給食の時間に篠原と言う先生がやってきた。あいつにも気をつけなければいけないかもしれない。この学校には蔵石のような変態がいるのだから。給食の時間みんなで合唱して「いただきます」と言って、みゆきとキラリちゃんそれにクラスのみんなは給食を食べ始めた。


 そう言えば昨日もカレーだったんだもんな、学校のカレーはおいしいのか食べてみると、甘くておいしいけれど、メグさんのカレーにはほど遠いと思った。でもキラリちゃんはまともに給食が食べれることに嬉しそうに食べていた。その事でみゆきはキラリちゃんに感謝された。


 それよりもこの力使えるかもしれない。この力でキラリちゃんや武士君の事を守ってあげられるかもしれない。給食が終わると、帰りの会だった。指揮したのは篠原というこのクラスの副担任だ。こいつにも気をつけなければいけないとみゆきは思っている。でもこの篠原がホームルームを担当すると場が和んだ感じだった。


 篠原は言っていた。蔵石はもうこの学校を出て行くことになったことを、するとクラスのみんなは嬉しそうにしていた人もいたし、それ以外にも残念そうにしていたのが根本だった。まさか残念そうにしていたのは、蔵石と悪さをしていたからなのか分からないけれど、これで良かったのだ。


 学校から帰ろうとすると、篠原がみゆきとキラリちゃんのところに来た。


「君が中島みゆきさんだね。俺はこのクラスの新しい担任になった篠原ですよろしく」


 と握手を求めてきた。


 そうだ。みゆきはメグさんの力みたいに相手の心が読める力を持ってしまったのだ。みゆきが恐る恐る握手をすると、この篠原、いや篠原先生はみゆき達の事も考えてくれるまともな先生であることが分かった。


「明日、また学校で待っているからな。河合もな」


「はい」


 とみゆきが返事をすると、キラリちゃんは複雑そうな顔をして、みゆきの手を引っ張っていった。


「っちょ、キラリちゃん」


「じゃあな」


 と言って篠原先生は笑顔で手を振った。みゆきもキラリちゃんに引っ張られながら、手を振った。


 下駄箱に行くと、キラリちゃんとみゆきの靴には何も入っていなかった。


「今度は変な虫や何かは入っていなかったね」


「みゆきちゃんのおかげだよ。どうやらみゆきちゃんに恐れをなしてみんなうちらの事にいじめる連中はいなくなったのかもしれない。ありがとうみゆきちゃん」


 何かそんな風にお礼を言われると照れてしまう。それよりも武士君の事だが、武士君の方のクラスの下駄箱に行くと、武士君は一人でいじめられていた。


「おい、てめえら」


「やべえ、キラリが来たぞ」


 いじめがそんなに楽しいのか連中は武士君をいじめてキラリちゃんが来て、嬉しそうにしている。


 試しに武士君の手を触ってみると、武士君は両親を交通事故で亡くして心を閉ざしてしまっている。そういう深刻な事情があるのに連中はいじめる事に快感を得ているみたいだ。武士君とキラリちゃんは同じクラスじゃないので、キラリちゃんが時々武士君の教室に様子を見に行っているみたいだ。それでキラリちゃんが来ると、武士君はホッとするようだ。


 でも男の子なのだから、連中に刃向かうことが出来ないのか?武士君の心は両親がいなくなったことに心を完全に閉ざされてしまっている。その心を開くにはキラリちゃんやみゆきにメグさんや施設のみんなの力が必要だとも思う。みゆきは知っている。本当に怖いのは自分自身を見失って独りぼっちになってしまったら最後だと。みゆきは以前の施設でそういう人を見たことがある。


 学校から帰るととりあえず、キラリちゃんにいじめの事を報告しておこうと思ったが、あいにくメグさんはいないみたいだ。どこに行ってしまったのだろう。それに施設には孝君とあのお人形のような女の子がみゆきを目の当たりにして驚いていた。孝君とそのお人形のような女の子は部屋から出て、まるで孝君がみゆきを避けているようだった。何なのだろう。


「さて学校も終わった事だし、みゆきちゃんテレビゲームでもして遊ぼうよ」


 キラリちゃんは学校では険しい顔をしているが施設では元気いっぱいだった。ゲームと行ってもみゆきはゲームなんてしたことがないので。コントローラーを差し出されて使い方を教わったのだが、教わっても分からないのでみゆきは武士君と対戦ゲームをしているところを見ているしかなかった。


 ゲームはぷよぷよと言う、何やら丸いプリンのような形をして目玉がついていて、それが落ちてきてそのそれぞれの同じ色を四つくっつけるとはじけて、それをうまく乗せて連鎖させて、相手に透明な目玉のついた物を落として、それが全部埋まってしまうと負けてしまうというゲームだ。ちょっと説明が下手だがそんなゲームだ。


 みゆきはゲームを見ているしかなかった。キラリちゃんはみゆきを誘っていたが、ゲームのやり方が分からないので、後ろで見ていることにした。後ろで見ていて、キラリちゃんと武士君はゲームに夢中だった。こうして鑑賞しているとだんだん飽きてきて、みゆきは部屋を出ると、ちょうどまどかさんが学校から帰ってきた。


 みゆきはおののいた。またヌードモデルをしてくれなんて言わないだろうか?みゆきがまどかさんからそそくさに逃げようとすると、「みゆきちゃん」と声をかけられてしまった。恐る恐る振り向いてみると、目は爛々と輝いていた。


「何ですかまどかさん」


「お金は弾むからまゆのモデルになってくれない?」


「また、ヌードモデルだとか言わないですよね」


「そんな事させないわよ、メグさんが怖いから」


 なら暇だから良いかと思って、みゆきはまどかさんのアトリエに案内された。


 でもモデルってジッとしていると結構疲れるもんな、それにバイト代払ってくれると約束してくれたし。けれどもバイト代ってみゆきにとってたかがしれている値段だが、みゆきの稼いだお金はあまり使わない方が良いと思っている。


 みゆきが椅子に座ると、まどかさんはみゆきの髪にゆりの花を差し込んだ。


「これで良し。それで横を向いてみようか」


 みゆきは言われたとおり横を向いた。


 みゆきは思った。どうしてみゆきはまどかさんのモデルにされるのか?モデルにするならキラリちゃんや先ほどあった孝君と一緒にいたお人形のようにかわいい女の子をモデルにすれば良いのにと。もしかしたらまどかさんはみゆきがそんなに魅力的に見えるのだろうか?分からないがみゆきはバイト代が出るなら喜んでやろうと思う。でもヌードはやらないけれど。


 こうして横を向いてジッとしていると疲れるものだった。まどかさんがみゆきをモデルにしている目は真剣そのものだった。まどかさんは高校生で将来美術大学に進学するつもりだ。そのお金を新聞配達をしながら貯めていると言っている。


 みゆきは絵心ないからまどかさんみたいにうまくは描けない。でも良いな、そんな夢が持てて、みゆきには将来何になりたいか、分からない。


 二十分が経過して、まどかさんは「もう良いよ。動いても」そう言われてみゆきはヘトヘトだった。


「まどかさんはどうして絵を描くのですか?」


「それは絵を描いているとまどかは楽しいからだよ。将来まどかはピカソを超えるような絵描きになるんだから」


 それは凄い夢だ。まどかさんにみゆきは嫉妬してしまった。


 絵を描いて楽しいかあ。


 まどかさんのモデル代として千円を貰った。


 まどかさんのアトリエを後にしてみゆきはランドセルからノートを取り出して絵を描いてみたが、うまく描けずにそれに何の面白みも感じないと思ってすぐに止めてしまった。


 そこでメグさんが施設に戻ってきて、今日の事をメグさんに報告しようとした。


「メグさん、お帰りなさい。ちょっと話したいことがあるんですが」


「何々?」


 と言ってみゆきの手を掴んだ。


 みゆきの今日の出来事を手を触れることで読み取っている感じだった。この不思議な感覚でみゆきとメグさんは心で会話をしている。その会話は瞬きよりも短い時間だった。


 なるほど、キラリちゃんはメグさんに心を開くことを待っているらしい。キラリちゃんが学校でひどい目に合っていることは知っていたが、本人がメグさんに心を開くまで待っているみたいだ。本当はメグさんも力を貸したいと思っているのだが、メグさんが忙しいことを知っているし、それにキラリちゃんは自分で解決させたいと思っていた。


 それに今日、みゆきの活躍により、キラリちゃんはいじめは無くなった。それだけで、みゆきはメグさんに感謝された。


 それは本当に瞬きをするよりも短い時間の間の会話だった。


 みゆきとメグさんは心が本当に通じ合っている。これはまさに以心伝心を超えるような出来事だ。最後にメグさんはキラリちゃんをよろしくとまで言われた。これもまたほんの一瞬であり言霊よりも早く伝わる事だった。そしてみゆきは伝えたんだ。『任せて』と。


 メグさんはそう言って、施設に入り、パソコン室向かっていった。何をするのかメグさんの手を触れてみると、パソコン室で引きこもりの生徒にメールでエールを送る作業をすると言っている。それにメグさんは大変な事になったら、その家まで駆けつけるつもりでいるらしい。本当にこの人は凄い人だ。みゆきにもこの人の力になりたいと思った。


 引きこもりの生徒達には無償でやっていると言っている。メグさんの原動力は『ありがとう』と言われる事だった。みゆきはメグさんに『ありがとう』ともっと言われてみたいと思った。だからみゆきはキラリちゃんと武士君がゲーム部屋でゲームをしている二人の部屋に行った。するとキラリちゃんと武士君はどこかに出かけてしまったと前田君が言っていた。

 

 この前田君に手を触れるときっと前田君が歩んできた人生が見れるかもしれないと思って触れてみようと思ったがやめておいた。人の心にむやみに触れるのは良くないことだと思った。この力はメグさんとみゆきだけの秘密にして置こうと思った。


 前田君にキラリちゃんと武士君はどこに行ったか聞いてみると、中央公園に言ったと言っていたので、みゆきもキラリちゃんと武士君と遊ぶために、中央公園に向かった。


 中央公園に向かうと、武士君がうずくまって泣いていた。


「武士君!?」


 武士君のところに駆け寄ると、ただ泣いているだけだ。


「武士君、何があったの?キラリちゃんは!?」


 武士君は泣いているだけで何も答えようとはしなかった。仕方が無いので武士君とキラリちゃんに何があったか手を触れてみると、キラリちゃんは蔵石にさらわれたと心の声が聞こえてくる。


 キラリちゃんがさらわれた?


 そんなに大変な事があったのにこの武士君は何も出来ずにただ泣いているだけだった。みゆきはそんな武士君にいらだちを感じた。


「キラリちゃんがさらわれたと言うのに、お前は何をしていたんだよ」


 そう言って武士君の頬を拳を握りしめて殴りつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ