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この恋をどうしても実らせたくて

「実を言うとさ、誰にも言わないで欲しいんだけれどもみゆきは小説を書いているんだ」


「そんな事はどうでも良いよ。とにかくその本を返してよ」


 なるほどみゆきの事なんてどうでも良いか、ならこの本はみゆきが預からせて貰う。


「ねえ、純君、何か頼みなよ」


「頼んだら姫は返してくれるの?」


「それは純君次第かな?純君がみゆきの色に染まるまでこの本はお預けね」


「そんなあ~」


 と泣きそうになる純君。そんなにこの本が大事なのか?だったらこの本を人質にみゆきの言うことを何でも聞かせるようにしてやる。

 そんな事を思っていると胸から純君が溺愛している本がはみ出てきて、地面に落としてしまった。

 純君は今だ。と言わんばかりにみゆきの胸から滑り落ちた純君が溺愛している本をみゆきから取り上げようとして、みゆきは瞬時にホーリープロフェットの力で純君を動けなくして、純君が溺愛している本を取り上げた。

 そして純君を元の状態に戻してあげた。


「酷いよ坂下さん。姫を返してよ。それに姫は床に落っこちて凄く不機嫌になっているよ」


 何が姫だ。不機嫌になっているのはみゆきの方だ。みゆきは胸に引っかかる物がない、仕方がない、不本意だが純君の溺愛している本をみゆきのパンツに挟んだ。


「何をしてくれるんだ坂下さん。それは何でも姫に下品な事をさせないでよ」


「下品なこと?じゃあ、この本を取れる物なら取ってみなさいよ、そうしたらみゆきは大声を出して、純君を痴漢扱いにして挙げることも出来るんだから」


 卑怯な事は充分に分かっている。でもみゆきが純君に好きな気持ちを伝えたいんだ。もしこの恋が玉砕したらみゆきは凄まじいほどの辛い気持ちになることは分かっている。そんな気持ちにはならない。みゆきは絶対に純君の気持ちをこの本ではなくみゆきの方に向けさせてあげるんだから。

 純君は渋々ながらファミレスで注文してくれた。ハンバーグとライスとドリンクバー付きのセットを頼んだ。みゆきは唐揚げが好きだから唐揚げセットを頼んだ。


「ううっ、姫が泣いているよ。そんなところに挟まれて」


「ねえ、純君。そんなところって何?」


「何で坂下さんは僕をいじめるの?僕は坂下さんに何か悪いことをしたの?」


「したよ。みゆきの気持ちも知らないで、そんな本に恋してみゆきの気持ちを蔑ろにしたじゃん」


「みゆきちゃん。それは仕方がないことなんじゃないかな?」


 仕方がない!それは以前、恋に玉砕して死のうとしていた子に言った言葉だった。そうだ。純君にはもうこの本を溺愛しているんだ。

 仕方がない。仕方がない。仕方がない。と頭の中で反芻してしまう。みゆきはそんな自分にうるさいと言って仕方がないんじゃない。恋と言うのはライバルがつきものかもしれない。それにみゆきのライバルは純君が持っている人ではなく本なのだ。本に恋してどうするんだ。それにこの本純君を呪うと言っている。みゆきは純君を守ってあげなきゃいけないと思っている。本に恋するよりも、人間であるみゆきに恋をするべきだ。

 昨日言っていた。みゆきちゃんみたいな子が恋人だったら毎日が楽しいだろうねって。


 そんなことを思いながら注文してきた物がやってきた。


 純君はみゆきがおごってあげたハンバーグセットを渋々ながら食べている。それに涙も浮かべている。そんなにこの本が大事なのか?いや純君はみゆきの事を好きになるべきだ。

 みゆきも唐揚げセットを食べて、大好きな唐揚げなのにおいしいとは思えなかった。


「純君、この本は今何て言っているの?」


「凄く悲しんでいるよ」


 本当にそうなのか。みゆきは純君の腕を掴む。するとメモリーブラッドの力で純君を介して、本の声が聞こえてきた。


『純、苦しくて臭い、何この女凄く下品で最低だね』


「おい。本。それ以上の事を言ったら、マジで水に浸すよ」


『・・・』


 みゆきの声が通じたのか本は黙り込んでしまった。


「また、みゆきちゃん占いで僕を介して本に問いかけたの?」


「・・・」


 みゆきは黙って純君の目をジッと見つめる。さらに腕を掴んだまま。


 純君の声が聞こえる。


『仕方がない。もし痴漢扱いされてもいい、みゆきちゃんのパンツに挟まっている姫を助けに行かなくちゃ』


「フーン。純君痴漢扱いされても良いんだ」


「また僕の心を覗いたの占いで」


「みゆきは何でも知っているんだよ。だから観念してこの本をどこかに放り捨てて、純君の気持ちをみゆきの色に染めてあげるんだから。それにみゆきのパンツをさわったらみゆきお嫁に行けなくなっちゃうよ。責任は取って貰うからね」


 そうしてみゆきは純君の溺愛している本をパンツの中に入れてファミレスを出た。


「純君どこか行きたい場所はないの?」


「分かったよ坂下さん。坂下さんの恋人になってあげるから姫を返してくれないかな?」


「本当に~!?」


 純君は恋人になってくれると言っているがそれは単に本である姫を助けたいだけで、純君の溺愛している本を返してしまったら逃げられるかもしれないと思ってみゆきはメモリーブラッドを使って純君の心を読んでみた。


 するとみゆきの推理は当たっていた。


「純君、ちょっと面を貸して貰えないかしら?」


 すると純君の顔は真っ青に染まってしまった。


 純君をファミレスの裏手の路地に入り、純君を壁に押しつけて、最近はやっている壁ドンをした。


「純君、みゆきに嘘は通じないよ。そんなにこの本が大事なの?」


「だ、大事だよ。それは唯一の本でこの世に二冊もない本で俺が溺愛している本何だから返してくれないかな」


 純君は泣きそうな顔をしている。さすがにみゆきもやり過ぎたかもしれない。でもみゆきがこの恋に玉砕したら、みゆきは本当に心が壊れる程の衝撃に見舞われてしまう。それは仕方がない事なの?初恋は実らないと聞いたことがある。だったら恋なんてしない方が良いんじゃないかと思った。


 これがもし純君がみゆきと同じ立場ならどうだろう。もしみゆきがこの本を海へ投げ捨ててしまったら、純君の気持ちは壊れてしまうだろう。でもここで純君の溺愛している本を返したら、純君とみゆきの恋は実らなくなってしまう。そうしたらみゆきは死ぬほどのショックを受けてしまう。

 そんなの嫌、みゆきが失恋するなんて、もしみゆきが純君に失恋したらみゆきは自殺するほどの衝撃を受けてしまう。


 純君は泣きそうな顔をしている。


 いくら何でもやり過ぎだとは思っている。でも純君には人間のこのモデルにもなる女性であるみゆきを好きになるべきだ。


「純君、これからどこか行きたいところはある?」


「じゃあ、俺は図書館に行きたいな」


 図書館かあ、みゆきも嫌いじゃないみゆきも本を書いてネット小説にアップしているくらいだからな、もしかしたらみゆきと純君良いカップルになるかもしれない。


 そこで純君は本の声が聞こえると言っていた。みゆきは純君の手を繋いで図書館に入っていった。


 すると凄い図書館の本達の声が純君を介してみゆきの心の中に飛び込んでくる。新設コーナーの本の声を聞いてみると、初々しい本の声が聞こえてくる。


『ねえ、そこのカップルの男の子、私の本を読んでみてよ、きっと楽しいよ』


 すると純君は誰にも聞こえないような声で言う。


「ゴメン僕には姫しか読んではいけないことになっているんだよ」


 その他にも純君を介して本達の声がみゆきの心の中に飛び込んでくる。


 すると私がパンツの中に隠した純君が姫と呼ぶ純君の彼女である本は叫んでいる。


『誰かあたしを助けて、あたしを純の元へ返して』


 みゆきはうるさいと言わんばかりに純君の恋人であるみゆきのパンツに引っかけているお腹辺りを叩いた。


「うるさいわね。燃やされたくなかったら、黙っていなさいよ」


『うっうっ。』


 と姫は泣いている。酷いことをしているのは分かっている。いや酷いことはしていない。純君がみゆきに恋をすればすべてが丸く収まるのだ。そうすればこの純君が姫と言う本を燃やしてしまえば良いんだ。

 でも本当にそんな事をして良いのだろうか?みゆきの中で天使と悪魔が拮抗している感じがする。


 何なのこの気持ち、みゆきはこの本を純君に返した方が良いと言っているの?そんなのダメ、みゆきがこの本を返したら純君はこの本に呪われてしまう。そうだ。純君はこの本に呪われているんだ。だからみゆきが純君の恋人になってその呪いを解いてあげようと思っているんだ。


「純君、この本に純君は呪われているんだよ」


「そんな事はない。僕は姫の事が好きなんだ。だからその本を返してよ」


「純君、目を覚まして、そうすればみゆきは純君の物になるんだよ。それが嬉しくないの?」


「嬉しくないよ。みゆきちゃん酷いよ。僕の姫をみゆきちゃんのパンツに挟むなんて」


 すると図書館の本達はささやき出す。


『本を女の子がパンツに挟む?』


『それってどういう事?』


『何て下品な女なのだろう』


『あの女は俺達の敵だよ』


 みゆきは本達に嫌われてしまったみたいだ。でも純君に嫌われた訳じゃない。

 本達にそんな風にささやかれてみゆきはパンツから純君の姫である本を取り出した。


「ねえ、純君、この本みゆきにも読ませてくれないかしら?」


「分かった姫も良いって言っている。姫の命に代えても姫は良いと言っている」


「純君、君はこの本に呪われているんだよ、何度言ったら分かるのかな?」


「だから、呪われて何てないよ」


 純君が姫と呼ぶ、本をめくってみた。タイトルは以前聞いていたがオレンジの日々。


 引きこもりの少女の物語だ。ある日主人公の亜希子が姉さんの自殺のショックで引きこもってしまったらしい。原因は大学受験に失敗したことだった。それである日、亜希子はお母さんの前で暴れる。「どうして姉さんが受験で失敗して死んでしまったの」と。部屋をめちゃくちゃにしてそうして、主人公の亜希子は自分も死のうとしてリストカット自殺を試みた。

 凄いこの小説みゆきはこの小説に引き込まれるほどの面白さに続きをどんどん読む。


 そして亜希子が目覚めたらそこは病院だった。母親は亜希子の手をずっと握っていたと言う。「お母さん」と声をかけたらお母さんは凄い剣幕で亜希子の頬を殴りつけた。お母さんは亜希子がいなくなったら、お母さんはもう生きられないと言うことを言われたみたいだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 そうして最後まで読んでみゆきは涙を流してしまった。


 みゆきが読み終わると、日は沈み、夕方になっていた。


「純君、この本良い本だね」


「読んだならもう返して貰っても良いよね」


「それとこれとは話が別だよ。確かに良い本だけれども。純君はこの本に呪われているんだよ」


 みゆきは純君を呪っている本をワンピースの胸元からパンツまでいたり、お腹の辺りで挟んだ。


「ちょっと僕以外にこの本を読ませたのはみゆきちゃんだけなんだからもう返してよ」


「純君はみゆきに恋に落ちたら呪いが解けたことになるからそれまではダメ。この本はみゆきが預かる」


「そんな~」


「じゃあ、純君、そろそろみゆきも帰るから、この本はしばらく預かっておくね」


「え~!」


 と言って純君は涙を拭っていた。


 純君はこの本に呪われているんだ。そう、違いない。純君はみゆきと恋をするべきだ。そうしてみゆきはいつも世話になっているメグさんの施設にお世話になることにした。お世話って言うか、メグさんはみゆきを必要としている人だからね。


 メグさんの施設に到着して、キラリちゃんが出迎えてくれた。


「あっみゆきちゃん。どうだった純君とのデートは?」


「とりあえず純君は心が病んでいるからみゆきがその治療をしてあげなければね」


「今日もご飯を食べて行くの?」


「うん。そのつもり。家じゃあお母さんいつも遅いから、貴之なんていつもカップラーメンばかり食べているからね」


「じゃあ、いっそここに招待してあげれば良いじゃない」


「今日も施設に来ないかと連絡して見たら、また断られたよ」


「貴之君女子に人気があるのにかなりの奥手でもあるからね」


 するとメグさんが現れて、「あっメグさん今日は何かありました?」


「今のところは何もないわ」


「そうですか、最近は平和ですね」


 みゆきがメグさんの手を叩くと、メグさんは険しい顔になった。


 どうしたのだろうと思ってみゆきは聞く。


「どうしたんですかメグさん」


「みゆきちゃん。ちょっと事件が発生したみたいなのよ。だから私の部屋まで来てくれないかな?」


「はい」


 やはり事件があったのか!今日もみゆきは全身全霊メグさんに尽くすつもりでいた。


 パソコン室に入ると、メグさんはいきなりみゆきの頬を思い切り叩いた。


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