強引に迫るみゆき
朝起きると、洗面台に行き顔を洗い歯磨きをして長い髪をポニーテールにしてみる。こっちの方がかわいいかもしれない。純君のみゆきへの思いを伝えるのにこの髪型は効果があるかもしれない。
今日はぐっすりと眠れた。貴之はどうなったかと思って貴之の部屋に行くと、相変わらず汚い部屋だがちゃんと布団の上で眠っている。昨日はお母さんに大目玉を喰らって泣いていたっけ。
それはそうだよな。くそカカア何て言ったら、どこの親もそりゃ怒るだろう。みゆきと貴之はちゃんと幸せに暮らしている証だと思っている。
「おい。貴之、朝だよ、起きろよ!」
そう言って貴之を揺さぶった。貴之は寝ぼけ眼で起きて、みゆきのポニーテールを見て言った。
「恋に現を抜かしている暇があったらホーリープロフェットの使者としての役目を果たせよ」
「そんな事を言われなくてもみゆきは果たしているよ」
その時だった黒い気配を感じて見てみゆきの心を貴之は探ろうとしてみゆきは即座にホーリープロフェットで回避した。
「何をするんだよ貴之、みゆきだって油断はしていないよ」
「そうだよ。そうやってちゃんと防いでいれば良いんだよ」
そう言って貴之はリビングに行きみゆきもそれに続いた。お母さんがまたまずい食事を作っている。昨日の朝の食事はおいしかったが、今日のメニューはブロッコリーとニンジンの野菜炒めとアジの開きだった。それにご飯はちょっとお粥っぽく、アジの開きはかなり焦げている。
「さあ、二人とも食べなさい」
いつもなら貴之が文句を言っていたが昨日の事でお母さんの恐ろしさを知って、ちゃんとご飯を食べている。
みゆきも食べてみるとブロッコリーとニンジンの野菜炒めはおいしかったがアジの開きとお粥じみたご飯はとてつもなくまずかった。
「ゴメンね二人とも、炊飯器が壊れているみたいでね。今日、買いに行きたいのは山々だけれども、毎日占いの仕事がてんてこ舞いなのよだから今日はこれで勘弁してね」
みゆきも貴之のようにくそカカアと呼んで罵ってやりたかったがそんな事をしたらお母さんに大目玉を喰らってしまう。
「みゆき、心の中で思うのは仕方が無いけれど、それを口にしたら、どうなるか分かっているよね」
やばい。お母さんは心の中をのぞき込むことが出来るのだ。本当にお母さんは怖い。だったらお母さんならもっとおいしい料理を作ってくれと言いたいところだが、それを言ったら昨日の貴之のように大目玉を喰らってしまうだろう。
朝ご飯も食べ終えて、学校の支度をして藍色のワンピースを着て上にはピンクのカーディガンを着てバッチシって感じだ。
貴之は『行ってきます』の挨拶もしないで出て行き、みゆきはお母さんに「行ってきます」と挨拶をするとお母さんは黄色い声で「行ってらっしゃーい」と声をかけてくれた。
今日は土曜だ。純君でも誘ってゲームセンターにでも寄り道して帰りたいと思っている。
学校に到着するとキラリちゃんが「おはよう」と挨拶をしてくる。だからみゆきも「おはよう」と挨拶する。
「みゆきちゃん。今日は何だかおしゃれな服を着ているね、それで純君にアタックするつもり?」
「そ、そんなんじゃないよ」
「やっぱりそうなんだ。みゆきちゃん嘘をつくときに大声を上げるからすぐに分かっちゃうよ」
キラリちゃんはホーリープロフェットの使者でもなくメモリーブラッドの使者でもないのにそんな仕草で分かってしまうなんて凄いと思うが、してやられたって感じだ。
「それよりも、純君にどのようにアタックするつもり?」
「とにかく今日、ゲームセンターにでも学校の帰りに寄り道して行こうと思っている。昨日まどかさんからいただいたバイト代を使って」
「それ良いじゃん。それでアタックしてみなさいよ。とにかく恋愛は当たって砕けろだ」
「もう、人ごとだと思って楽しんでいるでしょ」
「人ごとだとは思ってないけれど、でも楽しんではいるかな」
「もう!」
そして純君はやってきた。純君がやってきて、当たって砕けたい気分だがいざとなると凄く恥ずかしい。
「じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ、純君」
「何?」
と私を警戒しているような眼差しでみゆきのことを見てきた。とりあえず「おはよう」と挨拶をしておいた。
「おう。おはよう」
と挨拶を返されて、みゆきはとても嬉しかった。
「ね、ねえ、純君」
「ん?」
「帰りにゲームセンターでも寄っていかない?」
「いや、ああいう。うるさいところはちょっと苦手かな」
「じゃあ、純君はどういうところが好きなの?」
最大限の勇気を振り絞ってみゆきは聞いてみる。
すると純君はみゆきの手を引いて、廊下には誰もいない。そこで自然とメモリーブラッドで純君の考えていることが分かった。純君はキラリちゃんにも秘密にはしているが、本の声が聞こえるって言っていたっけ。それに恋人は本だと言っていた。すると純君を介してポケットに入っている本の声が聞こえてきた。
『純、私よりもその女を選ぶつもり。許さないわよ浮気は。そんなに浮気をするなら、その女のことを呪ってやる』
と聞こえてきた。本当に純君は本の声が聞こえるんだな。とゆうか純君実を言うと呪われているんじゃないかなと思った。
「ゴメン、坂下さん、僕は君とは付き合えないんだよ」
「純君、その本から純君の心を介して聞こえてきたんだけれども、純君を呪うってどうゆう事?」
「な、何で、そんな事まで分かるの?」
「純を呪ってやるって言うけれど、純君本当に呪われているの?そうしたら、みゆきが助けてあげるんだけれども」
「いや、僕は好きでこの本を愛しているんだよ。だから君とは付き合えないんだ」
「嘘よ。その本、呪うってはっきり言っていたよ」
「どうして君には分かるのかな?」
メモリーブラッドの事は黙っておいてこの恋をこのままで終わらせたくないとみゆきは本気で思い始めた。純君は本に呪われている。
「本当は本に呪われていてみゆきとは付き合えないって言うの?」
「違うよ。僕のこの姫は凄く嫉妬深くて甘えベタなんだよ。それに今日の事を知られて凄く不機嫌になってしまったんだよ」
「じゃあ、実際のところ呪われてはいないの?」
「呪われてはいないね」
「うんだから君とは付き合えないんだ」
そこでみゆきに悪魔の声がささやいた。この恋絶対に実らせたい。もしこの恋に玉砕したらみゆきは自殺するほどの衝撃にさらされてしまうことになる。だから。
「じゃあ、純君。純君が本に恋していることを黙っていてあげるから、今日はみゆきと付き合ってよ」
「それって脅しじゃないの?」
「何を人聞きの悪いことを言っているの?みゆきの言うことを聞いてくれたら純君が本の声が聞こえることを黙っていてあげる」
「ダメだよ。それに姫が嫉妬しているんだよ。姫が嫉妬していると姫の本をめくれなくされてしまうんだ」
「じゃあ、純君が本の声が聞こえて本が恋人なんて人様にばれたらどうなるだろうな?」
「そんな事を言って僕を脅す気なの?」
「脅すなんて人聞きの悪いことを言うな、純君はみゆきに恋をするべきだと思うんだ」
「えええええええええええええええ!!!!」
「ちょっと声が大きいんじゃない。良いのかな?本の声が聞こえてそれに本が恋人なんて知られたら、周りの人に気味が悪くされるよ」
みゆきは分かっていた。こんな事をしたら、純君を脅しているって。でもみゆきは純君の事を脅してでもそのハートを奪いたいとみゆきは本気で思っている。悪いことだとは分かっている。でもそれでもみゆきは純君の恋を実らせたいと思っている。
土曜、今日は給食がなくて早く帰れるので帰りに純君を誘ってファミリーレストランに入ることになった。それでも純君は渋々だった。でもその渋々な気持ちもみゆきを本気で惚れさせて、本なんかよりも本当の人間を愛するべきだとみゆきは本気で思っている。
ファミレスは今や全席が禁煙席になっている。みゆきはたばこの臭いが嫌いだから、それはそれで良いと思っている。
「さて、純君、何を食べる。お姉さんがおごってあげるよ」
「おごるって僕達まだ小学生だよ。こんなファミレスに子供だけで来ても良いのかな?」
「別に良いんだよ、悪いことをしているわけじゃないんだから」
「僕、ちょっとトイレに行ってくるよ」
みゆきはここで察した。
「じゃあ、トイレに行く前にそのポケットに入っている本を置いてから行ってくれないかな?」
「僕、本当にトイレに行きたいんだけれども」
「なら、その本を置いて行っても良いんじゃないかな?別にみゆきに疚しいことを考えてなければ」
「じゃあ、約束して、僕がトイレに入っているときまで、この本をめくったりしないでね」
「何でめくっちゃいけないの?」
「この本は僕以外の人にさわったりめくったりすることは姫が嫌がるんだよ」
「分かった、でもトイレに入るときはその本を置いていって貰うから」
「じゃあ、絶対にさわったりめくったりしないでよね。そうしないと姫が本をめくらせてくれないんだ」
そうして純君は恋人である本を置いて、トイレに行った。
純君はみゆきの言うとおり、本をちゃんと置いていってくれている。めくるなと言われてもめくりたくなってくる。それに本はちゃんと綺麗なピンクと赤のチェックの入ったおしゃれなブックカバーに収まっている。せめてこの本の題名だけでも知りたいと思ったが、さすがの純君もみゆきがこの本をさわったら怒るだろうな。きっと本をめくることはみゆきのスカートをめくるぐらいに嫌な事なのかもしれないと思ってめくらずにそのままにしておいた。それにみゆきには本の声は聞こえてこない。
でもこの本、何か禍々しい感じがして不気味だ。
みゆきがこの本にさわったら、きっと純君は本の声が聞こえるので、ばれてしまうだろう。そうしたら純君はきっと怒るだろうな。
何だろうこの気持ち、何が本が恋人だよ。みゆきが純君にこんな気持ちを抱いているのに、こんな本の事を気遣う何て。どうせだったらめくってしまおうかと思った瞬間に純君は戻ってきた。
純君は慌ててトイレから出てきた。まるでみゆきの事を信頼していない様子だったような気がして何かムカつく。
「本当にさわっていないみたいだね」
「ねえ、純君、その本のタイトルくらいはみゆきに教えてくれないかな?」
「うーん。別に良いけれど」
純君は今『うーん』と言った。純君は本と相談でもしていたような気がした。
「で、何てタイトルなの?」
「『オレンジの日々』ってタイトルなんだ」
「みゆきにはめくらせてくれないかなってその本に頼んでみてくれないかな」
「ダメダメダメダメダメダメ!!!そんな事をしたら姫に何を言われるか分からないよ。それに姫は今本当にご立腹中何だよ。姫以外の女性とこうしてファミレスに来ているだけで凄く怒っているんだよ」
「じゃあ、みゆきがいなくなるのと。その本が川に捨てられるのとどちらが良い」
「何だよその質問凄く卑劣な質問じゃないか?」
「どちらが良いって聞いているんだけれども」
「どちらも嫌だよ」
「たかが本でしょ。本の声が聞こえるからって何なの?そんなにその本がみゆきよりも価値があるとでも言いたいの?」
「言いたいよ」
と純君は小さな声で言った。その声にみゆきの心は大きくショックを受けてしまった。何この気持ち、凄く嫌な気持ちなんだけれども、泣きたい。
でもみゆきは負けたくないそんな本のどこが良いのだろうかとみゆきは純君の腕を掴んだ。
「何、坂下さん、また僕の手を掴んじゃって。また僕の心でも読むつもり?」
純君は察しが良い。純君はそうはさせまいと必死に手を振りほどこうとしている。
純君の心を介して本の声が聞こえてくる。
『純、何よこの女、厚かましいにも程があるわよ』
「厚かましいのも程があるか?」
純君に本が言っていることを伝えると、純君は戦く。
みゆきはもう我慢ならなかった。みゆきは純君が愛していると言っている本を取り上げて胸の中にしまった。
「ちょ、ちょっと坂下さん」
「そんなにこの本が愛おしい?」
「坂下さん返してよ」
みゆきの胸元にある純君の恋人の本を取り上げようとするとみゆきは悲鳴を挙げた。
「きゃああああああ」
「それは何でも卑怯なんじゃないかな?」
卑怯でも良い。純君の恋人を奪ってでも純君のハートをみゆきの色に染めてあげたいと思っている。
返して欲しければ、みゆきの言うことを聞いてくれたら返してあげても良いと思うよ。
「ぐぬぬ」
悔しそうにしている純君。そんなにこの本を愛しているのか?だったらみゆきも実力行使だ。




