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初恋

 キラリちゃんは占い師じゃないのに言った。


「純君の運命の人はズバリみゆきちゃんだと」


 みゆきは驚いて心臓が破裂しそうな程ドキドキした。純君は純君で顔を真っ赤にしている。

「何を言っているのよキラリちゃん」


「エヘヘ、キラリの大予言は当たるよ」


「キラリちゃんは占い師じゃないでしょ・・・ご、ご、ゴメンね純君急に、へ、変なことを言っちゃって」


「みゆきちゃんが俺の運命の人かあ、みゆきちゃんかわいいからね。俺はみゆきちゃんなら運命の人であっても良いかもしれない」


 みゆきの聞き違いか?純君は言った。『みゆきちゃんはかわいい』ってそれに『俺はみゆきちゃんなら運命の人であってもいい』って。


「本当に!!?」


 みゆきは耳を疑いながらも純君に聞いてみた。


「うん。本当だとも、みゆきちゃんはかわいくて本当に俺の彼女になってくれたら良いなって思ったよ」


 みゆきはそのまま昇天してしまいそうな気がするほど嬉しかった。みゆきはチャンスだと思って「じゃあ、純君みゆきと付き合ってくれますか?」


「ゴメンそれは無理」


 そこでキラリちゃんが「ちょっと純君、みゆきちゃんをその気にさせといてそれはないんじゃない!?」と友達のキラリちゃんが文句を言う。


「純君はみゆきよりも素敵な人がいるもんね」


 みゆきはそのまま灰になりそうな程のショックだった。初恋は実らないと良く言うが本当の事だ。それに純君とは今日会ったばかりだが純君の事をホーリープロフェットで占って凄い素敵な人だと思ってアタックしてみたが通用しなかった。ちなみに純君の好きな人って誰だろうと思って、もしかしたら新潟にもういるんじゃないかと思って思い切って純君の手を握ってメモリーブラッドで調べてみることにした。


 純君の温かい手を握って掴むと純君の好きな人は・・・人じゃない。人じゃないなら誰なのと思ってメモリーブラッドで調べてみると、純君の好きな人はペットか?それともお母さんでも好きなマザコンなのか?いやいやお母さんは人だろう。じゃあ、誰なのと思って辿り着いた答えはポケットの中にいる本であることが分かった。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと何、人の手をそんなに真剣に握っちゃって」


「純君の好きな人って・・・」


「もしかして占いで分かっちゃった?」


 純君はうろたえている。純君は本の声が聞こえる特殊能力を持つ物だとみゆきは知った。それで本に恋をしているなんて。


 みゆきはキラリちゃんの聞こえないところで、純君に言った。「純君って本の声が聞こえるんだね」


 すると純君はそればかりは勘弁して欲しいと言わんばかりに「なぜそれを知っているの?占い怖い。特にみゆきちゃんの占いって凄く当たるから怖い。今までたくさんの人に占って貰ったけれどみゆきちゃんだけだよ。俺の秘密を知ったのは!」


「・・・」


 本が恋人なんてちょっと素敵って言うかずれているというか、純君は本の声が聞こえるから、凄くロマンチストな人だと言うことは分かった。


「やばい!!」


 キラリちゃんが「何がやばいの?」と言ってみゆきも気になって純君の目を見てみると。


「じゃあ、今日はこれで俺はおいとまするから、また明日学校で!」


 そう言って純君はピューとどこかに去ってしまった。


「何がやばいんだろうね?」


 キラリちゃんはそう言って「さあ」とみゆきは言うのだった。


 みゆきは純君が本に恋をしているって思うと何か変わった人だと思ったけれど、みゆきはそれが素敵だとも思えた。みゆきは本気で純君の事を好きになってしまった。この恋は絶対に実らせてやると思っている。


 今日は昨日まどかさんのアルバイト代で二千円を貰っているので良かったら、キラリちゃんとカラオケにでも行こうと言った。するとキラリちゃんはOKしてくれて武士君の分も出してあげることにした。


 カラオケ屋に行くと、みゆき達は受付で門前払いをされた。つまり高校生以上じゃないとカラオケはご利用出来ないみたいだ。


「何で小学生の私達カラオケはダメなんだろうね」


「本当だよ。このモヤモヤした気持ちを吹っ飛ばそうとしたのに」


 そうだ。みゆきは純君に振られてしまったのだ。それは認めるがみゆきは諦めたりはしない。みゆきは絶対に純君の彼女になってやる。


 とりあえずカラオケはダメになってしまったが、キラリちゃんと武士君にクレープをおごることにする。


「良いのみゆきちゃん。クレープご馳走になって」


「良いよ良いよ。このお金は実を言うとまどかさんからのモデルのアルバイト代で貰った物だから」


 武士君もみゆきにお礼を言ってくれた。


 キラリちゃんも武士君も安いクレープを選んでくれてみゆきはみゆきで普通のバナナのくるまったクレープを頼んだ。総額丁度千円だった。お小遣い余っちゃけれど、それも良いと思った。


 そしてみゆきはメグさんが経営する施設に顔を出すのだった。遊びがてら、メグさんに挨拶をすると、「あら、みゆきちゃん。今日も遊びに来たの?」


「はい」


 自分でも良い返事が出来たと思うほどきっぱりと言った。


「どうしたの?何か良いことでもあったの」


 と言ってみゆきの手を触ろうとしたがそうはさせない。みゆきが恋をしてしまったのはキラリちゃんと武士君とみゆきだけの秘密なのだから。


「どうしたの。みゆきちゃん。何か良いことがあったら私にも教えてくれたって良いんじゃない?」


 そうだ。メグさんはメグさんのメモリーブラッドでみゆきの心の中を覗こうとしているのだ。そうは行く物か、これはメグさんにだって秘密にしたいことだ。


「フーン、なるほどね!」


「何がなるほどなんですか?」


「みゆきちゃんの顔に書いてある。みゆきちゃん恋をしているでしょ」


「何で分かるんですか?」


「私にも触れさせてくれないその気持ち大事にしなさいよ。それと失恋したら、私の胸に飛び込んで来ても良いわよ」


「ど、どうして失恋前提で話を繋げるんですか?」


「みゆきちゃんの初恋じっくりと観察させて貰うわよ。失恋したからって自殺なんて考えないようにね」


「もう、そんな事はしませんよ」


「まあ、とにかく頑張りなさい、私はみゆきちゃんの初恋、応援しているから。それと今日もご飯食べて行きなさいね」


「いつもありがとうございます」


 メグさんがいつもパソコンで引きこもりの生徒にメールでエールを送っている姿を後にしてみゆきはキラリちゃん達がいるゲーム室に入っていった。早速やっているみゆき達が生まれる前に発売されたぷよぷよと言う対戦ゲームだ。今日こそはみゆきが勝つぞ、それで負けたら罰ゲームでアンコウ踊りをさせてやるんだから。


 みゆきとキラリちゃんはぷよぷよでゲームをした。


「そう言えばみゆきちゃん。純君の事はどうするの?」


「みゆきは諦めないことにしたよ」


「それよりも、純君慌てて走って去って行ったけれど、何があったんだろうね」


「さあ、それはみゆきにも分からないけれど、本当に尋常じゃない焦りっぷりだよね」


 そこでみゆきは考える。純君本の声が聞こえるって言っていたけれど、呪われているんじゃないかと。もしかして本に呪われて本当はみゆきと付き合いたいのだが、本に呪われていて本に束縛の呪いをかけられているんじゃないかってみゆきは思った。


 もしそうだったら、大変だ。純君を助けなきゃ。


 そんな事を考えているとみゆきはキラリちゃんに圧勝されて、負けて罰ゲームとしてアンコウ踊りをさせられてしまった。何をやっているんだ、坂下みゆき。


 ゲーム室から出ると、まどかさんとバッタリ会ってしまった。


 シカトして素通りしようとしたが、「何、まどかの事を避けようとしているの?」


「まどかさん。またみゆきをモデルにしようって思っているんじゃないかって」


「もちろん思ったし、ずっとゲーム室の前でスタンバっていたよ」


「それってストーカーと言う奴じゃないですか」


「ストーカーじゃないよ、まどかはみゆきちゃんのナイスなバディを描くためにずっと待っていたんだから」


 断る理由が見つからない。どうやら、また明日、キラリちゃんと武士君にクレープをおごることが出来るかもしれない。


 モデルの仕事って疲れるんだよな。でも報酬ははずむって言っていたから、それはそれで良いと思う。


 まどかさんのモデルをしながら、まどかさんに聞いてみた。


「どうして、みゆきをいつもモデルにするんですか?キラリちゃんだって他にも女の子はいるのに」


「いやそれはみゆきちゃんがとっても魅力的だからだよ。それにその小さな胸、キュッと引き締まったそのお尻、とても芸術的な体をしているからだよ」


 それって褒めているのかよと心の中で突っ込んでおく。


 早速みゆきはまどかさんのモデルを頼まれることになってしまった。今日は妖艶な紫色のワンピースだった。その紫色のワンピースを着て鏡の前に立って見ると、何か呪われたような雰囲気を漂わせていた。


「本当にみゆきちゃんは何でもかわいく似合うよね」


 まどかさんのかわいいと言う定義はどのような物なのかみゆきは気になる。


 早速みゆきは今日は机の前で座らされて両手で顎を押さえて笑顔にしてというポーズを取らされた。相変わらずまどかさんの目はギラリと光っている。そんなまどかさんは「みゆきちゃん恋をしているでしょ」とまどかさんもメモリーブラッドの使い手なのかと疑ってしまうほどみゆきはうろたえた。


「何、そんなにうろたえているの?」


「何を言っているのですか?何でそんな事が分かるんですか?」


「その様子だと、みゆきちゃんは人生で初めて恋をしたと見たよ。いやー今日はみゆきちゃんの恋をしている無垢な女の子って感じだな、今日もいい絵が描けました」


「・・・」


 みゆきはそんなまどかさんに見透かされて凄く恥ずかしかった。


 それでバイトは終わって今日はバイト代を昨日と同じ金額で二千円をゲットすることが出来た。


 それよりも純君の事だけど、凄くモヤモヤな気持ちになる。何か叫びたい気持ちになってきた。みゆきは外に出ようとするとキラリちゃんが、「みゆきちゃんどこに行くの?」「ちょっと叫びたい気持ちになって、どこかで叫んでくるよ」


「叫びたいなら私が打って付けの場所を知っているからそこで叫んでくれば良いじゃない。私も付き合ってあげるからさ」


 私はキラリちゃんに連れられてとある河川敷に到着した。そこはまさに叫ぶのには打って付けのところだった。


 でもいざ叫ぼうとしても言葉が見つからないし、叫ぶのにためらってしまう。


 するとキラリちゃんは「武士、私はあなただけを愛しているからね」と叫んだ。叫んだ後のキラリちゃんの顔を見ると母性本能を感じさせる何かを感じた。そうだよね。キラリちゃんの好きな人って武士君だっけ。それに以前言っていた。『武士は私的にはほおっておけない存在だと』そんなキラリちゃんを見てみゆきはキラリちゃんが羨ましかった。


「さあ、みゆきちゃん。そのモヤモヤとしている気持ちを大空に向かって叫んで見なよ」


「みゆきは純君が好き、もう恋人がいるからってみゆきは諦めたりはしないんだから!!!」


 とみゆきは叫んだ。叫ぶ事って気持ちが良いとみゆきは思う。


「そうだよ。みゆきちゃん。みゆきちゃんらしいね。そのみゆきちゃんの発言。それよりも純君の恋人って誰なの?」


 やばい。純君、本が恋人なんて言ったら純君はキラリちゃんに不審がられてしまう。どのようにここはごまかした方が良いだろうか?


「みゆきちゃん!」


「はい!」


「純君の恋人って誰なの?」


「何か新潟にいるみたいでさ。みゆきとはお付き合い出来ないみたい」


「みゆきちゃん。何か目が泳いでいるけれど本当にどうしたの?」


「みゆき、そんなに目が泳いでいる?」


「うん。魚のように泳いでいたよ」


 目が魚のように泳いでいたってどういう表現だよって突っ込んで起きたい気持ちだが、とりあえず純君の秘密は守ってあげたいと思っている。でもキラリちゃんに話しても大丈夫な気がした。


「えっ!?純君って本が恋人で本の声が聞こえるの?」


「そうみたいなんだ。だからもしかしたら純君は呪われていて、純君は本にとりつかれているんじゃないかとみゆきは思っていて」


「純君の好きな人って人じゃないんだ」


「キラリちゃん。この事は誰にも秘密にしておいてよ。誰かに言ったら純君は変人扱いされてかわいそうだから」


「分かっているよ」


 キラリちゃんは口が堅いしみゆきの困っている事をそんじょそこらに言う事はしないだろう。


 さて叫んですっきりして、土手を後にして、みゆきとキラリちゃんは施設に戻ることにした。


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