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ありがとうと言われたくて

 お好み焼きパーティーかあ、ダメ元で貴之のスマホに連絡して「お好み焼きパーティーがあるんだけれども貴之も行かない?」と聞いてみると即座に「行かない。俺は忙しいんだよ」と断られてしまった。貴之は集団の中に入るのは苦手だ。みゆきはみんなといると楽しいのに貴之はみんなと集団で何かをする事が苦手なタイプだった。


 学校でもそうだ。貴之は一人で休み時間どこにいるのか分からないと言った感じで消えてしまう。でもちゃんと授業を受けて、まあ成績は中の中って感じなのだけれどもな。それにあいつ結構かっこいいから女子達に人気なのだよな。多分貴之には興味が無いことかもしれないけれど、貴之も集団で誰かと行動を共に出来るくらいの楽しさを知って欲しいと思っている。


 それよりも今日はお好み焼きパーティーかあ、楽しみだな。施設に行くとみんなでキャベツを切ったりしている。そうかここの施設のお金がないから肉はないんだろうな。だったらみゆきが買ってあげようかと思ったがメグさんに余計な事はしないでって言われてしまうかもしれない。それに肉がなくてもお好み焼きはおいしかった。みんなで食べるとなおおいしい。

「ほらみゆきちゃん、口元にソースがついているよ」


 そう言ってキラリちゃんはみゆきの口元をハンカチで拭ってくれた。


「ありがとう。だってこのお好み焼きおいしいんだもん」


「それはそうだよ。今日はメグさんが作ってくれているんだから」


 そう言えば、メグさんは料理が得意だった事を思い出した。いつもはここの料理当番を決めて作っているみたいだが、メグさんは忙しくて料理に参加出来ないのだ。今日は材料をみんなで分担して切ってメグさんが材料を小麦粉と水と材料を混ぜて作っている。肉がなくてもそれ以上においしい。家のお母さんのご飯はあまりおいしい物じゃないけれど、栄養バランスをちゃんと考えて作っていることが分かる。


 お好み焼きも食べ終えて、みゆきは三枚も食べてしまった。お腹が膨れている。みゆきは育ち盛りだから食べれば食べるほど、大きくなれるんだよな。ちなみにまどかさんはダイエット中でマヨネーズはかけないようにしている。とにかくやせるにはいっぱい食べて、いっぱい動くことが大事だとみゆきは思っている。


 先ほど会ったひゃっほ事絵里ちゃんだけれども、どうなったのかみゆきには分からない。もしいじめられっ子に立ち向かう勇気が無ければ、ここの施設に来ることを勧めても良いと思っている。


 絵里ちゃんもメグさんも言っていた。みゆきに『ありがとう』と。その言葉をかけられるとみゆきは本当に空を飛びたくなるほど嬉しくなってしまう。それにホーリープロフェットの力は以前キラリちゃんと武士君に見られてしまったけれど、秘密にしてくれているみたいだ。本当に恩にきる。


 今、みゆきのホーリープロフェットの力はこの胸に宿っている。ホーリープロフェットは以前、ビー玉サイズの玉だったが、今ではバスケットボールぐらいの大きさになっている。みゆきのホーリープロフェットの力はみゆきの体内に宿っている。さすがにバスケットボールの大きさの玉を持つのはいささか変に思われてしまうだろう。


 いつの間にか胸に宿す事が出来るようになっているのだもんな。不思議な物だ。お母さんの水晶玉はどれぐらいの大きさなのだろう。私と貴之のお母さんは占いで生計を立てているが、実際のところどれぐらいの力を持っているのだろう。お母さんの占いってどんな事を占うのだろう。いつか見てみたい物だが、お母さんも気難しい性格なので、そう易々とは見せてはくれないだろう。


 それよりもひゃっほ事、絵里ちゃんの事が心配になってきた。絵里ちゃんの事を目閉じてホーリープロフェットの力で念じてみると、何事もないようだ。今のところは。この平和な時代にも問題は出没している。みゆきやメグさんの問題でもある、学校でのいじめで学校に行けなくなった人達や、ここにいる施設の親がいない人達も対象だ。


 この当たり前の平和に甘んじては痛い目を見ることをみゆきは身をもって知った事だった。ここの施設の人達はみんな優しい。でもその優しさと親がいないことを理由にみゆき達に牙を向けてくる者もいる。それは弱いからそうなるのだ。そして一人だからそうなるのだ。みゆきは一人じゃないし強い。みゆきは弱虫なんかじゃない。いじめられるのはその子が弱いからいじめられるのだ。そしてその弱い者達はさらに弱い者達をいじめたりする。メグさんは言っていた。いじめは絶対になくならないと。それはどこにでもあることだと。世の中の人達が救われないのは当たり前の事でもあると残酷な真実をみゆきは突きつけられた。


 だったらみゆきに関わった者達だけでもみゆきは救いたいと思っている。このホーリープロフェットとメグさんにいただいた力であるメモリーブラッドの力で。


「みゆきちゃん。そろそろ帰らなくて大丈夫なの?」


 メグさんに言われると時計を見ると午後八時を示している。


「じゃあ、そろそろおいとまします」


「みゆきちゃん。今日はありがとうね」


 みゆきは大好きな言葉であるありがとうと言う言葉に心の奥底から得たいのしれない嬉しさがこみ上げてきて、メグさんに「はい」と満面な笑顔で返事をした。


 ありがとう。ありがとう。ありがとう。メグさんの先ほど言われた言葉を反芻する。みゆきはウルトラハッピーな気持ちだった。


 家に帰ると、お母さんはまだ帰っていなかった。台所に行くと貴之が一人でカップラーメンを食べていた。


「貴之、カップラーメンばかり食べていると体を壊すよ」


「関係ないだろ。母さんは今日も遅くなるって言っていたし」


「だったら、さっき電話しただろ、その時にお好み焼きパーティー開くから来いって」


「俺は忙しいんだよ」


「ネットで人助けをしているんでしょ」


 そこでみゆきは貴之の今日の行動を見ようとすると貴之にイービルプロフェットでガードされた。


「何人の事を覗こうとしているんだよ」


「みゆき、貴之が心配」


「心配には及ばないよ、だから勝手に人の事を覗こうとするなよ」


 ずるずるとカップラーメンを食べる貴之。


 みゆきは冷蔵庫を開けて丁度トマトがあった。まな板の上にのせて包丁でそれを四つにカットして、貴之に差し出した。


「貴之、カップラーメンばかり食べていたら栄養が偏るから野菜もちゃんと食べなさいよ」


「ありがとう」


 貴之の言葉に耳を疑った。


「貴之、今、何て言った?」


 すると貴之は「何でもねえよ」と言って顔を真っ赤にして、みゆきがカットしてあげたトマトを食べて部屋に戻っていってしまった。


 そんな貴之に「貴之、ネットで人助けも良いけれど、ちゃんと自分の体調も大事にしなさいよ」


「分かっているよ。うるせえな」


 全く貴之は。でも貴之にありがとうって言われてしまった。何か凄く嬉しいんだけれども。ありがとう。ありがとう。ありがとう。と貴之がさりげなく言った言葉を反芻する。


 さてそろそろみゆきも寝ないとな、寝る子は育つって言うし、みゆきはまだ十一歳だ。今年で十二歳になるのだけれども、みゆきも貴之もホーリープロフェットやイービルプロフェットの力で大人の仲間入りになっている。


 でもみゆきは恋と言うことをしたことがない。メグさんに恋沙汰で自殺しようとしていた生徒を助けたことがあった。あの時は瞳ちゃんだっけ、本気で自殺をしようとしていたんだもんな。本当に驚いた。みゆきは異性の人を好きになったことがない。それに失恋ってそんなに辛い物なのだろうか?だったらみゆきは恋なんてしない方が良いような気がしてきた。でもメグさんは言っていたよな、恋は人を成長させるって。それに逆に人をダメにしてしまう時もあるって言っていた。


 瞳ちゃんと言えば、思い出した。みゆきの力を見ておののいて逃げてしまったことを。あの瞳ちゃんは元気にしているだろうか。試しに占ってみるとどうやら、他の良い施設で平和に暮らしているみたいだ。それを感じてみゆきはホッとした。



 


 ******   ******




 次の日の朝、目覚まし時計がけたたましく鳴る。時計は午前六時を示している。まず最初に食堂に行くとお母さんが料理をしていた。


「おはよう。お母さん」


「うん。おはようみゆき」


「昨日も遅かったの?」


「ええ、昨日は夜中の二時くらいに帰ってきてね」


「もっと早く帰って来れないの?貴之の奴またカップラーメンを食べていたよ。だからみゆきが四つにカットしたトマトをご馳走してあげたよ」


「みゆきは優しいね。とりあえず洗面所に行って顔を洗って歯磨きをしてきなさい。そうしたら貴之を起こしに行ってきてくれないかしら、それまでにはお母さんご飯の準備は出来上がっていると思うから」


「分かった」


 みゆきは洗面所に行ってお母さんに言われた通り、顔を洗って、歯を磨いて貴之を起こしに行こうとすると貴之はいなかった。もしかしたら貴之の奴もネットゲームで人助けをしているから、やばくなった人をもしくは自殺しようとしている人を助けに言ったのかもしれない。そう思って貴之の事をホーリープロフェットで確かめようとすると、即座にイービルプロフェットが発動して、みゆきのホーリープロフェットを遮断してしまった。そして貴之は窓から帰ってきた。


「姉ちゃん。また俺のことを探っただろ」


「探ったよ。だって心配なんだもん」


「心配なんて入らないよ」


「大方ネットゲームでやばそうな人を助けに行ったのでしょう」


「うるせーよ」


 相変わらず恥ずかしがり屋さんなんだから。


「それよりも貴之、ちゃんと寝たの?」


「寝たよ。相変わらずうるせーよ」


「とにかく洗面所に行って顔を洗って歯を磨いてこい」


「母さんみたいな事を言うな!」


 そう言って貴之はみゆきの言うとおり洗面所に行って顔を洗って歯を磨いていた。


 さてそろそろお母さんの手料理が出来る頃だ。お母さんの料理はあまりおいしくないんだもんな。みゆきはあまり期待はしていないが朝ご飯を食べないと学校の授業を受けるときに頭がボーッとしてしまうからな。


 貴之もそろって、朝ご飯をみんなでいただきますと言って食べることになった。ちなみにメニューを見ると今日はまともな物だったトーストにベーコンエッグにサラダにコーンスープでおいしくいただけた。


「貴之、またネットゲームしていたの?」


 とお母さんは注意をする。


 そこでみゆきは貴之の事を言うことにしたが、貴之は余計な事は言うなって顔をしていたが、みゆきは喋った。


「ええっ貴之ネットゲームでそんなことをしていたの?」


 お母さんも大喜びであった。続けて母さんは、


「とにかくネットゲームで人助けも良いけれども、イービルプロフェットを間違った方向に使わないようにね」


「・・・」


 黙り込む貴之。顔が凄く真っ赤だ。きっと照れているのだろう。


 ご飯を食べながらテレビを見ていると今日の星座占いがやっていた。みゆきは五月二十九日だから双子座だ。その双子座の星座占いを見てみると、今日運命の人が現れると出ていた。しかも星座占いでランキング一位にされている。


「あっはっはっは。今日みゆきに星座占いで運命の人が現れるだって、何を根拠にそんなことを言っているんだろうね」


「みゆき、星座占いもあながち嘘ではないのよ。でもまあ、母さんが占ったら必ず当たるからね・・・それよりもみゆき、今日母さんがみゆきの事を占ってあげましょうか?」


「べ、別に良いよ」


 母さんの占いは本当に当たるから怖いんだよな。それに今日が母さんの占いで厄日だったら怖いし。


 貴之が食事を食べ終えて「それじゃあ行ってきます」


 貴之もみゆきと双子だから双子座なんだよな、貴之にも運命の人が現れたりして。でも母さんはこのような星座占いはあながち嘘ではないと言っていたが、みゆきは毎朝自分の星座を確かめているが当たったためしがない。本当にこのような占い当たるのだろうか?


 さてみゆきもご飯を食べ終えた事だし、そろそろ学校に行かなくてはな、運命の人が現れるなんて嘘も大概にしろって言うんだ。みゆきはランドセルを背負って真っ白なワンピースに着替えて等身大を映す鏡を見て確認してみると今日もかわいいみゆきちゃんって感じだ。


 運命の人が現れるって言うけれど、みゆきには関係ないな。学校に続く民家を歩いているとキラリちゃんと武士君を発見した。後ろから脅かしてやろうと思って、後ろから『わっ!!!!』と声を上げると二人は目を丸くして驚いている様子だ。


「何だ、みゆきちゃんか?脅かさないでよ」


「おはようキラリちゃん」


「うん。おはようみゆきちゃん」


 今日も一日楽しいことが始まりそうでみゆきはワクワクしていた。それにキラリちゃんの話だと今日は珍しくこんな時期に転校生が来るって言っていたっけ。まさかその人がみゆきの運命の人だなんて事は無いでしょうね。


 この時のみゆきは知るよしもなかった。その転校生がみゆきの運命の人だと言うことに。


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