迷いの森の死神様
みゆき達は魔王を倒すために廃村である。村へと向かう。キリが私達を誘導してくれる。暗い森の中を通っていくキリはオオカミよけの鈴を鳴らしている。
魔王は神をも超えるほどの力の持ち主だと聞いている。そんな神をも超える人物にみゆき達は勝てるのだろうか?でも精霊石で通じ合ったお母さんの言葉を信じることにする。みゆきのホーリープロフェットと貴之のイービルプロフェットは互いに力を増し合った仲だ。だからみゆき達の敵では無いような気がするが神をも超える力ってどのような者なのかみゆきには検討がつかなかった。
森を進み、キリはオオカミよけの鈴を鳴らして、みゆき達を廃村まで導いてくれている。もしかしたら魔王を倒したらキャリアスに捕まっているお母さんを取り戻せるかもしれない。
森を歩いていると何だろうこの違和感は同じ所を進んでいるような気がする。オオカミ達には出会う事は無いがみゆきと貴之とキリは少し疲れを見せてきた。
「キリ、少し疲れたから休まない?」
「そうですね。少し疲れたかもしれませんね」
「キリ、少し休もう」
「はい」
貴之は口では言わないが相当に疲れた感じでいる。みゆきが思っていた冥界とは違ったイメージだった。冥界だから魑魅魍魎ばかりがうろうろしていると思っていたが違っていた。こんな自然豊かな森まで存在しているなんて。
みゆきが木に寄りかかり休んでいると、みゆきの野球ボールぐらいに変化したホーリープロフェットの源である水晶玉が点滅している。これは何を示しているのだろう。みゆきは水晶玉に念じてみた。するとみゆき達は迷いの森に迷ってしまっている事に気がついた。
「キリ、ここは迷いの森だって言うけれど、どういう事?」
「迷いの森?まさか本当に存在していたなんて」
「キリ、迷いの森を出るにはどうしたら良いの?」
「迷いの森を支配しているのは死神様です」
「死神様?」
「死神様が私達を迷いの森に引き込んだのだと思います。一度迷いの森に引き込まれたら、私達は帰っては来れないと思います」
「そんな。案内役にキリが選ばれたのでしょ」
「まさか死神様にまで私達は狙われていたなんて」
「その死神はどこにいるの?」
「言葉を慎んでください。死神様は神様なのです。だから神様に願うしか無いかもしれません」
「姉ちゃんここはキリの言うとおりにしよう」
貴之とキリの言うとおりにしようとした。その死神様って死の神様なんでしょ。みゆきのホーリープロフェットで焼き尽くす事は出来ないのかしら。
貴之とキリは両手を絡めて祈っている感じだ。まさか貴之がそんな事をするなんて思いもよらなかった。みゆきも同じように手を絡めて死神様とやらを祈った。どうか死神様みゆき達をお助けくださいと。
片目でキリの方を見ると凄く怯えている感じだった。それは先ほど現れたオルトロスとの比では無かった。そんなに死神様って言うのは怖いのか?いやそれともキリは目的が果たせないことに責任を感じているのだろうか?とにかくみゆきはその死神様とやらにあったら一泡吹かしたいと思っている。
そんな時である。精霊石が輝きだした。
「お母さん?」
『二人とも死神様に手を出してはいけません。死神様はあなた達の力で倒せる相手ではありません。それに死神様は死の神様です。キリの言うとおりにしていれば何も起きません。だから』
「分かったよ。お母さん」
二人に聞こえないようにみゆきはお母さんと精霊石を通じて語り合った。
死神様に手を出してはいけないか、だったら魔王を死神様に倒して貰ったら良いのじゃないかとみゆきは思った。
しばらく三人で祈っていると頭上から黒い外套をまとった幼子が現れた。
「我の許可無しにこの森で何をしておるのじゃ」
「死神様申し訳ありません。私達はこの二方に魔王を倒しにこの森を抜けたいのですがお願いは出来ないでしょうか?」
みゆきは悟った。ホーリープロフェットでこの幼女姿の死神に手を出してはいけないと。
「ほう、魔王を倒しに行くというのは本当か?」
「はい」
「お主達名は何という?」
私達はそれぞれの名前を話した。
「ほう。みゆきとやら。お主には秘めたる力を持っておるがその力で魔王を倒しに行くと言うのか?」
「はい。そうです。魔王を倒したらキャリアスにとらわれているお母さんを助けに行くつもりです」
「ほう。ホーリープロフェットとイービルプロフェットの使いともあろう者があのような連中に苦戦しているとはな、だがこの我には関係はないがな」
そこでみゆきが「お願いします。死神様、この森から出して貰ってはいけないでしょうか?そうしないとお母さんがキャリアスに殺されてしまう」
「お主は魔王の事よりもお母さんの事を思っておるのじゃな」
「その通りです」
と正直にみゆきは答えた。
「そこの貴之とやらも同じ目的みたいだな」
「はい。死神様。どうかこの森から出してはいただけませんか?」
貴之もこの死神の恐ろしさをイービルプロフェットで悟ったらしい。この死神様は魔王やキャリアスとは比にならないほどの力の持ち主だ。逆らったらただでは済まないだろう。
「ふむ。どうしようか?ならば我にその力を見せつけて見せよ」
「そんなあ、死神様と戦う事になるなんて」
キリがうろたえながら言う。
嫌な予感はしていたが、この死神と戦うことになるなんて、みゆきはホーリープロフェットの力を存分に発揮させ白き炎を死神に喰らわせた。
「白きホーリープロフェットの炎の力よ、我に従え」
「邪悪なるイービルプロフェットの漆黒の炎よ、その死神を消し去れ」
みゆきと貴之のダブルコンボで死神だろうと容赦はしない。みゆき達の前に立ち塞がる者はたとえ神様であっても容赦はしないと思っている。だからここで死神を倒して魔王のいる廃村に向かうのだ。
すると死神は這いつくばっている。みゆきと貴之の力が通じたのだろうか?だが死神は顔を上げてニヤリと笑みを浮かべた。
「なかなか面白い攻撃をしてくれるではないか!だがこの程度の力ではキャリアスは倒せても魔王を倒すことは出来ぬぞ」
みゆきはもう終わったと思った。みゆきと貴之の攻撃が効かないなんて。ここでみゆきと貴之とキリは殺されてしまうのだろうか。だったら死ぬ前にせめてこの死神にぎゃふんと言わせるほどの力を喰らわせてやろうと思い、みゆきと貴之は頷き合い。すべての力を放出した。
「はああああああああ」
とみゆきは力を高めた。貴之も貴之で力を蓄えている。
みゆきと貴之はそれぞれ片手にそれぞれの水晶玉を乗せて叫んだ。
「出し尽くすが良い。我に汝の力を」
みゆきと貴之は手を取り合ってホーリープロフェットとイーブルプロフェットの力を全解放した。
それを死神にみゆきと貴之は最大限の力を互いに出し合って倒すつもりであった。これなら死神だろうとも敵では無い。私達のダブルコンボを最大限に喰らったらひとたまりも無いだろう。
死神は倒れている。だがそれは演技であり、死神は余裕そうな顔をしてみゆき達に顔を上げた。
「ふむ、これなら魔王に勝つことは出来るであろう。じゃが我を汝達は敵に回してしまったことを後悔するだろう」
そこでキリが「私達は死神様を敵に何て回すなんてそんな無礼な事はいたしません。先に死神様がみゆきさんと貴之さんに力を出し尽くせと申したのは死神様ではないですか」
「それもそうじゃのう。我は死神じゃ魔王をも超える力を持つ死神じゃ」
そこでみゆきが「じゃあ、死神様みゆき達に力を貸してください。みゆき達は魔王を倒してキャリアスからお母さんを助けに行かなければならないのですだから」情けないがみゆきは泣き落としに入った。
「魔王はエルフ達の恐怖心を力にして蓄えておる。そんな奴を野放しにしておくのはいささか良くないと思っておる。じゃから、お主達なら魔王を倒すことが出来るだろう。よしお主達気に入ったぞ、お主達が魔王を倒してキャリアスからみゆきと貴之とやらの母親を助けに行くが良い」
どうやらみゆき達は助かったみたいだ。キャリアス以上の力を持つ魔王、それにその上を行く死神の力は何なのか?みゆき達が知ったところで、何も分からないだろう。
そんな時である。森の西の方から光りが見えてきた。すると死神は倒れ伏してしまった。
「死神様が倒れるなんていったいどういう事なの?」
キリは不思議がっている。みゆき達の力が死神に通じたのか。すると死神は「実を言うとこの二年間ろくな物を食べてはおらぬのじゃ、森から出してやる代わりに我に供えを持ってきてはくれぬか」そんな死神を見てみゆきとキリは大笑いをしてしまった。
「何を笑っておる。我に何か供えをよこさぬか。出ないとこの森から出さぬぞ」
仕方が無い森にはクコの実やアケビや木イチゴなんて物がなっているそれを三人で集めて死神様にお供えをした。
死神様に与えると死神様は必死にみゆき達が集めたクコの実やアケビなどをたらふく食べている。
「こんな馳走を食べたのは何年ぶりじゃろう」
ずっと森の中で人を迷わせていたのだろう。いったいどういうつもりで人を迷わせたのだろう。
「人を迷わせたのは我に供えを献上するために決まっておるじゃろう」
と死神はみゆきの心を読んだ。
「死神様みゆき達は魔王に勝てると言っていましたがそれは本当なのですか?」
「それはお主達次第じゃのう。お主達なら魔王を倒せるかもしれぬ。我が代わりに魔王を倒してやっても良いがそれはちょっと面倒くさい。じゃからみゆきとやらと貴之とやらの力を合わせれば魔王をやっつける事など造作も無い。それにこの森に入ってくる者は最近減ったのでな、だからお主達が迷わせて我に馳走を献上するように仕向けた。誠にすまぬ事をしたと思っておる」
何て陰湿な死神なんだと言うと死神はキッとみゆきの目を見て「お主我に無礼な事を言ったな」
ここは謝るしかないと思って「ごめんなさい。許してください」
「悪いと思っておるならそれで良い。我は寛大じゃ」
本当に寛大なんだなとみゆきは本当にそう思うしか無かった。死神様の前では無礼な事を言うと心の声を聞かれてしまう。
「ふむ。もう満足じゃ。これで二年分の食料を食べたことになる」
それだけで二年分の食料を食べたことになるのか?
「なるぞ。こう見えても我は小食なのじゃ。また数年経ったら誰かを迷わせて馳走を献上させようと思っておる。それに魔王には気をつけるのじゃぞ。エルフ達から得た恐怖心の力は甚大に膨れ上がっている。じゃが、今のお主達なら倒せるかもしれぬ」
「本当なんですか?」
みゆきは少し疑ってしまった。
「この死神のリリンをここまで追い詰めたのはお主らが初めてじゃ。お主達ならきっと魔王に勝てるぞ」
何だか希望が見えてきた感じがしてきた。みゆきと貴之の力を合わせれば魔王とキャリアスなんて敵では無いのかもしれない。
しかし今日の所は死神様もいることだし、ここで寝泊まりしようと考えた。
キリは背中に背負った木材を組み立ててコテージを建てた。
「みゆき様貴之様それに死神様もしよろしければこの中でお休みください」
「キリとか言ったなお主気が利くのう。お主達の事に免じて魔王を倒しに加勢したいところじゃが我はこの森の管轄に入っている。だからお主達とは共には出来ぬし、それに面倒じゃ。じゃからお主達の力で魔王を倒すためにお主達に少しだけパワーをくれてやろう」
そう言って死神様のリリン様は私達に黄色い光りを放った。それを浴びるとすさまじい力がみなぎってくるような感じがする。
「凄い何この力。これなら本当に魔王を倒すことが出来るかもしれない」
「じゃが油断は禁物じゃぞ。お主達はもう魔王の力を超えてしまっている。もしかしたら我の力も超えてしまっておるかもしれぬが奴らは非道な奴らじゃ。じゃからお主達も非道になれ、さすれば、お主達は魔王に勝てる」
「非道って?」
「心を鬼にするのじゃ。どんなことがあってもお主達は心を鬼にして立ち向かえさすれば奴らに勝てるじゃろう」
「心を鬼にするのか」
「もしキャリアスがお主達の母親を殺そうとしたとき、非道になり、母親もろうとも殺してしまえば良いのじゃ」
「そんな事は出来ませんよ。みゆき達の目的は魔王を倒してキャリアスからみゆき達のお母さんを助けるためにここまで来たんですから」
「出なければお主達、魔王はおろかキャリアスに殺されてしまうかもしれぬぞ」
「そんなあ」
そこで貴之が「とにかく僕達は死神様に力をいただいたんだ。その力に賭けて今日の所は眠ろう」




