恐怖の魔王
マブーの目がここまで届いていないなら、ここは安全だ。それに貴之も無事だしみゆきも無事だ。
「エルフのキリさんありがとう。みゆきと貴之を助けてくれて」
「お礼なら村のみんなに言って」
貴之はおにぎりを食べ終えて、キリはみゆきの分のおにぎりをくれた。
「ありがとうキリ、わざわざおにぎりまで作ってくれて」
「困った時はお互い様、それよりもあなた達この冥界に何をしに来たの?」
「みゆき達はキャリアスからお母さんを助けに来たの」
するとキリは驚いて、「キャリアスから?あなた達この冥界の魔王の幹部のキャリアスを相手に戦おうとしているの?」
「魔王って、キャリアスは魔王の幹部なの?キャリアスはみゆき達の人間界でみゆき達にカタストロフィーインパクトを世界に衝突させてみゆき達人間達を殺そうとした人物よ。でもみゆき達がそれを食い止めたわ」
「あのキャリアス相手にあなた達は戦ったのね!凄いわ。もしかしたらあなた達なら魔王を倒すことが出来るかもしれない」
何やら話が面倒な事になってきたことがみゆきには分かった。貴之も視線でちょっとお喋りが多い、じゃないかと言うような顔をしている。
「ええっと、みゆき達はキャリアスを倒しに来ただけ、だから・・・」
そこでみゆきは考える。みゆき達を助けてくれたのは、このエルフのキリ達だ。その恩に報いるために人肌脱いだ方が良いじゃないかと思ってみゆきは。
「その魔王って強いの?」
「強いなんて物じゃないわ。私達エルフが束にかかっても勝てない相手よ、それに魔王は神よりも強い力を持つ強者よ」
何てことだ。助けてくれてみゆき達はお母さんを助けるついでに魔王を倒しちゃおうと思ったけれど、そうは問屋は下ろさないようだ。神よりも強いってどんなだよ!だったらキャリアスだけ倒して魔王はシカトして、とっととお母さんを連れて帰っていった方が良いんじゃないかな。
でもみゆき達オオカミ達から助けて貰ったし。
そんな時である。
「オルトロスだ」
と男の人の声が聞こえてきた。
「オルトロス!」
キリは深刻そうな顔をしている。
「オルトロスって!?」
「オルトロスって魔獣よ。最強の魔獣と呼ばれる物よ」
みゆきと貴之とキリは外に出ると、青白い体に顔に白い毛をふさふさと生やしている。それに人間の五倍はあるだろうかとてつもなくでかく凄く強そうだ。オオカミとは比にならない。
「ガルルルルルルルル」
と咆哮している。みゆきと貴之は休んでおにぎりも食べて魔力は回復している。村人はオルトロスに弓を放っているがオルトロスには効いていないみたいだ。
「この村はもうダメだ」
「この村を捨てて、逃げよう」
「なぜこんな所にオルトロスが?」
村人のエルフ達はオルトロスの前では無力みたいだ。
このオルトロス、みゆきと貴之となら戦うことは出来る。みゆきと貴之はオルトロスの前に立ち戦う体制に入った。
「ガルルルルルルルル」
とオルトロスは咆哮している。その声だけで圧倒されそうだが、みゆきと貴之の敵では無い。オルトロスは咆哮しながら炎を吐いてくる。だが貴之のイービルプロフェットで炎を防いでいる。
「この程度の敵なら僕達の敵では無いよ」
オルトロスは炎が効かないならみゆき達の方へ突進してきた。
「イービルプロフェットよ、漆黒の炎になれ」
貴之は漆黒の炎を放出して、オルトロスに与えた。
オルトロスも負けずと炎を吐いてくるがイービルプロフェットの炎は普通の炎では無い。オルトロスが吐くような炎では熱の温度が違いすぎる。これなら貴之一人でも大丈夫だろう。貴之はイービルプロフェットの炎でオルトロスを焼き尽くす。
「焼き尽くせ!!!イービルプロフェットよ!!!」
「グギャアアアアアア!!!」
とオルトロスは慟哭してイービルプロフェットの炎に包まれて消えて無くなった。
「あのオルトロスをあのように、簡単に!」
「あの方達は俺達の救世主様だ」
「あのオルトロスをこうも簡単に倒すなんて」
「俺達は救われたのだ」
そう歓声を上げるエルフ達、そしてキリが私達の元にやってきた。
「凄いよ。みゆきさんに貴之さん。あなた達をオオカミから助けて良かったよ」
これで借りは返したことにならないだろうか。みゆき達はキャリアスからお母さんを助けに来ただけだとキリに言っておきたい。それに貴之の方はイービルプロフェットを使って少し疲れ気味だ。
「悪いキリ、少し貴之を休ませてくれないか」
「じゃあ、これを」
すると透明な瓶を私に渡してきた。
「何これ!?」
「それを貴之さんに飲ませてあげてください」
貴之は騙されたと思ってその瓶の水みたいな物を飲み干した。するとみゆきには気がついたが貴之のイービルプロフェットが強まった気がした。
「これは!!」
貴之が言う。
「それはポーションです」
「ポーション!?」
「ええ、これはこの村の大切な物です」
「そんな大切な物をくれるなんて」
「何だ、これは力が以前より増してくる感じがするぞ」
貴之が両手を広げて言う。
あれほどの力を使ったのだから、イービルプロフェットの力が増したのだとみゆきは思った。つまりゲームで言うレベルアップだと言うのだろうか?そう言えば、以前カタストロフィーインパクトを防ぐために互いに力を放出し合っただけの事はある。あの時以来お互いに力を増したのだと思った。
ここでみゆきは考え、その考えをキリに言う。
「キリさん。この件でオオカミに襲われて助けて貰った事はチャラにしてくれないかな?」
「別に良いですけれど、あなた達は魔王を倒しに行くのですか?」
「そう。その魔王と言うのは聞いた話ではみゆき達には太刀打ち出来ないと思います」
「そんなあ」
そんながっかりとした姿をされているのを見ていると何か、ほおっておけないと思っている。やはり魔王を倒した方が良いのだろうか。きっと魔王と言うのは先ほどのオルトロスとは比にいなるもの。みゆき達の目的はキャリアスからお母さんを助け出すこと。
「とにかくキリさん、みゆき達はキャリアスからお母さんを助けるために」
「もう・・・もう・・・魔王の・・・軍団に・・私達の・・・仲間が・・・殺されるのは・・・嫌よ。・・・私の・・・父と母は・・・魔王の・・・軍団に・・殺された」
泣きながらキリさんは私達に訴えてくる。
そんな、泣き落としなんて卑怯だ。でもキリは仲間達に魔王の軍団に殺されていると聞いている。でもみゆき達の目的はお母さんをキャリアスから助け出すこと。その事には変わりは無い。
「お願い。みゆきさん。魔王を倒しに行ってくれませんか?」
みゆきに泣きついてくるキリ。
そこで貴之が「キリさんだっけ、僕達の目的はキャリアスを倒してお母さんを助けに行くことなのだ。だから・・・」
それから村人達が集まって来た。
「貴之様、みゆき様、どうか私達をお救いください」
「あのオルトロスを一撃で倒すあなた達にしか頼めないことなのです」
「私達に本物の平和をもたらしてください」
みゆきは貴之の目を見てどうする?と言うような視線を送った。するとどうにもならないと言うような感じで貴之はその目を閉じた。
「みゆき達は神をも超えるほどの魔王を倒す事は出来ませんし、それにみゆき達の目的はキャリアスからお母さんを救いに行くことです」
それでも懇願してくるエルフの村人達。
でも村人達にみゆき達は一度助けられている。もしあの時みゆき達を助けて貰えなかったらオオカミ達の餌食になっていたかもしれない。
みゆきはポケットからお母さんから貰った精霊石を手にどうすれば良いのか心の中で尋ねて見た。するとお母さんはカタストロフィーインパクトを防いだあなた達なら魔王に勝てるかもしれません。だからエルフの村人達を助けに行くことはあなた達で決めなさい。
『でもお母さん。みゆき達の目的はキャリアスからお母さんを助けに行くことだ』
『お母さんなら大丈夫です。エルフもお母さんと同じ命を持っています。だからエルフの皆さんを助けてあげなさい』
お母さんがそう言うなら、みゆきはエルフ達に言った。
「エルフの村人達よ。分かりました。魔王をみゆき達で倒しに行きます」
「おお、それは本当かみゆき様に貴之様」
エルフの長老がみゆき達に言った。長老は小さくて顔がしわしわで凄い無精ひげで頭が禿げている。
「みゆき様」
と言ってキリがみゆきを抱きしめて来た。
「ちょっとお姉ちゃん!」
不服があるのはもちろん貴之であったが、お母さんの事情を話して納得して貰った。
魔王は神をも凌駕する力を持っていると言っている。そんな神にみゆき達は勝てるのか心配であったが、精霊石で言っていたお母さんの言葉を信じて魔王のところに行くしか無い。
その時、空を見上げると、マブーの目は無かった。どうやらみゆき達が魔王を倒そうなどとキャリアスも思っていないだろう。
キャリアスは魔王の幹部だと聞いている。そんな奴にみゆき達は対抗出来るか心配だったが、すぐに倒して早速キャリアスを倒してお母さんを助けに行こう。
「では長老様、その魔王と言うのはどこにいらっしゃるのかしら?」
「この森を抜けた所に廃村がある、そこに魔王はいる。キリ、魔王がいるところまで案内してあげなさい」
「分かりました。荷物係と案内役は私に任せてください」
「これで真の平和が保たれるそれにオンザビットにもいけるようになる」
「オンザビットにいけるようになると言うことはどういう事ですか?」
「我々は死人では無い。オンザビットの人間は死人だ。魔王は死人とエルフを分けたのだ」
「なぜ分けたのです」
「我々エルフの魔力と、オンザビットの文明が進めばいつか魔王は倒されることを恐れているのだろう。それで死人のオンザビットの死人と我々エルフを分けさせたのだ。オンザビットの方の空を見たか?」
「そう言えばマブーの目が見えましたけれども、あれは?」
「あれはキャリアスの部下のマブーの目じゃ。あの目に見つかると我々は少しやっかいになってしまう」
キャリアスは魔王の部下だ。死人の街のオンザビットは天国だと聞いているがいったいどういう事なのか長老に聞いてみる。
「魔王は死人を征服している」
「魔王が死人を征服している?」
「そうじゃ、魔王は死人を征服して我らエルフ達を絶滅の危機に追いやろうとしている。先ほど来たオルトロスは魔王の配下だ。その配下を送り出して我々エルフ達を絶滅させようとしているのだろう。魔王は我々の恐れる力を糧に生きている。我々が恐怖にさらされる度に魔王の魔力は上がっていくのだ。じゃが、魔王も計算外じゃった。お主達のような者がおって力を蓄えることは出来なかっただろう」
なるほど、その為にエルフ達を絶滅させずにエルフ達にオルトロスを送りその恐れるエルフを魔力の糧にしていたのか。何て最低な輩なのだ。私は魔王を許すわけには行かない。絶対に私と貴之の手で倒してみせる。
「じゃあ、長老明日、私キリが貴之様とみゆき様をお連れして、廃村に潜んでいる魔王を討伐しに行きます」
「頼んだぞキリ、魔王を倒せるのはこの二人だけなのだから」
みゆきと貴之は明日に備えるために、長老達に高級な木で作られたコテージに寝ることとなった。
「お姉ちゃん。何だか面倒な事に巻き込まれているような気がするよ」
「確かにそうだけど、その魔王って言う奴何かみゆきの中では許せない感じがするのだよね。村人達の恐怖心を糧に力を蓄えるなんて」
「でも魔王は神をも超える力の持ち主なのでしょ。僕達が勝てるとは限らないよ」
「けれどもお母さんから貰った精霊石から聞こえたのだけれども、みゆき達だったら魔王に勝てると言っていた。そして魔王の野望を食い止めに行こうよ、貴之」
「全く姉ちゃんは自分の身の程を知った方が良いと思うよ」
とため息交じりに貴之が言う。
確かに貴之の言うとおりみゆきは身の程を知った方が良いかもしれない。魔王を倒せばエルフ達は何も怯えずに暮らすことが出来るだろう。それにいっぱい感謝されてみゆきは万々歳だ。
そして貴之は眠りについている。みゆきも眠くなってきた。みゆきも寝ることにしよう。
朝起きてみゆきは夢だと言うことに安心の吐息を吐いた。みゆきはお母さんがキャリアスに殺されてエルフの人達もオンザビットの人々も地獄に落とされて魔王の恐怖の餌にされてみゆきと貴之も殺されて仕舞い、恐ろしい夢を見た。
本当に夢で会って良かったと思っている。もしこれが本当ならみゆき達は死ぬ事なんて甘っちょろい事にさらされていた。
そして準備が整って、私と貴之は魔王を倒しにそして付き人にキリが荷物係としてついて行くことになった。
行く前に長老は言う。
「キリ、みゆき様と貴之様を頼んだぞ、そしてみゆき様貴之様どうか我々に平和を」
「任せて」
とみゆきは言った。




