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冥界の恐ろしさ

 冥界に入るとみゆきの水晶玉で魑魅魍魎達がうごめいている。だがみゆきのホーリープロフェットの力を駆使すればそんな奴は敵では無かった。本当はこの魑魅魍魎達も以前は人間だった。でも今は冥界で魑魅魍魎として生きている。


「うおおおーこの光。これが安らぎと言う物なのか?」


「この聖なる光を我らに」


 みゆきのホーリープロフェットの光を浴びて魑魅魍魎達は浄化されていく。

 そんな魑魅魍魎達を浄化しながら冥界の奥へと続く道を進んでいくと、眩しい明かりが見えてきた。


 ここにも太陽の光が差し込んでいる。そして景色を見渡すと、みゆき達は洞窟から出て、とある街が見渡せた。街を洞窟から出た丘から見渡してみると、中世ヨーロッパ風の町並みであった。


「凄い。冥界にこんな所があるなんて」


 すると精霊石からお母さんの声が聞こえる。


『あなた達町の人に人間界から来た者だと言うことは伏せておきなさい。出ないと大変な事になるわ』


「分かった。お母さん」


 そこでみゆきは貴之の目を見て、互いに頷き合い、気を引き締める。とりあえずみゆきと貴之は冥界に存在している街へと向かっていった。山をくだり、森の中へと進んでいく。ウサギや小鳥たちを見ることが出来た。


 何かここは良い場所だと思ってテンションが上がってくるがみゆき達の目的はお母さんを探しに行くことだ。その為にはホーリープロフェットとイービルプロフェットを駆使してお母さんの居場所を特定しなければならない。


 そんな森を歩いて街へと行こうとすると一台の馬車が後ろから来た。みゆき達は驚いてとりあえず、馬車の妨げにならないように道を空けた。すると御者が馬車を止めてみゆき達のことを見た。


「お嬢ちゃん達、街に行くのかね?」


「は、はいそうですが」


 その御者は冥界の者とは思えぬほどの整った人間の形をしている。


「お嬢ちゃん達、最近人間界から死んでここまで来たのかね?」


 そう言えばお母さんは言っていた。みゆき達は人間界から来たことを言っちゃダメだと。でも人間界で死んだことにすれば、それを回避することは簡単なはずだ。


「そうです。みゆき達姉弟で交通事故に遭って死んでしまったのです」


 と嘘を言って置いた。


「なるほど、ここは良いところだ。死者の世界で天国と言うところだよ。あの街の名前はオンザビットって言う中世ヨーロッパ風に作られたまさに天国のような街だ」


「へーそうなのですか。みゆき達は気がついたらここに姉弟の貴之と一緒にここをさまよっていたのですよ」


「どうやら君達も良い子そうな人間達だな。ここからオンザビットまで俺の馬車で連れて行ってやるよ」


「良いのですか?」


 すると貴之がみゆきのお尻をつねってきた。


「痛い。ちょっと何よ!」


 とおじさんに聞こえないように言う。


「オンザビットって聞いたことがある。ここで言うおじさんの言うとおり、天国のような場所だ。そんな天界の人とあまり親しくしちゃまずいよ」


 確かに貴之の言うとおりだ。精霊石を通じてお母さんは言っていた。絶対に人間界から来た人間だと言うことは絶対に避けなければいけないと。だからみゆきは。


「おじさん。悪いけれど、遠慮させて貰うことにしたよ。みゆき達は歩いてオンザビットに行くつもりだから」


「そうか、そりゃ残念だ。でも日が暮れないうちにオンザビットに行くのだぞ。ここは夜になるとオオカミが出るからな」


「分かりました気をつけます」


「じゃあな」


 そう言っておじさんは馬に鞭を打って馬車を走らせて去って行った。みゆきと貴之は馬車を見送りみゆきは貴之に怒られてしまった。


「お姉ちゃんは軽率すぎるよ!」


「ゴメンね」


「とにかくオンザビットでは人とあまり関わらない方が良いと僕は思うよ」


「確かにそうだね」


「それにオンザビットにはお母さんの気配は全く感じられない」


 確かにそうだった。オンザビットにはお母さんの気配は感じられなかった。そこでみゆきはホーリープロフェットの力でオンザビットにお母さんはいるのか確かめたところいなかった。


 それに今気がついたがオンザビットにはあのマブーの目が存在していることに気がついた。貴之の言うとおりだ。みゆきは甘い言葉に弱いし、オンザビットでみゆき達にマブーを使ってキャリアスは監視している。


 マブーに見つかるとキャリアスはみゆき達が人間界から来た者だと、オンザビットの連中に通告するつもりらしい。


 仕方が無い、ここの森は、夜中になるとオオカミ達に襲われてしまうと言われた。でもオンザビットに行けば、マブーの目で見つかって、オンザビットの連中にキャリアスはチクリ、みゆき達は冥界からお母さんを連れて帰れなくなってしまう。


 森の中まではマブーの目は届いていない。オンザビットの空を見つめると相変わらずに気色の悪い目が漂っている。仕方が無い。それにお母さんの気配だが、オンザビットを抜けた地獄のような街にいると言っている。仕方が無い。森でオンザビットを迂回して避けていくしか無い。


 だが日は暮れていく、夜になるとオオカミ達がみゆき達を襲いに来るかもしれない。でもみゆきと貴之にはそれぞれホーリープロフェットとイービルプロフェットがある。だから大丈夫。


 そして日は暮れて森はまるで魔女か物の怪でも住んでいそうな闇の中をさまようことになってしまった。


『ウオーン!!』


 とオオカミの鳴く声がしたがこの近くにオオカミがいるかもしれない。だが、みゆき達はとりあえず森で野宿することになった。野宿って何年ぶりだろう。それにお腹がすいてきた。ホーリープロフェットで食べるものを森に無いか予言してみるとあったのはあったが、キノコや木の実やそのような物ばかりであった。でもお腹を満たすことは出来たのでそれはそれで良いとする。


 イービルプロフェットで漆黒の炎を出して、それをみゆき達が集めた枝につけて燃やした。真っ暗な森の中は凄く冷える。今日はホーリープロフェットを何回も使っているので凄く疲れている。みゆきは自分の腕を枕にして、イービルプロフェットの炎に当たりながら眠りについた。


 みゆきが目を覚ますと、貴之が一人でオオカミ達と戦っていた。


「貴之、どういう事」


「どうやら、さっきの御者の言うとおり、この辺にはオオカミが潜んでいるみたいだ。お姉ちゃんも手伝って」


 みゆきはホーリープロフェットで純白の炎でオオカミたちを焼き尽くした。だがオオカミ達はきりが無く出てくる。


「貴之、ここはきりが無い、いったん逃げるよ」


「うん」


 みゆき達はオオカミから逃走した。オオカミは追ってくるがみゆき達の特殊能力で素早く走れるので逃げる事には成功した。


 本当にオオカミはしつこい動物だ。


「あれは日本オオカミだ。絶滅してこの森に繁殖しているみたいだ」


 そう言えば日本オオカミは絶滅したと聞いている。絶滅させたのは人間達のエゴだろう。


 それよりも私達には休んでいる暇など無いのかもしれない。まだまだ森は続く、そして洞窟を見つけた。


「貴之、みゆきは疲れているから一日は休みたいのよね。あの洞窟で休むことが出来るか予言してみるね」


「姉ちゃん・・・」


 みゆきはあの洞窟の中が安全かどうか確かめるために予言した。すると大丈夫みたいだ。


「貴之、あの洞窟なら大丈夫だって、あの中に入って再び朝までオオカミ達が来ない間にあそこで休みましょう」


 洞窟の中に入ると、本当に何も無くそれに安全だが、何か寒い、ホーリープロフェットの光りを照らしてみると、何者かがこの洞窟に入り、その焼け跡が残っている。その焼け跡にイービルプロフェットを使って火をつけた。


「暖かい。これなら誰にも邪魔されずに眠れるかもしれない」


「姉ちゃん。暢気に眠っている場合じゃ無いかもしれないよ、もしかしたらここに何者かが入ってくるかもしれないよ」


「そうね。とりあえず。後六時間は眠っていたいわ。それまで大丈夫か、ホーリープロフェットで予言してあげる」


 予言してみると後四時間で熊の親子がここに戻って来るみたいだ。だからここは安全じゃ無いことが分かり、みゆきと貴之は洞窟から出てどこか眠れる場所は無いか探してみた。


 洞窟の外に出るとオオカミ達にみゆきと貴之は囲まれてしまった。


「くっ、またホーリープロフェットとイービルプロフェットで戦うしか無いみたいだね。みゆき達を街に入れないのはこれがキャリアスの狙いなのかもしれないね」


「そんな事を言っている場合じゃ無いよ。このオオカミ達はどうしても俺達を食い殺そうとしている」


『ガルルルルルッ』


 とオオカミ達は涎を垂らしてみゆき達を食い殺すつもりらしい。でもみゆき達はもう限界かもしれない。


 今日はもうホーリープロフェットの魔力を使い果たしてしまった。魔力を取り戻すには少しでも言い仮眠を取れば大丈夫だけど、オオカミ達はそんな余裕を与えてはくれないだろう。

 でもほんの僅かだが魔力は残っている。この魔力を使って逃げることだけは出来る。それに貴之も先ほど戦ったので魔力が激減している。でも貴之も僅かながら魔力が残っている。


「貴之、みゆき達の力はほとんど残っていないけれど、このオオカミ達からは逃げられる能力は残してあるよね」


「ああ、いざって時にね」


「逃げるよ。貴之」


 みゆきと貴之は僅かながらの力を振り絞って逃げた。でもオオカミ達に殺されてしまうかもしれない。みゆきと貴之はオオカミ達に食い殺されてしまうかもしれない。僅かながらの力はオオカミ達に追いつかれて食い殺されてしまう。


 そんな時である。みゆきは腕をオオカミに噛みつかれてしまった。


「キャア」


 凄く痛くて思わず悲鳴をあげてしまった。もはやここまでか・・・!?


 そんな時である。雨のような弓の矢がオオカミ達を狙って、オオカミ達は次々と矢に刺されて、撃退していく。誰かがみゆき達を助けてくれたのか!?



 もしかしてお母さんが助けてくれたのか?


「そうよ。みゆき、良くここまで来られたものね」


 みゆきの頭をその暖かい手でなでてくれた。


「お母さん。どこに行くの?」


「みゆき」


 お母さんは微笑んで真っ暗な闇の中へと去って行く。


「行かないで、お母さん」


 そしてお母さんは闇の中に包まれて、キャリアスが私の目の前に現れた。



「キャリアス、お前だけは許さない」


 そう叫びながら、みゆきは目覚めた。


「夢!?」


 そう言って辺りを見渡してみると、暖かいふわふわとした布で出来た布団の中に眠っていたみたいで、壁は藁で出来た感じでそれに丸い筒の中に弓の矢がたくさん入っていて、弓や兜や鎧や剣などが飾られていて、この住処の中央に鍋がぶら下げられて、今何かを作っているのか?鍋に火がともされている。


「ここはどこ?」


「目覚めたみたいだね」


 後ろから声が聞こえて振り向いてみると、みゆきよりも少し大人の女性がみゆきを見下ろしている。それに妙だ。耳が尖っていて、服は赤でシャツに下はパンツが見えそうな短いスカートをはいている。


「あなたは誰?」


「私はキリ、あなた達がオオカミに襲われて殺されそうになったところを助けてあげたのだ」


「それはありがとう」


 みゆきが手を使って立ち上がろうとすると、いつしかオオカミにかまれた痛みが走った。

みゆきは「痛い」と叫ぶと耳のとがったキリが「大丈夫。あまり無理しない方が良いと思うのだけれども」


 みゆきが噛まれた腕をキリは瓶のような物を持ち出して、中から液体みたいなのが出てきて、キリは「ちょっとしみるけれどもすぐ治るから大丈夫だよ」と言ってみゆきの傷口に液体を流した。絶叫するくらい痛いが、みゆきはこらえて、目を思い切り閉じた。


「偉いよ。よく我慢できたね」


 とみゆきを子供扱いするキリ。それもそうだろう。みゆきよりも少し大人な感じがしたのだから。


「君達、人間界から来た者でしょ」


 そうだった。人間界から来たことを人に言ってはいけないのだった。だからみゆきは黙ってごまかすのを考えていた。


「大丈夫だよ。オンザビットの人達にばれたら大変な事になるけれど、僕達は最初から冥界のエルフだから」


「エルフ?あなたってエルフだったの?」


「そうエルフ。君達がオオカミに食べられそうになったところを助けてあげたのだよ。感謝して貰おうか」


「ありがとうキリ。それよりもみゆきの連れなのだけれども、貴之って子はどこにいるの」


「ああ、君のボーイフレンドだったら、違う家で預からせて貰っているよ」


「どこにいるの?」


「あそこのテントだよ」


 キリはみゆきが眠っていた隣のテントを指さした。


 みゆきはテントから恐る恐る空を見た。マブーの目がここまで見られていないか確かめるためだ。


 どうやらマブーには見られていないみたいだ。キリが言う貴之がいる藁の住処に行くと、貴之は暢気にもおにぎりを食べていた。


「貴之、無事だったのね」


「お姉ちゃんこそ」


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