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『ありがとう』と言う甘美な言葉に酔いしれて

 引きこもりの人は案外優しい人が多いってメグさんは言っていた。自殺をするのも親に迷惑はかけたくないからとか、そう言った些細な理由で死んでしまうことを望んでしまう。メグさんは言っている。自殺なんてしたら、神様が悲しむと、そして自分自身についている内神様が悲しむし、それに一番悲しむのはその子の親族やそしてメグさんが悲しむと言っている。


 だからメグさんはあの時、名前は忘れたが、その人の名前を占ってと一生のお願いだと言わんばかりにみゆきに言ってきたんだっけ。それでメグさんの身体能力でその子はビルから飛び降りようとしたところを、メグさんは必死になって止めたんだよな。あの時メグさんに凄いお礼をされた事を覚えている。本当に危機一髪だった。


 本当にメグさんの人柄はいい人そのものだと思っている。人助けをしたい気持ちはみゆきにも分かった気がする。分からないのは自分の身を削ってまで人助けをするところが分からない。キラリちゃんに聞いたところここの施設の借金は相当な額までいっていると聞いている。


 でもメグさんのお願いならみゆきは何でもとは言わないが、できる限りの事はしてあげたいと思っている。


 色々と考えている内にもう新しい夜明けが誕生している。みゆきはいつの間にか眠ってしまったのか?ドアを開けると、台所から良い匂いがしてきた。メグさんの手料理だなと一発で分かってしまう。食事は当番制でやっていて、今日はメグさんが作る日となっている。メニューは何だろうと思って台所に向かうと、パンの縁にマヨネーズをかけ、その真ん中に目玉焼きをのせた物だった。


 これはおいしくてみゆきもメグさんの真似をして作ろうとしたが見事に失敗してしまった奴だ。本当にメグさんは料理上手だ。料理のお店でも出したら良いんじゃないかと思うくらいだ。これを朝食にみゆき達十三人の施設の子達と『いただきます』と言って食べるのだ。


 メグさんが朝食を食べ終わると部屋を出て行ってしまって、こっそりとついて行くと気配で察知され「何をしているの?みゆきちゃんは学校でしょ。今日も今まで送れた分、身につけてくるのよ」と言われてみゆきは「はい」と返事をした。


 いつも学校に行く時、みゆきとキラリちゃんと武士君で学校に向かうのだった。そろそろみゆきも小学校五年生の学力が身についてきた。これはキラリちゃんのおかげかな。学校では普通に勉強して、新しくなった先生である篠原先生は良い先生だった。みゆきやキラリちゃんの事を気にかけてくれている。


 施設に帰ると、みゆきは宿題を済ませてメグさんの所に行く。


「メグさん。みゆきに力になれることはないかな!?」


 メグさんはみゆきの恩人だ。みゆきはそんなメグさんに恩返しのつもりで予言を駆使するホーリープロフェットを行使する。


「じゃあ、早速だけどみゆきちゃん」メグさんがみゆきの手に触れる。するとみゆきの頭の中に助けて欲しいと思われる女の子が浮かび上がった。みゆきとメグさんは頭の中で会話をしている。話すより、メグさんのメモリーブラッドで会話をした方が楽に決まっているし、それにとにかく分かりやすい。みゆきにもメグさんの力によって人間の手に触れるだけで相手の心が分かるメモリーブラッドが使えるようになったのだ。


 よし、メグさんが言っていたことが分かった。とにかくメグさんの力によると明子ちゃんという引きこもりの女の子が行方不明になって三日になっているらしい、それをメグさんがパソコンで親に依頼があって明子ちゃんを探してくださいとの連絡が入ったらしい。でも明子ちゃんはどこにいるのか分からない。だからこのホーリープロフェットの出番と言うわけだ。


 みゆきは未来を予言できるホーリープロフェットの使いだ。その明子ちゃんの事をホーリープロフェットで見てみると、明子ちゃんは河川敷をまたがる水門橋から飛び降りて死のうとしている。絶対に阻止しなくてはいけないとみゆきは思う。


 後一時間みゆきは水門橋に向かって、地平線を走っている。みゆきはこのままじゃあ間に合わないと思って、ホーリープロフェットを発動させ、目にも映らない早さで水門橋へと行く。


 そして水門橋に到着すると一人の女の子が水門橋の手すりを跨がろうとしている。


「ねえ、明子ちゃん」


「っひぃ!!」


 みゆきに名前を呼ばれて驚いている明子ちゃん。


「明子ちゃんは何をしているのかな?」


「関係ないでしょ。あたしより年下の癖にあなたにあたしの気持ちなんて分からないわよ」


「そうだよね。お互い初めて出会ったんだからお互いの事情を知るところから初めてみゆきと友達になりましょう」


 みゆきはメグさんをイメージして笑った。すると明子ちゃんの顔が次第に明るみを帯びていく。


 みゆきは明子ちゃんの手を取り明子ちゃんの事情を知ることが出来た。明子ちゃんは学校でいじめられているらしい。それで真の理解者であった。その先生もグルであった事に辛い気持ちを抱えてこの水門橋から飛び降りようしたらしい。いじめか、みゆきもその気持ちは分かった。だから明子ちゃんの目を見て話を聞いてあげた。話は聞く必要はないのだが、メモリーブラッドの事は秘密にしておくことと言うメグさんとの暗黙の了解だった。


 明子ちゃんはみゆきが知っている事情を聞いてあげている。こうして明子ちゃんのように思いが大きくなってしまったら、言って欲しいと思っている。明子ちゃんはずっと我慢してきたんだ。それに思いが大きすぎたら誰かにその事を話すという事も知らない。明子ちゃんは中学生でみゆきよりも二つ違うが、みゆきには明子ちゃんをどうすることも出来ないと思っている。でも話を聞くことは出来る。今のみゆきにはそれぐらいの事しか出来ない。でもメグさんはそれだけでも助かると言ってくれる。


 話しも聞いてあげたら、明子ちゃんが水門橋から自殺する予言はなくなっていた。そうだよね、話を聞いてあげることだけは出来るんだ。後はメグさんが明子ちゃんの母親にどのようにメールやラインでエールを送るかが問題になってくる。


 とりあえず明子ちゃんは話して気持ちが凄く楽になって小さなつぼみのような笑顔をみゆきに見せてくれて、しかも、みゆきが言われると気持ちよくなる『ありがとう』を言ってくれた。


 今日もメグさんの仕事で「ありがとう」を言われてしまった。ありがとうと言われるとみゆきは本当に心が飛び跳ねるほど嬉しくなってしまう。明子ちゃんがみゆきに『ありがとうありがとう』と笑顔でみゆきに言ってくれた事を頭の中で反芻している。


 さてとみゆきも戻るか、きっとメグさんにもありがとうと言われるかもしれない。その通りで会って、メグさんは明子ちゃんの母親から帰ってきた知らせが来てみゆきにメグさんはありがとうと言ってくれた。みゆき、それはお金にならないほど大きな物だと思っている。


 今日もありがとうと言われて感激していると、みゆきを待っていたのは絵描きのまどかさんだった。まどかさんは気持ちが悪いほどニコニコと笑ってみゆきの方を見ている。


 声をかけずに戻ろうとしたところ、まどかさんに「みゆきちゃん。何で無視するの?」


「またみゆきをモデルにした絵を描こうとしているんですよね。それならお断りです」


「何よ。そんなつれないことを言わないでまどかのお願い聞いて」


 いつもはまどかさんを断るのだがみゆきは実を言うと、まどかさんにお願いを拒否できた事がないのだ。とにかくまどかさんを何とかして欲しい。


 そして散々拝み倒したのに、まどかさんのお願いを聞くことになってしまった。ポーズはその今みゆきが着ている白いワンピースのままで良いから、四つん這いになって欲しいとの事だ。


「そうよ。みゆきちゃん。かわいいよ。出来るなら、その一張羅のワンピースを脱いでみようか」


「そんなこと、出来ませんよ!」


 みゆきは猛反発する。


「冗談よ。でも半分は本気よ」


 まどかさんの目の奥が輝いた。それを見てみゆきはゾッとした。


 とりあえず、まどかさんのモデルは終わった、しかもまどかさんみゆきにバイト代を払ってくれた。その金額は千円だった。


 まどかさんが絵を描くのはピカソよりも素晴らしい絵を描いて、恩人のメグさんに恩返しをしたいからだと言っていた。それにまどかさんは学校から帰ると、コンビニでバイトをして美術大学に行くお金を貯めているらしい。メグさんのメモリーブラッドで分かった事だが、ここにいる十二人の施設の子達はみんなメグさんに感謝している。もちろんみゆきも感謝している。それにまどかさんは強引だけど、みゆきに絵のモデルにさせるために『ありがとう』と言ってくれる。


 ありがとうと言う言葉ってみゆきは大好きだ。その為ならメグさんに無理難題な事を引き受けて貰っても良いと思っている。もしかしたらメグさんもありがとうと言ってくれることを願っているために自分の生活や体を犠牲にしてまでしているのだろうか?そうしたらみゆきにもメグさんの気持ちが分かった気がする。


 さてそろそろみゆきもお風呂に入って眠ろうとしようとしたところ、お風呂に誰か入っている。


「誰か入っているんですか?」


「その声はみゆきちゃん」


 声からするとまどかさんの声だった。まどかさんは女性だが、まどかさんと裸の付き合いをするには抵抗があった。その目で、みゆきの体を焼き付けて描かれてしまうことを考えると凄くゾッとする。


「失礼しました」


 と言って脱衣所から出ようとすると、裸のまどかさんが浴室から脱衣所までやってきた。凄いまどかさんの裸大胆。


「ねえ、みゆきちゃん、まどかが背中を流してあげようか?」


「嫌ですよ」


「そんなつれないこと言わないでさあ、裸の付き合いでもしましょうよ。お互い女の子同士だから」


 逃げようとしたところ、襟首を捕まれてしまった。これは強制にまどかさんとお風呂に入ることとなってしまう。


「みゆき、ヌードモデルはしませんからね」


 みゆきは何とか逃げることに成功した。


 まどかさんにみゆきの裸を見られることを想像すると凄くゾッとする。みゆきは絶対にヌードモデルだけはしないぞとみゆきは心の中で決めている。でも冷や汗をかいて汗臭い、これはお風呂に入らなければちょっと気持ちが悪い。


 そんな時である。キラリちゃんと武士君が脱衣所の前にやってきた。


「あっ、みゆきちゃん。お風呂に入るの?」


「入りたいんだけど、まどかさんが入っているから」


「げっ、それ分かる気がする。まどかの奴、私とお風呂に入ったとき、ジロジロ私の事を見ていたから」


「えっ!そうなの!?」


「まどかの奴、私達みたいな、小さな女の子の絵を描くことをしているんだよ。以前だって、作品を見せてくれたんだけど、幼女のストリップとか言って、幼女が服を脱いでいる作品を美術館に提出されて採用された事があるんだよ」


「それは凄いけれど、もしかして、キラリちゃんがモデルになったとか!?」


「分からないけれど、みゆきちゃんはスタイルが良いし、それに、まどかがみゆきちゃんのヌードを描きたがる気持ちは分からないけれど、みゆきちゃん、まどかに狙われているよ」


「っひぃ!」


 と思わずみゆきは悲鳴をあげてしまった。


 みゆきはこれからまどかさんには気をつけようと肝に銘じたのであった。


 そして改めてキラリちゃんと武士君と浴室に入ると、誰もいなかったが、もう最後のお風呂だったのでかなり汚れていた。でも汚いお風呂でも汗は流せるし、髪は安物の100円ショップで売っているようなシャンプーだけれども、それだけでもみゆきは満足だ。


 みんなが入った後の汚い浴槽であったが、何か気持ちよかった。今日も色々な事があった。明子ちゃんにありがとうと言われて、まどかさんにモデルを頼まれて、しかも後少しで、みゆきの全裸をまどかさんにさらしてしまうところだった。本当にまどかさんは気持ちが悪い。

 お風呂から出て、みゆきとキラリちゃんと武士君の部屋に入って眠ることにした。とにかく怖い夢を見ませんようにとみゆきは本気で思った。ベットは二段式でみゆきが上で、武士君とキラリちゃんは一緒の布団で眠っている。そこでみゆきは密かに水晶玉を取り出して、お母さんの居場所を探ってみると、お母さんはキャリアスにとらわれていると水晶玉は言っている。『どういう事なの!?』とみゆきは大声で言いそうになったところを、みゆきは心の中で叫んだ。


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