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平和な時でも、課題は残っている

 貴之が黒いビー玉サイズの水晶を受け取ると、貴之は立ち上がり、そのまま去ろうとしたところ、みゆきは「貴之どこに行くの?」


「分からない。僕は君達にひどいことを散々してきてしまった。今更謝っても仕方がないと思っている」


「でも。お前、どこか行く当てがあるのか!?」


 そこでメグさんが、「貴之君だっけ、私の施設で一緒に暮らさない?」


 貴之はメグさんの誘いにその首を左右に振って、拒否した。


 みゆきが「貴之、メグさんの誘いに乗りなよ、あんた行く当てもないでしょ」


「ないから良いのさ。これからはこの力で僕は生きていくつもりだから」


「お前、またキャリアスにたぶらかされたりはしないか?」


「僕はもう大丈夫。そろそろいかなくちゃ」


 貴之はそう言ってアラタトから出て行った。あのリリィが開発した。銀色のボールは地上に戻るときにも使えるらしい。みゆきは正直貴之の事が心配だった。


 そしてリリィがこちらにやってくる。みゆきはそんなリリィを見て、涙がこぼれ落ちそうになり、リリィを抱きしめた。


「リリィ、良かった。無事だったんだね」


「リリィ、不思議な事に、生きている」


 まだリリィは自分が生きている事を自覚していないみたいだった。


「お母さんに感謝しなきゃな」


「リリィ、みゆきのお母さんに助けて貰った」


「そうだよ。リリィはみゆきのお母さんに蘇らせてくれたんだよ。リリィはどうする?」


「どうするって何が?」


「地上に戻るのか?それともここのアラタト人達と暮らすのか?」


 リリィは切なそうな顔をして、にっこりと笑って「リリィはここに残る、孝によろしく言って置いて」


「そうか、このアラタトに残るのか?」


「リリィなら大丈夫、リリィが地上に戻ったら孝に迷惑をかけてしまう」


「そんな事はないと思うよ。孝君はリリィがいなくなるときっと寂しがるから」


「でもリリィはアラタトの復興を目指して、行くつもり。だから、リリィ、アラタトに残る」


「そうか、じゃあ、もう二度と会えないのかな?」


「いいや。また会える。いつか孝と結婚しに行く」


 リリィの大胆な発言に心臓が飛び出そうな感じがした。


「リリィ、それは本当か?」


「リリィは地上でもリリィの存在に気づける兵器を作る。だから、そうしたら、孝と結婚を申し出る」


「その事を孝君に伝えておくよ」


「うん。よろしく頼む」


 それとアラタトの長にも一言言って置いた方が良いか考えたところ、別に良いと思って、リリィに銀色の玉を受け取って、みゆき達は地上に去って行った。


 もうアラタトに思い残すことはない。でもあのカタストロフィーインパクトの一部であったキャリアスは地上に戻ったと言う。またみゆき達にキャリアスは仕掛けるかもしれない。


 でもまさかカタストロフィーインパクトを防ぐ力がみゆきと貴之のそれぞれの力が働いていたことに驚いていた。


 それよりもお母さんはどうなったのだろう。お母さんは今どこで何をやっているか気になった。お母さんに会いたいという気持ちはあった。でもみゆきは一人じゃない。みゆきには仲間がいる。お母さんはどこで何をしているのか?この空の続く場所にいるのだろうか?


 でもいつか出会えることがあるかもしれない。そうすればみゆきは幸せを取り戻せるんだけどもな。


 地上に到着すると、あのマブーの目は空にはなかった。でもキャリアスは生きている。今度はどんな手でみゆき達に襲いかかってくるのか分からないがみゆき達、負けはしない。


 みゆき達が帰ると、メグさんは疲れた体に鞭を打つように引きこもりの生徒達にメールでエールを送る作業に移った。メグさんは大変だな。一度死にかけたのに、なぜそこまでしてお金にもならない引きこもりの生徒達にメールでエールを送る仕事をしているのか?今のみゆきには分からなかった。


 聞くと引きこもりの生徒達はそれぞれ家族がいると聞いている。なぜ、引きこもるのか?みゆきには分からなかった。


 そして流霧さんが去ろうとしたところ、「流霧さん」


「なあにお嬢様?」


 相変わらず嫌みったらしい口調で言ってくるから何かしゃくにさわった。とりあえずその気持ちは置いといて「ありがとう」と言って置いた。すると流霧さんは何も言わずに去って行った。


 カタストロフィーインパクトはなくなった。これでみゆき達は平和な日々を満喫できるだろう。でも油断してはいけない。あのカタストロフィーインパクトの一部と言っていたキャリアスは生きている。みゆき達に逆恨みでまた何かをしでかすのかもしれない。


 とりあえずその事は置いとくとして、みゆきがメグさんが経営する施設に戻ると、キラリちゃんや武史君達がみゆきを心配してくれた。


「ねえ、みゆきちゃん。数日間メグさんと何をしていたの?」


 キラリちゃんの質問にどう答えれば良いのかみゆきは考えさせられる。


「ちょっと引きこもりの生徒の巡回をみゆきは任されていただけ」


「どんな巡回だったの?」


 武史君の返答にみゆきは「巡回は巡回だよ」とごまかして置いた。


 そこで現れたのが、孝君、目がリリィはどうした?と言うような言葉を発しているような感じだった。


「みゆき、ちょっと孝君にようがあるから、行くね」


「ちょっとみゆきちゃん」


 キラリちゃんがみゆきを呼び止めようとしたところみゆきは孝君に事情を説明した方が良いだろうと思って誰もいない屋上へと登っていった。


「それでリリィはどうした?」


「アラタトで元気にしているよ」


「そうか」


 そう言って孝君はさみしそうに去ろうとしたところみゆきは「あのね、リリィはアラタトで普通の人間にも見える物を開発してそして地上に戻ったら、リリィは孝君と結婚するって言っていたよ」と言うと孝君は「そうか」と言って去ってしまった。


 リリィの思いは伝えて置いた。後、みゆきは学校の事やら色々やらなくてはいけないことが山ほどある。これが本当の平和なのだなとしみじみ思う。カタストロフィーインパクトがなくなってからが大変な時だと思い知らされる。


 あれから三ヶ月みゆきは五年生だが、今のみゆきの勉学は小学校四年生の程度しかないそれでみゆきはキラリちゃんに勉強を教わっている。本当は勉強が教えるのが上手なメグさんに頼みたいところだがメグさんは大変な日々を送っているためにそれは出来ないだろう。メグさんの手を煩わせてはいけないと思っている。


 でも時々、メグさんから指令が入る。引きこもりの生徒が自殺を考えたときに、どこにいるのかみゆきのホーリープロフェットで占って助けに行った事もあった。だからこの貸しとしてみゆきに勉強を教えるように言った事もあった、とにかくみゆきもメグさんも忙しい毎日を送っている。


 みゆきはいつも以前では学校では笑いものになっていたが、最近ではみゆきを応援する人も増えてきた。それにキラリちゃんの弟分である武士君も強くなり、いじめられる事はなくなっている。


 とにかくみゆきは勉強を頑張らなくてはならない。小学四年生の勉強はキラリちゃんに教わっている。キラリちゃんは教え方が上手で将来、先生にでもなったら何て言ってあげた。


 この三ヶ月間、キャリアスの気配はないがみゆき達に復讐をしにやってくるかもしれない。でもみゆきは負けない。それに今は、キラリちゃんに勉強を教わっているのだ。


 キラリちゃんはみゆきにテストをしてきた。そのテストは四年生の範囲で今まで勉強をしてきた事の復習問題だった。みゆきはキラリちゃんのテストを軽々と受けて、テストを終えると。みゆきはキラリちゃんのテストで百点を取ってしまった。


「みゆきちゃん。やるねえ、これでめでたく五年生の勉強に移ることが出来るよ」


「本当に?」


 みゆきは心から嬉しかった。勉強って嫌な物だけど、こうして頑張って出来るようになると凄く嬉しくて勉強が好きになってしまう。


 みゆきが続きをやりたいと言ったところ、キラリちゃんは「今日はこれぐらいにして、どこかに遊びに行こうよ」そう言ってキラリちゃんは武士君を呼んで野球ボールとグローブを持って出かけていった。


 みゆき達三人はキャッチボールをしながら遊んでいた。みゆきは幸せだな。こうして仲間がいて、キラリちゃんと武士君は知らないけれど、カタストロフィーインパクトはもう消滅した。この世に平和が戻ったのだ。


 でもこの世に平和が来たわけではない。僅かだがキャリアスの気配を感じる。どこかにキャリアスは潜伏しているとみゆきは思っている。


 でも平和は戻っても、人との人間関係の争いは続く。なぜ同じ人間同士争わなきゃ行けないのか?それにメグさんの話を聞くとメグさんも引きこもりの生徒のおおよその八割が人間関係で引きこもりいじめにあい、もしくは殺されかけた事もあったと言っている。みゆきはそれを聞いて驚いたりもしたし、貴之がキャリアスに寝返る気持ちも分かった気がした。


 人はそれぞれの正義を掲げて生きている。だから争うことは仕方がないことかも知れないって、SEKAI NO OWARIのドラゴンナイトって言う曲の言うとおりだとみゆきは思った。だからみゆきもキラリちゃんも武士君も孝君も強くなければ行けないのかも知れない。

 でもみゆきは争うために生まれてきた訳ではない。でもこの先に行くには争いは避けられない。けれどみゆきは負けるわけには行かない。みゆきが負けてしまったら、キャリアスはおろか、真っ黒に染まってしまった人間にたぶらかされて操られてしまうかもしれない。


 みゆきが眠る前に、メグさんの部屋を訪れた。メグさんはパソコンを閉じて眠ってしまっているらしい。何人の引きこもりの生徒にメールでエールを送っているかと言うと、それはメグさん数え切れないほどいると言っていた。


 メグさんに教わったことだが人の気持ちを前向きに変えるには容易な事ではないと言われたことがある。正直人の気持ちを変えるにはしんどいとも言っていたこともあった。でもそれを聞いてみゆきは僅かだが、メグさんが無償で引きこもりの生徒を変える気持ちが分かったような気がした。


 人一人の気持ちを変えるのにはしんどいことだ。


 みゆきはそんなメグさんの力になりたいとも思っている。みゆきの力では自殺する引きこもりの生徒の場所を特定して止める事しか出来ない。そのおかげでメグさんが請け負っている引きこもりの生徒達が自殺することを食い止めて、みゆきが協力してから自殺者はゼロになったと言っている。以前までは何人か死なせてしまった事があると言っていた。だからメグさんはみゆきには感謝していると言っていた。


 引きこもりの人ももう高齢化している時代に突入していると言っている。これはもしかしたらカタストロフィーインパクトを防ぐことよりも困難な事なのかもしれない。


 ニュースで見たことがあるが引きこもりの人が父親に殺されてしまう事件も勃発していると言っている。みゆきはそれを見て悲しくなったりもしていた。人の気持ちを救うことは安易な事ではない。メグさんはおろかみゆきにも充分に分かる事だった。


 メグさんが請け負う生徒の中で、いつも温いお風呂に入り、そこから出られなくなってしまう人もいるらしい。その子はもう何も考えたくないのだと言っていた。だがその子の母親がメグさんの一言でお風呂から出ることが出来たことにメグさんもそのお母さんも一歩前に進めたのだと大いに喜んだと言う。


 そうだ。引きこもりの生徒が社会復帰よりも外に出られる事が大きな前進だとメグさんは思っている。社会復帰よりもメグさんはそう言った引きこもりの生徒に夢を与えてあげたいと思っている。どんな夢だって良い、仮にそれがお金にならなくてもそれでもいいから。それは富士山の天辺に登ろうが、アメリカ大陸を横断することや、何だって良い。自分自身の夢を実現させることも重要だと思っている。


 日本は福祉が盛んな国だ。だからこそ、そのお金でギャンブルではなく、夢を持って欲しいと。


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