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新たなる邂逅

 体が熱い、燃えさかるように熱い。

 恐る恐るその目を開けてみると、私は白い炎に包まれていた。


「瞳ちゃんに乱暴するのはやめろー」


 と私が叫ぶと、瞳ちゃんにむち打ちしていた安井の護衛達は私が放った白い炎で燃え尽きて灰になってしまった。


「なっなっ何だこいつは、おいあいつを殺せ」


 安井はそう言って、安井の護衛達は拳銃を構えて私に放ってきた。

 だが恐れることのない。私はそのピストルの弾は私の体から放つ白い炎にかき消されてしまった。


「な、な、な、何だこの化け物は?」


「瞳ちゃんにひどいことをするな!!!」


 安井以外の護衛達を私は白い炎を巻き上げて一人一人殺していった。

 工場に割れた鏡があり自分の姿を確認してみると、目は赤く、髪は白くて、体から真っ白な炎に包まれていた。


「くそ!!!」


 安井は瞳ちゃんのところに行って、瞳ちゃんの体を抱き上げて、瞳ちゃんの頭にピストルを突きつけてこう言った。


「こいつの命が欲しければ、大人しくしろ」


 私は知っている。いやなぜか知っていた。この白い炎は邪悪な人間にしか聞かないホーリープロフェットの炎だとも。


「その炎を放つのはやめろーーー!!!」


 私は手加減なしで安井に向かって白い炎を解き放った。

 安井は見苦しい断末魔をあげて私の白い炎に包まれて灰と化してしまった。

 心清き瞳ちゃんは無事であった。

 この炎はなぜか知らないが私はその性質を知っている。邪悪な者を灰と化す聖なる炎だと。だから心清き瞳ちゃんには通じないのだ。


 私は元の姿に戻って、瞳ちゃんのところに向かっていった。


「瞳ちゃん!」


 すると瞳ちゃんは私の事を化け物だと言わんばかりの目つきで私の事を見る。


「瞳ちゃん!?」


「化け物!近づかないで」


 そして瞳ちゃんは一目散に逃げて行った。


「瞳ちゃん待ってよ、私は化け物なんかじゃないよ」


 そう言いながら私は瞳ちゃんを追って行った。


「来ないで化け物」


 そう言って瞳ちゃんは全速力で走って私から逃げていった。


 私の唯一の真の友達の瞳ちゃんに誤解されている。

 その前に瞳ちゃんを助けてその誤解を説いて私と一緒にこの世のユートピアに行く約束を果たすんだ。

 逃げる瞳ちゃんは早く私の足では追いつかない。


 地面は茂みだった、私はその茂みにこけて、瞳ちゃんはどんどん遠くに逃げていった。

 茂みの中、瞳ちゃんの走る速さには敵わなかった。

 私は転んだまま、瞳ちゃんが遠くに逃げていくのを見て、そして見えなくなり、涙がこぼれ落ちてきた。


 また独りぼっちだ。どうして私がこんな目に会わなければいけないの?

 私は一人でもいい、真の友達が一人いて、その子と幸せになれればいいと思っているだけなのに、お母さん。どうして私を一人にしたの?


「お母さん。お母さん!!」


 仕舞いには涙がこぼれ落ちてきた。

 そしてこの冬一番の冷たい雪が降り出してきた。

 私は慟哭した。

 どうして私がこんな目に会わなければいけないのか?

 私はただ幸せになりたいだけなのに。

 こんなのってないよ。

 私はその場で水晶玉を投げ捨てた。

 こんな物があるから私は不幸になってしまったんだ。

 

 凍えるように冷たい雪は私を包み込み、激しい寒さに私は何だか眠くなってきた。

 聞いたことがある、人間極度の寒さで体力を失えば眠くなることを。

 だったらいい。私を天国でも地獄でも連れて行けばいい。

 どうして神様は私をお捨てになったの?

 天国も地獄もここよりましなら、喜んでそこに行くよ。

 そこに瞳ちゃんのような人がいたら良いのになあ。


 意識が薄れていく。

 私は死ぬんだ。


「この子ですね。流霧さん」


「ええ、メグ、この子よ。この子こそがホーリープロフェットの使者よ」


「とりあえず、流霧さん。この子死にかけています」


「使用がない、あたしが連れて行って、あたしの魔力でこの子を回復させてあげるわ」


 薄れゆく意識の中でそんな声が聞こえてきた。

 二人の大人の女性だった。覚束ない意識で見つめてみると一人は白いワンピースにまとってもう一人は修道院にいる青い衣を着ている。






 ******   ******






「みゆき、みゆき」


 誰かが私の名前を呼ぶ。


「みゆき起きなさい、学校に遅刻するわよ」


 私が体を起こすと、私の目の前にお母さんの姿があった。


「今まで見ていたのは夢だったの?」


「どうしたの?あなた、そんなに深刻そうな顔をして、怖い夢でも見たの?」


「お母さん怖かったよ。本当に夢だったんだね」


「大丈夫よみゆき、お母さんはみゆきの事をいつまでも一緒にいるからね。それよりもみゆき、早く朝ご飯を食べなさい。学校に遅れちゃうわよ」


 洗面所で手を洗い、顔を洗ってタオルで顔を拭いた。

 良かった、私はどうやらとんでもない夢を見ていたんだ。

 それももうおしまい、私は一人なんかじゃない。私の唯一の肉親のお母さんがいる。


 そして居間に行くと、お母さんのオムレツが作られていた。

 私はお母さんのオムレツが大好きなんだ。甘くておいしくてほっぺたが落ちそうな位に。 

 私は急いでオムレツを食べて、台所で歯ブラシをして、ランドセルを背負って学校へと向かう。

 そして靴を履き玄関の扉を開けると、私は再び目を覚ました。


「はっ!!」


 と目を開けると、私はベットの上で眠っていたみたいだ。

 部屋を見渡すと私が使っているベットしかなくて、窓から太陽の光が降り注いでいた。


「ようやく目覚めたようね」


「誰!?」


 言葉の発信源である背後を見つめてみると、修道服姿の女性だった。


「おはよう。みゆきちゃん。私が作った夢のお香のお味はどうだった?」


「夢のお香?」


 そういえば私はお母さんに出会えた夢を見れた。


「あなたが私に夢を見せたの!?」


「そうよ。あなたに夢を見せて、気分を良くしてもらおうとして夢見るお香を焚いてあげたのよ」


「何のためにそんな事を」


「さあね、少しでもあなたが良い気分になってもらいたかったかしらね」


「全然、良い気分にはなれなかったよ」


「あら、そう、それは残念ね。あたしの名前は流霧、よろしくねみゆきちゃん」


 皮肉たっぷりの口元を緩めて言う流霧。

 何かむかつく。

 すると流霧は何のつもりかテレビをつけ始めた。


 ちょうどその時間に瞳ちゃんが下着姿のまま発見されていた事が報道されていた。

 瞳ちゃんはひどく取り乱していて、白い悪魔に殺されそうになったと供述している。

 瞳ちゃんの事で施設の虐待が赤裸々にされ、瞳ちゃんはあまりの苦痛に気が動転していて、幻聴や幻覚による物に支配されていた事となった。

 私も施設の事は知らなかったが、男の子は重労働をさせられて、女の子は体を売る仕事に従事させられていたという。

 私は施設の真実を知って、涙がこぼれ落ちそうになった。

 私はこの力があったからこそ、性を売る仕事は担わされなかったんだ。

 あの施設私が思ったとおり、子供達にひどいことをしていたそうだ。


 そして流霧と言う女は「ひどいことをする施設ね、あんたが追いかけた瞳とやらはきっとこれから大変な目に会っていくんだろうね」


「そんな事はない。瞳ちゃんは幸せになるよ」


「現実を見なよお嬢ちゃん。親もいない子なんてろくな生き方をしないわ」


「そんな事はない。私だって親がいないけれど・・・」


 そう私には親はいない。だから流霧さんに言い返す言葉が見つからない。


「あなただって親がいないのでしょう。これからろくな生き方をしない事が確定したわね」


 この流霧と言う女、私は嫌いになった。

 残酷な真実を告げられて、私は涙がこぼれ落ちそうになった。

 とにかくもうここには用はない。


 それよりも私は流霧に「どうして私の事を助けたの?どうして私を死なせてくれなかったの?」


「あなた、そんなに死にたかったの?」


「死にたいよ。親もいない私なんてろくな生き方なんてしないんだから」


 すると流霧は「じゃあ、あたしがあなたを殺してあげるよ」そう言って私のところまでじりじりと近づいて、私の首を思い切り締め付けた。


 苦しい、言葉が出ない。声には出せないがやはり死にたくない。でも私には何もないのにどうして生きたいと言う気持ちが存在するのか?

 そして流霧は手を離して、「やっぱり死にたくないんじゃない」


「・・・」


 何も言い返せない私であった。


「それぐらいにしておいた方が良いんじゃないですか流霧さん」


 どこからか優しい事が聞こえてくる。


「何だメグか、気配を消してあたしとこいつのやりとりを見て楽しんでいたんだな」


「楽しくなんかないですよ。もう少しあなたは子供に優しくしてあげられる器量を持つべきだわ」


「とにかく言われたとおり、こいつをかくまって今は意識はちゃんとあることだし、治療もしたし何もたいした事はないよ」


「ありがとうございます流霧さん」


 そこで私は「とにかく助けてくれてありがとう。私はもう元気だから行くね」


 そう言うと優しい言葉をかけてくれた人は「行くってどこに行くの」


「それは決まっているじゃない、あなた達のいない世界よ」


 すると流霧は「ホーリープロフェットの力がないあなたはこれからどのように生きていくのかしら?」


「・・・」


 流霧の言うとおり私はこいつに言うことが見つからない。


 流霧は私に顔を近づけてきて「あなたこのまま行けば、変態ロリ親父に監禁されてレイプされて、そのままあなたをおもちゃ代わりにされるのが落ちよ」


 私は流霧の言葉に涙がこぼれ落ちそうになった。

 流霧の言っていることは本当の事なのかもしれない。

 ホーリープロフェットの力を失った私に生きるすべなどない。


「それよりもどうして私の力であるホーリープロフェットを知っているの?」


 すると流霧は小さな巾着袋を私に差し出した。

 中身を見てみると、私がお金を稼ぐために愛用していたホーリープロフェットの力の源となるビー玉サイズの水晶玉だった。


「そのビー玉サイズの水晶玉を持っていなさい。そのホーリープロフェットはあなたしか使えない代物よ、私利私欲の為にその水晶玉を使えば力がなくなり、誰かの為になる事に対して使えばその水晶玉は活気がつくわ」


 私はこの流霧と言う女はもしかしたら悪い奴などではないのではないのかと思い始めた。


 そして流霧は「メグ、あたしは子供が嫌いだ。子供を見ているといじめたくなる気持ちになるからね。早くあなたの施設に運んであげなさい」


「施設って私はそんなところに行くなんて一言も言っていないじゃん」


 すると健やかな笑顔で私を見てメグは「あなたのお名前を聞いていなかったね。とりあえず名乗るなら私から名乗るのが礼儀よね。あたしは川上メグ、親しい人からはメグとかメグさんとかメグちゃんなんて呼ばれている」


「私はみゆき、坂下みゆき」


「みゆきちゃんね」


「とにかく私は誰の世話にもならないわ。どうせまた私の力を利用してくるんでしょ。今まであってきた連中はみんなそうだった。優しい羊のような顔をして、その裏には見るに堪えないゲスや畜生だった」


「じゃあ、だまされたと思ってあたしの施設に来るのはどうかしら?」


 このメグさんの笑顔を見てみると何か安心してしまう。でも今までそんな優しい笑顔に騙されて、みゆきは都合の良いように使われた。

 でもこのメグさんの顔を見ると、本当に汚れを感じない。

 ここは騙されて見るのも良いかもしれない。もしこのメグと言う人が、みゆきを都合の良いように扱ったらまたホーリープロフェットを発動させて殺してしまえば良いんだから。


「分かった。行くよ」


「今一信用されていないように見えるけれど、あたしはみゆきちゃんを都合の良いようになんて使わないから」


 私の心を読んだ。

 このメグさんとやらは人相学に詳しいのか?

 とにかく私は外に出て、久しぶりに外の太陽の光に照らされて、凄く良い気分だった。

 それに流霧さんの家は教会のような立派な建物だった。

 教会から出て、メグさんは外にボロいワンボックスカーを用意して、私を助手席に乗せて車を走らせた。


 このメグと言うくせ者、まだ信じられない。

 そして外観のボロい建物に案内された。


「さあ、みゆきちゃんついたわよ。ここがあたしが経営する施設よ」


 その外観のボロい施設の子供から中学生くらいの子達が広場で野球を楽しんでいる。


 私は車を降りて、子供達は野球をして戯れている。


 とりあえずみゆきはこのボロい外観の施設の中に入っていった。


 そう言えばあの時、瞳ちゃんに逃げられて死を覚悟した時に声が木霊した事を思い出した。 そうだ。あの時の人だ、メグと流霧と言う人は。メグと流霧は何を言っていたか忘れたが、何のつもりでみゆきの事を助けたのか聞き出さなくてはならない。

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