アリウスの野望
孝君にメグさんの言葉が通じたのか孝君は目を伏せて、リリィの視界から外れて、メグさんも見えるようになった。でもリリィの存在には気がついていないが、きっとそこにリリィがいることをメグさんは分かっているはずだ。
「リリィちゃんって子がこの部屋にいるのね」
孝君は気まずそうに頷く。
「どうやら私の声は届いていないようね」
そこでみゆきが「じゃあ、みゆきが通訳します」
「そうして貰えると嬉しいわ」
みゆきがリリィに視線を合わせると、リリィは孝君に暴力を振るった事を根に持っているのかちょっと警戒していた。
「リリィ、警戒しないで、ここにはあなたの敵はいないわ。それにさっきはごめんなさい。みゆきもちょっと気が立っていて」
「リリィ、孝いじめないなら、みゆき許す」
「そうしてくれると嬉しいよ。とりあえずリリィには見えないけれど、ここにリリィと孝君とみゆきが暮らしている百合の施設の長のメグさんがあなたと話したがっているからみゆきを媒介してリリィの思いを伝えてあげられるわ」
「メグってここの百合の施設の長のメグ」
「そうだよリリィ、メグさんはあなたに興味を持っているのよ」
「リリィに興味を持っている?」
リリィは警戒している。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。メグさんはリリィの味方だから」
そこでメグさんに視線を合わせてリリィの思い伝えて置いた。みゆきはメグさんが言っている事をそのままリリィに伝えた。
「初めまして、私はここの百合の施設の長のメグと申します。それとリリィと孝君には言って置いた方が良いかもしれないね。私は人間では無く吸血鬼なのだと」
みゆきはメグさんが言っていることをそのまま言葉にしてリリィに伝えた。そこでみゆきは思いついた。
「リリィ、手紙でメグさんに伝えるのはどうかな?」
リリィはこくりと頷いて、メグさんにも手紙でやりとりする事を伝えた。そうすればこんな面倒なみゆきが媒介しなくても手紙で伝え合えば良いのかもしれない。
早速リリィとメグさんは鉛筆を手にして、見えないリリィにメグさんは手紙で伝えることとなった。
みゆきは手紙の内容が気になったが、二人はそんな疚しいことをお互いに共有する人では無いから内容まで確認しなくても大丈夫だと思ったが、孝君が手紙の内容が気になったのか、リリィが書いた手紙の内容を確認しようとしたところ、みゆきが孝君の肩をポンと叩いて目を瞑りかぶりを振った。
「孝君、気になる気持ちは分かるけれども、リリィとメグさんの事を信じてあげようよ」
「でもメグさんがリリィに何を伝えているのか?気になるからさ」
「別にメグさんは疚しいことを書いたりはしないよ」
「俺もずっと思っていたんだ。この事をメグさんに伝えた方が良いんじゃないかって、でも百合の施設はもう崩壊寸前だと聞いて・・・」
「孝君、百合の施設は崩壊なんてしないよ。メグさんの目の黒いうちは大丈夫だと思うよ」
私と孝君が話していると、リリィは『カタストロフィーインパクト』と大声で言っていた。その言葉はきっとメグさんの手紙を見てそう言ったのであろう。きっとリリィが驚いて言ったことはきっとメグさんには伝わっていないはずだが、手紙を通じてリリィが驚いていることをメグさんは悟ったとみゆきは思った。
「どうした、リリィ、カタストロフィー何とかって何だ」
「孝、聞いて、カタストロフィーインパクト、この世を破壊する。その為にはリリィ、力がいる。だから、リリィはメグに力を貸す」
「リリィ、そんな事どうでも良いじゃないか。この世が破滅しそうになっても、お前のお姉さんは消えていなくなってしまったんだろ。星の子だが何だか知らないが、お前を見つけてやったのも俺なんだぞ。誰にも気づかれないお前を見たときとても不憫に思えて俺はどうしてもお前を幸せにしたいと思ったよ。だからカタストロフィー何とか何てどうでも良いじゃないか、この世の人間はお前の事に気がつかないんだぞ」
「でもみゆきに気がつかれたしメグにも気がつかれた。リリィ、一人じゃない」
「何だよ、リリィ、俺を裏切るのかよ!」
「裏切る違う。リリィ孝には感謝している。それにリリィももう少しで消えていなくなってしまう」
「じゃあ、そんな事どうでも良いじゃないか!お前が消えるまで俺はお前の側にいてやるよ!そんな地球の危機なんてどうでも良いじゃないか」
「リリィは星の子、リリィはいずれ消える運命。でも消える前にメグに力を貸したい。この地球を救いたい」
「こんな世の中の人間なんてどうでも良いじゃないか。それよりも・・・」
言葉を無くす孝君。
そして孝君は外に走り去ってしまった。
「一人にさせてあげましょう。孝も分かるはずだから」
みゆきが言ってあげようとすると、「待ちなさい」とメグさんに言われて立ち止まった。
「どうしてほおって置くんですか?」
するとメグさんは孝君の事を話してくれた。孝君には両親がいたが、ある日両親は孝君の事を大量の保険金をかけて殺そうとしたらしい。それを食い止めたのが、あの流霧さんだと言っていた。孝君は人間不信になってしまい、この百合の施設に来て、あまり人と話そうとはしない子だったと言う。だがある日一年前ぐらいに、メグさんは気づいていたかもしれないが、リリィを連れて来たみたいだ。
孝君の苦しみは分かった。人に裏切られる気持ちってみゆきにも分かる。それに孝君とみゆきの境遇を比べてみたら、みゆきの方が幸せかもしれない。だから孝君はみゆきが探し出すことに決めた。
「みゆき、孝君をここに連れて行きます」
みゆきのホーリープロフェットにかかれば孝君なんて一発で見つかる。みゆきは藍色のポーチから大きくなったビー玉サイズの水晶玉を取り出して、孝君の事をホーリープロフェットで予言すると、何と孝君はさらわれてしまったみたいだ。この事をまず最初にメグさんに伝えた。
「どうして孝君がさらわれてしまったの?」
「分からないわ。でももしかしたら星の子を狙っている連中かもしれない」
「そんな連中がこの世にいるの?」
「ええ、星の子は闇のルートでは高値で売れる人材らしい」
「でも星の子はみゆきと孝君にしか見えないはず」
「連中には星の子を見れる何かを持っていると聞いた事があるわ。とにかく私も探しに行くから」
そこでリリィが「孝、さらわれたって本当?」
「リリィ気がついていたのか。本当だよ。でもリリィはここにいた方が良い。孝君はみゆきとメグさんで探しに行くから」
「リリィはその百メートルを七秒台で走る足で走って外に出かけて行ってしまった。みゆきがそれを止めようとしても無駄だった。タイミングが遅すぎた」
星の子も人間の子も何かとてつもない気がかりな事になると凄い力を発揮することをみゆきは知っている。とにかくリリィが迷子になってしまったら、みゆき達では探すことが困難な事になってしまう。
本当に次から次へとトラブルが絶えないみゆき達であった。
孝君は近くの今は誰も使われていない、廃工場にいる。そこまで行くにはみゆきの足では何時間もかかってしまう。リリィは何も手がかりも無いのに、出て行ってしまった。仕方が無い、リリィの事は後回しにして、孝君を見つけに行こうとしたら、みゆきが工場までタクシーで行こうとしたら、バイクに乗ったメグさんが現れた。
メグさんは親指で後ろを突き刺して乗れと合図をする。みゆきは言われたとおりメグさんが運転するバイクの後ろに乗った。メグさんに孝君の居場所を伝えると、猛スピードでそこの名の知らない廃工場まで向かった。
そして廃工場に到着すると、みゆきとメグさんはとりあえず気配を消して、孝君がどこにいるのか、見渡してみると、真正面にいた。孝君は星の子であるリリィの居場所を吐かせようとしているのか?星の子を狙う連中に殴るなと蹴るなどのひどい仕打ちを受けているが、孝君は口を開こうとはしない。
「星の子はお前には見えることは知っているんだよ!どこにいるのかちゃんと喋らねえか!?」
と罵りながら星の子のリリィの居場所を吐かせようと殴る蹴るの繰り返し、でも孝君は絶対にその居場所を喋ったりはしないどころか、その口も開こうとはしなかった。このままでは孝君が死んでしまう。孝君はリリィの事が命よりも大事な者だと思っているに違いない。
私とメグさんは何か隙を見つけて、孝君を救出出来ないか、遠くで見守っている。孝君、もう少し待って、奴らが孝君のところから離れるところをみゆきは待っている。
「おい、その辺にしておけ、そいつが死んでしまったら、我々の計画が遠のいてしまうと出ている」
「しかしアリウス様、こやつにしか星の子は気がつくことは出来ないのですよ」
アリウス様!?誰だ!そいつはと思って連中の目を追っていくと、私と同じくらいの男の子だった。あんな子供がこんな大人を操るなんて・・・。しかもそのアリウスに迂闊に近づいてはいけない気がしたが、メグさんが我慢できずに、すさまじい早さで孝君に暴力を振るった大人の人間達を次々と殴り倒して行った。そして孝君を無事にメグさんの元へ。
「やはり来たか!吸血鬼」
このアリウスって奴はメグさんの正体を知っているようだ。
水晶玉を握りしめて奴の正体を暴こうとすると、突然時が止まってしまったかのように、みゆきとアリウスと言う奴にしか動く事は出来なかった。みんなが動かない中、みゆきはアリウスの元へと行った。
「アリウスとか言ったな?お前は何者なんだ!?」
「これは驚いた、光の者がここに来るなんてな」
「光の者?」
「闇があるように光がある。そして闇と光は混じり合う」
「アリウスとか言ったな、お前は何が目的でリリィをさらおうとしているんだ?」
「僕は見てみたいんだよ」
「何が!?」
「人々がカタストロフィーインパクトに悶え苦しむ人間の姿が」
「正気かアリウス、そんな事をしたらお前の命もなくなってしまうのだぞ」
「この世は汚れすぎた。我々はカタストロフィーインパクトに罰を与えられなくてはならない。そして我々は魂となり、再び輪廻の輪をくぐり、新しい無垢な実態へと変形させなければならない。君も知っているはずだ。この世は腐り始めていることを・・・」
確かにこのアリウスの言うとおりこの世は腐っている。でも、「そんな事はない。それでも人間は愛を紡ぎながら懸命に生きようとしている人間もいる。すべての人間が悪い奴ばかりじゃ無いことをみゆきは知っている」
「黙れみゆきとやら、お前はホーリープロフェットの使い手だろ。その水晶玉で未来を探って見ろ」
アリウスの言うとおり、未来を探ってみると、人々がカタストロフィーインパクトで苦しむ人々の姿がくっきりと見えてきた。
「嘘でしょ」
みゆきは絶望に打ちひしがれそうになった。ホーリープロフェットで未来を外したことが無い。
「嘘だ!!!」
みゆきはそう叫んで、胸の奥から熱い物を感じ始めて、白い炎に包まれた。
すると何が起こったのか?分からないが、今さっきまで止まっていた物が動き始めた。
「みゆきちゃん!?」
メグさんの声が聞こえる。
「メグさん、孝君を連れて逃げて」
「あなたをほおって置いて逃げるわけには行かないわ」
「良いから逃げろ、みゆきの理性がある内に」
メグさんはみゆきの言うことを聞こうとはしなかった。このままだとあのアリウスって奴は何か得たいのしれない何かを感じる。まるでみゆきがこうなるのを待っていたかのように。いや、アリウスはみゆきをわざとこの姿にしようと仕向けたのかもしれない。あのホーリープロフェットは嘘偽りだ。絶対にそうだ。絶対に絶対に絶対に。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
でもみゆきのホーリープロフェットは外したことが無い。もう一度水晶玉で未来を予言してみると、またカタストロフィーインパクトに苦しむ人々の姿が見えた。再びみゆきの奥底から、得たいのしれない先ほどよりも心が燃えるように熱く感じてホーリープロフェットを発動させた。
アリウスは不適に笑っている。
みゆきには感じる。こいつがリリィの謎を知り、カタストロフィーインパクトを発動させようとしていることに。
「アリウス、そうやって不適に笑っていられるのも今の内だ」
ホーリープロフェットは言っている。すべてはアリウスの手にカタストロフィーインパクトがあることを。だったらそれをみゆきが阻止しなければならない。
それにカタストロフィーインパクトの鍵となるリリィはここにはいない。そしてみゆきはリリィをこんな奴らには渡すことは出来ない。
アリウスは言う。「出すが良いさ。すべての力を」




