覚醒
十歳の頃私の唯一の肉親である母親は一つの水晶玉を残して私の前から去って行った。その水晶玉は未来を予言できる力だと知り、私は空腹を満たすために、水晶玉の力を使い、大人に頼んで馬券を買いに行くように頼んだ。それであたり馬券を手にした私はその大人に頼んでお金に還元させてもらった。
「おじさん、ありがとう。これは馬券を買ってきてくれて、お金に変換してくれたお礼ね」
そう言って私はお金をあげて、おじさんから去って行った。お金には困らなかったものの、私はお母さんに会いたいと心の底から願っていた。でも水晶玉でもお母さんの居所を教えてはくれなかった。
そんな私の正体を知った大人たちは私を利用してお金儲けの為だけに監禁されてしまった。監禁された場所はとある児童養護施設であり、子供を平気で虐待したりするとんでもないところだった。
でも私には虐待はなかった。私に虐待をすれば、予言がままならなくなると言う汚い大人たちの言い分だった。施設では私だけが特別扱いだった。他の子供たちはちょっとでも大人たちに逆らうととんでもない仕打ちをしてくるとんでもないところだった。
私は牢獄のようなところに閉じ込めて週末の競馬の日になると、中に入ってきて私の力を利用する。
「よう、みゆき、明日のレースはどの馬が行くんだ」
この安井と言う顔つきは上品に見えるが、心がそもそも醜い。
私は安井に言われたとおり、予言してあげた。
「そうか、明日は大穴が来るのか、明日はパーティーだ」
嬉しそうに両手を広げて、喜びを表す安井。
「それよりも、瞳ちゃんは無事なのよね?」
「もちろん無事だとも、みゆきちゃんがちゃんと俺の言う事をちゃんと聞いていればの話だけれどもね」
「それじゃあ、瞳ちゃんに合わせてよ、いつも私の予言で大もうけしているんでしょ」
「でもさあ、みゆきちゃん、あのような失態をして僕達が君の言う事を聞くと思っているの?」
嫌らしい笑みをこぼして私にそういう安井。
そうだ。以前、私と瞳ちゃんはこの施設から脱走しようとした。だが施設長の安井には私のおかげで、たんまりとお金をむさぼり、護衛や女などを侍らせて、私はその護衛に捕まり私たちは罰を受けた。
私がむち打ち十発で、瞳ちゃんはむち打ち百発受けた。
あの痛さを想像すると、私よりも罰を受けた瞳ちゃんがかわいそうで私が瞳ちゃんを誘ってこの施設から脱走しようなんて言わなければあんな事にはならなかった。
すべては私のせい、私があの時に、ちゃんと予言しておけば、護衛なんかに捕まる間抜けな事は起きなかったのだ。
瞳ちゃんは私の初めてできた友達だ。その友達と、ここから抜け出して、私達だけのユートピアを作ろうと夢見ていた。
私の予言の力なら瞳ちゃんを幸せにできる。それに私も独りぼっちと言う事はなくなる。そう、独りぼっちの辛さは心が引き裂かれそうなほど、苦痛なものだ。でも安井のような奴に利用されるのはもっと苦痛だ。私が独りぼっちの辛さに耐えきれずに、わざと警察に捕まり親も親族もいない私はこの施設に来たのは間違いだったのかもしれない。いや間違いじゃない、この施設に来られたのだから私は瞳ちゃんという孤児に会えたのだから。
私の親族のお母さんがいなくなった今私に必要なのは真の友達だ。
その真の友達に会うために私はこの施設に来た。
それが私と同じ部屋に閉じ込められていた瞳ちゃんだ。
今、瞳ちゃんはどうしているのだろうか?また一緒に遊んだり本を読んだり勉強したりしたい。
私がいる牢獄の中には洋式便所とベットと、最新型のテレビが設置されている。
何となくテレビを見ていると、子供達同士で遊んでいる人達が見受けられた。私はうらやましく思ってしまう。私が一番欲しいものは友達でありお金ではない。でもある程度のお金は必要だとも思っている。現にお金がなくては生活が出来なくなるからな。
「瞳ちゃん」
「みゆきちゃん」
私と瞳ちゃんは一緒に広場に立つ大きな木の下でボール遊びをしていた。
なんて幸せなのだろう。私が今思い描いていた夢が叶っている。
しかしそれは夢の中だった。
起き上がると、鉄格子で囲まれた窓の外から、太陽の光が私の辺りを照らす。
いつもの夢であり、いつもの朝だった。
この施設から来て私はそろそろ一年になる。
施設長の安井は私の力で多大なお金を持っている。
そのお金がこの施設の子供達の食料になる事はなかった。
私が少しでも命令に背けば、一人の子供を連れてきて、「こいつの命が惜しかったら、俺の言う事を聞くのだな」と言って脅してくる。
だから私はいつも渋々安井の言うとおり、競馬の予想をしてあげている。
もうこんな生活嫌。安井はお金よりも大事な命を取引材料にしている。
そして私がいる鉄格子の部屋に安井が入ってくる。
「おはようみゆきちゃん。昨日の大穴すごかったぜ、三億も稼いじまったよ」
「ねえ、安井さん、瞳ちゃんに会いたいよ」
「それはお前の働き次第だよ。もっと俺を上に上げてくれれば、瞳に合わせてやってもいいけれどもな?」
「三億手に入れたんでしょ、もうそれで充分じゃない。お願いだから、瞳ちゃんに合わせて」
その時、安井は何かもくろんでいるような気がした。もくろんでもいい、瞳ちゃんに人目でも合えれば私はそれで充分だ。
「分かった、会わせてやるよ」
その言葉に私は心が幸せな何かに包まれた。
しばらくして、瞳ちゃんはボロい服に身を包み入ってきた。
「瞳ちゃん」
「みゆきちゃん」
瞳ちゃんは目に涙をためながら私に抱きついてきた。
そこで私は思いついた。
「ねえ、安井さん。もっとお金が欲しいなら、瞳ちゃんと同じ部屋にいさせてくれないかな?」
「それは本当か?」
「本当よ。私の予言にかかれば、世界のお金持ちだって夢じゃないわ」
「分かった。じゃあ、瞳とお前を同じ部屋にいさせてやる」
「ありがとう安井さん」
「でもまたおかしな真似をしたらただじゃ置かないからな」
「分かっています」
すると安井は私を閉じ込めている鉄格子の部屋を鍵で開けて瞳ちゃんを私の鉄格子の牢屋に入れた。
「じゃあ、おかしな真似を今度からしないことだな、お前は俺を世界一の金持ちにしてくれるんだろう」
「約束は守ります」
そして安井は去って行った。
私は瞳ちゃんとこうしてまた同じ部屋で過ごすことを、夢を見ているような錯覚になってしまう。
「瞳ちゃん」
「みゆきちゃん」
私とみゆきちゃんは抱き合った。
「瞳ちゃん、私は瞳ちゃんがいれば何もいらない。瞳ちゃんは私の真の友達だよ」
「みゆきちゃんあたしもそう思っていたのよ。だからずっと一緒にいようね」
部屋には本棚があり、私とみゆきちゃんは友に本を読んだりしていた。
あーなんて幸せなんだろう。私は真の友達の瞳ちゃんがいれば何もいらない。
本を読んでいる時に時間はあっという間に過ぎていって、昼食の時間になった。
「おい、飯だ二人とも」
安井の護衛が食事を持ってきて、メニューはお寿司であった。
「みゆきちゃん。これ何?」
「瞳ちゃんお寿司を知らないの?」
「これがお寿司?食べるのは初めてなんだけれども。どうやって食べるの」
「こうやって食べるんだよ」
そう言ってお寿司に醤油を垂らして私は食べた。
ものすごいおいしい味がする。
いつも私はどうやら予言が出来るので、私だけ豪華なものを食べさせられていたらしい。でもそんなたいそうなご馳走が出ても私はおいしいと感じたことはない。
瞳ちゃんはお寿司に醤油をつけて食べた。
「何これ、凄くおいしい」
「瞳ちゃんはいつも何を食べていたの?」
「賞味期限切れのレトルトのカレーとか、それに腐りかけた肉も食べたりしていたわ」
「瞳ちゃんそれ本当なの?」
「うん。私達にはここの人達にお前達のご飯はこのようなもので充分だって言われて食べさせられたわ」
きっと瞳ちゃん以外にも、同じものを食べていた子供達もいたのだろう。
そう思うと私の心は痛んだ。
「さらに言うと食中毒におかされて、急にいなくなった子達もいたわ」
きっと安井の奴はこの施設長でもあるから、子供達に残飯のようなものを食べさせて、それで食中毒になったら問題が起きてしまうと危惧してその子供を殺していたかもしれない。早くこの施設から出ないと私達はとんでもないことになってしまうかもしれない。
もう私はここに来て一年が経過した。あんな奴に私の予言を教えることは間違いのようだった。他の子供達には悪いが、私と瞳ちゃんだけでここを脱獄しようと試みている。
どうすればいいか考えた。
そうだ。この水晶玉の力を使えば、私と瞳ちゃんは脱獄することが出来て、私と瞳ちゃんの夢のユートピアにいけるかもしれない。
私はここを脱獄出来ないか、水晶玉に念じてみる。すると鍵を持った、護衛がやってくる。そして水晶玉は教えてくれる。護衛は食事を持ってやってくる。その隙に腰にぶら下げている牢屋の鍵を奪って行けばこの牢屋も開く。その隙に瞳ちゃんと私で逃げればなんとかなる。
ここを脱走することを瞳ちゃんに言う。
「えーこの施設を脱走するの?」
「うん。私に任せて」
「でもこの施設を出てもあたし達には何もすることなんてない」
「大丈夫、瞳ちゃんは私が幸せにしてあげるのだから」
私には瞳ちゃんを幸せにすることが出来る、現にお金を稼げるビー玉のような水晶玉を持っているのだから。
さて今晩、この牢屋から出て私と瞳ちゃんだけのユートピアを目指すんだ。
私にはユートピアを完成させることが出来る。
そして夕ご飯をもって護衛が近づいてきた。
「ほら、お前達飯の時間だ」
そう言ってじゃらじゃらと鍵をぶら下げて、やってきた。
そこで私が「あっ安井さん」と言って気を紛らわせる。
「安井さん?」
護衛は鍵をぶら下げている反対方向に目を向けた。
その隙に私は護衛の鍵を気づかれないようにそっと取った。
護衛は気がつかず、私達の前から去って行った。
護衛が鍵を無くしたことに気づく前に私と瞳ちゃんはその鍵で牢屋を開けた。
瞳ちゃんは心配そうに「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫私を信じて」
そう言って瞳ちゃんと共に牢屋から出て、階段の踊り場までたどり着いた。
そして階段を降りて、護衛はいないか確認した。
一階まで辿り着いて、そのドアを開けて、外を感じた。
私は外に出るのが一年ぶりで凄くすがすがしく思ってしまった。
これが外の新鮮な空気か?
そして養護施設の校庭に辿り着いて、私とみゆきちゃんは閉ざされた門を開けようと試みた。この門は護衛が落としていった鍵の中にあるとビー玉サイズの水晶玉が言っている。
そして扉を開くと、ちょうどそこには高級そうなスポーツカーが待機していた。
そのスポーツカーに乗っている者は安井と、素っ裸になった女二人組だった。
「何でお前らがここにいるんだ?」
「瞳ちゃん逃げよう」
逃げようとしても水晶玉は教えてくれる。
人間の足では車には勝てない事を。
それでも私達は全速力で走り去る。
だが車に先回りされて、私達はとらわれてしまった。
安井は片手には私の長い髪をつかみあげて、もう片方の手は瞳ちゃんの短い髪を握りしめてとらわれてしまった。
最悪の事態になってしまった。
どうして水晶玉は門の向こうの安井達の気配を察知しなかったのか私には分からなかった。
そして私は鳩尾を殴られて意識がもうろうとした。
目を覚ますとそこはとある工場の中だった。
「お目覚めかな?お嬢様」
体を動かそうとしても縄で括り付けられて、身動きが出来ない状況に立たされていた。
すると天井から明かりがついて、その明かりは瞳ちゃんが倒れた姿だった。
「瞳ちゃんをどうするつもり?」
「どうするもこうするもないよ。お前にはちょっと心に痛い目を見せてあげないといけないみたいだからな」
「それってどうゆう事?」
すると護衛達と安井は下着姿の瞳ちゃんに鞭を打つ。
「やめてよ。安井さん。脱走したことは謝るから、だから瞳ちゃんにひどいことをしないで」
「お前は俺を裏切ったんだ。お前は俺を世界の金持ちにする約束で瞳を部屋に連れて行ってあげたのにな。これはお前に対する罰だ。お前みたいな奴は、どうせ鞭を打ったってハートに来ないからな。だからこうして心に響くように瞳をたたき付けているんだよ」
このままじゃあ、瞳ちゃんは死んでしまう。
何だろう体が熱い、凄い熱を感じる。
あまりの体の熱さに耐えきれず、私は絶叫した。
そして私は縄を私から発する白い炎で焼き尽くした。




