52話
投稿遅くなってしまい、大変申し訳ないです。
こちらの都合と、刃牙に久し振りにはまってしまいここまで投稿が遅れてしまいました。
本当に申し訳ない……。
○白猿の遺跡 神殿
「フンッ!」
ペガルはそう声を上げながら、短剣を握った拳を横に振るう。
「なッ!?」
俺はそれに釣られる様に、身体もろとも振られる。
握っていては危険だと分かっていても、いきなり動かされると反射的に力強く握ってしまう。
自分の身体が宙に浮いていることを感じると直ぐに短剣から手を離す。
数秒の浮遊感の後、転がり込むかの様に地面に着地する。
「ッスー……」
体勢が整った事で安心したのか身体が空気を取り込む。
馬鹿力かよ……。
俺は睨みつける様にこちらに歩み寄ってくるペガルを見る。
ペガルの手には、先程まで俺の持っていた短剣が握られていた。
しかし決定的に違う所がある。
それは握っている場所だ。
ペガルは持ち手を握るのではなく、刃を握っていた。
だが、その手が傷ついている様子は無い。
その手は、岩の様なものへと変貌していて、とても生物のモノとは思えない程に、無骨だった。
それは彼が使っていたスキル[硬拳]によるものだろう。
効果は、文字通り拳を硬くするといった所だろうか。
[天脚]で使用出来る技の中にも似た様なものがあった。
硬くなるとは、すなわちそれだけ防御力が上がると言う事。
実際、短剣の刃が当たろうと傷の一つもついてない。
あの手で守られたら、蹴りもあまり効きそうにないな。
スキルの効果がきれるのを待ちたい所だが……。
身体強化の部類に入る[硬拳]は、他の技よりもリキャストタイムが長めに設定されている。
「咄嗟ニ手ヲハナシタカ、イイ判断ダ」
ペガルはそう言って口元を緩ませると、手に握っていた短剣を適当な場所に投げ捨てる。
短剣ははるか遠方でカンッと、軽い金属音をたてて地面に転がる。
「アノママ握ッテイレバ、地面ニ叩キツケテイタダロウ」
そう俺に向けて語る彼の手は、徐々に硬質化していたものから、元の体毛に覆われたものに戻っていく。
よし…効果がきれはじめた。
心の中でそう呟く。
もう少し……。
「随分、丁寧に教えてくれるんだな」
そう言葉を用いて時間を作ろうとする。
あと少しだけ……。
「ソウダロウカ?」
ペガルは少し苦笑いの様なものを浮かべながら、そう答える。
その仕草に少し違和感を覚えつつも、その疑念をすぐにはらう。
こんな話をされるとは思わなかったのだろう。
「あぁ、丁寧だ、ペガル……」
そう、言葉にしようとしている間に、彼の拳は元の生物らしいものへと戻る。
完全にスキルが解けていることを確認し、踏み込む足に力を込める。
「…アンタいい奴だなッ」
その言葉を口火に地面を蹴って、瞬時にペガルとの距離を詰める。
[急所打ち]を使用した短剣の振りは、何の構えも取っていない、無防備なペガルの首筋へと向けられる。
しかし、次の瞬間ペガルはその短剣の側面に合わせる様に、拳を振るっていた。
結果、首筋へと向いていた短剣はペガルの頭上と言う、見当違いの方向へとずらされる。
勢いに負け、体勢が崩れるのを耐える。
「……ッ」
身体を支えるためについた右足を軸に、ボレーシュートの要領で脇腹目掛けて、
「[剛脚]!」
左脚の蹴りをいれる。
とった!
確実に避けることはできない一撃に、心の中でそう叫ぶ。
いくら、相手がゴリラでも技の乗った蹴りを受けてダメージなしとはいかないだろ。
しかし予想に反して、ペガルは身体を向かってくる脚の方へと向けると、
「[剛拳]」
ペガルはそう呟き、左拳を俺の左脚にぶつける。
パアァァァン!!
そう弾ける様な音が鳴り、俺の足は受け止められる。
ペガルは、完全に動きを止めた俺の足を振り払う。
体勢が崩れるが、後ろに跳ぶことで体勢を整えると、俺とペガルの間に、一定の距離が取れる。
「……サテ、次ハドウスル?」
ペガルは、催促する様にそう俺に投げかける。
………。
全部止められたんだが……。
当てたと思った一撃を正面から破られ、呆然とする俺に向けて、話を続ける。
「考エル時間モ与エタ、スキル効果ガ切レルマデノ会話ニモ乗ッタ……。ソレデ?次ハ、ドウスル?」
あぁ……理解した。
どうやら最初から、全部見破られていたらしい。
先ほどの苦笑いも、俺の意図をわかっていたからなのだろう…。
ペガルにとって、完全に俺が格下と見られている事を理解させられる。
わかっていながら、それに乗って俺を試していたのか、それはなんとも……
「嫌な性格してるなぁ……」
……これ勝てるのか?
心の中にそんな弱音が生まれる。
前準備の不備に、こちらの攻撃手段の露呈、動き方の癖……
言い訳を考えれば、いくらでも湧いてくる。
だが、言い訳は言い訳でしか無い。
それを想定できなかった自分自身が悪い。
そんなこと考えている時間がもったいない程だ。
今大事なのは、目の前のゴリラを倒す方法を見つけること。
ペガルは、その一言に「ハッハッハッ!」と豪快に笑う。
「変ナ媚ビヲ売ラレルヨリモ、ソウ言ッテモラエル方ガ、何倍モウレシイモノダナ!」
「そういうものなのか?」
「アァ、ソウイウモノダ。美麗ナ嘘実ヨリ、醜悪ナ真実ノ方ガ、オレハスキダ」
ペガルは、そう俺に説く。
そういうものらしい。
確かに、言いたいことは分かるが……。
「俺はどちらかと言えば、自分に都合の良い嘘の方が好きだ」
その言葉と同時にペガルへ向けて、蹴りを入れてみる。
技を使用しない俺の蹴りをペガルは、腕で受け止める。
すると、ダメージが入ったのか、ペガルのHPはミリにも満たない極小の値で削れる。
それは誤差と呼べる程のものであったが、そのダメージは目の前の強敵が倒せるとロイドに理解させるには十分であった。
蜘蛛の糸にすがる様な思いだった。
実感が氷を溶かすかの様にじわじわとわいてくるなか、俺は追撃を始める。
蹴りを入れた脚を瞬時に引くと、さらに距離を詰め短剣で斬り裂く。
ペガルは腕を交差させ短剣の斬撃を受ける。
ペガルがどれほど強かろうと、今のステータスはレベル1まで落とされているのだ。
当然、その分HPも減っている。
普段なら0にも等しいそのダメージは、ジワリジワリと、ペガルのHPを削る。
「勝利トイウ、虚実ニスガルカッ」
そう声を上げると、ペガルは初めて俺に向けて、反撃の右拳を振り抜いた。
俺の身体は、これを待っていたと言わんばかりに行動しだす。
闇雲の様に見えて、確実にこちらを捉えたその一撃を左にかがむ様に避ける。
低い姿勢の状態から流れる様に蹴りを放つ。
今回は、さっきのように防がれる前に当てることだけを意識して、蹴りの速度を上げる技を使う。
「[瞬脚]」
そう言って、刹那の速度で振られる脚は、見事にペガルの腹部へと届く。
ドゴォッ!と少し鈍い音がすると、ペガルの体が地面から浮かび、少し後方へと飛ばされる。
そして少し遅れて、「カハッ!」とペガルが血反吐を吐くと、こちらに向けて好戦的な瞳を向けてくる。
その瞳から、こちらに対する嫌悪感を感じないことに少し、違和感を感じつつ。
「形勢逆転だ」
俺は、ペガルに向けてそう言い放つ。




