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50話




○白猿の遺跡 神殿


脳内アナウンスを合図に俺は速度を上げ飛び出す事で、2匹との距離を一気に詰める。


第一の試練で俺の能力は粗方出し切っている状態。


しかもアマルガムに関しては俺と一度戦闘している。


見ていただけのペガルよりも俺の戦い方は理解しているだろう。


既に後手に回ってしまっている状態でこれ以上後手に回りたくは無い。


俺は短剣を逆手に構え直しながら、見た目から動きの遅そうなアマルガムの方へと動く。


アマルガムもそれを理解したのか1m強はある大盾を構える事でそれに対応しようとしている様だ。


アマルガムの巨体からすれば少し大きめの盾ほどにしか見えないが、俺の短剣の攻撃を受けるには少々過剰と言えるものだった。


「……ッ、デカいな……」


だが、デカいならデカいなりに使いようはある。


そう考えると、俺は止まる事なく速度を上げていく。


俺は距離をつめ、大盾にかぶる事でアマルガムの視界から消える。





その速度を上げながら、接近してくるロイドを振り払うかの様にアマルガムは、大盾を持っている腕を振る。


「……ッ!」


しかし、そこには手応えもなく、かと言って先程までアマルガムへ向けて突っ込んできていたロイドも見当たらない。


ロイドを探すためにもその巨体を動かし、周りを見渡す。


巨体であることが災いし、その動きは重々しいものだった。


それぞれの腕を担当する意思達からロイドを見失った事に対する苛立ちの様な信号が送られてくる。


どうして見失ったとでも言いたいのだろう、しかし、今の彼らには言葉を発するための器官がなく、その発することのできない言葉は、感情という名の信号でおぼろげな状態で伝わってくる。


おかしな話である。


盾を使用して、守ろうとしたのは大盾を持った腕であり、他の腕を担当する意思達もそれに賛同していた。


そして、それを実行した結果、標的であるロイドを見失ってしまったのだ。


確かに身体の大部分を制御しているのは彼なのだろうが、今回の事について彼を咎めるのはお門違いと言うものだろう。


彼自身も他の意思達の身勝手な意見に対して、罵声を浴びせてやりたい所だったが、それをグッと堪える。


今はそれどころでは無い。


他の意思達の飛ばしてくる愚痴を無視しながら、スキルを使用し、ロイドを探す事に意識を向ける。


何処にいる?


そして、そのスキルに直ぐ反応が返ってくる。


その反応は彼の背後から短剣を首筋に向け薙ごうとしており、まさしく命を刈り取ろうとしている最中だった。


それに気づくや否や彼はは、1番近い長剣を持った腕を操る意思に向けて呼びかける。


それに対して、長剣持ちの腕は直ぐに行動し出す。


ロイドの薙ぐ短剣を受け止める様、首と短剣の間に長剣を動かす。


ロイドもまさか止められるとは思わなかったのだろう。


目の前に割り込んできた長剣を見て目を見開く。


長剣が邪魔に入った事でロイドの短剣は勢いをなくし、ロイド自身も一瞬空中で動きを止める。


勿論そのチャンスをアマルガムが見逃すわけもなく、身体自体を振り向かせながら腕を振る。


振り向く事でさらに勢いを持った武器達がロイド目掛けて振り抜かれる。


その武器の一つ一つにスキルを使用した際のエフェクトが付いている。


ロイドは我に帰ると何も無い空間を蹴り、その攻撃の全てをかわそうとするが、その武器の全てが異常な程にリーチが長く、短剣で受けようとするのでロイドごとそのまま弾き飛ばす。


ガキンッ!!


アマルガムはそのハッキリとした手応えに思わず口元を緩めてしまう。


そして、ロイドが叩きつけられた事で土煙が立ち上っている方へと"体勢を崩した巨体"を立て直させると向ける。





「……ッ、ミスったな…」


まるで背後が見えていたみたいだ。


メニューから取り出したポーションを飲みながら、土煙が覆う中そう呟く。


気配を消したロイドが現れた瞬間には、既にあの腕は動いていた。


おそらくあれが[並行意思]によるものなのだろう。


俺を見失った時の慌てようからは思えないほどの冷静な対処だった。


あれがそうで確定だろう。


それに、ヴァーニアがヒヨッコと表した意味も大体理解できた気がする。


あの身体はまだ統率のとれていない状態だ。


あの慌て具合を見るとそう考えられる。


先程の攻撃もそうだ。


それぞれの腕が各々の意思でスキルを使用していたせいか、本来の能力が生かされていなかった。


結果、俺を弾くだけで終わってしまっていた。


完全に指揮が取れていれば、既に追い討ちの一つでもかけられていただろう。


ポーションを飲み終え、短剣を構え直す。


一つ気になるところがあるとすれば、ペガルが全く動かなかった事だろう。


アマルガムの視覚から消えた後、ペガルの事にも注意を払っていたが、直立しこちらを観察したまま動く気配すら見せなかった。


コチラの動きを観察する事に徹しているのだろうか?


単に動かなかっただけだろうか?


考えれば考えるほど出てくるな……。


「まぁ…邪魔に入らないのなら、それはそれで嬉しいが」


そう呟いていると、舞っていた砂ぼこりがおさまってくる。


薄らとしていた巨猿の姿がハッキリとしてくる。


その目は、ハッキリと俺を捉えており、まさに獲物を狙う獣の目というものに相応しい、今から始まる戦闘に対して爛々と輝かせていた。


それを確認するとともに俺は、もう一度アマルガムとの距離を詰めるために走り出す。


すると、それを阻止するためか盾を持った腕の無い、右腕側の武器が振られる。


一つの腕が速度を上げるスキルを、一つの腕が威力を上げるスキルを、最後の腕が飛ぶ斬撃のスキルを使用する。


しかし、速度を上げるスキルを使用した腕に引っ張られ他の腕の武器は的外れの方向へ振られる。


それによって、斬撃は明後日の方向と飛んで行き、ある武器は地面を叩き割る。


結果、俺の元へと届いた一つの腕以外の攻撃が外れてしまう。


俺はその一撃をかわすと、その腕に右手に持っていた短剣を突き刺し、そのまま腕を駆けるかたちで腕を裂きながら距離を詰める。


「グギイィィッ!」


アマルガムは腕を伝う焼ける様な痛みにそう悲鳴を上げ、表情を歪ませる。


短剣を突き刺し肩へと到達したところで、左手に持っていた短剣を逆手に構え直す。


突き刺した短剣を握った右腕を軸とし、勢いよく身体を回転させると、アマルガムの顔面目掛けて逆手に構えた短剣を勢いよく振る。


弧を描く様に振られた短剣から顔を逸らす事で、無理矢理避けるが……


「ガアアァァァァア!!」


ズプリと音を立ててアマルガムの左目へと突き刺さる。


そうして、広い神殿内にアマルガムの悲鳴が響き渡る。

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