48話
本当に遅くなってしまい申し訳ありません
○白猿の遺跡 神殿
神殿が揺れる程の雄叫びは、余韻を残しながら神殿を飛び出していく。
あまりの爆音に観客の猿達の中には何匹か失神しかけていたものすらいた。
しかし、不思議なことにその音以外近くにいた俺にはそこまで影響はなかった。
その音も耳を塞いでいたおかげかそれほど負担がかかったわけでもない。
レベル差で影響力の変わるなんらかのスキルでも使ったのか?
先程の雄叫びで体調を崩していた猿達はレベルが俺よりも低いのだろう。
そして影響を受けていないもの達は俺と同じくらいかそれ以上のレベル、もしくは、そういったスキルに耐性を持っているかだな。
手前の席の猿は殆どが影響を受けているようだが後ろの方になるにつれその数は減っていっている。
強さで座席の位置とか変わるのか。
単に距離的な影響の差かもしれないが見たところ後ろの方の猿達の方が体格がいいらしいところを見るとその考えで間違いないらしい。
そこまで周りの確認をしたところでまた視線をアマルガムに戻す。
その身体は、先程確認した様に名付けられる前よりも一回りほど大きくなっており、ボス特有の威圧感の様なオーラが感じられる。
まだ少し大きめに見えていた武具達も、今の状態ではそれぞれが片手持ちのものと言われても遜色ないほどだ。
俺はすかさずアマルガム向けて[鑑定]をかける。
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名前:アマルガム
歪猿LV.67
モンスター:中立
称号【多腕の巨猿】【混ざり合った者達】【戦闘を望みし者達】【渇望する者達】【技神の眷属】【試練の獣】
スキル[戦技][剛力][並行意思][歪猿の咆哮][気配希釈][気配探知][???]
加護【???】
複数の猿種の魔物が混ぜられたことによってできた存在。
不安定な器が名付けられたことで完全な姿として生まれ変わった。
結合された魂は複数の意思を持つ。
3対の腕には様々な武器を持っており[戦技]使用し相手を翻弄する。
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………。
色々言いたいところだが…。
俺は目の前のアマルガムと表示されている鑑定結果を見ながら考える。
ここまで称号とスキルを持ってるやつは初めてだ。
称号とスキル合わせて12個か、今までで一番多く持っていたのはデムの合計7個……スキルの数だけなら今まで会った敵の中で一番多い……。
スキルは7匹のスキルを全部集めた結果みたいな感じだ。
称号はその殆どに【〜者達】とついていることを考えると元々は無かったのだろう。
一部、今の[鑑定]では確認できないものがあることが少し気がかりだが、最後の一つの[???]スキルはともかく加護に関してはヴァーニアの【技神の加護】だろう。
[鑑定]に昇華したおかげかデムの時とは違い結構細部まで分かったな。
フレーバーテキストに書かれていることもおおよそヴァーニアの話と違いない。
レベルに関しても、ボスとして生まれてすぐということもあってか67と、俺とあまり変わらない。
デムのレベルは確認できてなかったが住人達の噂では70を超えていたらしい。
そう考えると、よく俺はデムに勝てたな……。
そう意地の悪い笑みを浮かべるウサギについて思い返す。
実際、【大物狩り】でステータス的な差を埋めていた所に[餓狼の矜恃]で後押ししたおかげでようやく倒せたと言っても過言ではない。
しかし今回は完全に装備依存。
基礎ステータスが低いのでそれらが加わったところで誤差程度の差しか変わらない。
「幸いなのは、相手も初期ステータスってところだが……」
スキル構成を見たところ合体した今でもSTR型らしい。
AGIがあまり高くないことを祈るだけだな。
「どうだ、生物として整ったわしの新たな眷属は」
俺がそんなことを考えながらアマルガムを観ているとヴァーニアが問いかけてくる。
「どうだも何も、猿らしさが少なすぎるんだが……」
「何を言っているどこからどう見ようが猿種であろう。長くしなやかな尻尾、全身を覆うさほど長くない体毛、掴むことに特化した手足……。多腕であること以外あまり変わらんだろう」
「その三つ以外に猿である根拠が見当たらないの間違いじゃないのか……。3mはありそうな巨体にほぼ人間の様な顔、長すぎない腕、異常なほど綺麗な二足での直立。猿と言うより猿人の類だ」
「そのような事を言われてもなぁ……。猿種である条件を満たしておる。それを言うたら、もう1匹の方はそれこそ猿種らしさが足りん」
「もう1匹……」
「第二の試練では、二枠設けておったからな。当然もう1匹おる」
「アマルガムだけでも十分な気がするんだが……」
「カッカッカッ、確かにこやつはわしの名付けによって力を得たがまだまだヒヨッコよ…」
そう言ってまた「カッカッカッ」と笑って見せる。
その猿神の言葉を確認するために俺は横にいるアマルガムに視線を向ける。
何度見ようとやはりそこには体高3mはありそうな6本腕の巨猿がいる。
これがヒヨッコに見えるのか?
フレンド達が同じことを言い出したら俺は間違いなく眼科で診療してもらう事を勧めるだろう。
それに加えてもう1匹いるとまで言い出した。
どう考えても過剰戦力が過ぎるんじゃないか?
俺のそんな疑問に答えるかの如くヴァーニアは話し出す。
「試練と言うものは難題を越えるもの。それがわしら神の試練となれば無理難題になろうとおかしくなかろう」
「自分でそこまで言うのか……」
「それはそうだろう。試練が簡単とあっては笑い事では済まされん」
「簡単であって何が試練だ」と言いながらヴァーニアはこちらに視線を向けてくる。
それがこっちの常識なのかは知らないが、たしかに試練と言うものが簡単であると言うのもおかしな話ではある。
そう考えればヴァーニアの話にも一理ある。
……あるのか?
俺はそう、試練と言うものについて考えているともう一つ話の中のもう1匹の猿について気になってしまった。
第二の試練に使われるくらいだ相当な強さなんだろう。
それこそヴァーニアがヒヨッコと言うアマルガムよりも。
そして、ヴァーニアはアマルガムよりも猿らしさがないって言ってたな……。
俺の目線は自然とアマルガムの方へと向く。
「こいつより猿らしくないとかもはや猿じゃないだろ……」
その言葉に反応しアマルガムは頭を傾げる。
その仕草にますます人間味が増してしまう。
俺はヴァーニアの方に視線を戻すともう一人について問いかける。
「そのもう1匹の方は出てこないのか」
「それもそうだなロイド。お主も準備もできているようだ」
そう言い確認をとるとおそらく観客席にいるであろうその相手に向けて声をかける。
「出番だペガル」
そうヴァーニアの声かけが聞こえるとそれに答えるかのように観客席から黒い影飛び出してくる。
そしてすぐにそれはフィールド上にドカーンという音を立てて降り立つ。
勢いよく降り立った黒いそれにより周囲には砂埃が舞う。
煙の中でも異常な存在感を放つそれから視線を外さないように注視する。
少しずつ舞い上がったホコリが落ち着き始め徐々にペガルと呼ばれた黒い存在が見え始める。
全身を黒色の体毛で覆われ、ドワーフを思わせる様なずんぐりとした体型だが、その体高は1.8m程でずんぐりと表すのは適切ではないのかもしれない。
ペガルは着地した際に前傾になった身体を起こすとその丸太のような腕を振り、交互に胸に当てることで音を鳴らし、俺を見据えながら口を開く。
「オレノ名ハ"ペガル・シュラーゲン"!我ラガ神、猿神ヴァーニア様ノ命二ヨリ人間オマエ二試練ヲ課スモノダッ!!」
黒い存在ペガルがそう名乗りを上げ、今度は「ウオォォォォォ!!」と雄叫びを上げながら自身の胸を叩き音を鳴らす。
俺はそのいきなりの出来事に驚き、一瞬反応が遅れてしまい固まってしまう。
それはペガルが少し聞き取りづらくはあるものの人語を喋った事にではない。
確かに人語を話していることに少し驚きはしたがヴァーニアが喋っていたせいか、それ程までの驚きではなかった。
それよりももっと先にペガルの姿を見た時点でそう発せざるを得なかった。
驚きが少しおさまってきたところで俺は叫んでしまう。
「完ッ全ッにゴリラじゃないかッ!!」




