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47話




○白猿の遺跡 神殿


「わしの眷属をいとも簡単に倒してしまうとは、さすがは天技を納めし者というところか」


ヴァーニアは嬉しそうにそう告げる。


そこには眷属を殺されたことに対する恨みの様な感情はなく、心から嬉しがっている様だ。


俺はヴァーニアのその態度に少しムッとするが、それを言葉にすることはなく抑える。


しかし、ヴァーニアはそんな俺の表情から俺の考えを察したのか続ける。


「わしとて眷属の死は悲しきものだ」


彼はそういうが、彼の表情に喜びというものが見えてしまい、とても軽薄なものに感じてしまう。


「そんな風には見えないが」


流石の態度に少し尖った言い方をしてしまう。


そんな俺の敵意のこもった言葉に少し引っ掛かりを覚えたのか、少し悩む様な仕草を見せると何かを察したかの様に頷く。


「わしの言葉足らずだった様だな。わしが悲しむのは領域外での眷属の死の事だ」

「それはどういう……」

「何、領域内はわしの手中と同義。死などどうとでもなる」


そう言うと俺のいる方へ手をかざす。


何かするのかと俺は反射的に身構える。


しかしすぐにそれは必要ない事だと理解する。


俺の周りに七柱の光の柱が出来上がる。


神々しく輝くそれの根元には先程まで俺と戦闘を行っていた猿たちの死体がある。


状況が理解できずその状態で呆けていると、光の柱は周囲に飛び散っていた猿の残骸や血液を吸収しながらその光を徐々に大きくしていく。


風のようなものが起こるのだが、不思議と埃が舞ったりすることは無い。


「ほう…相分かった。お主らのそのいきを買おう」


いきなり手をかざした状態でヴァーニアはそう静かにこぼす。


そして変化はすぐに訪れる。


七柱だった柱が一箇所に集まり重なり合う。


そしてそれは猿だったものを全て飲み込むと柱の光は爆発するかのように輝く。


「……ッ!」


俺は腕で目を覆うようにして光に対応する。


光の爆発により巻き起こる風が俺の体にぶつかりながら過ぎていく。


しばらくの間、続いたかと思うといつの間にかピタリとそれらはやむ。


そうして治ったことを感じた俺は恐る恐る顔を覆っていた腕を下ろす。


「なっ!」


腕を下ろしたことで目に入ってきたその目の前の存在に対してそう声を上げる。


そこに居たのは体高2mを超えるほどの巨猿。


茶褐色の体毛に覆われた筋骨隆々なそのからだには余分な肉が全く無いのか血管が浮き出ておりドクドクと一定のリズムで波打っている。


猿というよりも人を思わせるその顔は知性を感じさせるが、その口元から覗かせる鋭く尖った犬歯から野生生物特有の獰猛さと言うものを思わせる。


しかし俺が声を上げた理由はそれでは無い。


厳密に言えばそれらのことも含むのかもしれないがそれを抑えるほどにそれは異質であり異形だった。


目の前の巨猿には3対もの屈強な腕が生えておりその一つ一つにそれぞれ武器を握っている。


ある腕には戦斧をある腕には戦鎚、そして残りの4本にも斧槍、大剣、長剣、大楯を持っていた。


それらの武器は元々猿たちの使用していたものをより大きく、強力にしたものだった。


「ガアアァァァァアアッ!!」


巨猿はその屈強な6本の腕を伸ばし、ドラを鳴らすような雄叫びをあげる。


その叫びは、大気をビリビリと鳴らし神殿中に響き渡る。


反響する叫びが鳴り止んだ頃にヴァーニアが口を開く。


「こんな風に元どおりに戻せる」

「全然元通りじゃない!!」


ヴァーニアが平然とした態度でそう告げるが、確実にと言うかどこからどう見ても違う。


猿であること以外の共通点が少なすぎる。


と言うか、猿であるかも疑わしい……。


俺は目の前にいる巨猿を見ながら疑念を抱く。


そこにヴァーニアが俺の疑念に対し答えるかのように話し出す。


「いや、お主ともう一度殺り合いたいらしくてな。第二の試練の枠が余っておったが、流石に7匹全員を出すわけにもいかん」


ヴァーニアがわざとらしくやれやれと言うように首を振ってみせる。


「そこでこやつらからの案で、一つの生物として生まれ変わらせてほしいと言う事でな。こやつらの意思を汲んだ結果こうなっただけで、本来ならば綺麗に元どおりになる」


そう言いながら顎に手を当てる。


少し言い訳のように聞こえたのは気のせいだろうか……。


「……これって元通りに戻せるのか?」

「わしには無理だな」

「は?」

「わしが成せるのは"技"を使用した物質同士の合成だけ。それらを取り分けるのは"魔"の得意とする分野であり"技"ではない」

「混ぜることができるなら、分けることもできるんじゃないのか?」

「確かに肉体と言う器を分けることはできるが、混ざり合った魂を分けるのは、それこそ黒の阿保や緑蛇の娘でなくてはできんよ。神とて万能ではないのだ」

「……そこの猿はこの事は?」

「勿論了承済みだ」


それを確認するかのように俺は巨猿の方を見るが、それに対してコクリと小さく頷くことで返答してくる。


結構しっかりとした自我があるようだ。


先程雄叫びを上げた者とは思えないほどに知性的な姿に少し驚きを覚える。


しかしよく見るとその額からは大粒の汗を流しており何もしていないのにまるで先程まで走り回っていたかのようだ。


だが彼の変化はそれだけに留まらず次第に「ハァハァ…」と呼吸が乱れ始める。


流石におかしいと思い、俺はヴァーニアの方へ視線を向ける。


「やはり、七つの魂を入れるには器が小さかったか……」

「失敗したってことか?」

「何を言っておるわしが失敗などするはずがなかろう。最初からこうなる事は理解していた」

「だったら、なんで猿達をくっつけたんだ!」

「何を熱くなっておるのだ。理解していると言うたろうが、対策を用意しておるに決まっとろう」


そう言うとヴァーニアは、手を片膝をついて荒々しく呼吸を繰り返している巨猿に向けて手をかざす。


わしの名の下に名も無き眷属よ、お主にこの名を授けよう"アマルガム"』


その言葉を皮切りに巨猿の身体が輝き出す。


まばゆい光の中で巨猿の身体が膨らんでいるのがわかる。


そして、ある程度膨らんだところでその体から放たれていた光が光柱の時のように爆発し、その光が辺りにばら撒かれる。


「これでこやつらは、晴れて一つになった」


ここまでがヴァーニアの狙いだったようだ。


巨猿、アマルガムはひとまわりほど大きくなった自身の体を確認すると、もう一度先程のように雄叫びをあげる。


ーーゴガアアァァァァァア!!


それは最早、生物の声帯から発せられるものではなく一種の爆音とかしていた。


《※緊急事態》

《ユニークボスモンスター:【多腕の巨猿アマルガム】が誕生しました》


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