46話
○白猿の遺跡 神殿
「………ッ!」
こいついつの間にッ!
俺はいきなり目の前に現れた直剣持ちの猿に驚き動きが止まる。
「[アーアー]!」
そうやって驚いているのもつかの間、大槌を持った猿が俺に向かってその大槌を振り上げ、そう声を出しながら振り下ろす。
「まずいッ!」
俺そう叫びながら思考を巡らせる。
いきなり現れた直剣の猿に意識を集中させ過ぎて、大槌による追撃を忘れてしまっていた。
今のステータスでは[思考時間延長]もなんら役に立たないだろう。
猿の大槌がロイドに当たるまで1秒もない。
流石にロイドもたった1秒の間に考えを巡らせることなどできるはずがない。
その上でロイドの出した答えは……。
考える時間がないなら考えなければいい。
そう答えを出し、ロイドは考える事を放棄した。
そして、目の前に迫る脅威に対して、脊髄反射的に行動をし出す。
迫り来る大槌を見据え、自分の上にある物体狙う為に体を少し仰け反らせると、前回[空蹴り]を使用した時の様に[天脚]を介して技を使用する。
その技の名前は[剛脚]。
[蹴技]のスキルを取得すると最初に使える様になる技である。
その能力は単純でただ蹴りの威力を上げるというものだ。
しかし、ただ単純であるが故にその威力は計り知れない。
まぁ、要するに……。
「脳筋って事だ!」
俺はそう言い放つと迫ってくる大槌に向けて蹴りを放つ。
ガキイィィィイン!!
そんな鈍い金属音が神殿内に鳴り響き、俺の放った蹴りは猿の大槌を蹴り飛ばす。
蹴りの威力があまりにも高く、大槌を弾いた後に残った余力により俺の体が浮かび上がる。
俺は空間を足場にし、宙に浮いた体を立て直すと武器を弾かれた事で体勢を崩してしまっている猿に向けて空中を蹴る事で体を進める。
猿は大槌を力強く握っていたことによりその腕ごと弾かれており、今は大きく万歳をした状態になっている。
俺はがら空きの胴体に入り込むとその猿の喉に向け短剣を薙ぐ。
すると喉が裂けることで鮮血が舞う。
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数4/7》
猿は大槌に振られるまま背中からバタリと倒れる。
俺残りの3匹を倒すためにも直剣持ちの猿たちの方へ振り返ると、力強く地面を蹴り接近する。
そこに文字通り横槍を入れてくる槍持ちの猿。
俺はこの攻撃を短剣で受け流し、攻撃対象をその槍持ちの猿に変える。
受け流した力を原動力として、体を一回転させ槍持ちに接近する。
それを阻止しようとする直剣と斧の猿が近づいてきているのが見えるが、俺の方が速い。
速度を落とす事なく回転しその勢いのままに短剣を振るう。
スパパパッ!と心地いい音が鳴り槍持ちの首が飛び、首がなくなった事で動力を失った胴体が傷口からスプリンクラーの様に血を吐き出しながら、力無く地面に倒れこむ。
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数5/7》
わぁ、スプラッタの出来上がりだ。
死体がなくならない事を完全に忘れてしまっていた。
ちなみにこう言った血液や傷口の描写は設定からモザイクだったり、光やそれこそ血液に関しては粒子に変えることもできる。
俺は変えてないがな……。
設定が面倒臭いと言うだけで後回しにしていたツケが回ってきた感じだな。
俺がそんな事を考えていると残った2匹の猿たちが俺に向けて攻撃を加えてくる。
斧による一撃を体をそらす事で避けると、
「[アーアー]!!」
そう声が聞こえ、直剣持ちによる斬撃が飛んでくる。
飛ぶ斬撃とか、デム以来だな……。
俺はその斬撃を短剣を使用し受けてみる。
流石に全ての威力を殺しきる事はできずズザザザッ!音を立てて後方へと押されてしまう。
「……ッ」
HPが少し削れたか……。
俺は直剣持ちの猿を睨む様に見据える。
猿は手応えありと見たのか、その顔に笑みを浮かべる。
「オゥオゥ!アー!」
そう叫んだかと思うと、斧持ちの猿が一度コクリと頷き、
「[アーアー]!」
そう叫び俺に向かって斧を叩きつける。
後ろに飛ぶ事でこれを簡単に避ける。
しかし、俺の避けた斧は地面を叩き割り、そのまま真っ直ぐに数メートルほど地面が割れ俺の足場がなくなる。
これを狙ってたのか……。
「[アーアー オゥ]!!」
そんな事を考えていると、そう声をあげ俺に向けて猿が数回直剣を振るう。
それに合わせて、複数の斬撃が俺を取り囲む様に飛んでくる。
「なるほど」
足場のない場所なら避けきれないと思ったか……。
俺は直剣を持った猿に目を向ける。
彼の顔に浮かんだ勝利を確信したかの様な笑みを見るにその考えで間違い無い様だ。
確かに空中と言う避けようがない状態で先程受けきる事ができなかった斬撃が複数飛んできているのだ無理だと思われるのかもしれない。
そうなのだろうが……。
「少し、俺をなめすぎだ」
俺は空中を蹴る事で一つ目の斬撃を避けると飛んできた二つ目の斬撃を短剣を使って軽くいなす。
斬撃をいなした事で斬撃同士がぶつかり合いパアァァァン!と音を立てて相殺される。
最後に飛んできた斬撃に向けて二本の短剣をぶつける事で打ち消す。
そうやって斬撃を全て対応すると、呆けてしまっている直剣持ちの猿を尻目に斧持ちの猿に接近する。
斧持ちもこちらに向けて斧を振るうがそれよりも早く懐に潜り込むとその首に向けて短剣を振るうと、スパッと心地いい音が鳴る。
返り血が俺にかかる中、猿が力無く倒れこもうとする途中で猿の手に持っている斧を奪い取る。
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数6/7》
そうシステムの音声が脳内を流れる中、手に持った斧を装備することもなく大きく振りかぶると[投擲]のスキルを使用し、未だに状況が理解しきれていない直剣持ちの猿に向けて斧を投げつける。
そして、投げつけるとともに俺も猿に向けて走り出す。
「アーアー!」
猿は少し慌てながらも飛んできた斧をその直剣で振り払う。
「お前で最後だ」
斧を振り払ったことで、がら空きになってしまった胴体に飛び込むとその勢いのまま短剣で心臓を一突きにする。
突いた短剣を引き抜いたことでドバドバと大量の血液が吹き出す。
「グギャッ!」
そう叫び血を吐く。
猿は剣を振るおうと腕に力を入れようとするが彼の腕はそれに応える事はなく力無くだらりと垂れ下がる。
それに呼応するかの様に足に力が入らなくなり膝をつくとそのままバタリと地面に倒れる。
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数7/7》
《第一の試練:闘猿の条件を達成しました》
そう試練のクリアを告げるシステムの音声が流れる。
「少し、やり過ぎたか…」
そうぽつりと俺が呟いたのと同時に観客席からの割れんばかりの歓声が鳴り響く。
「うるさッ!」
それは先程まで静かだった神殿内では異常なほどに響きにその差から俺は思わず手で耳を覆う。
そんな状態が少し続いたかと思うと今度は神座の方からヴァーニアの声が聞こえてくる。
「よくぞ第一の試練をこえたなロイドよ」
そう俺に告げる、ヴァーニアはその顔に笑みを浮かべた。




