45話
○白猿の遺跡 神殿
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数1/7》
そう脳内にアナウンスの音声が流れる。
さっきの一撃で倒しきることができたようだ。
蹴りの威力が高いのか、レベルダウンの所為でHPが激減しているか……。
どちらによるものかによって次の試練での戦い方が変わってくる。
蹴りが強いのならこれからも多用していきたいところだが、ただ猿のHPが低かっただけなら蹴りだけじゃ足りなくなってくる。
予想通り、[空蹴り]スキルを使用せずとも何も無い空間を蹴ることもできたし、気になるところなんだが、今はそれよりもこっちの方が気になる。
俺は未だに消えない猿の死体に目を移す。
そう"消えない"のだ。
今まで首を斬ろうが、その身体を燃やされようが更には猿と同じように骨を折ろうと。
例外なく、倒した魔物たちは粒子へと変換されて、空へ消えていっていた。
スライムの時のように勝手に相手が自滅したわけでも無く、俺が確実にとどめを刺した。
なのにも関わらず足元の猿の死体が一向に消えない事が気になってしょうがない。
「このフィールドに何かあるのか?」
俺は白猿の遺跡という場所のフィールド効果なのだと考える。
一応ヴァーニアの領域?という場所らしいので、敵を倒してもその死体が消えなくなるくらいの効果はありそうだ。
しかしそう考えると、プレイヤーはどうなるのだろう。
やっぱりプレイヤーの死体も残ったりするのだろうか?
そうなるとまたここを訪れた時に俺の死体はまだそこに存在するって事だよな。
その場合、装備やアイテムはどうなるんだ?
魔物やNPCからのkillの場合、デスペナルティによる数時間のステータス低下のみだが、プレイヤーによるkill、PKの場合は所持している装備やアイテムの中からランダムでPKer、PKを行なった相手に奪われてしまう。
前者の状態なら俺の死体から装備品は無くなるという事だから俺の死体は装備を全て外した裸の状態でその場に倒れていることになるのだが……。
………。
装備を剥がされインナーだけの状態で横たわっている俺が脳裏をよぎる。
「シュールすぎるだろ…」
プレイヤーが存在するのにその場にそのプレイヤーの死体が存在するなど、流石にそんなことはないはず……。
大方、プレイヤーが神殿等でリスポーンすればプレイヤーの死体は消滅するのだろう。
そう考えをまとめる。
まぁ、その辺りは試練の後にヴァーニアに聞けば良い。
今まず考えるべきは目の前の試練だ。
俺は今だにハッキリと状況を飲み込めず呆然としている残りの猿たち方へ体を向け、次は短剣を逆手に構えると、重心を前に頭の重さを利用するように倒れこむと利き足である右足を一歩目として
踏み出し、その勢いのまま二歩目、三歩目と蹴った足が伸びた時、足の先から頭までが一直線になる様地面を蹴り、身体を前へ進める。
猿たちは俺が動き出したことに気付くとそれぞれが各々の武器を構える。
俺は短剣を構えている猿に近づき、首筋向け走り抜ける様に自身の短剣を振るう。
スパッと音がなり俺の短剣は猿の首を搔き切る。
カランッ
猿は手に持っていた短剣を落とし、開いた手で急ぐ様にパックリと裂けた自身の喉を抑える様に手を当てるが、首から溢れ出る血は一向に止まることはなく、足元には自身の血によって真っ赤な水たまりが出来上がる。
「カヒュッ…」
そう声帯を通さない声が漏れるとバタリと音を立てて血溜まりの中に倒れこむ。
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数2/7》
俺は血溜まりの中に落ちている猿の持っていた短剣を拾うと[鑑定]をかける。
闘猿の短剣
290/340 評価☆☆
+補正:ATK100
−補正:重量3
評価が2にもかかわらず必要ステータスが無くステータスに左右されない様だ。
俺でも使えそうだな……。
そう考えるとすぐに装備する。
人が持つ様に作られていないのか手持ちの部分が少し握りづらくなっているが、そんな些細なことには構わず短剣を構える。
しかしそんな事をしていると、他の猿たちが動き出す。
槍を持っている猿が突きを、斧を持っている猿が俺の頭をカチ割らんと振りかぶり、また同じ様に頭をカチ割らんと大槌を持った猿が飛びかかってくる。
いきなり3匹の猿からの攻撃を受けるが、俺その場を後ろに飛びそれを回避する。
だがそこにすかさず最初に攻撃を仕掛けてきた胸に真新しい傷のついた猿が追い打ちをかける様に両手剣を俺に向けて横に薙ぐ。
力強く振られたその両手剣、ツヴァイヘンダーはブンッと風を切る音を立てると、その場に風が起こる。
俺はそれを上に飛ぶ事で避ける。
しかし、猿はそれを狙っていたかの様にニヤリと笑みを浮かべると、
「[アーアー]!!」
そう声をあげ先程横に振りかぶった両手剣を力ずくで軌道を変え、上にいる俺に向けて振り上げる。
その振りは先程まで猿が振るっていたものよりも格段に速く、当たれば確実に致命傷になるものだった。
完全に予想外の行動ではあったがそれでも俺の方が速い。
俺は宙を蹴り振られている両手剣を避けると、そのまま地面に着地。
ザンっと音を立てて猿の両腕を左右の短剣により切断する。
両手剣を握っていた両腕が切られた事で振り上げられた剣はその勢いのまま上空に飛んで行ってしまう。
猿は状況を飲み込めず少しの間惚けていたが、自身の腕がなくなったことに気づくと、
「ギャア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア!!」
そう叫び声を上げる。
いきなりの大声に驚きながらも上を見上げ確認すると俺はすかさず、猿の両足の腱を斬る。
バランスを取れなくなった猿がその場で仰向けに倒れる。
倒れたことによって我を取り戻したのかどうにか身体を起こそうとするも腕もなければ足も使えない。
「オゥオゥ!アーアー!!」
俺に対してそう叫んでいるが俺には猿語がわからないので何を言っているのかわからない。
それに……。
「這ってでもその場から逃げるのをお勧めする」
「アー?」
猿の方も俺の言ったことが理解できなかったのか「何?」とでも言った様な顔だ。
そんな事をしている間に俺の言葉の答えが空から降ってくる。
ザシュッ!!
「ガァッ!!」
猿の手から離れ、宙を舞っていたツヴァイヘンダーが一直線に落下し、地に伏していた猿の心臓に突き刺さる。
猿は少しの間、剣を抜こうと手を動かしていたが両手とも失ってしまっており掴むことすらできず、少しずつ力を失っていきバタリと手が地面に倒れる。
《対象の討伐を確認しました》
《第一の試練:闘猿の討伐が進行します。討伐数3/7》
やっと3匹目、残り4匹。
俺は残りの猿たちの方に向き直る。
そして、残った猿たちを確認する。
槍と斧に大槌、あともう1匹は……。
そこまで数えて視界内にいないことに気付き、周りを見渡すが見当たらない。
……潜伏系か?
鹿の時のこともあるのでほっとくこともできない、どうにかして探し出したいんだが……。
そんな事を考えていると槍持ちの猿が突きを入れてくる。
俺はそれを難なくかわし短剣による反撃を入れようとするが、それを阻む様に斧持ちが攻撃を入れてくる。
もう一度反撃をしようとするが今度は大槌が攻撃をしてくる。
槍、斧、大槌で交互に攻撃する事で隙を作らないようにしたらしい。
そんな事をしていてはそちらも攻撃できないだろうに……。
だが、実際ロイド自身もそのせいで攻めきれない状態であった。
「どうにか流れを変えたいところだが……」
一匹でも倒せれば後は楽だろう。
しかしそうなるとどれを狙うかになってくる。
大振りの大槌の時にがら空きの胴体を狙う様にするか、槍の戦いづらい近距離まで詰めるか、それとも斧で地面を割らせたところを狙うか……。
猿たちは、あいも変わらず槍、斧、大槌の順番で攻撃を加えてくる。
速度の速い槍が次に来るであろう大槌の時は、手の出しようがないが、大槌は振り下ろされるまで少しの猶予があるのを考えると斧持ちを狙うべきだろう。
そう言った審議の結果、斧持ちの猿を狙うことに決定する。
そう考えている間に槍を使う猿が俺に突きを仕掛けてくるのでそれを横にずれて躱すと、狙いである斧持ちの猿が俺に向けてその両手で握りしめている斧を振るう。
俺はそれを避けると共に全力で猿との距離を詰め、短剣をその猿の首筋めがけて振るが。
ガキイィィィイン!!
だがそう音を立てて、その短剣は猿の首に届くことはなく何かに阻まれ手前で止まってしまう。
そこには無骨な直剣を持った猿がおり、それが俺の短剣の行方を遮った物の正体だった。




