42話
○白猿の遺跡
《白猿の遺跡に入りました》
《※フィールド:白猿の遺跡内で獲得した経験値は、種族レベルには反映されず、代わりに職業、スキルレベル経験値は100%上昇します》
《※フィールド:白猿の遺跡内では、ステータスは種族レベル1の際のステータスまで落ちます》
《※尚、スキルや装備品による補正はそのままです》
《あなたが、フィールド:白猿の遺跡 発見者です》
《未開拓フィールド発見報酬 称号【開拓者】を取得しました》
《称号【白猿の謎を解きし者】を取得しました》
システムの音声が流れる。
それを待っていた言うかのごとく体がズシリと重くなるのを感じる。
………。
いきなり起こった現象に理解が及ばず、全く言葉が出ない。
鹿の群れ、濃い霧、遺跡と言う怒涛の三連コンボに対応すべく、頭を回す。
さっきの霧がここにくるための移動手段?と言う事なのだろう。
「白猿の遺跡と言う名前を聞く限り、ここが目的の場所で間違い無いようだし…」
俺は周りを見渡しながらそう呟く。
地面には所々、見え隠れする石畳が敷かれており、両脇には等間隔になるように円柱状の石柱が建てられている。
それらはそのほとんどがひび割れていたり、苔生していたり、中でも石柱に関しては半ばあたりから折れてしまっているものもあり、見るだけでこの場所が随分と古くに造られたものである事がわかる。
視界に入る範囲のものの確認を終えると、次はステータスの確認をする。
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名前:ロイド LV.60
職業:魔法使い LV.26
種族:人間
性別:男
HP 100
MP 100
STR 10
VIT 10
INT 10
MIND 10
AGI 216
DEX 10
LUK 10
称号
【導き手の友】【大物狩り】【歴戦討伐者】【餓狼狩り】【試練を超えし者】【理より外れし者】【北の森の覇者】【兎の天敵】【開拓者】【白猿の謎を解きし者】
スキル
・心得 極意
【盗賊の極意 LV.Max】【餓狼の矜持 LV.Max】【魔法使いの心得 LV.5】
・戦闘
物理
【短剣術 LV.29】【体術 LV.29】【急所打ち LV.25】【二刀流 LV.18】【天脚 LV.Max】
魔法
【火魔法 LV.3】【影魔法 LV.7】【水魔法 LV.4】【風魔法 LV.3】【土魔法LV.1】
・鑑定 隠蔽
【鑑定 LV.8】【隠蔽 Lv.16】
・生産
【調薬 LV.1】
・強化
【敏捷強化 LV.31】【器用強化 LV.31】
・技術
【歩行術 LV.31】【回避 LV.20】【投擲 LV.7】【盗む LV.1】【鍵開け LV.1】【気配希釈 LV.17】【気配感知 LV.17】【魔力操作 LV.6】【魔法効率 LV.6】【思考時間延長 LV.1】
・耐性
【麻痺耐性 LV.1】【睡眠耐性 LV.1】【毒耐性 LV.10】【打撃耐性 LV.1】【熱耐性 LV.5】
・その他
【地図 LV.Max】
加護
【冥神の加護(小)】
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AGI以外が初期値のステータスであるところを見ると本当にスキルや装備品の補正によるもの以外が初期化されているようだ。
先ほど感じた重みはステータスの低下による肉体感覚の変化なのだろう。
AGIが微妙に高い状態なのは[空渡りの靴]によるものだったはずだ。
そう考えるとここに来るときはもっと装備をちゃんとしたものにするべきだったか?
「流石にこのステータスで戦うのはきついよな……」
今更ながら装備を後回しにしすぎたことを後悔してしまう。
アーインスの街にあった装備屋で適当な装備一式でもかっとけばよかったな……。
前準備をしなさすぎたな…どうにかして一回戻って準備の一つでもしたいところなんだが…。
遺跡に入ることはできたが出る方法が分からない状態だ。
俺はメニューを操作してせめて武器だけでも装備しようとするが、
「オイオイ、まじかよ……」
[バルカンの短刀]を装備しようとするが装備枠にセットできず弾かれてしまう。
「必要ステータスが足りないとか…」
そう必要ステータスが足りて無いのだ。
[バルカンの短刀]の必要ステータスはSTRが45、DEXが250であるのに対して、今の俺のステータスはその両方が初期値である10なので装備できるはずがない。
結果装備できた武器は[初心者盗賊の短剣]だけと言う事になってしまう。
心許ないが、無いよりはマシだろうと言う事で装備はしておく。
装備し終わると俺は一応もう一度周りを見渡すが全くと言って見覚えの無いところだ。
再確認した事により漠然としたものが、より一層ハッキリとしてしまい悲観する。
書き記すならもっと詳しく書けよ!
何も考えずに着の身着のまま、遺跡に向かった自分を棚に上げ、俺は心の中で獣神について書いた書物の筆者に対してそう悪態を吐く。
だが、ずっと落ち込んでいてもいけないので、「はぁ……」と深いため息をつくと、
「せっかく遺跡に入れたんだ…。今回は死んでもいいって事で、進むかぁ」
そう言いながら少し重めの足を俺は遺跡の方へ進める。
石畳ということもありトントントンと少し高めの足音がなり風と木々の揺れる音しか聞こえない遺跡にそれがとても大きく感じる。
異様に響く足音に少しの戸惑いを覚えながらも、俺が歩みを進めていく。
遺跡の奥に進むにつれて装飾などが増えていき、塔が建てられていたり、水路が引かれていたりとどんどんと文明的になっていく。
だがその大半が木々や蔓などに侵食されていることもあり、全体的に緑の印象を受ける。
水路を流れる水と木々の間からの木漏れ日も相待って神秘的な空間となっていた。
その空間はとても心地よく、このゲームを始めてここまで五感がリアルで嬉しいのは今日がはじめだろう。
まぁ、神を祀った遺跡で神秘的と言うのも当たり前なものである気もするが……。
やはりこういった場所には神のオーラ的なものが溜まったりするものなのだろうか?
ちょっとした疑問を抱きつつ、俺はまっすぐと遺跡の中央に向かって進んでいく。
すると直ぐに大きな階段が見えてくる。
長い年月により劣化し、苔生した石製の階段を上っていくとそこにはさっきまで見ていたは石柱の何倍もあろう太さの柱によって支えられた巨大な神殿が建っていた。
「でかいな…」
その異常な大きさに最初に出てきた言葉がそれだった。
俺は「ふぅ…」と一度呼吸を整え神殿に入るためその巨大な門向かって進む。
巨大な門の両端にはまるでこの門を守護するかのように、槍を持った巨大な石像が鎮座しており、その石像たちの視線がこちらに向いているかのように錯覚してしまう。
いきなりあの槍振りかざしてきたりしないよな…。
そういった緊張感の中俺は歩みを進める。
神殿内部は先程までのように木々や蔓などに侵食されているわけでわなく一変して、未だに掃除されているかのように美しく保たれていた。
そしてその中心部にはおよそ神殿ではありえない、まるで闘技場かのような場所が広がっており、周りには観客席などまで設置されていた。
どう言うことか門から一直線に伸びた道は一切観客席に向かうことなく、闘技場に向かって伸びている。
しん、と静まり返った神殿の中俺がそのまま前に進んでいると、
「久方振りの客人に気を高ぶらせ」
前方からそう聞こえてくる。
「すでに天技の一つを修めた者と聞き、気を急かしたと言うのに」
その声には心なしか落胆を感じる。
その声に惹かれるように顔を向け俺は目を見開く。
「だと言うのになんだ、あぁ…臭う、臭うはあの阿保犬の臭いが…」
それはただ白く、神々しく……
「非常に不愉快だ」
美しい白猿が神座にて座していた。




