39話
○路地裏
大男は瓦礫を退け、外套の人物を荷物の様に肩に担ぐ。
そしてこちらに向き直る。
「あー…そのなんだ…さっきのは…」
大男がそこまで言いかけると、
「コッチの方から爆発音が鳴ったぞ!!」
「暇してる奴ら全員集めてこい!」
「「は!」」
そんな声が背後から聞こえてくる。
すっかり荒れきった路地裏の中にダッダッダッ!っと数人の足音が聞こえる。
「チッ…衛兵共が気付きやがったな。少し派手にやりすぎたか…」
大男は声と足音の聞こえた方向見ながらそう愚痴をこぼすと、俺に声をかける。
「お前もついてこい、さっきまでの詫びも兼ねて招いてやる」
「はぁ?お前何を言って…」
「まぁ、衛兵共に変に目ぇつけられてぇんならそれでいいがな」
「……ッ!」
……確かに、変に目をつけられてカルマ値が−になるよりはいいのか?
俺がそんなことを考えている間にも、じわじわと足音が近づいてくる。
大男は俺を急かす様に声を出す。
「さっさとしろ、すぐそこまで来てやがるぞ」
「わかった、わかったから!付いて行く!」
俺は苦し紛れにそう答える。
大男はその答えに満足したのか、扉の方に向き直り外套の人物を肩に担いだまま歩き出す。
俺は少しの戸惑いを覚えながらも、大男の後をついていく。
◆
大男は鋼鉄の扉を開け中に入ると俺にも入る様に促す。
俺は大男に促されるまま中に入ると大男は扉を閉める様にと言う。
鋼鉄の扉は思っていたよも重く。
動かそうとしてもスムーズに動くことはなく少しずつキイィィィイと音立てながら閉まる。
締め終わる際、先程までいた場所に複数の衛兵が走ってきているのが見えた。
扉を閉め終わり、大男の方に向き直るとそこは真っ直ぐに続く廊下だった。
その両脇に扉が等間隔に並んでおりそこがそれぞれ部屋になっている様だ。
扉の横にはランタンがかけられておりどのランタンにも光が灯ってないところを見ると、俺たちが入って来るまで使われていなかったことがわかる。
廊下は暗く奥の方は全く見えない状態で、手前だけは辛うじて見える程度だった。
流石にこのままじゃ不便な気がするが……。
俺がそんなことを考えていると、大男は近くの壁に手を当て押し込むと、何もなかった壁が押し込まれ、中からケースが現れる。
大男は胸元のポケットから取り出した魔石をそのケースの中に入れ、ケースを閉める。
するとケースはまた壁の中に戻っていき、押し込まれた壁が戻ってくと、廊下に付いているランタンに光が灯る。
「おー…」
こうやって一斉に光がついていくのを見るのは結構楽しいな。
結構近未来的な、場面に出くわし自然と感嘆の声が漏れてしまう。
「そんなに珍しいか…?」
大男は俺の反応が気になったのかそんな疑問を投げかけて来る。
「いや、珍しいわけじゃなく、凄いと思って」
と返し、大男の後をついて歩く。
大男は少し歩いて数個目の扉の前で止まり、扉を開け無雑作に中に入る。
扉は大男に合わせられてないのか、その大柄な体と比べると小さく見えてしまう。
そんな所を通るという事で、担いでいた外套の人物が顔面を壁に打ち付ける。
「……ッ!!」
顔を強打したことにより気を失っていた外套の人物が目を覚まし声にならない叫びを上げる。
そんな事はつゆ知らず大男は部屋の中に入ると担いでいた外套の人物をソファに寝かせる。
部屋の中は、ローテーブルを中心に二人がけのソファが一つと一人がけのソファが二つあり、他に適当なパイプ椅子が並べられていて、壁には地図や、何かの文字が書かれた紙、絵画が乱雑に貼られていた。
俺は部屋の中を見渡す。
大男はそこで頭を抑えているのを目にして初めて外套の人物が起きていることに気づく。
「お、起きたのか……。てっ、なんで頭抑えてるんだ」
「……ッ!」
外套の人物が大男に向けて非難の目を向けていることが外套越しでもわかる。
大男はそのことを気にも止めずソファに腰を下ろすと俺にも目の前のソファに座る様に催促する。
俺がソファに座ると大男が話し出す。
「ひと段落ついたな…まぁ、まだ外は犬共が歩き回ってるがな」
そう考えると、俺この後どうすればいいんだろうか……。
衛兵たちが外を歩き回ってるから外に出ることもできない。
そうなって来ると必然的にこの大男のアジトで時間潰すことになるんだが……。
俺はもう一度部屋の中を見渡す。
「はぁ…」
「なんだ、この部屋に文句でもあんのか?」
「この部屋暇つぶしできる様なものはあるのか?」
「はぁ?」
俺の疑問に大男がそう眉を寄せてそう返事を返す。
だって、外の衛兵たちが居なくなるまで外出れなくなってしまうなら、何か暇つぶし必要だよな。
やっぱり時間潰すならなんか適当なテーブルゲーム辺りとかあると嬉しいんだが……。
見た感じ、それっぽいのが見当たらないしありそうにもないよなぁ。
俺は目の前の大男を見ながらそんなことを考えてしまう。
流石に何もしないで時間を過ごしたくもないし…。
と言うか、
「おれはあんたの名前も知らないんだが……」
「あぁ、確かに聞かれもしなかったし、話してなかったな…」
大男は深く腰掛けていた体を前に起こすと、話し出す。
「ゼオンだ。傭兵に暗殺、情報屋、まぁ…色々やってる何でも屋みたいなもんだ」
そう言って目の前の大男、ゼオンは握手を求める様に手を差し出す。
物騒すぎるだろ、その自己紹介…。
俺の視線は握手を求めるゼオンの手と顔をなんども行き来する。
そのまま、握りつぶしたりしないだろうな…。
俺は少し戸惑ったがそれに答えゼオンの手を握る。
「俺はロイド、さっき言った通り異邦人で、最近こっちに来たばっかりだ」
そう言いながら握手する。
握りつぶされることもなく握手も終わり、緊張が解ける。
そうやって二人で挨拶をしていると、二人がけのソファからゴソゴソと音を立てて起き上がる音が聞こえて来と、
「私の事を完全に忘れてないか……?」
そんな声が聞こえて来る。




