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38話




○路地裏


大男は俺に向けて拳を振るう。


その一撃一撃がかするだけでも俺のHPを全て持って行きそうなほどの威力を持っている。


「……ッ!」


武器を取り出したのはいいが、全く使うことができないと言うより、受けることもできないので邪魔になるくらいだ。


少しはひらけているが所詮は路地裏なのでそこまで広くはない。


逃げ回ってるせいで荒れまくってるけど…。


辺りは俺の避けたの大男の拳が壁や地面に当たってできた穴だらけになっていた。


ただ穴が開くだけではなく拳の当たった場所から蜘蛛の巣状に抉れるので、壁も地面も荒れに荒れまくっている。


「アルブトーラムかよ…」


その惨状を目の前にアルブトーラム戦との既視感を感じる。


アルブトーラムよりも小さいからこのくらいで済んでるが、同じサイズだったらチュートリアルの時のアルブトーラムよりも酷い事になってそうだな。


地面が荒れた事によって足場が不安定になってくる。


「足場が悪くなって来たな…」


大男がそう言いながら、首に手を当てコキコキとならす。


鳴らし終わるともう一度構え直し、その強面な顔のままこちらを睨む様に見据える。


その一瞬のうちに両手の武器をメニューの中にしまう。


すると大男は俺のその行動をどう捉えたのか、その強面な顔には怒りが見える。


「俺に武器を使うまでもないか…」

「えっ……」

「本当にお前らの様な天才は、俺たちの様な凡人をバカにしやがって……!」

「違う!俺はただ!」

「力尽くで潰してやる!」


そう言うと大男の身体から蒸気が上がり、彼の周りに陽炎が起こる。


力を込めている事によってか、その額と拳には血管が浮かび上がる。


「[縮地改]」


大男は、音もなく一瞬で俺との距離を詰める。


「……ッ!」


いきなり目の前のに現れた大男に驚き体勢を崩してしまう。


そんな俺を追い詰めるかの様に大男は攻撃を開始する。


「[拳武:壊]」


そうスキルの名前を発すると、大男は俺目掛けて拳を振りかざす。


その攻撃は今までの様なただ拳を力任せに振っていた様なものではなく、ちゃんとした技と呼べるものであった。


しかし、大男の拳はピタリと止まる。


すんでのところで、[思考時間延長]の発動に成功し、ロイドの思考以外が完全に止まった世界が出来上がる。


当たれば即死であろうその技を前に俺は頭を回転させ、どうにか避ける方法を探る。


[天脚]のおかげで蹴りによる攻撃が強化されてはいるが、目の前の攻撃に対抗できるだけの威力はあるだろうか……。


いや威力だけを見れば確実に相手側の方が高いはずだ。


下手に競り合って火力負けすれば、防御に全く降ってない俺なんて確死だよな…。


流石にここは安全策を取るべきか…。


回避系のスキル全部使って悪くてもかする程度にするべきだ。


考えた結果、自分の使用できるスキルを全部使用して、回避だけに専念する事になる。


[思考時間延長]のスキルが解け、時間が動き出すと俺は次の回避用のスキルを発動させ足に力を込める。


[天脚]のスキルがあるので足場が悪いのなんて気にせず、ただ目の前の攻撃を避けるために空中を足場にして宙を力強く蹴る。


体勢を崩したままの回避だったこともあり、受け身を取りながら数メートル離れた場所に転げる。


ズガアァァァアン!!


回避直後にそんなけたたましいがなり響く。


俺の頭上を瓦礫が越していき、目の前の壁にぶつかっていく。


[風除け]のスキルのおかげで風の影響は全くウケない状態だが、砂埃が上がっているところを見ると大男の攻撃で風が巻き起こってる用だ。


そしてその大男の方に目を向ける。


そこにはまるで小規模の隕石でも落ちて来たかの様なクレーターができており、その中心でスキンヘッドの大男が佇んでいた。


「完全に虚をついた筈なんだが…」


大男はまた首をコキコキと鳴らしながらそんなことを言っている。


流石に威力が頭おかしいだろ…。


直撃せずともさっきの飛んでた瓦礫に当たるだけでも死ぬよな……。


「一応リスポーン位置はこの街の宿屋になってるから、大丈夫だろうが…万が一の時が不味いよな」

「…ん?」


俺のそんな言葉に大男が反応する。


大男は俺のことを睨むと、


「お前、異邦人か…?」


いきなりそんなことを聞いてくる。


いきなりそんなことを言い出すものだから、何か隙をついてしようとしているのか疑ってしまう。


だが大男にはそんな考えはない様なので、俺は普通に答える。


「そうだが…」


そう答え、俺は少し構える。


すると大男は、「はぁ……」と大きなため息を吐きながら頭を抱える。


「やめだ、やめ。これ以上やり合う意味がない」

「は、はぁ…」

「異邦人は何度も生き返るんだろ……変に敵対意識取られても面倒だ。俺は面倒なのは嫌いなんだよ」


頭を掻きながらそう話す。


その姿にはさっきまでの戦闘中の怒りは見えず、本当にただ俺と敵対関係になるのが面倒くさく思っている様だ。


大男は今更我に帰り、周りの惨状を目の当たりにすると、


「あぁ…散らかしちまったな扉からでてすぐだってのに……」


大男がそう言って、近くに散らばっている瓦礫を動かしていると


「……お前のこと忘れてたな」


瓦礫の中から目を回して倒れている外套君が見つかった。

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