37話
ほんと、申し訳ないです
○路地裏
大男がそう言葉を発すると男たちは そのにやけた顔を歪める。
「死ぬのはテメェだ!オッサン!」
「武器も持ってねぇ奴が何ほざきやがる!素手で何をするってんだ!」
そう叫びながら大男に向かって短剣を振り上げ斬りかかる。
だが大男はそれに反応することなく腰を落とし、その場に構えたままだ。
男たちの振りかざした短剣は、それぞれ頭と腕に向かっていきーーー
キイィィン!
大男に当たったかと思うとそんな甲高い金属音が路地裏に鳴り響く。
振り抜かれるはずだった短剣がピタリと動きを止める。
「「は?」」
大男の肉体により阻まれピタリとも動かなくなった自身の短剣を見ながら、二人はそんな声を上げる。
二人が呆然としていると、大男が動く。
大男はその短剣を払い除け、表情を変えることなく片方の頭を鷲掴みすると少し持ち上げ握りつぶす。
二人組みの片割れの頭が果実の様に弾け、鮮血の液体が周囲に飛び散る。
握りつぶした大男はその惨状に眉ひとつ動かさずことなく、もう一人の方を見る。
「ヒッ…!」
人を殺すことに全く感情の動きを見せないその表情に男はそう小さく悲鳴をこぼす。
男はドンッと腰を抜かしその場に倒れてしまう。
体が小刻みに震え、どうにか逃げようと手足をもがいているが全くその場から動けていない。
その姿には数秒前までのヘラヘラとしたものはなく、どうにかしてその場から逃げようと精一杯足掻いていて、逃げること以外考えられない様だ。
大男は全くそれを気にすることなく、近づいていく。
「ヒッ…バ、バケモノッ!」
男のその言葉に大男が動きを止める。
「化け物だと……俺がか?」
「お、お前以外に誰がいるんだッ!この化け物が!」
男が目の前の大男に向けてそんな罵声を飛ばし続ける。
「なんで短剣の刃が通らないんだッ!ありえないだろ!」
男はそう喚き散らす。
その言葉に大男は全く表情を変えることなく言い放つ。
「俺が化け物な訳がない。お前らがただ弱すぎただけで俺が特別強いわけじゃねぇ」
「そ、そんなわけ…」
「お前ごときの見て来た世界で、世界を語るんじゃねぇよ。ただ俺の方がレベルが高くて、お前らのレベルの方が低かっただけだ。レベルと言う世界の理の前には俺たちは無力なんだよ」
何かを悟ったかの様な雰囲気を保ちながら大男はそう語る。
「だがなぁ…たまにそんな神の作った理すらも凌駕する奴らが出て来やがる。化け物って言うのはそんな奴らのこと言うんだよ」
大男はそんな事を言いながら、男に向けて拳を振り上げる。
「た、たのむから、助けて…」
「そんなことするはずがないだろ、最初に言ったはずだ」
男の命乞いに対してそう答えると振り上げた拳を男の顔面に向けて放つ。
「や、やめッ!」
「ここで死んでいけとな」
大男の拳により、男の顔面が粉々に破壊され弾け飛ぶ。
男の体が力を失い、上半身すらも地面に倒れる。
大男は返り血により真っ赤に染まった拳を振り、手に付いた地を振り払う。
路地には外套と大男の二人の人物と二つの首のない死体だけが血だまりの中に残った。
◆
「嘘だろ…」
目の前で起こった出来事にその一言しかでない。
あの大男どんだけレベル高いんだ…。
レベルが低いとはいえ、短剣による攻撃をガードする事なくダメージなしで耐えるVITに、殴るだけで頭を破壊するSTR分かりやすい物理型だが……。
俺は大男を見ながら考察する。
二つを重点的に振っていると見ても相当レベル高いよな…頭の破壊はスキルによるものか?
それとも、やはり普通にレベルが高いのか…?
そんな事を考えていると、大男が声を上げる。
「お前も、サッサっと出てこい!」
その言葉に考えていたことが一瞬で飛ぶ。
ビクッと体が跳ねるほど驚き、大男の方に目を向けるとあちらはこっちをにらんでいる状態だった。
やっぱ気づいてんじゃん…。
俺は観念して[気配希釈]などのスキルを解いて大男の前に姿をあらわす。
うわー…デケェ…。
俺は今まで生きて来て自分より背の高い人に会ったことがなく、初めて自分の身長を超える人物に会って素直にそう思う。
俺が大男を見ながらそんな事を考えていると大男の方から話を切り出す。
「で、お前は何の用だ。さっきのやつらとは違う様だが……」
大男は俺を睨みつけながらそう聞いてくる。
洋画とか見てて思うが、こういうスキンヘッドの大男が睨むだけで何というか……凄みがあるな。
「いや、特に用という用はないな…。強いて言うなら街中の探索中に路地に入っていく外套君を見かけたから面白そうだと思ってな……」
俺は素直に答える。
だって、あんな街中でそんな外套被った人がスキル使って隠れて路地裏入ってたら普通付いていこうとするだろ。
そんな俺の答えに呆れたのか大男が眉間にしわを寄せ頭を抱える。
「はぁ…普通面白そうなんて理由で、路地裏に入る奴がいるか……」
「いるだろここに」
「お前バカだろ。さっきの俺を見てながら逃げないところを見ても、そうとしか考えられない」
バカとは心外だ。
俺はただ普通に返答しただけだろ。
「お前はあいつらと同じ匂いがするな…」
誰なんだろうあいつらって。
とはいえ、
「あんたと知り合いって時点でろくな奴じゃなさそうだな」
「そう言う事を気にせず初対面の俺に言ってるあたりがそっくりだ。信仰してるわけでもないのに神に好かれている……」
大男はそう言いながら首を鳴らしながら俺を見据え腰を落とし構える。
「俺の嫌いな人種だ」
「……ッ!」
大男は構え終わると、足場を踏み砕き俺との距離を一気に詰め、その丸太の様な腕を大きく振り俺目掛けて拳を振る。
唐突な攻撃に俺一瞬反応が遅れるが、AGIに降っていたことが功を制しなんとか避けることができた。
大男は振りかざした拳をそのままに目だけをこちらに向ける。
「避けるな」
「普通避けるだろ…いや避けないはずがない」
「大丈夫だ変に避けなければ一撃で終わる。痛みは無い」
「いやそう言う話じゃ無いだろ…」
なら死のう、とかなるはずないだろ普通。
俺はいきなりの事に、頭が追いつかない中俺は短剣と短刀をメニューから取り出す。




