34話
○第二の街アーインス 宿屋
黒炎くんPKから2日後の夕方、仕事帰りにそのままログインする。
ログアウト時に宿で休んでいたので、今回はヌールの街の神殿ではなく、この間到着した第二の街アーインスの宿屋にスポーンする。
この宿ちゃんと予約していないと、スポーン地点設定されなかったりする。
要するに、次ログインする時の分まで宿代を払わないといけない。
今回の俺のような場合は、どのくらいログインできないかわかっていたので少し多めにゲーム内二週間分くらいは、払っておいてよかった。
今日は、俺1人なので特に何も考えず自由に行動できる。
取り敢えず、ベッドに腰掛け持っているアイテム整理から行う。
前回までの戦闘で集まった中で気になるアイテムを上げると三つある。
・空渡りの靴
・武術指南書:蹴兎
・装飾石
他は、そのほとんどが素材なのでどのようなものなのかが大体わかる。
「まずは、[空渡りの靴]からか…」
俺はそう零しながらも、[鑑定]をかけていく。
空渡りの靴
4150/4150 評価☆☆☆☆☆☆☆
+補正:AGI200 DEF400 MDEF640 空蹴り 風切り
−補正:重量2
スキル
[空蹴り]
効果:空中を蹴れるようになる。
[風切り]
効果:風の影響を受け付けなくなる。
おぉ…。
「何というかまた凄いのを残して逝ったなデム……」
俺は目の前に取り出したその靴を見ながら俺はそんなことを言う。
AGI200ってのが地味に良いな…[空蹴り]に関しては、文字通りのその効果は相当なものだな。
[風切り]に関しても、風の影響を受けないのはいろいろ使いみちがあると思うが……風魔法だったりは無効化できたりするのだろうか…。
鑑定画面を見ながら、そう思う。
一応必要ステータスがある訳でもないので、そのまま[空渡りの靴]を装備しながら、俺は[武術指南書:蹴兎]を取り出し[鑑定]をかける。
武術指南書:蹴兎
評価☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
蹴兎デム・シュトーセンの武の真髄の書かれた書物。
この書物を開いたものにその武の全てを与える。
※このアイテムは、スキル[蹴り]を取得していないと使用できません。
デム…もう一回言うが…
「評価10とか…なんてもの残して逝ったんだよ…」
あまりのことにさっきと同じことをもう一度言ってしまう。
アイテムの詳細がどうのこうの以前に、評価10という事が普通に凄いんだが…。
鑑定画面を睨みながらそんなことを思う。
……というか、これ[蹴り]のスキルいるんだな…。
俺は、手に持った[武術指南書:蹴兎]を見て考える。
この手のアイテムってどうやって使用するんだ?
鑑定画面のフレーバーテキストに書いてある限りでは、ひらけば良いんだろうが。
本を開こうとするが、目の前に※貴方はこのアイテムの使用条件を満たしていません。と浮かび上がるだけで本は開かない。
このアイテムは、今は使えないようなので再びメニューに戻しておく。
そして俺は最後に[装飾石]を取り出し[鑑定]にかける。
装飾石
評価☆☆☆☆
ボス討伐時に取得できる白く輝く石。
砕いて使用する事で、装備の装飾品のスロットを一つ増やすことができる。
これは普通に嬉しいな。
手に持っている[装飾石]を砕く。
だいたいこう言った石のアイテムは砕く事で発揮するので良いのか?
メニューから<装備>のアイコンを押す。
すると三つだけだった装飾品のスロットが一つ増えて四つになっていることを確認する。
今は、器用の指輪しか装備していないが、もっと増えていくだろうから装備枠が増えるのは素直に嬉しい。
この後、[空渡りの靴]の試しも兼ねて、モンスターを狩るのも良いな。
[武術指南書:蹴兎]を使う為にも[蹴り]スキルを取得しないといけないことを思い出し、モンスター狩りをする事に決定する。
俺は、減っていたポーション等の消耗品を買い足して、街の外に向かう。
◆
街の外は、風が吹き周りの木々がざわざわと揺れる。
俺は街の外にでて少し走る。
流石に、街を出て近場で使用すると驚かれてしまうのであまり人がいない場所を探す。
歩きながら、[風切り]だけでも使用してみる。
すると先程まで肌に感じていた風が止まり、全く風を感じなくなる。
だが、あたりの木々は風に当たり揺れているようだ。
風の影響を受けないと言うだけで、いつもより早く感じる。
AGIが高くなったおかげでもあるだろうが、いつもの感覚と全く違い新鮮な感覚だ。
みるみるうちに街が見えなくなっていく。
少し走っていると、山が見えてくる。
山は大小様々な木々が生えていて、その種類も様々でいわゆる雑木林と言うものだろうか。
山を見て、そんな感想を抱きながらもその山に到着する。
俺は、少し考え、山に入るか迷いながらもなだらかな斜面に足をかけ山に入る。
まぁ…別にそんな強い奴は出てこないだろう。
一応第二の街付近のことを少しネットで調べておいたが、この山に出てくるモンスターは今の俺で倒せないレベルのモンスターは出てこない。
そう言うこともあり、俺はそのまま山の中を進む。
少し進んでいると、茂みの中から一体のモンスターが出てくる。
全身を茶色の毛皮におおい、その背には所々焦げ茶色の斑点の模様がある鹿がこちらを見ている。
その額にツノがないのをみるとメスなのだろうか。
そう思いながらも俺は[気配希釈]と、[気配感知]のスキルを発動すると、[地図]上にダダダダダッ!敵を表す赤い点が俺を囲うように現れる。
「ファッ!?」
驚いてしまい、そんな素っ頓狂な声を上げてしまうが、すぐに冷静を取り戻す。
[地図]に浮かんでいる敵対を表す赤い点を数えるだけで数十匹ほどの鹿がこちらを見ていることがわかる。
俺は、鹿たちのことを確認する為にも目の前に見えている鹿に[鑑定]をかける。
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ソードディアLV.21
モンスター:敵対
スキル[剣術][気配希釈]
額のツノが剣状に変化した鹿。
その鋭い剣状のツノで獲物を背後から斬り、殺した獲物の腹を裂き臓器を木に飾ると言う惨虐性を持っている。
メスを見かけることが多く、メスに気を取られている間に背後に回ったオスに心臓を一突きにされるらしい。
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なんか怖すぎないかこの鹿!
目の前の鹿を見ながらそう思う。
どうやってこいつらを狩ろうか…。
今回は[蹴り]スキルを覚えるのも目的の一つなので、戦闘は蹴り縛りと言うのも良いな。
そんなことを考えてしまう。
俺が少し考えていると、[地図]に載っている背後の赤い点がこちらに向かって走り出す。
俺も避けないわけにはいかないので、[回避]のスキルを使用しそれを避け、試しにその鹿の喉元に向けて蹴りを入れる。
[体術]のスキルのおかげかスルリと蹴りが入る。
するとゴキッ首の骨の折れる音がなり、鹿の首があらぬ方向に曲がってしまいそのまま地面に倒れこむとともにHPが削れていく。
そのHPがゼロになりバーが無くなると、鹿は粒子に変換される。
「これ結構いけるかもな…」
まさかのことに驚いている鹿をよそに俺はそんなこと言う。




