27話
○ヌール 北の森
俺は両手に短刀と短剣を持ち、デムを見る。
デムは、俺が武器を構えるのを見て体勢を低くし、自身も武器であるその両足に力を込める。
数秒間のにらみ合いが続き、先に静寂を破ったのは、デムだった。
まるで、ズバッと効果音が聞こえてきそうな速度で、デムが飛んでくる。
踏み込んだ地面が砕け、抉れていることから凄まじい力で地面を蹴ったことがわかる。
俺はそれに対応するために短刀を振り、飛んでくるデム目掛けて炎を出すがーーー
「…なっ!」
デムはその炎の中を、まっすぐに突っ切ってくる。
…止まらないのかッ!
まさかのデムの行動に驚き、反応できず頭突きを食らってしまう。
「…ガハッ!?」
俺はその場に膝をつく。
蹴りではなく頭突きだったお陰で、HPバーは三分の一残っている状態だった。
だが、ボディーに綺麗に決まったせいか呼吸がしづらい。
ハァハァと息を吐きながらも、体を起こし顔を上げると、ちょうどデムが足を振りかぶっている状態だった。
俺は、その場から全力で飛ぶ。
次の瞬間には、さっきまで俺の伏していた地面はデムの斬撃によって深く裂けていた。
俺はそれを確認しつつも、回復ポーションを取り出すためにメニューを操作する。
デムの攻撃を避けるためにも広場の中を駆け回る。
デムは、そんな俺を追いかける。
メニューからポーションを取り出し、飲みながら後ろを追いかけるデムを観察する。
一発でもまともなのが入れれたら終わるんだが…。
俺は中央に佇むうさぎを見ながら、そう思う。
ロイドの考えるように、これほどの激闘を繰り広げているデムであっても、所詮はうさぎ。
HP自体はそこまで高いものではない。
攻撃を当てることができるなら、10回も耐えれないだろう。
だがそれは、当てることができたならの話だ。
その証拠に、HPが半分を切って以降、ロイドは一回も攻撃を当てることができていない。
それこそデムのスピードを上回らないといけない。
◆
追いかけっこを続けても埒があかないので、戦うことにする。
と言っても距離を取られてもいけないので、一気に距離を詰めて相手の虚をついて攻める。
そう考えをまとめ、俺は急ブレーキをかけ方向転換し、デムに向かって走る。
ズサーっと足で踏みとどまったことで砂が舞う。
デムは急に距離を詰められ焦っているようで、一瞬ビクッと身体を震わせると、俺の攻撃に応えるためだろうか、足を踏み込む。
虚をつくというのは失敗したが、それに応えるように俺も短剣を振るう。
ガキイィィイン!
そんな金属がぶつかったような音が、森に響くが俺は気にすることなく短刀により、追撃を入れる。
すると、デムはこれを身体をくねらせ器用に避ける。
追撃を空振りで終わらせてしまい、少し体勢を崩しそうになるが、なんとか持ちこたえ。さらに追撃を入れていく。
ガキイィィイン!ガキイィィイン!
と森中にそんな音が響き渡る。
俺の短刀を左足で止め、短剣を横に飛ぶことで避ける。
流石にこのまま続けることもできないので、再び[薪の炎]を使用する。
徐々に熱くなっていく刀身にデムも気づいたのか、俺の攻撃を避けるようになってくる。
刀身が完全に熱を持ち炎を出しだす。
俺は短剣を足で弾いたデムに向かって、短刀を縦に振るう。
デムに向かって真っ直ぐに炎が襲う。
「真正面からくらえば、流石にきくだろ!」
俺は、短刀を振りながらそう叫ぶ。
…なんか俺、自分が悪役になった気分なんだが…。
客観的に見た今の自分を考え、そう思ってしまう。
森の中で、うさぎに向かって炎を放つ長身の男。
…うん、あんまり考えないようにしよう。
そんなことを考えている間にも、俺の放った炎がデムを襲う。
だが、デムの行動は意外なものだった。
デムは片足を上げ、まるでカンフーかのように構えると、襲いかかってくる炎に向かって蹴りを入れる。
それも一回ではなく、ズババババッ!と一瞬のうちに何十回もの蹴りを炎に向かって打ち込む。
「…は?」
あまりのことに俺はそんな情けない声を出してしまう。
そして、その蹴りによって、炎は瞬く間に消えていく。
まじかよ…蹴りで炎を消すのか?
そのことに俺が驚きを隠せず惚けていると、デムが動きだす。
俺は、一瞬で身構えるが、デムが攻撃をしてくることはなかった。
代わりにデムはこの広場を縦横無尽に飛び回る。
木の側面を足場にしたり地面を蹴って逆に木に向かって飛んだり、デムは文字通り飛び回っている。
俺は目で追うのがやっとで、いつどこから攻撃が来てもいいように構える。
するとデムは、その変則的な動きの中でこちらに向けて飛び、蹴りを入れてまた同じ動きに戻る。
俺もそれを短剣で受けながら、どうにか付いていこうとする中で、思うことがあった。
木々を使って、変則的に攻撃を入れて、当てたと思ったら、飛び回るのに戻り、また攻撃を仕掛けてくる。
これはまるで、
「さっきまでの俺の戦い方じゃないか…」
その声が聞こえたのかわからないが、飛び回るデムの口角が上がっている気がする。
反撃をしようにも行動がえらく変則的で、隙をつけない。
これやってる側は一方的で楽だったがやられる側になると、キツイな…。
俺はそんなことを考えながらもなんとか打開策はないのか頭を悩ませる。
ジリジリと減っているHPを気にしつつも考える。
流石にこのまま耐え続けるわけにもいかない。
HPもあるが…このままだとEPが足りなくなるな…。
ただ攻撃を受けるだけでも腹が減ってしまう。
HPはいざとなったらポーションをかぶるだけでもいいが、EPはちゃんと食べないといけない。
EPがこのまま減っていけば[空腹]になって格段にステータスが下がるからな。
今のステータスでついていけているが、[空腹]の状態でついていけるかわからない。
ついていけたとしても、そのまま戦い続けて[飢餓]にでもなってしまったら……ん?
「…飢餓、そうだ飢餓だ!」
俺は、いい案が思いつきそう声を上げる。
◆
デムが広場を縦横無尽に飛び回っている中、俺は短剣と短刀を構える。
例の如く、[薪の炎]は発動させた状態だ。
鉄砲玉のように飛んでくるデムを炎を使って牽制する。
まぁ…デムはなんの躊躇もなく飛び込んでくるんだが…。
だが、今回の炎はデムの視界から隠れるためだ。
俺は、炎の壁でデムがこちらを見れないうちに準備を整える。
俺は治癒ポーションを取り出し飲む。
うっ…他のポーションよりドロっとしてて、少し苦い。
HPやMPのバーの下に1:57と持続時間を表す数字が現れる。
俺のHPが5ずつ回復していくところを見ると、ちゃんと効果は出ているみたいだ。
俺がそこまで確認したところで、俺を囲っていた炎が晴れる。
炎が晴れたというより、デムによって掻き消されたというのが正しい。
デムは、片足を上げた状態でこちらを見ていた。
が、残り時間が少ないので最後の準備をすませる。
俺は、おもむろに短剣で自身の体を斬りつける。
その行動にデムも、目を見開いている。
「…ッ!」
…痛った!…流石に痛いな。
HPが減っていくのがわかる。
HPバーの色が25%を下回る、赤色に変化する。
《HPが25%を下回りました。スキル[餓狼の矜持]が発動します》
それとともに俺の周りに霧状の赤黒いオーラが立ち込める。
少しするとそれが俺の中に吸収される。
オーラが身体に入ってくることでEPが減っていき、極度の空腹、飢餓状態になる。
空腹による倦怠感と飢餓感が俺を襲う。
だが、不思議と体が軽い、まるで俺の体が俺の体じゃないみたいだ。
俺の体から、赤黒く禍々しいオーラが出てくる。
あぁ…何というか気分がいい。
俺は、デムに視線を向ける。
するとデムは、その場から全力で飛び、先ほどとは全く違うスピードで広場を飛び回る。
だかそんなデムの動きも、簡単に追える。
そこで、気付いたことがあった。
デムは、"宙を蹴って"方向転換している。
多分スキルによるものなのだろう。
変則的な動きの理由もわかったところで、俺は武器を構える。
デムは俺の背後から飛んでくる。
今のデムはさっきよりも速さも動きのキレも段違いだ。
「だが、まだ俺の方が速い!」
今の俺の方が数倍速い。
スキル[急所打ち]を使用することで振り向きざまに振った短刀の軌道が修正される。
俺の振った短刀は、炎を纏いながらデムの首に吸い込まれるように滑りこみーーー
ザンッ!
デムの首を搔き切る。
斬った場所から炎が上がり、あっという間にデムは炎に覆われる。
少しするとデムのHPが0になり、その体が粒子に変換される。
それとともに戦闘の終わりを表すレベルアップの音声が頭の中に鳴り響く。




