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26話




○ヌール 北の森


俺が呆気に取られていると、うさぎはまた飛びかかってくる。


咄嗟のことで、俺は短剣でその蹴りを受けてしまい、押し負ける。


「…ッ!」


体勢を崩しながらも、うさぎの追撃を避けるために顔を逸らす。


うさぎの蹴りは俺の顎をかすめる。


斬撃のような蹴りが顎をかすめたことで、HPが削れてしまう。


短刀を振って牽制しながら、その場から飛びのく。


HP回復ポーションを飲むために、メニューを操作するが、うさぎはそんな時間を与えてくれない。


操作しようと右手を動かそうとすると、うさぎは飛びかかってきて蹴りを入れてくる。


回避することでそれを躱し、反撃の隙を探る。


剣で受けたいが、それをするとこちらが隙を見せてしまうのでできない。


うさぎの蹴りを[跳躍]を使い木の枝に飛び移ることで避ける。


うさぎとの距離を開けることで少し休憩をする。


HP回復ポーションを飲みながら、今更ながらうさぎに[識別]のスキルを使用する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:デム・シュトーセン

蹴兎LV.?

モンスター:敵対

称号【???】【???】

スキル[蹴技][飛躍][???][???][???]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[識別]をかけるとともにスキルレベルアップを告げるアナウンスが流れる。


まさかのネームドモンスター。


デム・シュトーセン…。


俺は一度下でこちらの様子を伺っているうさぎを見て思う。


…なんだか、人間みたいな名前だな。


もう一度下にいるうさぎに目を向ける。


うさぎは鼻をひくつかせながら、耳を動かしている。


やっぱりうさぎにしか見えない。


耳と鼻を動かし周囲の警戒をしているところを見ると、目の前のうさぎデム・シュトーセン、長いのでデムはこちらが動き出すのを待っているように見える。


デムが動きを見ながら、俺は[識別]で確認したことを考える。


[識別]のレベルが足りないのか全部は見えなかったが、大体のことは知れた。


チュートリアルエリア内のアルブトーラム並みに速いことから、レベルは俺と同じか、高いくらいだろう。


チュートリアル終わって確認した時でもLV.56だったのに午前中モブ狩りや、昨日と今日の蹴りうさぎ戦の時に何回かレベル上がってた気がするんだが…。


それと同じくらいかそれ以上なら、デムのレベルは、60〜70あたりになるのか?


逆算的に目の前のうさぎのレベルを考察して、頭を抱える。


…あからさまに、この森にいていいモブじゃないだろ。


確かにこの森内の敵はレベルが初心者の街のプレイヤーにあっておらず、少なくとも挑戦する場合は、次の街でレベリングしてから挑戦することを勧められている程だ。


このうさぎに関しては、絶対にその程度のレベリングでは足りないだろう。


…こいつがこの森のボスモンスターだと言われても信じるレベルだろ。


スキルに関してもそうだ。


確認できる範囲でも、[蹴り]と[跳躍]の上位互換であろう[蹴技]と[飛躍]を持っている。


今、蹴っているところしか見てないところを見ると、まだ全力を出してないのだろう。


さらに不安になってくる。


称号の内容もわからないので、対策の立てようがない。


「はぁ…。本当、面倒臭い」


メニューから食料を取り出し、スキルで減った分のEPを補うために食べる。


[薪の炎]を使いたいが、森の中ということもあり火を使うこともできない。


うさぎ狩りの途中でレベルアップしていたので、MPは回復しているが…。


「どう頑張っても、あのうさぎの早さについていけない」


確かに、『影縫い』を使えば動きを止められるが、デムが早いのもあるがこの魔法は影の伸びる速度が遅いのだ。


さらに言うなら、全く操作できないため影はまっすぐにしか進まない。


俺は口の中のパンをジュースで流し込み、EPが回復したのを確認する。


避けるだけでも、スキルを使用しているのでEPを消費してしまう。


ポーションも今回買ってきたのは、のこりHP回復ポーション9個、MP回復ポーションはもう使い切っているので、MPに関しては使い切ったら終わりだ。


これに今回は、HP治癒ポーションというポーションを買ってきた。


店に2個しか残ってなかったので、残っている二つとも買ってきたが、これで足りるだろうか。


ポーションの効果としては、5秒に一回HPを5回復するというものだ。


これが二分間続くので、計120回復できる。


回復ポーションの方は、一本100しか回復できないので、治癒ポーションの方が回復量は多い。


持っているアイテムが尽きる前に終わらせたいが…。


「そうすると、やはり[薪の炎]は使うべきか…」


使えば炎が森に移り、自分の逃げ場もなくしそうだが、使わないと確実に勝てない。


そんなこと考えながらも俺は短刀と短剣を構え、木の枝から飛び出すためにも足に力を入れる。


俺はデムを見つめながら、力一杯踏み込みスキルを使用して一気にデムとの間を詰める。


デムはそれに答えるように俺に向けて蹴りを入れる。


俺は、デムの蹴りを短剣で受けながらも短刀で切り込む。


デムもそれに反応し、短剣で止めていた左足に力を込め、宙に浮いている状態の俺をそのまま蹴り飛ばす。


蹴られ様に短刀で斬りつけるが、せいぜいかすり傷程度の傷しかつかない。


俺は、受け身を取りすぐに立ち上がり、また構えるが、そんなことをしている間にデムは距離を詰めてくる。


蹴りを入れてくるがそれを近くの木の枝に手をかけて、体を上げることで避ける。


デムは地面を蹴って枝の上にいる俺の下まで飛んでくる。


「…ッ!」


ここまで飛んでくんのかよ!


俺は、避けるためにも隣の木に飛び移る。


デムの蹴りは空を切るが、体勢を崩すこともなく地面に着地する。


俺はデムが地面に落ちている間に、距離を取るためにさらに隣の木の枝に移る。


そしてデムが、着地したと同時にまた枝を力一杯蹴って飛び、距離を詰め今度は右手だけに短刀を持った状態ですれ違うように斬り込む。


デムは俺の短刀を足で受ける。


左手を地面について前傾姿勢だった体を起こして、そこから飛んで、木の枝を掴むと枝の上に体をあげ、また同じようにデムに向かって飛ぶ。


これを繰り返しながら、[薪の炎]を使う。


最初のうちは、軽くいなしていたデムだが、刀身が熱を持ち始めると、その顔に少しずつ苦悶の表情が浮かび始める。


徐々に刀身が赤くなり出し、炎が出始める。


流石にそうなってくると足で受け止めることが出来ず、デムは俺の攻撃を避け出す。


だが、炎によるダメージを着実に受けているようで、所々その白い体毛が焦げている。


ダメージは与えているようなので、続ける。


少しずつではあるが炎がデムのHPを削っていく。


だが、HPが半分を切ったくらいで、デムは行動を変えた。


避けるだけだったデムは、俺から距離をとって広場の真ん中に陣取る。


流石に俺もそこまで飛ぶことができない、炎も届かない位置なのでどうしようかと考えていると、


デムは足を大きく振りかぶる。


わかりやすく何かしてきそうな感じに、俺も身構える。


デムはその場で足を俺に向かって振り抜く。


すると斬撃のようなものがこちらに向かって、物凄いスピードで飛んでくる。


「なっ!!」


俺は慌てて枝を移動する。


後ろでスパッと音が聞こえたかと思うとすぐにズドン!と重い音が聞こえる。


断面を見ても、まるで機械で切ったかのように綺麗な断面で、それがデムの技がどのようなものなのかが伝わってくる。


俺がデムに目線を戻すと、また振りかぶる体制に戻っていた。


そのことに気づき、俺は直ぐに他の木に移る。


すると直ぐ後ろを斬撃が通過する。


「はぁ…、……ッ!」


俺が呼吸を整えようと息を吐いていると、まるで休ませまいとするかのように、また斬撃が飛んでくる。


木を移るが、次々と斬撃を飛ばされ破壊される。


それを続けていると、ついには移る木が無くなってしまい地面に降りる。


俺が地面に降りるとデムは斬撃による攻撃をやめる。


広場の中心でデムはまるで"これからが本番だ"というかのようにその愛らしい顔の口角を上げる。

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