18話
○ヌール 草原
魚に襲われるゲルドを救出して川辺から離れる俺たち。
ゲルドだけ攻撃を受けていたがVITに降っていたおかげかあまりHPは減っていないらしい。
…次同じ目にあった場合は、すぐに助けなくても良いのだろうか。
横でポーションを飲んでいるずぶ濡れのゲルドを見ながらそんなことを考える。
俺自身もゲルドを助けに行ったせいで濡れてしまっている。
正直、濡れた状態で動くのは結構気持ち悪いな。
服を乾かすためにも草原で休憩を取る。
「さっきの魚達の結構経験値うまかったね。職業のレベルが3も上がったよ」
「いいなぁ。私は商人やけん、戦闘では職業レベル上がらんばい」
「そのかわり物の売り買いや、取引で上がりますからね。まぁ、種族レベルの方は上がりますから、気を落とさないでください」
そう言って、エドがましゅまろにそう慰めの声をかける。
魚は数が多かったこともありレベルも上がったようだ。
「みんなはどんな感じでステ振りしてるんだ?」
「うーん、僕は今結構悩んでるところ。槍使いたいしSTRとDEXは上げときたいね」
「DEXなのかAGIの方かと思ってたが」
「いや、そっちの方も考えてたんだけど、うーん…やっぱり悩むなぁ」
「VITの方は大丈夫なのか、ロイドみたいにAGIをあげるわけじゃ無いなら防御力は大事だぞ」
「うーん…でも全体に均等に振って器用貧乏みたいなステータスになりたく無いし」
「極論、HPを気にしないのでしたら、防御面はステータスじゃなく防具に頼ってもいいですからね」
「うーん…」
アーサーも結構悩んでるようだ。
確かに、器用貧乏より何かに秀でている方がいい気がするが、それでは序盤の内が結構きついだろうな。
AGI特化の自分を棚に上げて俺はそんなことを考える。
聞いたところ、他の面々はゲルドがVITとSTR、ししゃもはSTRとINT、エドはSTRとVITとAGIの三つ、ましゅまろはLUKとDEXに振っているそうだ。
ゲルドは戦鎚を使う重戦士を目指しているらしく、「攻撃力上げて、一撃必殺の技を覚えてやるぜ!」と叫んでいた。
ししゃもは魔法も使える斧使いを目指していて、
「魔法を斧に纏わせて思いっきり地面を割りたい」と言っていたが、器用貧乏になりそうだが大丈夫だろうか。
エドに関しては騎士を目指しているそうで、如何してか聞いたら、和かな笑顔のまま「罪人相手なら殺しが許されてるんですから。こんないい仕事ないですよ」と言われた時は少し怖くなった。
少し、というか結構エドが犯罪を犯さないか心配になった。
ましゅまろは商人の道を歩むようで、そのためにLUKは上げておくそうだ。
ましゅまろ曰く、LUKをあげるとレアモンスターに遭遇しやすくなったり、ドロップ率が上がったりするらしく、商人として仕事をする場合も結構役に立つらしい。
探索の際は、ましゅまろを連れて行けば良さそうだな。
「さぁ、そろそろ休憩は終わりだね。と言うか他の敵を倒したい、さっきの動かない魚じゃ味気ないしね」
そう言って、さっきまで悩んでいたアーサーが立ち上がる。
「この辺に出てくるモンスター倒して、もう少し行けそうだったら、森の方に行ってみるか?」
「確かにそれもいいやろうけど、確実に火力不足になるよ?」
確かにステータスのほとんどをLUKに振っているましゅまろでは火力が出ないだろうが。
前衛職の他3人でもきついとなったらほんとにきついかもな。
「その場合は、全力で逃げる」
「だな」
「ですね」
「それがいいと思うぞ!」
潔すぎる仲間たち、まぁ無理に戦うより確かにそっちの方がいいだろう。
◆
小川を離れ草原の中を歩いていると[気配感知]に反応が出る。
「アーサー何かいるぞ、右奥の草陰だ」
「OKロイド、ありがとう。さぁ僕たちの次の敵は何かな?」
そう言うとアーサーは槍を構える。
反応があった方向に向かうと、そこにはチュートリアルの際にも出てきたうさぎが数匹いた。
だがこのうさぎはチュートリアルの際のうさぎと違う点が一つあった。
今回のうさぎは体に対して後ろ足が発達していて一言で表せばめちゃくちゃ足がムキムキなのだ。
うさぎは俺たちに気づくと逃げようとせず逆に俺たちに向かって飛びかかってくる。
「うおっと、すごいね足を使った攻撃を主に使ってくるみたいだ」
「確かにあの足で蹴られたら結構痛そうだ。[識別]をかけてるが、レベルが足りなくて全然わかんねー!」
アーサーとししゃもがそう考察する。
俺もうさぎに[識別]かけてみる。
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蹴りうさぎLV.5
モンスター:敵対
スキル[蹴り][跳躍]
相手を蹴ることに特化したうさぎ。
蹴ることに特化した結果、後ろ足の筋肉が発達したことにより今の姿になった。
個体によっては木を蹴り倒すものもいるとか…。
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何ともそのままなモンスターだった。
木を蹴り倒すほどの蹴りって、もはやボスモンスターの範囲だろそれ。
そんな奴がいるのなら、うさぎという種を超えている気もする。
まぁ今回出会ったのは良くも悪くも普通の個体だ、そんな木を蹴り倒す化け物というわけではない。
パーティ内で1番防御力のあるゲルドを盾役として、ヘイトを受けてもらってアーサー、ししゃも、エドが攻撃を加える。
ましゅまろにはゲルドのHPが心もとなくなってきたら、ポーションを投げつける役割だ。
ポーションは飲む場合より回復量が減るがその辺りは気にしない。
俺はというとゲルドからアーサーたちにヘイトが外れたモンスターを倒す役をしている。
MPが魚との戦いで無くなってしまったので、短剣と短刀を使って二刀流状態だ。
「[急所打ち]!」
スキル使用することで、うさぎの首に向かってするりと腕が動く。
なまじ武器が強いのでだいたい一撃で倒せる。
[盗賊の極意]のおかげで奇襲やバックアタック、[気配希釈]に補正がかかるので、結構簡単なお仕事だ。
まぁ、ゲルドか回復役のましゅまろさえ潰れなければこの形で戦えるので結構楽なのかもしれない。
だが、この辺りで狩をしているプレイヤーがあまりいないせいか、倒した側から戦闘の音を聞いてうさぎが集まってくる。
そう集まってくるのだ、戦闘という渇望に目を爛々と輝かせた状態で…。
おかしくないか!何でうさぎがこんなに好戦的なんだよ!
「だあーーー!もう!うさぎ多すぎやろ!」
「何なんこいつら、倒したら倒しただけでてくるやん!」
「確かにこれずっと続けてるとポーションが足りなくなるね。そろそろやんでほしいところだけど」
「流石に、これ以上耐えるのはいてぇぞアーサー!」
「ゲルドもこう言ってるので、少しずつ街の方に引いていきますか」
そう言って街の方に少しずつ引いていくに連れて少しずつうさぎの数が減ってくる。
◆
「これで最後!」
ししゃもが最後の1匹を斧で叩き斬る。
引きながら戦っていたせいで街門の見えるプレイヤーたちの集まっている場所まで戻っていた。
あたりはすでに暗くなって街の明かりが城壁の様な石造りの壁の向こうから漏れていた。
それでも、まだモンスターを狩っているプレイヤーは結構いるようで、そこらじゅうで魔法による爆発音や剣による甲高い音がなっている。
俺たちはうさぎとの戦いでボロボロの状態になり、ぶっ続けの戦闘で疲労がたまり、仲間たちの足取りはとて重いものになっていた。
「お腹すいた〜、屋台でもいいけんなんか食べたか〜」
「本当に疲れましたね。ギルド行って何か食べますか?」
「そうしよう。宿屋で休みたいところだけど…予約取るの忘れたし、今から行っても空いてないだろうしね」
「あのプレイヤーの数を見ればそうだろうな」
守衛の人にギルドカードを見せて街の中に入れてもらう。
ゲームの中ですらこんな疲労を感じてしまうとは…。
痛みがあったり、疲労したり、空腹を感じたりこのゲームはリアルを求めすぎだろ。
ゲーム内2日目を過ごして俺はそんな感想を抱いた。
ブックマークや評価ありがとございます。




