スプラッター
「てな訳さ」
バートンは、空になった特大ジョッキをテーブルに置き、ニヤリと白い歯を見せる。
彼の話によると、レイナが言っていた、母親を連れて行った連邦政府軍の兵士は、ナイチンゲイルの部隊に所属していて、隊長である彼女の母親を迎えに来たのだった。
ナイチンゲイルという部隊名は、私にとって聞き覚えのある部隊名だった。
ナイチンゲイルは、元々皇国陸軍の部隊であったが、皇国が敗戦した後、連邦政府軍にそのまま接収されたという。
ガトー島に送られ、第ゼロ分隊に配属される前、私は前線で敵の空爆に巻き込まれ、重度の火傷と脊椎損傷により、皇国本土に展開していたナイチンゲイルに送られ、治療を受けたことがあった。
治療は見事なもので、火傷の痕は残らず、脊椎も、身体が不随になることもなく回復し、前線へ復帰できた。
「なるほどね」
私は、残っていたワイルドターキーを一気に飲み干した。
「一緒に来てくれるか?」
バートンは、大きい瞳をこちらにじっと向け、真剣な顔で私を見つめた。
「わかった。ついていこう」
ナイチンゲイルには怪我の治療もしてもらったり、バートンにはレイナのパンケーキを奢ってもらったりと、悪い印象を抱かなかったので、バートンの話を信じることにした。
「よし来た!」
彼はそう叫ぶと、飛び跳ねるように椅子から立ち上がる。
「待って!私も連れてって!!」
レイナは、慌ててパンケーキを口に詰め込んでいて、唇の端に、パンケーキの生クリームを付けていた。
私も、吸いかけのラッキーストライクを最後に一口吸い込み、灰皿に押し当てると、席を立ちあがった。
「ちょっと待てや!!」
カウンターの方から怒鳴り声がする。
振り向くと、そこにはビートニクの男が一人、席から立ち上がり、こちらへ向かってくる。
「おい、ナギ、おめぇが皇帝をぶち殺したせいで情報を売ってやった俺はSMPに睨まれて商売どころじゃねぇんだ!どう落とし前付けてくれるんだ!!」
私は、大きな唾を飛ばしながら息巻くビートニクをしげしげと見つめ、彼が私にユウキがSMPの最高総司令官であるという情報を寄こした男であったのを思い出した。
私が舌打ちをして、コートの内ポケットからマテバを抜き出そうとした時だった。
いつの間にかバートンが私の前に出てきていて、男にその大きなグローブのような掌を広げて、平手打ちを繰り出した。
彼の平手打ちがビートニクの顔面に当たると、ビートニクの顔面ははじけ飛び、まるでスイカを叩き潰したように、血と肉がバーの床に散らばった。
「マスター、床を汚してしまってすまねぇ。俺はギャーギャー下品に騒ぐビートニクが大嫌いなんだ。掃除代とお代は、テーブルの上に置いておくからよ」
バートンは床に散らばった血と肉片を一瞥すると、ポケットから札束を取り出し、テーブルの上に置くと、静まりかえってクラプトンのコカインが流れるだけの店内を無言でまっすぐに出口の扉へと歩いていった。
大柄とはいえ、平手打ちで人の頭蓋を跡形もなくしてしまう怪力は、とても異常に思える。絶対敵に回したくはないと思った。
「ねぇ、早くついていこう?」
レイナは、私と出会ったときに抱えていた鉢植えを抱え、私のコートの袖を引っ張って上目遣いで私を見上げていた。早く母親に会いたいのと、ビートニクの死体が怖いからなのだろうか、彼女は、不安そうに私を見上げている。
「ああ」
私は、ポケットから小銭を出し、呆然と突っ立っているマスターの手に握らせると、レイナの小さい手を取り、バーを後にした。




