6 注射の練習?
なにかしらの医療番組や、漫画なんかで看護学生同士で注射の練習をするのって見たことがあると思います。
あれって半分本当で半分嘘です。
確かに看護技術の授業で採血は同級生同士でやります。でも、授業で一度採血すればそれで終わり。
上手になるまで何度も練習したりなんてしません。
それに必ず先生の指導の元で行わなければならないので、実際に初めて採血をする時には横に先生がしっかり付いています。
なので友達同士でこっそり練習するってことがまずありません。
そういったわけで、実際に採血をする時には先生の言うとおりに針を刺すだけになりますから、初めての採血はわざとでない限りはだいたいうまくできます。
「いい? ちゃんと見なさい。ここよ? ここに血管があるのがわかる? ほら触って。ここに斜めに針をあてて、そう! その角度でそのまま、そのまま針を刺して! そう、そのままもう少し、もう少し刺して! ストップ!! はい! 針を指で押さえて固定!! 内筒を引く!!」
こんな感じで、言われるがままにやる感じです。
失敗するとしたら、針を深く刺しすぎて血管貫くことぐらい。
ですが、初めて採血をするのですからへっぴり腰で、血管を貫くほど深く針を刺すこともほとんどないと思います。
ちなみに内筒ってのは、注射器の内側のピストンのことです。注射器そのものはシリンジと呼びます。
採血した血液は、血沈という検査に使います。血沈という検査も手技として習う必要があるからです。
血沈とはざっくり言うと、血液を細いガラス管にいれて、しばらく置いておくと赤血球が沈むのを見る検査です。
炎症起こしてたり貧血があったり、妊娠していても沈みます。
ついでに注射器について少々。
注射器は今ではプラスチックのもので使い捨てが当たり前ですが、昔はガラスでできていて再利用する物でした。
たぶんですが、私が学校に通い始めた当時はガラスの注射器と使い捨ての注射器が混在していたため、この使い捨ての注射器のことを略して「ディスポ」と呼んでいました。
ディスポーザーの略ですね。
「使い捨ての10シーシーの注射器持ってきて!!」
なんて叫ぶのは緊急時には向いていませんものね。
でも最近では注射器のみならず、普通に使い捨ての物品を差す意味でディスポと言うことが増えました。
「あれ? これってディスポのやつあったよね?」
なんて言ったりします。
話を戻します。病院に行った時にそのディスポの注射器を見ていただくとわかりますが、内側のピストンの部分に滑り止めの黒いゴムが使われています。
ガラスの注射器とディスポの注射器について大きな違いはここにあります。
私は初めて授業で採血をした時、ブルーシリンジという内筒がブルーのガラスでできた血沈用の注射器で採血をしました。
ゴムが付いていない注射器は、滑り止めがない状態なので少しでも傾けると勝手に内筒が動いてしまいます。
押さえるにしても少し力を入れるだけで、内容物が押し出されてしまうし、気を抜くと内筒がストーンと抜け落ちる。
私は採血よりも、この注射器の扱いにとてもてこずりました。今の注射器がすべてディスポの注射器になって正直ほっとしてます。
さて、今度は最初の話に戻しまして注射の練習の話ですが、これはもう数をこなすしかありません。
そうそう注射も種類がありますよね。筋肉注射や皮下注射、皮内注射に静脈注射、それに動脈注射。
この中で動脈注射だけは看護師はできません。簡単に言うと、出血の危険があるため医師しかできないことになってます。
なぜ危険か? それは下手に血管を傷つけるようなことがあれば、出血が止まらなくなかるらです。
あと、厳密には静脈注射も薬剤を注入するのは看護師はできません。医師の指示のもとならオーケーです。
看護師ができる注射の中で一番厄介なのはやはり静脈注射だと思います。
その中でも採血は刺しやすい場所の血管に針を入れればよいので、まだ難しくない方です。
一番厄介なのは点滴だったりします。
点滴は長時間耐えうる血管に針を刺さなければならないので、なるべく曲がってないまっすぐな弾力のある血管にしなければなりません。
ですが、病院に長くいらっしゃる患者様にはそんな血管ほとんど残されていなかったりします。
残された血管は細く、動脈硬化で逃げる、その上脆くて破ける、そしてすぐに漏れる。
そんな血管ばかりです。
今日もどこかの病院で「この人、もう血管がないんだよね……」なんて呟きながら、看護師たちがアルコール綿と留置針という特殊な針を片手に、誰かの腕や足を見つめ血眼で血管を探しているに違いないのです。




