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23 覚悟

 戦闘終結の一報が入った付与魔法ギルドからは徹夜明けの職員や付与師たちが次々と帰宅をしていた。


 勇馬も宿に戻ろうとしたところで騎士団からまたも使者が駆け込んできた。

 

 その血相を変えた表情に勇馬は嫌な予感を覚えた。




「トーマスさん、今度は一体何ですか!?」


 気になった勇馬は使者が帰るのを待ってマスタールームにいたトーマスにそう尋ねた。


「再び大量の魔物がこの街に向かって来ているらしい。騎士団からの連絡では到着時刻はおよそ5時間後とのこと。今回は義勇兵を募って戦力を補強しながらの戦闘ということで義勇兵用として4000個の武具への付与の発注だ」


「4000!?」


 今回徴収される義勇兵は一般市民1000人だという。

 一般市民は武具など持ち合わせていないため1人当たり武器・鎧・兜・盾の4つの武具が貸与されることになっている。


 数もさることながら、今回付与を求められる武具は以前騎士団が使っていた中古の武具が義勇兵に対して貸与されるという。


 ただ、古くて手入れがほとんどされていないことに加えてこれらを使う義勇兵は日ごろ戦闘をしない一般市民である。


 そのためできる限りレベルの高い付与が求められているという。


「しかし皆もう帰宅してギルドには誰も残っていませんが……」


「ああ、それはわかっているよ。しかも初中級の彼らであれば仮に残っていたとしても徹夜まで作業を続けたことによる魔力は未だ回復していないだろう。戦力としてカウントできるかどうかもわからないしね」


 トーマスが諦めた様な口調でそう答えた。


「できないことはできない。まあ、せいぜい私ができる限りのことをさせてもらってお茶を濁す程度かな。残念だけどできることとできないことがあるからね。まだ若い彼らにここで無茶をさせては身体を壊しかねない。そんなのは私の様なロートルだけで十分だ」



 この世界には魔力回復ポーションというものが存在する。


 しかし濫用すれば中毒となり、身体を壊すことにもなりかねない。


 無茶な仕事をしようとしてギルドを去ることになった付与師の話を勇馬も耳にしたことはあった。


 勇馬は考える。


 次の戦闘は義勇兵の戦力の底上げがどれだけできるかが戦局を大きく左右するだろう。


 おそらくだが自分が全力を出せば戦闘の素人である義勇兵を十分な戦力とできるレベルの高度な付与を今なら短時間で施すことができる。


 問題はそれができることを目の前のこの男に、さらにはこの発注をした辺境伯側に知られるということだけだ。



(こんなことは比べる対象にもならないよな)



 トーマスだけであれば自分のことを黙っていてもらうことはおそらくできるだろう。


 しかし今回勇馬が納めようと思っている武具については見るものが見ればそのレベルが異質なものであることは直ぐにわかるはずだ。


 そうなればおそらく自分はただの一付与師としてこのままではいられないだろう。



 ―-それでも



 勇馬は覚悟を決めた。


「トーマスさん、お話したいことがあります」








 

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