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21 神の御使い

 

「ユーマさん、いえユーマ様!」



 作業中に突然話し掛けられて勇馬は一瞬驚きの表情を浮かべた。



(しまった! 見られたか!)



 作業に集中していたため、セフィリアの動向に全く気が付くことがなかった。


 手にはマジックペンを変化させた印判を握っている。



(どうする……。と言ってもどうにもならないか……)



 勇馬が思考を巡らせていると勇馬の表情から全てを悟ったセフィリアはその場でひざまずいた。


「神の御使みつかい様。わたしくは神に信仰を捧げた者としてあなた様に生涯お仕えし、変わらない忠誠をお誓い申し上げます」


 突然セフィリアが言い出した言葉は勇馬にとってまったく意味不明なものであった。


 しかし、どう勘違いしてくれたのかどうやら自分に従ってくれるらしい。



(よくわからないが乗るしかない! このビッグウェーブに!)



「では、セフィリアさん。今日この場で見聞きしたことは決して口外しないでください。約束していただけますか?」


「勿論ですわ、御使みつかい様! 今日、この場で見聞きしたことは誰にも口外致しません。誓約致しますわ」


 聖職者の誓約は重い。


 聖職者が誓約を破るということは即ち自らの命を絶つときである。


 最低限度釘を刺しておきたいことに決着を付けることができて勇馬はほっと胸をなでおろした。


「あの、誓約をいただいたことは大変うれしいのですが何が勘違いされていませんでしょうか。御使みつかい様はちょっとやめていただけませんか?」


「なるほど、御使みつかい様は身分をお隠しになっていらっしゃるのですね。わかりました、他の方がいらっしゃるときにはユーマ様と呼ばせていただきますのでご安心下さいませ。あと、わたくしに対して敬語は一切不要ですわ!」


 セフィリアは『わたくしは全てをわかっておりますわ』という自信たっぷりな表情でそう勇馬に視線を向けた。


「はぁ」


 何を言っても聞く耳をもちそうにないセフィリアに勇馬はため息をついた。


 しかし、それであればそれとしてやりようはある。


「わかった。じゃあ、まずは俺がやった作業については全てあなたがやったことにしてくれ。そして今後も作業を続けるのでそれも全てあなたがやったことにしてもらう」


「承りました御使みつかい様。全ては御心のままに」


 セフィリアはひざまずいたままそう言うと両手を組み勇馬に祈りを捧げた。





 騎士団本部には城壁の外での様子が断続的に伝えられてくる。


「団長代理! これ以上は持ちこたえられません! 通常の武器ではあいつらとの相性が悪すぎます!」


 開戦当初用意されていた聖印の付与された武器は時間を追うごとに数を減らしていた。


 通常の武器に聖水を振り掛けて使ってはいたものの効果はそこまでではなくその聖水のストックも残りわずかとなっていた。



「追加の武器はまだか! あとどのくらいかかる!」



 そうは言うもののエリオットは現在聖教会には聖印を付与できる者は1人しかいないこと、提供ペースも1時間や2時間程度ではたかがしれていることは当然理解している。


 しかし、わずかな個数であってもすがらずにはいられなかった。



「団長代理! 追加の武器が、聖印付きの追加の武器が運ばれてきました!」


 先ほどの伝令の兵士と入れ替わりにやってきたのは付与魔法ギルドに派遣されていた伝令兵だ。


「そうか、今は1つでも前線に投入したいところだ。それでどれだけの数が用意できた」


 そうしてエリオットは伝令兵から聞いたその数に言葉を失った。


「2000……だと?」


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