17 開戦
夜明けとともに付与魔法ギルドの前には多くの軍用馬車が横付けされていた。
セフィリアや勇馬が付与を施した聖印付の武具は特に慎重に騎士団に引渡される。
それ以外の一般的な強化付与が施された武具も同時に引渡しが行われた。
並行して、個別に依頼を受けていた冒険者たちへの武具の引渡しも行われる。
夜明けとともに多くの冒険者たちが付与魔法ギルドに押し寄せているためロビーはごったがえしている。
しかし以前から冒険者に対してはある程度の付与を提供できていたことからその分駆け込み自体は思っていたほどのものにはなっていなかった。
「北門の北方2キロのところに魔物の群れが集結しています。その数約5000! 魔物の種類はいずれもアンデッドで構成されています」
今回の魔物襲撃に備えて立ち上げられた司令部に斥候兵士からの情報が伝えられた。
「数自体は当初の予測よりも下回りましたな」
「いや、油断はできん。今回の魔物の動きはどうにもこれまでのものとは違い統制がとれている。他の離れた場所に別集団があるかもしれん」
「まさかそんな……」
人間が知る魔物の常識では魔物同士が徒党を組むということはおおよそ考えられない。
あるのは個々の魔物ごとが人間に対して攻撃的行動をとるというその事実だけである。
しかし、記録によれば過去、同じように魔物が徒党を組んで人間に敵対したことがなかったわけではない。
「いずれにしても油断は禁物である。魔物の群れが城壁近くまで迫ってきたところを遠隔攻撃でダメージを与え、しかる後に掃討する」
今回の場合、籠城の選択肢はない。
魔物の大量発生で北方面の物流は完全に遮断されており、南方面からの物流も昨日から止まっている状態である。
南方面についても確認できてはいないが何らかの障害発生が疑われており継続的な物資の補給の確信が持てない状態にある。
物資はある程度の備えがあるとはいえ街の住民全体に十分なものがあるとはいえない。
そもそも籠城は他の場所からの援軍を宛てにできるのが前提である。
しかしアミュール王国東北部の辺境伯領への応援についてはどれほど期待が持てるかは未知数である。
まず、国境を接する隣国のラムダ公国は論外である。
決して関係が悪いわけではないが応援を受け入れた場合にはラムダ公国兵が領土に駐屯し占領を開始する可能性がある。
最終的には助力の見返りに領土の割譲などを要求されるだろう。
だからといって国内からの援軍もどれだけ期待できるか不透明である。
領都レスティは王都からかなり離れており国が援軍を組織して派遣するとなれば到着まで早くて2週間はかかるだろう。
それほどの長期的籠城は最終的には経済活動にも大きな影響を与えることは間違いない。
仮に魔物を殲滅できたとしても決して勝利とはいえない状態になることが危惧された。
太陽が半分まで上ったころレスティの城壁からも魔物の姿が確認できた。
魔物を迎え討つのは辺境伯配下の騎士団とレスティにいるCランク以上の冒険者たちである。
レスティにいる騎士団は第一から第三までの三部隊があり、第一騎士団は主に街の中の警備や辺境伯の館の警備を担当するので第一騎士団からは今回の戦闘に半分程度が後詰での参戦となる。
一個騎士団の編成は2000人で構成されており、騎士団といえども騎兵はそこまで多いわけではない。
多くが歩兵であり、弓兵、魔法兵も少なからずいる。
弓や魔法を使う兵士や冒険者は城壁の上に陣取り魔物が射程に入るのを待つ。
騎兵や歩兵は門の内側で待機し突撃の時を待ち続ける。
「放て!」
魔物の群れが射程に入る距離にまで城壁に近づいてきたそのとき城壁を担当する指揮官となった中隊長がそう命じた。
弓兵が放つ矢には予め聖教会で作られた聖水で清められている。
物理攻撃ではあるもののアンデッドの魔物に一定の効果を与えているようであり、その歩みを止めることに成功した。
第2射は魔法使いによる一斉攻撃である。
対アンデッドということで火系統を使える魔法使いで攻撃しておりこちらも一定の効果を得ることができた。
弓や魔法による遠隔攻撃により緒戦は防衛側有利に戦闘が始まった。
しかし敵は無数のアンデッドの群れであり人間や獣とは違って矢による点の物理攻撃では致命傷とはならない。
魔法使いたちも魔力回復ポーションの供給を受けて魔法を行使するが魔力回復ポーションも短時間での大量服用は効果が薄くなり十分に魔力が回復しなかったり魔力酔いと呼ばれる症状となり戦線から離脱する者も少なからず現れ始めた。
多勢を相手にするため次第に街への接近を許すこととなった。




