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16 開戦前夜③

 その後勇馬はアイリスとともに再びセフィリアの作業部屋へとやってきた。


「セフィリアさん、お疲れ様です」


 勇馬がそう声を掛けたもののセフィリアは集中していて聞こえていないのかもくもくと作業を続けている。

 かたわらには聖印の施された武具が積まれており勇馬はアイリスにそれらを自分の作業スペースに持ってくるよう指示した。



「さて、こっちもやりますかね」


 勇馬は昼間に使用した魔法の印判を顕現させるとアイリスが運んできた武具に『+重量軽減20%』の付与を施した。


 勇馬とアイリスはこうして数時間置きに作業のためにセフィリアの作業部屋を訪れている。


 勇馬は再度作業を終えると部屋を出た際、ふと気になって受付にいたキャメリアに声を掛けた。


「すみません。シスターセフィリアはきちんと食事や休憩はとられていますか?」


「あっ、ユーマさん。私が知る限りでは作業部屋を出られてはいないと思います。食事はこちらで用意はしていますので、ホールに来ていただければと予めお伝えはしているのですが……」


 ホールには付与師や付与魔法ギルドの職員たちが夕食を食べに来たり休憩に来たりしていた。


「まあ、彼女は元々付与魔法ギルドの方ではありませんし、なかなかホールには来づらいでしょう。私が食事を持っていきましょう」


 そう言ってユーマはセフィリアのために作業部屋まで食事を運ぶことにした。




「セフィリアさん、休憩がてらお食事をどうぞ。根を詰め過ぎると良くないですよ」


「ユーマさん、ありがとうございます。ただ、今は1分1秒が惜しいです。手が空いたときにいただきますのでそこに置いておいていただけますか」


 セフィリアはそう言うとにこりと微笑んだ。


「わかりました。それから何か必要なものがあれば直ぐに言って下さい。ときどき様子を見にきますので」


 そうして勇馬はアイリスと交代でセフィリアの様子を見にいくことになった。


 勇馬は来る都度セフィリアが聖印を施した武具に追加付与の作業を行い完成となった武具を部屋の外に搬出した。


 この日付与魔法ギルドは24時間体制での業務となっている。


 領主である辺境伯からは明日にも戦闘に入る可能性を伝えらえており戦闘前の準備はこの夜が山場といえた。


 辺境伯からの通達はセフィリアに可能な限り武具に聖印を付与してもらうこと、付与魔法ギルドにはセフィリアの施した武具に効果的な追加付与を施すこと、一般の武具についてはより多くの武具に強化や重量軽減の付与をしてもらいたいというものであった。


 勇馬たちは襲ってくる魔物の中にアンデッドがいるらしいということは何となく理解できたがその他の情報は一切入ってきていない。

 他にどんな種類の魔物がいるのか、そもそもどれだけの数の魔物がいるのか、100か1000か1万かという大まかな規模ですら機密情報として明らかにされていない。


 勇馬たちはただ指示されるがままに作業を行う以外の選択肢はなかった。


 黙々と作業を続けるセフィリアはときおり冷めた食事を口に入れ、事前に用意されていた魔力回復ポーションを口にしながら武具に聖印を付与していく。

 勇馬はときおり仮眠をとっての活動である一方、セフィリアは徹夜での作業である。1日目の徹夜とはいえ魔力も精神力も必要となる聖印の付与は相当な負担となる。


 明け方に勇馬がセフィリアの作業部屋へと入るとセフィリアが前のめりとなって突っ伏していた。



「セフィリアさん!?」



 勇馬が慌てて駆け寄りセフィリアの状態を確認する。


 胸は規則正しく上下しておりどうやら眠っているだけのようだ。

 何度目ともなる魔力の欠乏と聖印を付与できる者が自分だけしかいないという精神的プレッシャー、そして体力の限界を迎えたのである。


 勇馬は直ぐに受付にいたローリエを呼びセフィリアのことを伝えた。


 その結果取り敢えずはベッドを作業部屋に運び込みセフィリアを寝かせることとなった。


 セフィリアをベッドで寝かせたことを見届けると勇馬はセフィリアが聖印を付与し終わった武具に追加の付与を施した。


 ちょうどそのころレスティの街に夜明けが訪れた。




 レスティの街にはいつもとは違う緊迫感が張りつめている。


 きたるべき戦いに備えて騎士団の兵士たちや招集された冒険者たちは朝も早くから起き出している。

 今日からしばらくの間、レスティの街は街全体が戒厳体制に入る。 

 早朝から街の至るところに武装した兵士や冒険者の姿をあちらこちらで見ることができた。


 戦いのときは刻一刻と迫っていた。


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