13 魔人の影
「ほう、あれくらいではまだ足りぬか。人間というものも存外しぶといものよな」
「誰だ! 私がレスティ第二騎士団の団長と知っての狼藉か!」
突然聞こえてきた声にジェイクは怒声を浴びせる。
この世界、騎士である自分の任務を妨害するどころか害する行為は死罪に値する行為である。
「くくくっ、第二だろうと第三だろうと何でも構わんよ。誰であろうとこの道をとおすわけにはいかんのでな」
ジェイクが目の前の存在を視界におさめる。
「おっ、お前は一体なんだ?」
目の前には一見すると人間と同じシルエットを持ってはいるもののその容姿は人間のものでもなければ獣人やその他の亜人のものとも異なる。
その顔には2つの目に鼻と口というように人と同じものではあったが皮膚の色は青みがかったグレーをしており頭髪はない。
耳がわずかながらとがっている。その異形にジェイクは一瞬ある可能性を導き出したが直ぐに首を振ってそれを否定する。
「そんな存在いるはずがない。魔人など作り話だっ!」
ジェイクはそう自分に言い聞かせるように叫ぶと剣を抜き目の前の異形に突進した。
「ふむ、向かってくるか。では相手をしてやろう」
異形がそう口にした直後、ジェイクの叫び声が辺りに響き渡った。
しかし、それを聞き助けに来る者は誰もいなかった。
ちょうどそのころ、オーガ達に囲まれた司教たちは馬車の中で混乱の極致にあった。
「しっ、司教様。どういたしましょう?」
「どうするもこうするもないだろう!」
そう言い合いをしているうちに馬車は外から破壊されていく。外からオーガがその怪力に任せて手に持つ棍棒で馬車を打ち破っていく。
「ひ~っ」
窓ガラスが粉々となり散らばる最中、司教たちは馬車の床に伏せる。
そのうち馬車の壁の一角がメキメキとした音を立てて壊されるとそこからオーガが顔を覗かせた。
「たっ、助け……」
言葉を言い切る前に司教たちは次々とオーガの太い腕で掴まれ、馬車の外に引っ張り出された。
「おっ、お前たち、金はいらないか!? 金をやるから命だけは、食糧もあるぞ」
動転した司教がそう口にするがそんなもので事態が変わるはずがない。
一緒に地面に転がされた年配の司祭はどうにもならないことを既に悟っている。
魔物の行動原理は今なお謎に包まれている。
獣の延長とされる魔獣は自分たちの身を守る以外では食糧として人間を襲うこともある。
そのため食糧を与えて難を逃れるということもなくはない。
しかし魔物に関してはどういう理由で人間を襲うのかは全くといっていいほど謎とされている。
魔物が人間を襲って何かを奪ったという話は全くない。
ただそこに人間がいるというそれだけで魔物は人間を襲う。
それこそがこの世界で知られている唯一魔物についての正しい情報でありだからこそ魔物との間では一切の交渉はあり得ない。
魔物と会ったらやるかやられるか、それがこの世界のルールである。
そして魔物に負けた人間が辿る結果も一つである。
数分後、破壊された馬車の傍では物言わぬ肉の塊が3つ転がっていた。
その傍には革の袋とその中から散らばったと思われる金貨や銀貨が落ちていた。




