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12 同じ穴のムジナ

「我々はレスティ第二騎士団所属の騎士である。現在任務で王都へ急行中であるため私事での護衛は……」


 部下の騎士がそう言いかけたところで団長が彼の前に左腕を差し出し言葉を遮った。


「私はレスティ第二騎士団の団長ジェイク・コルボーだ。騎士団の務めは領民を守ること。そして司教猊下もレスティの住民には違いない。我々は騎士の誇りにかけて猊下の護衛を務めよう」


 すると馬車の中から司教付きの司祭が革袋を持ってジェイクの元に歩み寄ってきた。


「急な予定の変更となれば路銀の心配も出てきましょう。これは猊下からのほんのお気持ちとのこと。お受け取り下さい」


 そう言われてジェイクが受け取った革袋は分量の割にはずっしりとした重さがある。


 中からは金属のこすれ合うカチャカチャと音がした。


 ジェイクは経験から革袋の中身が金貨であることを瞬時に悟った。


「これはかたじけない。騎士といえども先立つものがなければ守れるものも守れません。流石は司教猊下、ご慧眼恐れ入ります」


 ジェイクはニヤリと笑みを浮かべてそう返した。


「いえ、皆様に神のご加護がありますように」


 司祭は自らの役目を果たし終えるとそう言って馬車の中へと戻った。



「ご苦労だったな」


 馬車に戻った司祭の男を司教はそう言葉で労った。


「受け取るとは思いませんでしたがよろしかったのですか?」


「金の嫌いな人間などいないものだ。口では騎士道だの清廉など言っている連中だって同じものよ。だいたい騎士団の団長がこの非常時になぜこんなところにいる? おおかた私たちと同じだろうよ」


「なるほど、そうでしたか」


「まあ、曲がりなりにも騎士というのであればせいぜい使わせてもらおうじゃないか」


 こうして司教を乗せた馬車とその周囲を護衛する騎士団という一団は街道を西へ向けて進んで行く。


 そうして木々の鬱蒼とした森を進んでいくとそれは起こった。


「団長! 左右の森から魔物です」


「団長、こちらもです」


 待ち伏せされていたかのように左右の森の中から多数の魔物が飛び出してきた。


「あれはオーガか!」


「10体以上はいるぞ!」


 ひときわ大柄の角を生やした魔物に目がとまる。


「何故魔物が統率のとれた行動をしている!?」


 騎士を驚かせたことは何よりも魔物の行動がまるで誰かに率いられるかのように動きに統制がとれていることである。


 魔物は言語を解さず、本能のまま生き、人を見れば見境なく襲う。

 

 そこには思慮も分別もないとされる。


 たまたま複数の魔物が一緒にいても協力することもなくただバラバラに自分のやりたいように動きたいように動く。


 それが世間一般で言われる魔物の姿だ。


「くそっ、多勢に統率のとれた動き。とても捌ききれない」


 元々戦闘を目的とした隊編成ではなかったことに加えて想定外の魔物の多さに騎士たちは目の前の魔物に対応するだけで手いっぱいとなる。

 そしてジェイクの腹心たちは1人、また1人と魔物を前に倒れていく。


「すまん、お前たち。後は任せるぞ!」


 ジェイクは到底勝ち目はないと踏むと魔物の間をすり抜け1人離脱を図った。


「団長! そんなっ、俺たちを見捨てるのかっ!」


 魔物に囲まれた腹心の部下を置いてジェイクは1人オーガの囲いを突破した。


「すまんな、お前たちの働きはきっと皆に伝えよう」


 さすがの彼も子飼いの部下を置き去りにすることにわずからながら心が痛む。


 しかし自分の命には代えられるはずがない。

 

 ジェイクがほっとしたその瞬間、目の前に大きな爆発が起こり、馬ともども吹き飛ばされた。


「くっ、一体何が起きた」


 地面に体を打ち付けられたものの曲がりなりにも騎士である。ゆっくりとではあるが立ち上がると周囲に視線を向けた。


 

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