11 類は友を呼ぶ
「来たかユーマくん!」
付与魔法ギルドのマスタールームではトーマスが勇馬の到着を待っていた。
「トーマスさん、一体何があったんですか? 街も何となくざわついているようでしたが」
テレビやラジオのないこの世界では情報を得ることは難しい。
勇馬は宿からギルドに来る途中の街の人々の様子がいつもとは違うことを感じ取った。
「辺境伯から正式に特別態勢で業務に当たるよう通達があった。今後、冒険者や騎士団からの依頼が増えるだろう。他のメンバーにも特別招集を掛けている」
基本的には各ギルドは領主から独立した存在であり指揮命令関係にはない。
ときには両者は対立することさえあり得る。
しかし、唯一の例外として街の存亡の危機に領主は各ギルドに対して指揮命令することが認められている。
それも人間同士の戦争・内乱は除かれている。
「ということは魔物や魔獣絡みですか?」
トーマスは静かに頷いた。
「司教様! どちらに行かれるのですか!」
セフィリアの声がレスティ中心部にある教会の聖堂に響き渡った。
「シスターセフィリア、私はこの事態を王都にあるこの国の教会本部に伝えなければなりません。応援を呼ぶ必要もあるでしょう」
「でしたらそのお役目は他の者にお申し付け下さいまし。司教様がいらっしゃらなければ『聖印』を施す者が足りませんわ!」
教会には領主から対アンデッド戦に必要となる聖水や『聖印』と呼ばれる武具への光属性の付与を求められている。
聖水は立場の低い聖職者であっても作ることはできるが効果はそれなりである。
一方、このレスティの教会ではこの司教以外に聖印を施すことができる者はセフィリアのみである。
「シスターセフィリア、司教様には司教様にしかできない仕事がおありになる。我らは急ぎ出発せねばならぬ。留守の間は貴殿を司教代理にされるとのお言葉である。謹んで受けられよ」
司教の腰巾着である年配の司祭がもっともらしくそう告げた。
一介のシスターでしかないセフィリアには返す言葉もない。
同じ様に危機に対処しなければならないはずの騎士団においてもレスティから離れようとする者が存在した。
「王都への連絡と応援の要請には第二騎士団の団長である私が参ります」
いつもであれば部下の兵士、せいぜい中隊の隊長クラスが担う任務をこともあろうに団長がやると言いだした。
彼、ジェイク・コルボーはコルボー男爵家の三男、つまり貴族の子弟である。
元々兄が爵位を継ぐため家を出ざるを得ないときに貴族の伝手でリートリア辺境伯が騎士団に引き受けたのである。
彼自身、剣の腕がそこそこあったことに加えて、貴族の子弟であるというその身分と権力者へのゴマすりの技術から騎士団長にまで上り詰めた人物である。
しかしその性格は自己中心的で目下の者には高圧的、危険や汚れ仕事は大嫌いで他人に押し付けるというおおよそ騎士としてふさわしくないとの評価もある人物だった。
ジェイクは今回も手練手管で周囲を丸め込み、自分がレスティを離れ、王都への連絡役をすることを周囲に認めさせた。
ジェイクは自分の腹心である部下5名を連れて馬に跨りレスティを後にする。
(何千もの魔物の相手なんてやってられるか!)
ジェイクは内心でそう悪態をつきながら街道を馬で掛ける。
彼の腹心たちも彼がその様に考えていることを当然知っている。というよりもその腹心たちも全く同じ気持であった。
口では騎士道などと恰好のいいことを言いながらもその性根は腐りきっている。
彼らからすれば主君である辺境伯や辺境伯家、守るべき領民などいずれも取るに足らないどうでもいい存在である。大事なのは己の地位と身の安全のみ。
「人間である以上は自分がいちばんかわいいものよ」
誰が口にしたのか「違いない」と応える声と笑い声を聞きながら馬を進める。
すると森の街道の入口近くで豪奢な馬車が止まっているのが見えた。
その馬車の傍にいる男が騎士たちの存在に気付くと手を振って呼び止めた。
「こちらにいらっしゃるのは聖教会レスティ支部の司教猊下であられる。レスティの騎士の方々とお見受けする。道中の護衛を頼めないだろうか」
類は友を呼ぶというべきか。
こうして全く別の組織でありながら似た者同士が出会うことになった。




