8 実地訓練②
初心者の魔法使いは、いざ敵が目の前に迫ると焦りで上手く魔法を発動させることができないということがある。
今回エクレールがアイリスに盾役を置いていないのも本格的に冒険者として活動する前にそのことを経験させておこうとしたのだがいい意味で裏切られた形だ。
アイリスたちは次第に茂みの中へと入っていく。
木々も増えていき視界も悪い。
「こういう場所で魔法を使うときに気を付けるべきことがわかるかしら?」
「火系統は火事になるから基本的に使わない。使うとしたら敵だけに当たると確信したときだけです」
アイリスの答えにエクレールは「正解」と返した。
アイリスはエクレールに反発することもあるが教えはきちんと守っている。
以前に精神集中の大切さを学んだときもアイリスが宿に帰って自主訓練をしていた姿を勇馬は目にしている。
(不思議な師弟関係だな)
勇馬がぼんやりとそう思っていると茂みの中から一体の魔物が飛び出してきた。
「スケルトン!?」
アイリスの目の前に出てきた魔物は骸骨姿の魔物だ。
いわゆるアンデッドと呼ばれる種類である。
勇馬はどうやって動いているのだろうと興味深そうな表情で見ている。
「場所が悪いわ。いったん開けた場所までひきましょう!」
エクレールの言葉を受けて勇馬たちは茂みを抜けて原野にまで戻ってきた。
アイリスはスケルトンが追いかけて茂みから出てきたところを狙えるよう魔法の詠唱を始めた。
「ファイヤーボール」
アイリスが茂みからスケルトンが出てくると狙いすましたかのように炎の玉を放つ。
しかし1発では仕留めることができずアイリスは次の詠唱に入る。
その隙を逃さまいとスケルトンはアイリスとの距離を縮めすぐ眼の前にまで迫ってきた。
「ファイヤーボール」
目の前に迫ってきたスケルトンに炎の玉が命中するものの倒すまでには至らない。
スケルトンはなおもアイリス目がけて迫ってくる。
そしてその間合いは既にアイリスが詠唱していては間に合わないほど縮められていた
「そこまでね」
そう声がした刹那、アイリスの目の前に迫っていたスケルトンが豪炎に包まれ瞬く間に消滅した。
その声の主はさっきまでスケルトンがいた場所まで歩くとしゃがんで魔石を拾いポケットに入れた。
「未知の敵、今回の場合は初めて戦う敵と言った方がわかりやすいかしら。そういう敵と戦うとき、魔法使いは必ず仕留められるという確信がない限り常に距離をとることを心がけなさい。1発目を放った段階で直ぐに距離をとらなかったのが失敗よ。それから詠唱は動きながらでもできるようにね。いつも盾役がいると思ったら大間違いよ」
エクレールの言葉にアイリスは神妙な表情で頷いた。
「それから確認のために聞いておくけど今回スケルトンに火系統の魔法を使ったのはどうして?」
「えっと、アンデッドは光属性の攻撃が一番良く効きますが私は光属性の魔法は使えません。光属性以外の基本属性の中では火系統が一番効果的とされていて次が土系統と習ったからです」
「そうね。光属性の攻撃は物理攻撃でも魔法でもアンデッドにはかなり効果的だけどどちらもレアだから基本的には頼れないわ。あと、確認だけどアンデッドには光属性以外の物理攻撃は火属性であってもあまり効かないわ。せいぜい他よりもましという程度ね。火系統の魔法はそこそこ効くけど火属性の物理攻撃はそうでもないということは一応覚えておいてね」
この後、さっきの茂みの中へと入り薬草を採取してこの日の授業は終わりということで街へと戻った。
勇馬としても目の前で魔法を使った戦闘を目にできて満足だ。
できれば自分も魔法を使ってみたいところだが毎回エクレールの授業を受けているのに未だに魔法を使えたことがない。
「先生がよくないのだろうか……」
「何か言ったかしら?」
ぽつりとした呟きを拾われ勇馬は「何でもありません」と首を横に振った。
本日、もう1話投稿予定です。




