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6 似た者師弟

「初めまして、柊勇馬ひいらぎゆうまです。こちらは私の従者のアイリスです」


 勇馬がセフィリアにそう自己紹介するとアイリスも軽く会釈をした。


「あら、ご丁寧な挨拶痛み入ります。わたくしはこの街の聖教会でシスターをしておりますセフィリアと申します。以後お見知りおきを」


 そう言うとセフィリアは勇馬に一礼した。

 その優雅さは貴族令嬢のするカーテシーと錯覚してしまうほどだ。

 

 セフィリアが下げた頭を上げて再び勇馬に視線を向けたとき、セフィリアは何を思ったのか勇馬に顔を近づけた。


「あのっ、セフィリアさん?」


 美しく整った顔を近づけられ勇馬は一瞬ドギマギしてしまった。


 女性特有のふわったとした甘い匂いが勇馬の鼻腔をくすぐる。



「すんすん、ユーマさんからは何か『におい』が致しますわ。これは一体何の『におい』だったかしら?」


「もしかして臭かったでしょうか? 毎日お風呂に入ってはいるんですが」


 においの話をされて自分がセフィリアの匂いを堪能したことを気付かれたかと思ったがそうではなくホッとした。


「いえ、悪い『臭い』ではありませんの。むしろ何か落ち着く様なすがりたくなる様ないい方の『匂い』ですのでご安心下さいませ」


 そう言うやセフィリアは突然勇馬の胸に「ばふん」と飛び込み顔を埋めた。


「あっ!」

「なっ!?」


 エクレールとアイリスがほとんど同時に言葉にならない声をあげた。


「ちょっとセフィリア! シスターが公衆の面前で男に抱きつくなんて何をやってるのよ。早く離れなさいよ!」


 エクレールがセフィリアを勇馬から引っぺがすとセフィリアはしぶしぶと勇馬の身体から離れた。


「それよりもあんた、わざわざ冒険者ギルドまで来るなんて何か用事があるんじゃなかったの?」


「ああ、そうでしたわ。クエストの報告に来たのでした」


 てへっ、という表情のセフィリアにエクレールはうんざりした表情で視線を送る。


「クエストの報告ということはセフィリアさんは冒険者なのですか?」


「そのとおりですわ。わたくしは冒険者登録もしておりますの。そうおっしゃるアイリスさんも冒険者なのですか?」


「はい。とはいっても登録したばかりでまだ何もしたことはありませんが」


「そうでしたか。ではもしも機会がありましたらご一緒しましょう。ユーマさんも冒険者なのですか?」


「いえ、私は付与師であって冒険者ではありませんので」


「そうですか、それは残念です」


 勇馬とも一緒にパーティーを組めると思っていたセフィリアはそう嘆息した。


「それよりも時間はいいの?」


「あら、いけません。もう行かなければ。それではみなさんご機嫌よう、またお会いしましょう」


 エクレールの言葉で時間を確認したセフィリアはそう言い残して受付カウンターへと急いだ




「シスターセフィリアはいつもどおりだな」


「ほんっと、いつも相手するのが疲れるわ」


「でもエクレールさんとセフィリアさんって似た者同士という感じでしたが」


「ユーマ、あんなのと一緒にしないでくれる?」


「それにしてもアイリスとエクレールの言動はそっくりだったな。声といい表情といい……」


 そう言ってクレアは笑いをこらえる様に左手で自分の口を覆った。


 クレアがしばらく静かだったのはアイリスとエクレールの「げっ!」という声と表情がそっくりだったことがツボに入ったかららしい。



「まあ、師匠と弟子ですから」


 勇馬はそう総括するが、その後ろからは「主様あるじさま、あんなのと一緒にしないで下さい!」という抗議の声が聞こえた。


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