3 冒険者の授業終了
今日の午後はアイリスの冒険者の個人授業の日である。
勇馬は午後の用事がなかったことから久しぶりに冒険者の授業を見学することにした。
――キーン
鉄製の武器同士がぶつかり合った甲高い音が訓練場に響いた。
アイリスとクレアが実戦さながらの稽古をしており、アイリスがクレアに剣を振り下ろしクレアがそれをいなしたところだ。
クレアは左の足首に怪我を負っていることもあり、大きな立ち回りはできないもののできることをしておかないと冒険者の勘が鈍ってしまうという理由から打込み稽古には付き合ってくれている。
アイリスの剣の使い方も最初のころとは違って淀みがなく振ることができている。剣の構えから身体の捌き方までど素人である勇馬からみても成長していることが見てとれた。
「よし、今日はここまで」
クレアが右手で額の汗を拭いながら実践稽古の終了を告げた。
「ユーマ、訓練場でできる稽古はほぼできたと思う。剣を使って冒険者としてやっていくのであればあとは実践の中で勉強した方がいい」
「しかし、もう少し型とか、剣術とかいろいろやった方がいいんじゃないか?」
アイリスを冒険者として行かせたくない勇馬はできればずるずるとしたいところでありそう尋ねた。
「アイリスが騎士になるのではなく冒険者になるのなら型にこだわるのは返って良くないと思う。冒険者の活動の中で臨機応変に学ぶことを勧めるよ」
「では剣以外の武器の使い方を教えてもらえないか? 他の武器についての基本を勉強しておいた方が何かと便利だと思うけど」
「わたしはそれには反対だ。最初からあれこれ手を出し過ぎると器用貧乏になるからね。やるのなら剣の実践をやりながら並行してやるべきだろう。どちらにしてもあまり彼女を籠の中に入れたままにするべきではないと思うよ」
クレアはそう助言すると落ち込む勇馬の肩をポンポンと2度ほど叩いた。
「ということで座学も今日はまとめといこう」
冒険者の仕事として常時依頼、受諾依頼、指名依頼の3つがあり、通常、いわゆるクエストと呼ばれランクアップの査定に大きく影響するのが受諾依頼である。
冒険者が相対する魔物や魔獣の知識も必須だ。
戦闘を有利に進めるための情報以外にも、討伐部位となる部分を知らなければクエスト遂行の報告すらできない。
魔物は倒せば魔石を残して消滅するが魔獣はそうではない。
魔獣は倒しても消滅することはなく、魔石を取り出して素材となる部位や討伐の証明となる部位を解体する必要がある。
その場合、種類ごとの肉や素材の価値を把握しておかなければ倒し方を誤り貴重な素材を傷付けてしまいかねない。
また、持って帰るべき素材の優先順位を付けることもできない。
アイリスがこれまでクレアから習ったことについて情報を整理していき、時にはクレアがアイリスに問いを出してアイリスに答えさせていく。
「以上で授業は終わりだ。これだけ知っておけば最低限冒険者として活動することはできると思うよ。ただ何度も言っているけどわたしが教えたことは本当に最低限のことでまだまだ学ぶべきことは多くあると思う。それを忘れないで欲しい」
そう言ってクレアはアイリスと握手を交わし、冒険者としての成功を祈った。
その様子を勇馬は複雑な表情で眺めていた。




