2 続・魔法の授業
「おーい、アイリス。魔法の個人授業の時間だぞ~」
前回の魔法授業から中4日、再び魔法授業の日がやってきた。
勇馬は準備万端整っているもののアイリスの動きが鈍い。
「……今日は行きたくありません」
恥辱の授業であった前回の授業が原因でアイリスはすっかり不登校モードになっている。
「ちなみにエクレールから『アイリスちゃんが来ないんだったらユーマが1人で来てね。手取り足取り濃密な個人レッスンをするわ』と言われているんだがそれでもいいか?」
「……やっぱり行きます」
アイリスはそう答えるとしぶしぶと準備を始めた。
「あら、2人とも来たのね?」
わざと驚いたような表情を浮かべてエクレールはアイリスに視線を向けた。
「じゃあ、前回の復習を……」
そう言いながら両手をワキワキさせるエクレールに対してアイリスは射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけた。
「私は違う『復讐』ならしてもいいですが?」
アイリスの瞳がギラッと光った。
「じょ、冗談よ~。でもいい? 魔法というのは心身の状態に大きく影響を受けるということは理解してもらえたと思うの。特に冒険者になりたいっていうのならいつも万全で平静な状態で魔法を使えるだなんて思わないことね。それだけは絶対に覚えておいて」
おちゃらけた空気を一変させてエクレールは真剣な表情でそう語り掛けた。
あまりの落差に勇馬だけでなくアイリスも思わず息を飲んだ。
「じゃあ、今日の授業を始めましょう」
こうしてこの日の魔法の個人授業が始まった。
「まずは各属性の第1階梯の魔法を幅広くまんべんなくやっていきましょう。ある程度やっていけば自分の得意な属性がわかると思うわ」
エクレールの方針は、最初から特定の属性に特化しないということだ。
敵によっては属性との相性というものが大事になることがあり、ある属性のハイレベル魔法よりも違う属性の低レベル魔法の方が効果的ということも当然あり得る。
また、その場の状況で特定の系統の魔法を使えないということもある。
例えば森の中では火系統の魔法は基本ご法度だ。
そのためまずは穴を作らないということが大事になる。
「確認だけど基本となる魔法属性について言えるかしら?」
「無属性以外では火、水、風、土の基本4系統に光、闇の特殊2系統の6系統です」
「正解。授業では無属性と基本4系統をしっかりやっていきましょう」
光と闇は特殊属性であって使える者が限られるとされている。
エクレールからは事前にこの2系統については「自分は使えないから授業では教えられない」ということを聞いている。
「まずは火系統からね。まずはわたしが手本を見せるわ」
エクレールはそう言って魔法の詠唱を始めた。
「ファイヤーボール!」
火系統の第1階梯である火の玉を出すおなじみの魔法である。
エクレールほどのレベルの魔法使いとなればこの程度の魔法は無詠唱で発動することができる。
しかし、今回は初心者であるアイリスのために敢えて詠唱付で実践してくれた。
エクレールの手本を見てアイリスもそれを真似て詠唱を始める。
「基本が大事よ。まずは自分の中の魔力の流れを意識しなさい。そして手に集まった魔力を今度は火の玉に変換するようイメージして」
詠唱するアイリスに助言をしながらエクレールはアイリスの動きを注視する。
「ファイヤーボール」
詠唱を終えたアイリスが魔法を唱えるとアイリスの右手から火の玉が飛び出した。
火の玉は訓練場の的に当たると霧散して消えた。
「いきなり成功とはやるじゃない。じゃあ次ね」
こうしてエクレールは火系統だけでなく水、土、風の各系統の第1階梯魔法をまんべんなく教えていく。
アイリスは土系統の魔法には少し苦戦をしたものの概ね第1階梯の魔法は使うことができた。




