36 嵐の前
リートリア辺境伯領の領都であるレスティ。
領主館の会議室にはそうそうたる面子が集っていた。
会議室のテーブルについている者は全部で6人。
この街のみならずアミュール王国東北部に広大な領地を持つリートリア辺境伯領の主、クレメンス・ダ・リートリア。
彼を補佐する家令のアーウィン。
主を守護する3つの騎士団の団長たちに、領都レスティにある冒険者ギルドのギルドマスターのウルガンである。
「最近の魔物の状況については報告のとおりとなります。今後の対応を決めたいと思いますのでご意見のある方はご発言いただきたい」
会議を取り仕切る家令のアーウィンがそう促すと第2騎士団団長のジェイク・コルボーが口火を切る。
「わたしは現在の状況は一時的なものであると考えます。これまでどおり一定の監視は必要かもしれませんが取り立てて何かすることまでは不要と考えます」
「マリア殿はどうお考えですか」
アーウィンに指名されたのは第3騎士団団長のマリア・ミスガルドだ。
「私は現在の状況は魔物の大発生の予兆であると考えます。今のうちに何らかの対策をとるべきかと」
「何らかの対策とは具体的に何かお考えですか?」
「現在の警戒・監視体制の更なる強化、可能な限りの魔物の間引き、魔物の発生が予想される地域の防衛力の強化、いざというときに備えての物資の備蓄などを考えております」
アーウィンに補足を求められ、マリアはそう説明した。
「冒険者ギルドはどのようにお考えですか?」
「ギルドとしては最近の魔物の発生状況の報告からいつもとは違うということは認識している。これまで以上の対応が必要であるという点ではそちらの女性騎士団長さんに賛成だ。最近は依頼を求める冒険者も増えておりギルドの活動は活発になっているので、討伐依頼を出してもらえるのであれば十分に対応できる」
ウルガンはよどみなくそう答えた。
最近は流出した冒険者たちもレスティの付与魔法ギルドのうわさを聞きつけて戻ってきている。
それだけでなく元々他の街にいた冒険者も移り始めているという報告を聞いている。
「最後にエクルス殿はどうお考えですか?」
名指しされた第1騎士団長のエクルス・バッシレイヤーはゆっくりとした口調で持論を述べる。
「わしは有事に備えて準備をすることは当然であるし、出来る限りはそうすべきとは思う。しかし、費用のことも考えなければならない。備えるという方向で進めるべきだとは思うが、優先順位を決めて重要度が高いものからやっていくのがいいのではないだろうか」
出席者全員の意見が出そろい、アーウィンが主である辺境伯の顔色を伺う。
「よろしい、マリアを責任者として警戒態勢の強化と非常時に備えた準備に入れ。ただし、財務と協議しながら優先順位を付けることを忘れるな。騎士団は訓練の一環として順次野外での魔物討伐を行うようにせよ。冒険者ギルドには討伐依頼までは難しいが冒険者が魔物討伐をすることに対してインセンティブとなるものが出せないかを検討せよ」
話は以上とばかりに辺境伯が立ち上がると、他の参加者たちも一斉に立ち上がり頭を下げた。
この裏ではレスティに危機が迫っていた。
第2章終了です。
第3章に続きます。
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