35 異世界にセクハラという言葉はない
アイリスの魔法訓練が始まって2週間。
その間にもアイリスは他の授業を並行して受けながら基礎訓練を繰り返し行っていた。
ある程度基本ができたことが確認できたことから実際に魔法を使うという段階に入った。
アイリスが使う魔法は「ライトボール」。
無属性魔法の光の玉を出現させる魔法である。
この魔法は初歩の初歩と言われるものであるためアイリスも教えてもらうと直ぐに使うことができた。
「きちんと魔法が発動するようになったようね。じゃあ、今からいろいろとあなたの集中力を乱すようなことをやっていくから、同じように魔法を発動できるか試してみてね」
エクレールはそう言うと勇馬を自分の隣へと呼んだ。
勇馬は何をするのかと疑問に思いながらエクレールの隣に並んだ。
「えいっ」
エクレールはそう掛声をあげると勇馬の左腕を抱きしめた。
――ふにょん
勇馬の左腕はエクレールの豊かな胸に押し付けられ言いようのない感触が勇馬を襲った。
エクレールの豊満な胸は勇馬の左腕を押しつけられ大きく形を変えている。
(こっ、この感触は!)
勇馬の表情がだらしなく緩んだ。
やはり男はおっぱいの前には無力である。
「!?」
一方アイリスはその様子を唖然とした表情で見ていた。
「なっ、何を「はい、ストップ! 集中が乱れているわよ。続けなさい」
アイリスの言葉を途中で遮ったエクレールはいたずらが成功したかのような笑み浮かべながらアイリスを叱咤する。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
アイリスは親の仇を見る様な目でエクレールを睨み付けながら魔法を発動させようとした。
しかし、アイリスの手のひらに集まった魔力は事象変換されることなく体外に霧散してしまった。
「あら、もう全然ダメダメね~。そんなことじゃ主様を守れないわよ」
エクレールはそう指摘するとさらに体を勇馬に密着させた。
アイリスは歯を食いしばって目の前で繰り広げられる痴態を意識の外に追い出し、何とか意識を集中させる。
そうして何とか光の玉を作り出すことができた。
「ちょっといびつだけど最初だしまあいいでしょう。じゃあ今度はこっちね」
エクレールはそう言うとおもむろにアイリスの後ろに回り込んだ。
エクレールを警戒するアイリスは彼女に懐疑的な目を向ける。
「ほらっ、こっちは気にせず集中集中!」
そう叱咤するエクレールの行動に勇馬は首を傾げたが次の瞬間エクレールの行動に目が釘付けとなった。
エクレールが突然アイリスの後ろから前へと手を回すと服の上からではあるがアイリスの双丘をむんずと掴んだのだ。
「ふぁっ……、なっ何を……」
突然のことにアイリスから吐息混じりの声が漏れた。
「あら、意外とあるのね。アイリスちゃんは着やせするタイプなのかしら?」
アイリスの抗議にエクレールは涼しい顔だ。
「ほらほら、早く魔法を発動させなさいな。約束したでしょう? 『何があってもわたしの言う事に従う』って」
エクレールはアイリスの双丘に手を這わせたままそう指示した。
アイリスは声にならない声を漏らしつつ魔法を詠唱し、何とか光の玉を発動させた。
「ダメね。大きさや明るさが不安定だわ。魔力の流れが一定ではない証拠ね」
エクレールはそう駄目出しするとアイリスの胸を揉みしだいた。
「んんっ!」
アイリスはと何とか声が出るのを我慢するものの顔は真っ赤に染まり、吐く息は荒い。
「ほらほら。ちゃんと集中して早く成功させないと主様の前でもっとひどいことになっちゃうわよ?」
その後アイリスは何とか開き直って精神を集中させ、かろうじて及第点がもらえるだけの光の玉を作り出すことができた。
「まあいいでしょう」
エクレールのその言葉を聞いてアイリスは肩で息をしながらその場にへたり込んだ。
エクレールはアイリスから離れる際、一言二言何かを耳打ちした。するとアイリスは彼女を鋭い目つきでキッと睨んだ。
「ふふっ、今日の授業はこれでお終いよ。しっかりと復習しなさいな」
エクレールはそう言い残すとにやにやしながら逃げるようにして訓練場を後にした。
「…………」
「…………」
訓練場には勇馬とアイリスの2人が残された。
2人の間に気まずい空気が流れる。
「あ~、アイリス、今日は災難だったな。まあ、その……なんだ。何かうまい物でも食べて帰るか」
勇馬の言葉にアイリスは無言でこくんと頷いた。
奴隷の心のケアも主人の仕事のひとつということで勇馬は帰りにちょっと奮発してカフェでお高いケーキを食べて帰った。




