34 手紙
「ユーマさんにギルド便が届いています」
勇馬がいつものように午前中、付与魔法ギルドに行ったところ、受付のキャメリアからそう声を掛けられた。
「ギルド便?」
「あれっ、ご存じありません? 付与魔法ギルドの本部・支部間で定期的に書類や物をまとめて送っているんです。職員やギルドの会員も私用で使えますし、料金も割安なんですよ」
「へ~そうなんですか」と言いながら勇馬はキャメリアから自分宛の手紙を受け取った。
そもそもこの異世界の者ではない勇馬には知人は数えるほどしかいない。
一体誰からだろうと思って封筒の裏を見てみた。
「エリシアさんからだ」
その手紙は勇馬の数少ない知り合いである付与魔法ギルド・メルミド支部の受付嬢からのものだった。
午前中、アイリスに手伝ってもらって付与の作業を行った。
アイリスは午後からメレナさんのメイドレッスンだったため、昼食後、勇馬はアイリスをメレナさんの自宅に送り届けた後、いったん宿の自室へと戻った。
「さて、一体何が書いてあるんだろうか?」
期待と不安を抱きながら手紙の封を開ける。
中にはきれいな字で書かれている便箋が2枚。
封を開けるとフワリと花の匂いがした。
おそらく花の匂いが付けられた便箋を使っていたのだろう。
勇馬は静かに便箋に目を通した。
中身は勇馬の健康を気遣う言葉で始まり、メルミド支部での日常や、エリシア自身のたわいもない私生活のことが書かれていた。
一番多く書かれていたことは同僚で先輩職員であるマリーと街のカフェでスイーツめぐりをした話だった。
勇馬は以前、安息日にエリシアと2人でカフェレストランでパフェを食べたことを思い出した。
(手紙をもらったからにはきちんと返したいな)
勇馬は年賀状でもメールでも、自分がもらったものについては返しておきたい質である。
そこで街で封筒と便箋を買うことにしたのだがふと「ペン」についてどうしようかと思ったところで思い立った。
(マジックペンは普通のペンとして使えないのかな?)
そう思い「メニュー」と唱え、おなじみのヘルプ先生に聞いてみた。
――マジックペン(レベル0・油性ペン)
『油性ペンとして使用することができる。太さは極細・細・普通・太・極太から選ぶことができる。インクの代わりに魔力を消費する』
どうやら普通のペンとしても使え、太さも自由に選べるらしい。
ペンは買わなくてもいいということで勇馬は封筒と便箋を買ってくると宿の部屋に備え付けられている机に向かった。
レスティに来る途中に魔物に遭遇したこと、ギルドで大量の仕事に忙殺されたこと、アイリスが冒険者になりたいと言い出して個人授業を受けていることなど自分の近況を書き綴った。
「で、これを付与魔法ギルドに持っていけばいいのかな?」
よくわからなかったので受付でキャメリアに送り方を聞いて手続きをすることができた。
料金が割安になっているとはいえ、現代日本の郵便に比べれば費用は大きく違う。
届くまでの時間も雲泥の差だ。
勇馬はやはりここは異世界ということを改めて感じることになった。
ちなみにキャメリアからエリシアのことを「彼女さんですか?」と聞かれてひと騒動あったのだが、それは別のお話である。




