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26 弱点


「というわけで皆の力を貸してもらえないだろうか」



 辺境伯家の使いの騎士がやってきた翌朝、大広間に集められた付与魔法ギルドレスティ支部の面々を前にトーマスはそう頭を下げた。


「トーマスさん、頭を上げてくれ! これは元々レスティ支部の不始末だ」


「そうだ。悪いのは前のギルマスじゃないか!」


「しかし、今でさえ手一杯なのに現実的に仕事を増やせるのか……」


 最近の付与魔法ギルドの受注処理状況をみてこれまで発注を控えていた冒険者たちからの受注も増えている。

 トーマスを擁護する声とともに現実を見据える声が広間に交錯する。


「いや、追加分については基本的には私と彼とでやる」


 そう言って視線を向けられた先には寝ぼけ眼の勇馬の姿があった。


 勇馬は朝から緊急の全員集会があるとのことでいつもより1時間早くギルドへ出ていた。

 その分早く起きたためあくびが出たのだがちょうど視線を向けられ恥ずかしさが込み上げてきた。


「そうだ! お前なら大丈夫だ」


「よっ! お前がこのギルドの救世主だ。期待してるぜ」


 そこかしこから沸き起こる面倒なことを勇馬に押し付けようとする「ユーマ」コールに勇馬はため息をついた。






「追加発注分については取り敢えず2人で手分けしてやろう」


 全員集会が終わった後、トーマスとこれからのことを打ち合わせる。


 仮に6000個を2人でするとしたら1人3000個。


 納期が今日を入れて3日となれば1日1000個がノルマということになる。

 

 勇馬は自分がするべき作業をそのように捉えた。


「通常業務についてはする必要はない。急なことで申し訳ないができる限りのことをして欲しい。もっとも、自分で全てを背負いこむ必要はないし、できないならできないで仕方のないので直ぐに言って欲しい」


「わかりました。まあ、役職付の給料ももらっているわけですし。それにやればやっただけ報酬も出るんでしょう?」


 騎士団からの依頼でも報酬は出るには出る。

 しかし、ギルドが請け負う業務自体が領民の義務及び税としての意味合いもあるため報酬は通常よりも少なく設定されている。

 そのため騎士団発注の業務は普通の付与師には人気がなく敬遠されるのが一般的だ。


「ただ、難易度は低いものばかりだ。付与の期間こそ半年となっているが内容は単純付与で強度1・2倍なので数自体はこなせると思う」


 トーマスは勇馬のこれまでの実績から問題ないと太鼓判を押す。


 しかし、勇馬としては数だけをこなすという業務には不安があった。



(マジックペンで書くこと自体に大きな違いはないんだよな~)



 普通の付与師であれば1・2倍と1・5倍とでは使う魔力の量だけでなく技術力や付与にかかる時間が変わってくるためそれこそが大きな問題である。

 しかし、今のところ魔力切れの兆候のない勇馬にとっては物理的に手を動かす労力の方がある意味鬼門であった。


「今回の仕事は大変かもしれないな~」


 勇馬はそう言って天井を仰いだ。



 勇馬はマジックペンの有効期間の設定を『月単位』に設定して作業を開始する。


「結局全部『強度1・2倍(6)』でいいわけね」


 勇馬は大部屋に運びこまれていた鉄製の武具を前にそうひとりごちた。


 いちいち条件を確認しなくてもいいのは助かると言えば助かる。

 

 ただし、その時間がある意味休憩となっていたのは確かだ。


「じゃあ、始めましょうかね~」


 作業の手伝いはいつもどおりアイリスが担当する。


 来週の午後からはアイリスは勉強のため別行動ということになっているが今週はちょうど空いていたので助かった。


 アイリスは「冒険者になるのでしたら力仕事も必要ですから」と言って嬉々として武具運びを手伝ってくれるのだが、勇馬としては筋肉ムキムキのアイリスなんて見たくもないというのが本音である。


 とにもかくにも勇馬は作業を続ける。


 マジックペンでひたすら同じことを書き続ける地味な仕事だ。


 とにかく書けばいいのであれば10秒で1個書くこともできなくはない。

 

 しかし、ペース配分を考えて15秒で1個を仕上げることにした。

 

 1分あたり4個の計算になる。

 

 1時間のうち10分の休憩と5分の休憩をとり、純粋な作業時間を45分とすると1時間で180個完成させることができた。


 昼食休憩を挟んで作業をし、午後の後半には作業ペースが落ちてしまったものの夕方までには自分の中で設定していたノルマを超える1200個の武具への付与を終えることができた。


「おっ、お疲れ様でした~」


 勇馬は終わった後の移動作業をギルドの職員たちに任せてふらふらとした足取りでアイリスとともにギルドを後にした。

 他の職員たちは流石の勇馬も圧倒的な物量の前にはやはり大変なんだと思いながらその後ろ姿を見送った。




 同じ日、トーマスも勇馬と同様、大量の武具を前にため息を漏らしていた。


「やれやれ、私にもお鉢が回ってくるとは……でもまあ、この程度のレベルの付与であればまだましだろうかね~」


 大量の武具に付与を施すとなれば魔力を多く費消することになる。


 しかし今回のようなギルドの危機ともなれば経費で魔力回復ポーションも使いたい放題である。


 さらに使えるものは使うということでアイテムを総動員しての作業である。


 これから数日間、夜遅くまで煌々と灯りを燈して作業をするトーマスの姿があった。


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